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エピローグ 小学校の記憶

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「まぁ、オカルトブラザーズの2人がジュンヤ君に憑りついていたマサルの方を取り込んだっぽいからそっちは解決したんちゃうかな」
 白田さんは俺が怖がっているのを察したのか、柔らかい口調でそう言った。

「今回の心霊スポットのイベントの目的の一つとしてお前さんの封印がどうなっているのかを確認する為だったけど、マサルが出てくるとは思わなかった」
 「そういえば、あのマサルってやつは一体、何者なんだ?」
 「なんや。やっぱり小学校の頃の記憶、覚えとらんらしいな」

 小学校の頃の記憶。
 それは、あの夏休みにたかしたちと一緒にこの旧日暮村跡地へ行って自由研究した出来事の事をテルやんは言っているのか。

 「たかしと、当時お前さんのお祓いを担当したお寺の坊さんから聞いた話だから多少誤差はあるとは思うけど」
 テルやんは含みのある前置きをした途端、白田の顔が真顔になる。

 「あの夏休みの自由研究の時に、何があったのか簡単にで良いから教えてくれる?」
 「確か、20年前のあの日。旧日暮跡地へ行った時に、たかしが途中で迷子になってみんなで探しに行った」
 「その時のメンバーは?」
 「俺と優夫、マサル、テツヤとテツヤの兄貴と兄貴の大学のオカルト研究会の人たちだったな」

 この時にマサルの名前を出したが、この時マサルがメンバーにいるはずはないと俺は分かった。

 「マサルって子はどんな子だったかはわかる?」
 「いや、一生懸命にマサルの事を思い出そうとして、学校内や帰り道の記憶を隅から隅まで思い出せる範囲まで探しても探しても思い出せない」
 
 なんかこう、黒い靄がかかっていて思い出させないようにするような。

 と俺が呟いた途端、白田とテルやんはお互いの目を合わせて沈黙した。

 「ど、どうしたんだ?一応」
 「いや、今は心配はないから大丈夫だ」
 俺はただならぬ二人の様子にたじろぐが、それを察した白田は少し安堵した顔を俺に向ける。
 
 「なんでこんな質問をしたのかって言うと、マサルって名前の友達は存在しない」
 
 白田の言葉を聞いた俺は、ハロウィンイベント前の優夫との会話を思い出した。


 「たかし、本当に大丈夫かな。また昔みたいに一人ではぐれていなければいいんだけど」

「え?ジュンヤ君。何を言っているんだ?」

「いや、ほら、小学校のころ夏休みの自由研究で旧日暮跡地へ行った時に、たかし迷子になっただろ?途中で迷子になっただろ?みんなで探しに行ったの」

「本当に、ジュンヤ君は大丈夫なの?さっきからマサルって人の件といい。また、一人でブツブツ独り言つぶやいたりしておかしいよ」

「おかしいってどうおかしいんだ?」
「ねぇ、マサルって子は僕たちの友達にはいないよ。あの時のメンバーにも入っていない」
「え?」
「じゃあ聞くけど、マサルって子は小学校の頃どんな性格をしていて、どんな食べ物が好きだったの?」
「……わからない」
「それと、ジュンヤ君はあの夏休みのあの時」

 潰れかけの日暮神社で『マサル君が呼んでいるから遊んでくる』って言ってどこかへ走っていたんだよ?

「そう、迷子になっていたのはジュンヤ君で旧日暮村跡地にいるマサルに憑りつかれていたんだよ」

 テルやんは、はっきり言った。

 テルやんから聞いた話はこうだ。
 2003年の旧日暮村跡地の昼間。閉鎖村をプレイした思い出話や考察を交えてみんなで談笑しながら辺りを散策していた。

 当時の俺は急に日の暮神社へと通じる階段で

『マサル君が呼んでいるから遊んでくる』

 と言い始めて階段を走っていたという。
 
 その異様な光景に危機感を感じたテツヤの兄貴たちが急いで早く追いかけても追いつかず、みんなで手分けして探していたそうだ。
 
 その時に、たかしが大量のお守りを持って知っている限りのおまじないを試していたらたかしもどこかへ消えてしまい、辺りは騒然としていた。

 夕方になっても見つからなかったから、テツヤの兄貴の友達が警察に通報した直後、たかしがぐったりした俺を抱えて下山したそうだ。

 たかしの証言では、小さな子供が当時の俺の手を森の奥へ奥へと誘導しているようだったらしい。

 当時のたかしは、直感的にその小さな子供が人間ではないとわかってこのまま俺をそのままにしたらもう二度と戻ってこないだろうと悟った。 

 それを止めようとリュックに入れていたたくさんのお守りをぶら下げて血 まみれの剣を持った殺人鬼に追い回されていた。

 この殺人鬼とやらは、未来からタイムスリップしてきた俺の事だろうな…。
 そこからたかしは記憶があいまいではっきりとは覚えてはないが、ぐったり倒れた俺を抱えて必死になって下山し地元に住む爺さんたちに保護されたらしい。

 目の焦点は合わず、よだれを垂らしてどう猛な獣のような寄生を上げて失禁していて爺さんたち3人がかりで取り押さえるのがやっとだった。
 まるで、何かに襲い掛かって殺したいような様子だった。

 そんな異例の光景を目の当たりにしたたかしが、尻もちをついて失禁して泣いていたが、たかしは何かに気付いた。

 どうやら、憑りつかれていた俺はたかしが持っていたお守りに向かって吠えていたらしく、たかしがお守りの束を地面に放り投げるとその方向に向かって襲い掛かろうとしていた。

 その後、テツヤたちと合流した後に爺さんたちが呼んだ拝み屋を呼んで除霊をしてもらった。
 その際、拝み屋の紹介で2年ほどお寺に預けられ元居た小学校から他のところへ転校してたかしたちと離れていたらしい。

 「正直、話を聞いてもピンとこないな」
 最初は過去の自分の事なのに、よその怪談話を聞いているような感覚だった。
 「まぁ、そうやろうな。当時の祈禱師がお前さんの記憶を封印して地縛霊の事を思い出させないようにしたらしいが、マサルの存在だけは無理だったようだな」

 テルやんの表情がみるみる怪訝な顔をし始めたのに気付き、やっと事態が重いことに気付き固唾を飲んだ。
 
 「正直、マサルがお前さんを執拗に狙っていた理由がわからんが、あれは元々小さい子供の地縛霊だった」
 「だった?」
 「まぁ、マサルは小さな子供の地縛霊だったけど、他の霊や低級の妖怪の類の悪いもんが取り込まれて混ざり合ってできた集合体みたいなものだよ」

 俺はテルやん言葉を聞いた瞬間、オカルトブラザーズの川瀬と対峙した時の事を思い出した。

 「どうして、誰か?アぁか?たぁれか」

 マサルが死ぬ寸前のセミのようにバタバタして老若男女の身体の一部が出てきて散らばって絶命したあの異様な光景。
 
 改めてあの恐怖の光景を思い出し、ガタガタと震えだして背筋がゾクッときた。

 マサルがなんなのかわからないのもそうだけど、あのオカルトブラザーズの川瀬の生気のなくて鋭く紫色に近い青のクマが浮き出て真っ暗な目。

 頬には返り血がびっちり付いていて、まるで目や鼻から血が出ているようにポタリポタリと滴り落ちて狂気の中にどこか悲しげな表情。

 あんな化け物に追い掛け回された時には生きた心地はなかった。

 ようやく、その恐怖から解放され身体の緊張感がほぐれた感じがした。

 「マサルの亡霊は、蟲毒と化したオカルトブラザーズによって取り込まれたからある意味解決したと思ってもいいから安心して欲しい」

 白田はそう言って優しく俺の肩を叩いた。

 その後、俺は1週間後治療を終えて退院をした。
 その間優夫やテルやん、白田が定期的に来てはハロウィンイベントの事件の詳細を教えてくれたり、談笑を楽しんだ。

 しかし、たかしがこなかった。

 事件当日俺が行方不明になって探す際に何者かに襲われてしまって被害届の申請していたり、今回のハロウィンイベントのイベント主催者との事務処理が忙しかったりしているそうだ。

 その際に、たかしに飛び掛かって襲い掛かった男の映像は残っているんだが、その時だけ電波が悪く画像も飛び飛びになっていて見えづらい状況だ。

 たかしは被害届を出したそうだが、どうやら俺の顔にもテツヤの顔にも似ているらしく退院した後に警察に事情聴取を受ける事になった。

 しかし、テツヤは刑務所に収監されていて、俺が当日来ていた服装とたかしを襲った犯人の服装も体系も違っていたことで疑いが晴れて釈放された。
 
 映像を見せてもらったが、秋の寒々しい気候なのに半袖短パンと季節外れの服装ではあった。

 だが、確かに輪郭と雰囲気は俺に似ているようには思えるが、画像が荒くてわかりにくい。
 
 たかしは、俺が犯人ではないと頭ではわかってはいるが、結局犯人が見つからずいつ襲ってくるのかわからないという理由で疎遠になった。

 そこから優夫ともお互いの仕事もあってか徐々に疎遠になっていき、徐々にあの日の記憶と小学校3年生の記憶が薄れていく。

 だが、俺のリュックの中にある竹内正樹からもらった旧日暮村跡地に関する資料は今でも大切に保管している。

 俺に資料を託し、どこかへ行った彼が今どうしているのかはわからないが、あの事件が本当にあった事だけは確かだった。

 
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