RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ

neonevi

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▽ 三章 ▽ 其々のカルネアDeath

3-8 纒威夢方地帯

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side緋芦花

「大丈夫っ?どこも痛くないっ?肝心な時に側に居れなくてごめんねっ」

人波を必死にかき分けて機内から出て来たお母さんは、そう言って私の身体をさする様に確かめていく。

「ううん、本当に大丈夫だよお母さん。それにあのCAのお姉さんと… 」
「途中から見ていたわ。お母さんちょっと御礼してくるね」
「あ、私も行く」

「大丈夫、緋芦花はここで待っ… 」

ザっザっザっ、ザっザっザっ…
「なんか…ね、歩ける、みたい」

どれだけリハビリをしてもうんともすんとも言わなかった右足が、杖はつきながらでも普通に動いてくれる。

「ひ、~っ…緋芦、花 」

そんな私を見て固まっていたお母さんが声を震わせる。

こうなった原因も理由も分からない。
ここが何処なのか分からないことも、無事に帰れるのかって不安も今は全部どうでもいい。

ただただ私を埋め尽くすのは

「お母さん、ずっと…ずっと助けてくれてありがとうね」

二年以上世話を掛け続けてしまったお母さんへの止めどない感謝だけ。 



……





「緋芦花大丈夫?無理しちゃダメよ。動かせても衰えた筋肉はすぐには戻らないんだから」
「うん分かってる。でもね、本当に平気なの。自分でも不思議なくらい」

「そう」

と返事をするお母さんだけど、納得していないのがありありと滲み出てる。

" あの、さっきはありがとうございました "
" ううん、それよりもケガは……替わりの車椅子をすぐに用意しますね。機内用なのでかなり簡易な物ですけど "

それにさっきお礼を言いに行ったCAさんにも返って気を遣われてしまう始末。

まぁ当たり前なんだけどさ…と諦めつつ、私は左足に比べずいぶんと細くなってしまった右足をプラプラと動かす。

「ふふ」

皮膚がピリピリとするような、この痒みにも似た感覚はきっと血の巡り。

「どうかしたの?」
「ううん」

何気無い仕草に固い土の感触。
今まで言うことを聞かなかった癖にと少し腹立たしくもあるけれど、この普通に出来る当たり前が無性に懐かしくて堪らないや。


「来た。来たぞあの2人だ」

その時有名人に群がるみたいに人垣が騒めき立ち、その奥からあのお兄さん達がこっちに向かって歩いて来るのが見えた。

「背ぇ高っ、あれアスリートか?」「隣の男だよな?」
「いやあの人が凄かったんだぞ」
「怒鳴り声聞いてたろ?アイツが正面からあの化けモンを止めたんだよ」
「凄かったよ。あの人らが居なきゃあと何人死んでたか分かんないぜ」

うん、それは私が一番に感じてる。
あんな見たことも無い大きなモンスターを前にして怯まず立ちはだかったあの後姿は、まるでアニメの主人公みたいで…
私は途中から忘れてしまっていた。
あの骨身に焼き付きかけた動けなくなるほどの恐怖を。

だから、ちゃんと御礼を言わなくちゃ。



ザ、ザ、ザ、ザ、ザ…
「ゴクゴクゴクゴクっふぅ~…あ~居た居た」

ペットボトルの水を飲むお兄さんは、縛られた髪も相まってなのかどこか甘美な雰囲気を纏い、男の人って言うよりも艶やかな美人さんって表現がしっくりきた。

「…………… 」

ん?むむ?

何となく呼吸が乱れているような…

「スゥゥーー、フゥーーーーーー~~」

これってもしか緊張?

おい、落ち着け私。


「さっきはゴメンね、急に車椅子取ってしかも壊しちゃって。移動とか出来る限り手伝うから何でも言ってね」

うわ…スッゴイ綺麗な顔。
こんな男の人初めて見たかも。

そう言って少し膝を折って謝ってくれるこの人にさっきまでの荒々しさや凄味は一切無く、単に女性的中性的じゃない凛々しい顔に私は見惚れてしまった。

「そっちはお母さんですか?」
「あ、はい」
「状況が状況だったとは言え本当にすみません。弁償の方キッチリ致します。戻ったら090◯12◯12◯◯の方に連絡をして下さい」
「それ僕の連絡先っ、てまぁ僕が言い出しっぺか……オーケー払うよ。あ~と今は圏外か、じゃもう一度言うので登録をお願いします」

自嘲するように笑いながら携帯を取り出すのは、背の高い王子様みたいなお兄さん。

「軽いジョークですよ兄貴、最後まで道連れで行きましょう」
「道連れって…言い方。シロ君もしかしてだけど根に持ってる?」
「ネっすか?そりゃチビリそうでしたよ、あんな怪物相手にしましたもん」
「いやその根じゃなくって」

シロさんって言うんだ。
けどちょっと見た目と印象が…

「勿論分かってますよ。だからこっちのネもかなり張りますよ?それなりに出来るヤツが命を懸けましたからっ‼︎ 」
「目が本気だねっ」

お金マークを作って毒吐くお兄さんに、背の高いお兄さんは振り回されっぱなし。


「あの、すみません。その…お気遣いは大変有難いのですが、娘の危ない所を助けて頂いた上にお金まで頂けません。それに、ねっ」

2人を見上げたまま何も言えない私に、話を切り出したお母さんが振ってくれる。

「はいっ、あ、あのっ、助けて頂いてありがとうございました。あと足は…一応自分でも動けると思うので大丈夫です」

言いながら軽く足踏みをしてみせる。

「…そう?でも無理はしないようにね」
「はい」
「本当に、本当にありがとうございました」

そして返事をした私に続きお母さんも頭を下げてくれた。

「いやもうホント勘弁して下さい。娘さんの事は100パーあのCAさんのお陰です。なのでオレ達にこれ以上の感謝は不要です。よね?」
「あぁその通りだね」
「て事で車椅子は後日必ず弁償させてもらいます。じゃ、あとはリュウコウ君頼ます」

そう言ってペットボトルをフリフリとして向きを変えたシロさんは、困っていると言うよりか少し面倒そうに見えた。

「あ… 」
「あの、もしかして何か失礼がありましたか?」
「ハハ、まぁ今は疲れてるのが大きいと思います。ただ彼は元々あぁ言ったタチなのでお気になさらないで下さい」


「お~居た居たぁ、そっちの兄さんもちょっと良いか~?」

その声で足を止めるシロさん。

ザっザザっザっザっザっ…

そして数人の男の人が人混みから出て来る。


「ほら、言うことあるだろっ」ドン

あっ、この人…
怪物から逃げて来たあの人だ。

「あっ…あの、さっ、さっきは、す、すみませんでしたっ」

恰幅の良いおじさんに突き飛ばされるように前へ出たお兄さんは肩を窄め、おずおずとした言葉と一緒に頭を下げた。

「あのCAの姉ちゃんとこの兄さんらがいなかったら、この子まで死んでたかも知んねーんだぞ」
「あ、はっはい、本当に、本当にすみませんでしたっ」

言われたお兄さんは腰を曲げたまま顔だけこっちに向け言うと、少し長めの髪の毛を揺らしながら再度深く頭を下げた。

「…っ」

複雑な心情を押し殺しつつ、困った様に私を見るお母さん。
何故ならずっと俯いているその態度にも本気が感じられるし、それにこのお兄さん自身友達の人たちを亡くしたらしいから。


「…私は、私はもう大丈夫です」

だからいい。
無事だった以上何も言う気になれない。

「ん~~、まぁ本人達がそう言うならあれか。それにしてもあんたらぁ勇気あんなぁ……逃げ回ってた自分が恥ずかしいわ」

そう言って鼻から息を吐いたのは背中を押したおじさん。

「いえ充分助かりましたよ、あのキャリーケースは」
「うん、そうだね」

あっ、このおじさんキャリーケースで駆けつけた人だ。

「そっかぁ?少しでも協力出来たんなら良かったよ。でよ、出来ればあんたらからも一言言ってくれよ。そちらの母娘はもういいって言うけどよ、コイツらは周りが止めるのを聞かないで出て行ってあのザマだ」

そう言ったおじさんは表情を曇らせると、死んじゃった人達が並べられている方を向いた。

そっちを見たシロさんはすぐに視線を戻し、項垂れるお兄さんに近付いて行く。


ザ、ザ、ザ、ザ…
「うおーいちょっと待てーよー、それよりもこっちだぜ~?」

その時スッと割り込んで来た美声は、この緊張した場には似つかわしくない間延びした台詞。

そして近付いて来たのは最初に手伝いに来てくれた坊主頭のお兄さんと

「~っ、この離せよっ」

そこに掴まれている30代半ば?の男の人。

「ソイツがバケモンをなすり付けたみたいなのはアレだけどまぁ……死にたくなくて必死だったワケだし?ガキだし?素直に反省してる分マシなんじゃね?それよかコイツよ。あん時お嬢ちゃんの車椅子を突き倒した犯人な」
「っ⁉︎ 違っ、俺は気付かな…『ゴッガッゴッ』っご、ごめ悪かっ『ゴッドッ』やめ… 」
ドサっ

咄嗟に否定しかけた男の人は途端に殴られ、そしてそのまま蹴倒された。

「全く口を開けば言い訳だらけ。助けっ起すっ猶予くらいは、あったろがァッ」

『ドッ、ドフッドッドスっドッ』
「ぁグっがっうッ… 」

少し細い目を血走らせるお兄さんはその清廉な声とは正反対の乱暴さで、地面に丸まった無抵抗の男の人を容赦なく蹴り続けた。

「おい、もうその辺に… 」
「さっきあんたも言ってたろ?コイツはその嬢ちゃんを間接的に殺したんだ」

行き過ぎを止めようしたキャリーケースのおじさんだけど、刺す様な視線を返されて止まる。

「偶々あのCAの姉さんとそこの兄さんらが体を張ったから助かっただけ。見たろ?アレにバックリいかれちまったヤツらを」

たしかにあの怪物の口なら私なんて一口だった。

「「「「「「…………… 」」」」」」

同じように想像した人達は皆黙り込んでしまった。

「なのにコイツと来たら逃げ隠れた挙句… 」
「だがそれ以上やるとアンタが罪に問われるぞっ。だからもう止めておけ、な?」


「……やっぱ解らねぇんだなぁ~どいつもこいつもよぉ~オッ『バゴッ‼︎ 』

「ーー~ッ、っギャァァーーーーーーーーっ」

うわっっ⁉︎

この大洞穴のはるか高い天井にまで達しそうな悲鳴。

「あぎィぃ痛ぇぇよっ、ッグくうぅ痛ぃぃっ」

突如膝を踏み抜かれた男の人は悶絶して地面を転がり回り、またも巻き起こった事件への戦慄が、何事かと焦る周囲へ一気に拡散する。

「ギャーギャー煩ぇなぁ、そんくれーで死にゃしねーよ。けどいいか?これで次、何かあった時お前は1人で逃げられない。いい歳こいてんだから非くらい素直に認めろや、クソダセェ居直りかますんじゃなくてよ。んでどうする皆々様方」

けれどその衆目を気にも留めないお兄さんは悠々と両手を広げると

「少女への暴行及び殺人未遂犯の膝を折った俺は、傷害の現・行・犯、になるんだが?」

まるでドラマのワンシーンでも演じるみたく良く通る声を響かせて微笑んだ。






side宇実果

「ねぇ宇実果マツ、救助の方はどうなってるの?すぐに来るんだよね?」

衝撃の一難が去って弛緩した空気の中、不安を押し殺しつつ聞いてきたのは高校時代の同級生梓。

「…ゴメン梓。今の所連絡は付いてないみたいだし、いつ迄にどうとかはまだ… 」

「…っ」
「あず、こんな状況なんだ、友達を困らせちゃダメだよ。それに僕が付いてるから大丈夫さ」

そうやって不安気な彼女を宥めるのは梓の婚約者。
たまたま私の居る便に乗り合わせた彼女達は、中国とのハーフである婚約者の実家へ向かっていた。

「っギャァァーーーーーーーーっ」

「「「ッ‼︎ 」」」

そんな風に落ち着きかけた雰囲気が、突然飛び込む悲鳴で吹き飛んだ。

「ちょ、ゴメン梓っ」
「あ、うん」

何事かとすぐに動いた真黎さんに続き近付くと、悲鳴を上げたらしい男性が地面に倒れ痛みに呻いていた。


「…まぁ皆さんドン引きしてるみたいだからこれで終わりにしまーす。文句があればいつでもどーぞっと」

そう言って騒然とした場にそぐわないおちゃらけた物言いの男性は、あの髪の長いイケメンの方へ近付いていく。

「なぁ兄さん」
「加勢、助かったよありがとう。あとゴメン、靴下は弁償する」
「ぶっ、靴下?んなモンどうでも良いってーの。けどそんならこっちこそ悪い、俺水虫だから手はしっかり洗っといてくれ」
「マジかっ」

「…ぶふっ、冗談だよ冗談。それよか俺は八参やまいってんだ。一応名前な。アンタは?」

「…シロ」

「…歳……は~~~、22っ3?」

八参と名乗った坊主頭の男性は、考え込むように大袈裟に腕を組んで言った。

「32。ですよね?」
「あぁ、そうだね」

「「「「「「「っ⁈ 」」」」」」」

「いや、それマジ?やめてくれよ、水虫の仕返しとか」

坊主頭の男性がそう言うのも無理はない。
正直制服を着たら普通に高校生でもいけるだろう彼の若々しさには、この場に居る誰もが驚愕している。

けど八参…

「そんな嘘言わないよ」
「まそっか~~、全っ然見えねぇんだけど歳上なんだな~うん、でもその方が納得だわ。んじゃ今後ともヨロシクな?シロさん」

そう言った坊主頭の男性八参は手を差し出すと、伸ばした舌を噛みながら不敵に笑んだ。

ッ‼︎⁈

「………っッ」

「宇実果、どうかした?」

突如私を揺さぶった衝撃は余りに大きくて、隣に居る真黎さんにまで伝わってしまう。

「真黎さん、あの人もしかすると… 」
「何?」

絹針八参きぬはりやまい。昔、私と同じ中学で起こった、…殺人事件の犯人、です」

当時大いに世間を賑わした、生徒と教師複数人に自作の毒を盛ると言う衝撃的な事件。
主犯の少年Aとして大々的に報じられる中、某週刊誌は未成年である絹針八参の顔写真を掲載した。
あの表情の。

「あぁ…うん、そうみたいね」
「えぇっっ‼︎⁉︎」

予想だにしないリアクションは突然のビンタ級。

「し、知ってたんですかっ?」
「一応ね。M付きだから」
「警乗員も乗ってるんですか?でもなら何で出て来ないんですか、こんな状況なのにっ」

「宇実果の言うこんな状況って?警乗員が何とか出来るの?」

「………… 」

冷静な真黎さんに真っ直ぐと見つめ返された私は、動かない口の代わりに少し湿った土の臭いを感じてた。


…そうだ。
いい加減理解しなくてはならない。

あの大橋機長達ですら匙を投げ掛けてしまっている今この時は、私達がこれまで繰り返し学んできた知識と訓練でも何も見出せない、出口は勿論入口すら解らない未曾有の状況だと言うことに。








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