冥府探偵零時

札神 八鬼

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本編

第十四話 腐敗の館【前編】

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「俺を弟子にして下さい!」

少年のような身長の赤フードの男が大声で叫ぶ。
少し高めのよく通る声は野次馬を引き寄せ、
私と零時さんの周りには、いつの間にか人だかりが出来ている。
その期待に満ち溢れた目で私達を見る少年に対して、
私は困惑し、零時さんは面倒臭そうな顔をしていた。

…………何故こうなってしまったのかと言えば、話は数分前に遡る。

◇◇◇

「今年も年が明けましたね」

「そうだな、毎年連中も良く飽きないものだ
死者に年末など差程祝うことでもないというのに」

現世が正月で盛り上がっている時は、
勿論冥府にも正月は祝い事の一つとなっている。
死者である私達は神社や寺に行けず、
現世の人間のように初詣に行けないのが残念だが、
年明け番組があったり、餅を食べたり年越しそば(うどん)
とかは現世の人間と同じはずだ。多分。
あの毎年やる笑ったら塩かけられる番組って現世にもあるよね?
あの『冥府の使いじゃないからね』って番組で、
略して冥使めいつか
坂野・雪山・明治・兵藤・松屋の五人でやってる奴。
え、ない?塩かけられたら消えたりはしないけれど、
痛みで転げまわる冥府芸人とかが見所なんだよ。
特に今年の冥使で印象的な一言は、
明治の『ヤバい、(天に)召されそう』だったかな。

「今頃現世の人間は初詣でもしてるんですかね?」

「まあ俺達死者は神の領域には入れないからな
廃墟とかならまだしも、冥府に神なんてものはいない」

「まあそうですよねー、神様は私達には縁がないですから……
ところで、今年の冥使もう見ました?」

「ああ、今年は七不思議学校編だったな
明治だけ何故か書生の服装で、
塩がたっぷり入ったプールもよくやるなと思ったよ」

ちなみに先程の『召されそう』という一言は、
明治が塩入りプールに突き落とされて、
『死ぬわボケぇ!』とか怒りながら、
命からがらプールから出てきた後のセリフである。
良く考えると冥府だから成り立ってるのでは?これ。

「それも面白かったですけど、
私は坂野の引き出しに入ってたカッチカチで
全然食べられないかったいせんべいのシーンが好きです」

「食品サンプルか?とか話してる時に、
現世の固いせんべいだと聞いて、
『現世の連中正気か?下手すりゃ一生入れ歯生活やでこんなん』
とか言ってたのも見所だったな」

冥使の面白いシーンを話しながら歩く。
冥使は冥府の住人が楽しみにしてる娯楽の一つでもあるので、
年明けにあまり話さない人と会ったとしても、
困った時は冥使の話題を出せば自然と盛り上がる。

『冥使メンバーは召されるまでやる』と言っていたので、
来年も冥使を楽しむことが出来そうだ。

ドンッ。

「ああ、すんません」

「……………」

話してる最中に赤いフードの男の子とぶつかった。
狼獣人の死者か……珍しいな……
すると、その場を去ろうとした赤いフードの男の子の腕を零時さんが掴む。
無言かと思ったら、どうしたんだろう。

「まさか、年明けにスリに出会うとはな」

「え?」

スリ?
今、零時さんスリって言った?
もしかして、あのぶつかった時に?

「三成、お前一応警察なんだから、きちんと見ておけ」

「すみません、気を付けます」

フードの中から男の子の金色の目が見開く。
スリを見破られて悔しいのか、それとも……

「すげぇ……」

少し高い声で男の子が小さく呟く。
その直後に男の子が赤いフードを取る。
灰色の髪に、黄金の瞳、頭の耳がピクピクと動き、
長い尻尾はブンブンと嬉しそうに動いている。

「俺を弟子にして下さい!」

そして現在に至る。

零時さんはうんざりしたような顔をしている。
私は困惑しているが、これは珍しいケースだ。
今まで零時さんにはストーカーしか出来なかったのに、
今度は狼獣人の弟子となると、彼がまだマシにみえてしまうのだ。

「場所を移そう、ここは野次馬が多い」

「つまり弟子にしてくれるってことっすね!?」

「人の話を聞け」

どうやらこの少年は人の話を聞かないタイプのようだ。
既に彼の頭の中では弟子になったという認識なんだろう。
この後から零時さんのことを師匠呼びしていたから間違いない。


◇◇◇

どこか手頃な喫茶店を探していたのだが、
ちょうど美味しいケーキ店のホワイトクイーンが目に入り、
私の強い希望でここで話すことになった。
(店内の白雪さんが私達を見つけて熱い視線を送ってきたのもあるが)
入店した途端白雪さんが笑顔で出迎える。

「やあ白雪王子!ホワイトクイーンへようこそ!
白雪姫のことは忘れて二人の時k……誰だその男」

白雪さん、目が怖いです。

「勝手についてきた俺の弟子だ
今さっき弟子にして欲しいと頼み込んできてな」

「よろしくっす!」

この子、明らかに殺気向けられてるのに動じてない。
いや、そもそも気付いてない……のかな?

「ああ、そうなんだ~宜しくね新人くん
僕は白雪 命って言うんだ
君とは違って白雪王子とはながーーい付き合いだから宜しくね」

この人ストーカーマウント取ってきた。
小さい男の子に何言ってるの。

「そうなんすね!俺も先輩方に負けないよう頑張ります!」


全く効いてなくて白雪さんはギリッと悔しそうな顔をした。
それじゃあ綺麗なお顔が台無しだよ白雪さん。
一方当人の零時さんは興味がないようで、
普通にケーキの注文をしていた。
私のために多めに注文してくれてる。優しい。
しかも男の子と白雪さんの分まで……

「零時さん、名物のアップルケーキもお願いします」

アップルパイも美味しいが、ホワイトクイーン名物の、
アップルケーキも絶品なのだ。

「お前まだ食べるつもりなのか……他に食べたいものはあるか?」

「いえ、それで充分です」

「分かった、会計済ませてテーブル席に持ってくから、
三成はあいつらと一緒に席の確保をしておいてくれ」

「はーい」

男の子を睨む白雪さんを引きずりながら、
ソファーがある席へ二人を連れて座る。
ソファーの席に私と男の子(私が奥の席)、
向かいの椅子の奥の席に、白雪さんが座っている感じだ。
隣に零時さんが座ることが確定したからか、
心なしか上機嫌になっている。
少しした後に零時さんがケーキを持って私達のいる席に歩いてきた。

「ほう、俺の隣はお前か白雪」

「さあ白雪王子!僕達の愛の席へ座りたまえ」

「何だそのふざけた席は、普通の椅子だろ」

うん、白雪さんストーカーはいつも通りですね。

私はお目当てのアップルケーキにフォークを刺すと、
食べやすいサイズに切って口に運ぶ。
厳選したりんごを使ってるだけあって、
控えめな甘さが口の中に広がり、
シャキシャキとした食感も楽しめる。
もうずっと食べていたいくらいだ。
流石ホワイトクイーン、有名店なだけはある。

「それで、君の名前を聞いても良いか?」

零時さんが子供に語りかけるような優しいトーンで話す。
白雪さんはそんな優しい声を聞いてときめいていた。

「あー、まあ子供くらいの身長っすからねー、しょうがないか」

「違うのか?」

「俺、ハイイロオオカミの獣人なんすけど、
成人でこれくらいの身長なんすよ
胴は短いが尻尾は長いってのがハイイロオオカミの特徴なんで」

『だから子供と間違われることが多いんすよ』と、
彼は苦笑しながら語った。

「すまない、成人だったんだな」

「いや良いんすよ、皆一回は間違えるんで
それで名前なんすけど、
月宮 狼つきみや ろうって言います
これでも“赤ずきん”の幹部なんで、よろしくっす!」

「赤ずきんの……幹部?」

そこって確か……

「赤いフードがトレードマークの義賊集団だな
メンバー全員が狼獣人で形成されてる盗賊連中だ
現世ではボランティアをやってることもあったな」

「盗賊がボランティア!?」

「そうそう、良く知ってるっすね!
俺らがまだ生きてた頃に、
ハロウィンの後のポイ捨てされたゴミの量が酷かったから、
俺らで綺麗にしてやる~って、無償でゴミ拾いしたんすよ?
あ、勿論赤フード被ったままっすからね」

そういえばそうだった。
あれは確か現世のニュースにもなっていたはずだ。

「白雪とはえらい違いだな」

「はっはっはっ、そんな偽善野郎と比べないでくれよ
僕はただ美しい者を求めただけの話だよ白雪王子」

何かやたらと月宮くん敵視してるな。
やっぱりストーカーだからライバル増えるのが気にくわないのだろうか。

「それと、触れた時に気付いたのだが、お前“も”特性持ちだな?」

「特性持ちって確か……」

特性持ちは限られた者が稀に入手出来る能力であり、
例えば黒王様の【予言】や、その側近の無月さんの【腐敗】などがそうだ。
それは強い奴が持てるのかと聞かれればそうではなく、
強さとか種族とか関係なしにランダムに与えられるらしい。
まあ私は特性なんて持っていないのだが……

「良く分かったっすね!?俺は複製の特性持ちっす
触った物をいつでもコピーすることが出来るっすよ
まあ自力で持てる物や身につけるものじゃないと無理なんすけどね
けど、何度でも作れるとはいえ、
服以外は使いきりだから一回使うと消える条件付きっす」

「それでも使い勝手は良さそうだな、今後とも宜しく頼む」

「うっす師匠!精一杯頑張ります!」

ケーキを食べながら談笑していると、コツコツと靴の音が聞こえてくる。

「談笑中の所申し訳ございません」

突然誰かの低い声が聞こえた。
この声は彼岸警察の人でもないし、
零時さんの知り合いの誰とも一致しない。
目の前の執事服の男の目からは、感情は見えない。
光のないグレーの瞳は、何の感情も読み取れない虚無だ。

「あなたが、零時 時斗様で間違いありませんか?」

「そうだが、お前は黒王様の……」

「零時 時斗様の探偵の力を求めて、黒王様がお待ちです
至急黒王の間へお越し下さい」

この人は確か……黒王様の側近、常闇 無月とこやみ むげつさんだ。

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