上 下
19 / 66
第二章 スペードの国

エクターの絵本【前編】

しおりを挟む
スペードの国についたレイス達は、門の前を見渡していた。
本来ならいるはずの住人が見当たらないのだ。


「ソーキルの奴、どこに行ったんだ?
あのクソ真面目が、
持ち場から離れることなんてめったにないのに…」



そう、スペードの国の門番。

ソーキルの絵本がどこにも見当たらないのだ。

ここにないのなら、別の場所で封印されたとしか思えない。



「ねえぷち三月、この辺りにソーキルの絵本の気配はある?」

「いえ、残念ながら何も……
このスペードの国にはいないみたいですね」

「たくっ、自分の仕事放棄して、
どこに行ってるんだよあいつは……」

「レイスは人のこと言えないのです」

「うるせえ」

「あ! あそこに住人の絵本があるわよ」

アリスが見つけたのは、エクターの絵本のようだ。

こんなところにあるってことは、
きっと配達中に封印されたのだろう。


「唯一の郵便屋が封印されてたら困るし、
先にエクターから解放するか」

「そうね、私もそれに賛成」

そして俺達は、エクターの世界へ入った。












渡り鳥エクター・シュラウド。
二つの顔を持つ彼は苦悩する。


俺の名前はエクター・シュラウド。
暗殺の家系の息子として生まれた。


けど、俺は殺人よりも手紙が好きで、
家を継ぐことを拒んでいた。

お父様は、『お前には殺しの才能がある』と言うけれど、


俺は一度も人を殺したことはない。


気のせいか、仲の良かった使用人ばかり消えていく。


いくら問い詰めても『お前がやったんだろう?』と
不思議そうな顔で答えるだけで、
使用人達がどこに消えたのか分からなかった。



「……あいつの仕業か…」

「レイス、何か知ってるの?」

「……ああ、一度会ったことがあってな
あえて裏エクターと呼んでおこう
あいつは、とんでもないイカれ野郎だ」

「どんな人かは分からないけど、一応気を付けておくわね」

「ああ、是非そうしてくれ
と言っても、大丈夫とは思うが……」



次の瞬間場面が変わり、
黒一色の空間に、男女の影が二つと、
エクターに良く似た姿の白衣の男が立っている。


レイスは彼を知っているのか、黙って睨み付けた。



「アインセルト……」

「アインセルト?誰なのその人」

「エクターのもう一つの人格で、
イカれた快楽殺人鬼だ」
しおりを挟む

処理中です...