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第二章 スペードの国

シャリーメイ姉妹の絵本【前編】

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シャリーメイ姉妹の絵本の目の前で、
いつもの一人二役の会話が始まった。



「シャリー達の絵本では、俺と代わってくれ」

「はぁ? 何でお前と代わらなきゃいけねえんだよ
好きなだけ魔物殺せなくなるだろうが」

「それはお前の都合だろ?
シャリー達はお前を恐れているんだから、
表に出ているのはまずいだろ」

「断る、俺はてめぇの都合はどうでも良いんだよ
こいつらとは、好きなだけ魔物を
殺して良いという条件で一緒にいるんだ
それが出来ないなら俺は解放には協力しねえぞ」

「おい、どうしたお前ら
また一人二役の会話してるのかよ」

「あ、聞いてくれよレイス
エクターの野郎が今回は引っ込んでろって言うんだよ
むしろこいつが大人しくするべきだよな?」

「いや、それは違うよアイン
俺はシャリー達を出来るだけ怯えさせないように
配慮をしろと言ってるだけだよ」

「エクター、お前確か分裂魔法使えたよな?
それで人格分裂させたら、各自好きに行動出来るだろ」

「ああ、まあそれくらいしかねえか
分裂魔法は分身とは違って、
一つの肉体が二つに分裂する魔法だしな
俺らの両方の要望もそれで叶えられるだろ」

「あまり使いたくないんだが……
まあ、今回は仕方ないか……」

「分裂魔法」



アインが分裂魔法を唱えると、
一つの肉体から魂のような物体が出てきて、
人の形を作り出していく。

やがて、エクターの姿になれば、分裂魔法は成功だ。



「よっしゃ、これで好きなだけ暴れられるぜ!」

「どうやら問題解決したみたいだし、
俺は先に行っておくからな」

「おい、ちょっと待てレイス
魔物皆殺ししに行くなら俺もつれてけ」

「シャリー達の前では出来るだけ身を隠せよ」

「分かってるよ」

レイス達は、シャリーメイ姉妹の絵本へと入っていった。










正直なシャリー・オリンセス。
嘘つきなメイ・オリンセス。


「住人の絵本の世界は家の中ばっかだな
何でだ? 流行はやってんのか?」

レイスが愚痴のように周りを眺めながら呟く。
アインは興味なさそうな顔で、敵が現れるのを待っていた。

「で? 敵はいつ出てくるんだよ」

「まあそのうち出てくるだろうから、そう急かすんじゃねえよ」


噂をすればなんとやら。
アインお待ちかねの敵が現れた。


「おーおー、うじゃうじゃいるじゃねえか
これは殺しがいがありそうだな」


その顔は、紛れもなく殺人鬼のそれである。

アインは楽しそうに魔物を殺していく中、
エクターは魔物を殺すことに抵抗を覚えているようだった。


「おいエクター、戦いたくないなら、
戦闘は俺らに任せても良いんだぞ」

「お前はお人好し過ぎんだよエクター
そいつらは俺らに害しか与えないんだから、
さっさと始末した方が身のためだぜ?」

「……だが」

「はぁ……もういい、お前は戦うなよ
そんな甘ったれた考えを持ち込む奴は、
戦闘の場では足手まといだからな」

「…………ああ、そうだな」

戦闘を続けていくうちに、
レイス一行はまた住人の人形を見つけた。

「さて、これは……」

「これは、帽子屋の人形みたいね」

「いや、何でここで帽子屋なんだよ
どうせならハートの国で出してくれよ」

「ここで帽子屋の人形が出てくるってことは、
帽子屋も関係あるのかしら」

「ああ、関係はあるな
シャリーメイ姉妹の母親殺したのそいつだし」



どうやら関係はあったようだ。
一体どんな経緯でシャリーメイ姉妹の
母親を殺すことになったのだろう……



「せっかく手に入れたんだし、
さっそく帽子屋の人形を使ってみるか」

「それもそうね」


アリスが人形魔法を使用すると、
すぐに姿が代わり、帽子が似合う紳士の姿になる。

黒のシルクハットにネクタイ、
カマーベストが良く似合っていた。



「ふむ、これも悪くないな……」

「お前、もしかしてウィットと同じロリコンなんじゃねえの?」

「そんなわけねえだろ、あんな変態と一緒にするな」

アイン達と談笑をしながら、
次のポイントへと移動するのだった。
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