カガスタ!~元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト~

中務 善菜

文字の大きさ
52 / 123
第四章:一世一代の商談

幕間13:貧相な建前

しおりを挟む
 ミカエリアの中心から外れた川辺。昼間でも人通りが少なく、一人になりたいときには打ってつけの場所だ。

 俺は昨日の“供物”を燃やす。灰が風に攫われて、どこへともなく飛んでいく。気休めでしかないけど、俺にできる贖罪なんてこれくらいしかない。

 都会の奴らなんてちょろいもんだ。俺なんかの手品で目をキラキラさせるんだから。去年の冬にミカエリアへ来て、春を迎えた。路上でも、孤児院でも、老若男女、俺の手品に魅入ってた。

 バカバカしい。俺みたいな奴の子供騙しで幸せそうな顔するんだ。どうかしてる。

 なにも背負うものがない奴らは、安穏と日々を過ごす。その中にちょっと刺激を差し込むだけで、簡単に満足しちまうんだ。

「……あの笑顔も、拍手も、俺なんかにあげんなよ。バカばっかで嫌になる」

 得意げに披露している手品は、俺のものじゃない。譲り受けたーーいいや、違うね。人から奪ったものだ。だから、称賛されるのは俺であってはならない。

 けど、それを話したからってどうなる? なにかが変わるのか? 観客は観客でしかない。俺の事情なんて知ったこっちゃない。

 退屈が紛れる。そんな考えの、怠惰で身勝手な観客には反吐が出る。でも、出しちゃいけない。エンターテイナーは真摯であるべきだ。どんなクズ共だろうが、観客である以上楽しませる。

 ーーそう教えてくれただろ。

「……なに勝手に死んでんだよ、ボケ」

「死者をなじるのは感心しないね」

 突然聞こえてきた声に振り返る。そこにいたのは、あの日のエルフ。確か名前は……。

「オルフェ、つったっけ」

「あれ、どうして僕の名前を?」

「リオちゃんが言ってたから。つーかこんな場所になんの用だ? 川しかねぇんだから帰った方がいいぜ」

「生憎、帰る場所は作らない主義でね。隣に座ってもいいかい?」

「好きにしな」

 こいつ、読めない。なにを考えてんのかちっとも掴めやしない。観客みたいに単純な頭してりゃあ愛想くらい振り撒けるんだがな。

 だからこそ、なにを話してもいい気がした。後腐れなさそうだし、こいつ自身もそういう関係しか望んでいないように思える。

「ここでなにをしていたの?」

「……供養、かねぇ」

「ボケ、なんて言う人に?」

「そう。無責任なボケに供養してたんだよ」

 あいつが死ななけりゃ、俺がこんなことしなくて済んだのに。自分の役目をなんだと思ってたんだ。あいつにしかできないことなのに。どうして俺に任せたりしたんだ。

「大切に思っていたんだね」

「……そりゃな。尊敬してたからさ」

「故人は生前なにをしていたの?」

「……俺がいまやってること。すげぇ奴だったのに、放り出して死んだんだ。俺に任せるっつってさ。だからやってんだよ。才能がないのに」

 俺がやってることは、全部あいつがやるべきだった。なのに、いつの間にか死んで、その上役目を俺に押し付けて。自分勝手にも程がある。

 オルフェはなにも言わない。視線は感じる。目は見れなかった。見透かされそうだったから。

 ーー見透かされたから、なんだっていうんだ?

 後腐れない関係にしたいのは俺もオルフェも同じ。だったら目を見れるはずだ。なのに、どうして避ける? その問いは俺の中にしかない。

 オルフェはため息を吐く。

「貧相な建前だ」

「はあ?」

 たまらずオルフェを見る。その瞳には苛立たせるようななにかが灯っていた。軽蔑か。違う。これは哀れみだ。拳を握る俺のことなど関係ない、オルフェは続けた。

「才能がないのにやっている? 本当にそう思うなら、突っ撥ねてしまえばよかったんだ。自分以外に適任がいると思うなら、その人に押し付けてしまえばよかったんだ」

「死んだ奴の想いを蔑ろにしろってのか?」

「その選択肢もあった。でもきみは選ばなかった。だから聞かせて。きみはなぜ、エンターテイナーを演じている?」

「なぜって……」

 ーーあれ? なんで……なんでだ?

 怒りが急速に引いていく。代わりに胸を満たしたのは、疑念。俺自身への猜疑心だった。

 オルフェの言う通り、俺は選べたはずだ。あいつの願いを突っ撥ねて、どこかへ姿をくらますことだってできた。なのにどうしてエンターテイナーで在ろうとする? 贖罪……の、つもりだった。

 贖罪じゃないなら、俺はなんでこんなことを続けてるんだろう。

 早鐘を打つ心臓に手をやる。息も微かに乱れていた。

「見て見ぬ振りをするなら止めはしない。けれどきみが目を逸らした現実は、ずっときみを苦しめる」

「……お前は俺のなにを知ってんだ?」

「知ってるわけじゃない。“わかる”だけさ。安物の張りぼてに隠れて生きるのは僕も同じだから」

「俺はそんなつもり……」

「ない、と思い込んでいるだけだよ。本当に違うなら、きみは役者になるべきだ。でも、人間はそれほど器用な生き物じゃない。僕は知っている」

 わかったような口を利くオルフェ。けど、その顔には確かなものが映っているように見えた。人間の不器用さを間近で見た、とでも言いたげな顔だ。

 怒りはもう、腹の底からも消えてしまった。適当なことを言ってるわけじゃないと、直感が告げたから。

 オルフェは立ち上がり、背を向ける。話は終わりのようだ。

「お節介だけど、小言を一つ残しておく。恐怖を乗り越えて、張りぼての裏側を見てごらん。“ギル・ミラー”はそこにいるはずだよ」

「……へいへい、ご忠告どーも」

 オルフェの言葉は耳が痛い。小言と言ったが、悪意はない。俺のことをある程度見透かして、その上で諭すような言葉を突きつけてくる。

 けど、優しさとも違う。寄り添うわけではなく、導くわけでもなく、ただそっとしるべを残すだけ。そこに進むかは、俺に選ばせるつもりだ。

 オルフェが去った後、一人。まだ燃やしていなかった写真を見る。屈託のない、いい笑顔だ。それが俺に向けられている。そう。この笑顔は、俺が貰ったものなんだ。

「……“ギル”、お前はどうしたい?」

 問いかけて、笑う。俺が尋ねたって、答えを返すのは他でもない俺自身。

 ーーいつか、答えを出せる日が来るのかね。

 答えが出るまで、写真は胸のポケットに仕舞っておくことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

最も嫌われている最凶の悪役に転生ー物語の主人公に殺されるエンドを回避するため善行を積みます!ー

灰色の鼠
ファンタジー
大人気ソシャゲの物語の主要人物に転生したフリーターの瀬戸有馬。しかし、転生した人物が冷酷非道の悪役”傲慢の魔術師ロベリア・クロウリー”だった。 全キャラの好感度が最低値の世界で、有馬はゲーム主人公であり勇者ラインハルに殺されるバッドエンドを回避するために奮闘する——— その軌跡が、大勢の人を幸せにするとは知らずに。

処理中です...