カガスタ!~元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト~

中務 善菜

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第五章:“星”の欠片

49:ご褒美

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「……こんなにたくさん買って大丈夫なのかな」

「大丈夫だと思うよ、母さん絶対張り切るし」

 買い出しを終えた私たち、買い物袋にはどっさりと食材が詰められている。アレンくんの言うこともわかるけど、心配は心配だった。まあ家庭で消費する分には問題ない量なのかもしれない。

 帰り道、アレンくんの話を聞きながらも頭の中はギルさんのことでいっぱいだった。彼を口説く言葉、セールスポイントとして注目するべきはどこか。ずっと考えている。

 手品に集中させる仕草? 人を楽しませる意識の高さ? 私が感じた彼の魅力は、よく見れば誰だって言えるものだ。ギルさんの心を動かすには至らない気がする。となれば、やっぱり勘に頼るしかないのだろうか。

 ギルさんはきっと、罪滅ぼしのようなことをしている。“供物”という表現や彼の過去を繋ぎ合わせた憶測でしかないけど。

 恐らく、彼の師匠は亡くなっている。あるいは、手品師としての活動を辞めている。ギルさんが師匠の意志を継いだとすれば、私たちの賞賛や拍手は、師匠に捧げるものだと思っている?

 納得はいく。けれど、私から触れていいのだろうか。彼は意図的に隠している。“スイート・トリック”の話をしたとき、彼は深く語らずにその場を去った。人を楽しませること――エンターテイナーとしての自分に負い目を感じているのかもしれない。

 だとしたら、ギルさんに必要な言葉って……? 思考の深くまで落ちていく、それを引き留めたのはアレンくんの手だった。

「リオ、怖い顔してる」

「えっ? あ、ごめんね。ギルさんをスカウトするにはどうしたらいいかなって」

「ギルが断るって想像できなかったからなぁ……オレにもわからないや」

 アレンくんもお手上げのようだ。彼がアイドルになれば、ファンのことを一番に考えるエンターテイナーになれるはず。私としては絶対に加入してほしい人材だ。ファンとの心の距離を縮められる、グループの親しみやすさを強調してくれる存在だと思っている。

 私はギルさんが必要だけど、彼は私を必要としていない。そこが問題なのだ。日本であれば、新人発掘を願うプロダクションと、アイドルを夢見る若者という、ある種の需要と供給が成立している。

 ところが私はギルさんになにもしてあげられない。契約するメリットが皆無なのだ。それさえ明確に作ることができれば、検討くらいはしてくれそうなものだが……世の中そう甘くはない。

「あれ、噂をすれば」

「どうしたの? って……!」

「おう、奇遇じゃん。デートの最中?」

 巡り合わせというのはあるもので、私たちの前に姿を現したのはギルさんだった。いつも通りの声音、表情は若干意地悪だ。からかっているのだと思う。乗せられたのはアレンくんだけだったけど。

「デートって、そういうのじゃないから! ただの買い出し!」

「ハハッ、むきになると余計怪しいぞ」

「なんだよ、本当になにもないってば!」

「まあまあ、二人とも……それより、ギルさんはどちらに?」

「ああ、店に行こうと思ってよ」

「でしたら、一緒に行きませんか?」

 少しでもギルさんを知るために、一緒にいる時間が必要だと思った。アレンくんには悪いけど、これは将来のためでもあるから。

 ギルさんは驚いたような顔を見せるが、すぐに目を細めた。私の意図に気付いている、間違いなく。どう出る……?

「おう、いいよ。目的地が一緒なんだし断る理由もねーし」

「ありがとうございます」

「じゃあリオの袋持ってあげて」

 気遣ってくれたのか、アレンくんが提案する。しかしギルさんは唸っていた。荷物持ちを断るような人ではないと思うけど……。

「ま、持つにしたって報酬がねーとな」

「報酬?」

「そ、手伝ってやんだからご褒美が欲しいわけ」

 なんとなく台詞が卑しい。ギルさんらしくない。いったいなにを企んでいるんだろう。アレンくんは気付いていないみたいだけど、ギルさんの瞳の奥には悪戯な光が見える。

 私たち……というか、私になにか仕掛けてきそう。そんな警戒心を抱かせた。

「紅茶淹れてあげるよ」

「そんなんじゃ足りねーの。お子ちゃまのアレンはそれで満足すんだろーけど」

「子供扱いするなよな、二つしか違わないじゃん」

「ってわけで。荷物持ちの報酬は、リオちゃんと一日デートの権利ってのはどう?」

「……へ? デート……って、ええっ!?」

「デ、デート!?」

 素っ頓狂な声を出したのは私だけでなく、アレンくんもだった。きみも驚くんだね。なんでかな?

 しかし、そう来たか……予想外だ。てっきり接触を拒まれているとばかり思っていたから。ただのデートにならないことだけはわかる。

 しかしこれはチャンスなのでは? ギルさんと二人でいれば、自然な流れで彼のことを聞けるかもしれない。そこから口説き文句を手直しして、勝負だ。悩ませたらその時点で勝ちだと思っておこう。

「私はいいですけど……」

「っしゃ、決まりだな。そんじゃ荷物寄越しな、さっさと行こうぜ」

「あっ、こら! 先に行くなって! リオ、ダッシュ!」

「え? あ、うん、って手を引っ張らないで!?」

 空いている手で私を引っ張るアレンくん。なんだかんだよく触れてくる子だな。私はいいんだよ、若い子に手を引かれるなんてすごく青春してるって思えるし。

 ……なんていうか、若さがないなぁ、私……。

 =====

 ケネット商店に帰り着く頃、私は息も絶え絶えだった。アレンくんが結構な駆け足だったものだから、ついていくのに精一杯だった。青春を感じるには少し勢いが良すぎたみたい。

 先に到着していたギルさんは、茶化すように口笛を吹く。

「なーに、見せつけてくれんじゃん」

「そういうのじゃないってば!」

「ち、違うんです本当に……アレンくん、急いでただけで……ほんと、違うんですよ……」

 乱れた呼吸を整えつつ、アレンくんのフォローも忘れずに。大人の余裕を見せてあげないといけない気がした。いや、こんなに疲れ果てて余裕もなにもあったものじゃないけど。

 ギルさんはアレンくんに荷物を渡す。俺の仕事は終わりだな、と笑っていた。アレンくんは袋を二つ抱えて店の扉を開ける。

「それじゃあ、夕飯には帰ってきてね!」

「おいおいなに言ってんだ、リオちゃんは今日一日俺のもんだぜ」

「い、一日中ですか……?」

 それはつまり、夜も一緒ということ……? ちょっと待って、この世界の貞操観念はどうなっているんだろう。ギルさんまだ十九歳だよね? いや、現代っ子ってそういうものなのか……? 押し倒されたりしないだろうか、少し不安になってきた。

 アレンくんに視線をやると、開いた口が塞がらないという様子だった。そりゃそうだ、年頃の男の子だもんね。いろいろ考えちゃうよね、安心してほしいけど安心させられる自信もあんまりない。

 ギルさんは私の手を取り、その場に跪いた。こういうところは王子様っぽいけど、演技なのがわかるからちょっと笑ってしまう。

「さ、行こうかお嬢さん。エスコートは任せてくれよ」

「あ、はは……お手柔らかに……?」

 なんにせよ、ギルさんと二人きりは初めてだ。なんとかして彼の実体を掴みたい。そこまでの余裕を持っていられるかは、わからないけれど……。
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