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第五章:“星”の欠片
60:それぞれの仕事
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ネイトさんの要求に快く応じたエリオットくん。彼らは二人で街に繰り出した。お出掛けすればきっとお互いのことがわかるはず! という彼なりの理論に基づいてのことだった。
私とイアンさんは各々の仕事に取り組んでいる。私は資料まとめ、イアンさんは……そういえば、なにしてるんだろう。彼の仕事について、私はなにも知らない。
彼の方を見れば、机に向かって手を動かしている。なにか書いている? 書類でもまとめているのだろうか。なんの書類だろう、どこに宛てたものだろう。
「ところで、リオ」
「はい?」
「メンバーが揃ったとして、誰が稽古つけるんだ?」
「それなんですよね……」
私は勿論無理だ。ダンスも歌も習ったことがない。それらの教本があれば“データベース”で収集してそれっぽくレッスンはできるだろう。だが問題は、やり方がわかるだけで正しく身についているのかが確認できないことだ。
下手をすればおかしな癖がつくこともあるだろう。そうなったとき、私では矯正ができない。となれば、やはり本職の人に頼むのが一番。ここで第二の問題。当てがない。人脈のなさが先行きを曇らせていた。
イアンさんは「だろうな」とため息を一つ。いろいろと至らないところはあなたにカバーしてほしいものですがね! 仮にも上司なんですから!
「そんなこったろうと思って、ほら」
そう言って一枚の紙を差し出すイアンさん。徐に受け取ると、そこにはなにやら堅苦しい文章が綴られている。
「これは……」
「依頼書だよ、レッドフォード帝国で活動してるパフォーマーに送るもんだ」
「依頼書……って、まさかイアンさん……!」
「あいつらの稽古は専門家に任せるのが一番だろ。口利きしてんだよ、方々に」
「最高……天才……」
ちゃんと仕事はしてくれているようだった。思わず親指を立てる。最高ですよ、あなた……いいねしちゃう……。
「とりあえず、そっち方面は俺に任せとけ。お前はメンバー集めに注力してくれ」
「かしこまりました、超頑張ります……」
心配事の一つは解消した。となると、あとはメンバー。最低一人。二人入るともう一人が欲しくなる。どうしたものか……悩ましい。アレンくんがアーサーに声をかけたみたいだし、彼が応じればそこで締め切ればいい。
と、思ったが、新たな問題点……というか不安点。エリオットくんが、ネイトさんを誘わないかが心配だ。彼をアイドルにするのは博打もいいところだ。笑顔を知らないアイドル――うーん、なんというか、ミステリアスな雰囲気ではある?
イメージする。笑顔を知らないアイドル。心からの笑顔を知るために、アイドル活動を始めた。ライブ活動を通して、ファンの笑顔に触れていく。そうして――初めて笑顔になれた。
なんてドラマだ。泣いちゃう。いやでも現実と空想の区別はつけましょう。ネイトさんがそんなドラマの主演俳優みたいな人生を歩めるとは正直思えない。フィクションはフィクション、現実とは違います。
「あと一人……最低、あと一人……」
「候補もいねぇのか?」
「いるにはいるんですけど……最終手段と言いますか……」
「それならもう少し当たってみるのがいいだろうな。また東区でも行ってみたらどうだ?」
確かにあの区画には優れたパフォーマーは多いだろう。路上ライブもそう、ダンスもそう。アイドルに必要な要素を持つ人に出会いたいならうってつけだ。
けど、躊躇はある。現在確定しているメンバーはそれなりに交流があった上で迎えた人たちだ。路上でパフォーマンスをしている人たちは、少なからず自分を主張する気持ちはあるだろう。アレンくんを絶対的なセンターとして据えたい、というコンセプトに異を唱えられる可能性もある。
そう考えると、やっぱりあと一人を加えた五人で活動するのがベターではあるか……。
「イアンさん」
「あ?」
「禁煙はできそうですか」
「な、なんだよ……ちゃんとやるって……」
「信じていいですか」
「おう、そりゃあ……」
「私の目を見て言えますか」
「なんだってそんな念を押してきやがる……?」
そりゃあ押しますとも。あなたは最後の希望、私の救世主。
「まあ、信じておきましょう」
「なんで上から……」
なにはともあれ、彼は禁煙すると言った。これ以上疑うのは止める。最後の手段、程度に思っておくのがいいだろう。
さて、私はどうするか。やっぱり三人だけでも顔合わせしておくべきかな。アレンくんは仕事が終わったら連れて行けばいいし、ギルさんを一緒に迎えに行けばいいか。オルフェさんはあまり動けないだろうし、“スイート・トリック”の稽古場付近がいいかもしれない。
身支度を整え、イアンさんに声をかける。デスクに向かう彼の背中は、そこはかとなく哀愁が漂っていた。禁煙を念押しされただけでそんな雰囲気出します?
「それじゃあイアンさん、私ちょっと出てきます」
「おう、気をつけてな」
「煙草、駄目ですよ?」
「おう……任せとけよ……ばっちり禁煙してやっからよ……」
決意の証か、彼は煙草の箱を私の目の前でぐしゃぐしゃに握り締めた。そのままゴミ箱に捨てたところを見る辺り、疑わないでおいた方がいいだろう。でもそんなに震えます? 名残惜しさが露骨だな。
なにはともあれ、私も仕事だ。まずはアレンくんを迎えに行こうか。って、いま何時? わお、正午。無理だ、ピークの絶頂。となると、ギルさんから先にお迎えした方がいいかなぁ。そもそも家にいるのかな、あの人。
ひとまずは彼が教えてくれた住所に向かおう。いたらラッキー、いなくてもケネット商店のピークは過ぎているだろうしアレンくんは迎えられる。ギルさんはその後でも問題ないや。
私とイアンさんは各々の仕事に取り組んでいる。私は資料まとめ、イアンさんは……そういえば、なにしてるんだろう。彼の仕事について、私はなにも知らない。
彼の方を見れば、机に向かって手を動かしている。なにか書いている? 書類でもまとめているのだろうか。なんの書類だろう、どこに宛てたものだろう。
「ところで、リオ」
「はい?」
「メンバーが揃ったとして、誰が稽古つけるんだ?」
「それなんですよね……」
私は勿論無理だ。ダンスも歌も習ったことがない。それらの教本があれば“データベース”で収集してそれっぽくレッスンはできるだろう。だが問題は、やり方がわかるだけで正しく身についているのかが確認できないことだ。
下手をすればおかしな癖がつくこともあるだろう。そうなったとき、私では矯正ができない。となれば、やはり本職の人に頼むのが一番。ここで第二の問題。当てがない。人脈のなさが先行きを曇らせていた。
イアンさんは「だろうな」とため息を一つ。いろいろと至らないところはあなたにカバーしてほしいものですがね! 仮にも上司なんですから!
「そんなこったろうと思って、ほら」
そう言って一枚の紙を差し出すイアンさん。徐に受け取ると、そこにはなにやら堅苦しい文章が綴られている。
「これは……」
「依頼書だよ、レッドフォード帝国で活動してるパフォーマーに送るもんだ」
「依頼書……って、まさかイアンさん……!」
「あいつらの稽古は専門家に任せるのが一番だろ。口利きしてんだよ、方々に」
「最高……天才……」
ちゃんと仕事はしてくれているようだった。思わず親指を立てる。最高ですよ、あなた……いいねしちゃう……。
「とりあえず、そっち方面は俺に任せとけ。お前はメンバー集めに注力してくれ」
「かしこまりました、超頑張ります……」
心配事の一つは解消した。となると、あとはメンバー。最低一人。二人入るともう一人が欲しくなる。どうしたものか……悩ましい。アレンくんがアーサーに声をかけたみたいだし、彼が応じればそこで締め切ればいい。
と、思ったが、新たな問題点……というか不安点。エリオットくんが、ネイトさんを誘わないかが心配だ。彼をアイドルにするのは博打もいいところだ。笑顔を知らないアイドル――うーん、なんというか、ミステリアスな雰囲気ではある?
イメージする。笑顔を知らないアイドル。心からの笑顔を知るために、アイドル活動を始めた。ライブ活動を通して、ファンの笑顔に触れていく。そうして――初めて笑顔になれた。
なんてドラマだ。泣いちゃう。いやでも現実と空想の区別はつけましょう。ネイトさんがそんなドラマの主演俳優みたいな人生を歩めるとは正直思えない。フィクションはフィクション、現実とは違います。
「あと一人……最低、あと一人……」
「候補もいねぇのか?」
「いるにはいるんですけど……最終手段と言いますか……」
「それならもう少し当たってみるのがいいだろうな。また東区でも行ってみたらどうだ?」
確かにあの区画には優れたパフォーマーは多いだろう。路上ライブもそう、ダンスもそう。アイドルに必要な要素を持つ人に出会いたいならうってつけだ。
けど、躊躇はある。現在確定しているメンバーはそれなりに交流があった上で迎えた人たちだ。路上でパフォーマンスをしている人たちは、少なからず自分を主張する気持ちはあるだろう。アレンくんを絶対的なセンターとして据えたい、というコンセプトに異を唱えられる可能性もある。
そう考えると、やっぱりあと一人を加えた五人で活動するのがベターではあるか……。
「イアンさん」
「あ?」
「禁煙はできそうですか」
「な、なんだよ……ちゃんとやるって……」
「信じていいですか」
「おう、そりゃあ……」
「私の目を見て言えますか」
「なんだってそんな念を押してきやがる……?」
そりゃあ押しますとも。あなたは最後の希望、私の救世主。
「まあ、信じておきましょう」
「なんで上から……」
なにはともあれ、彼は禁煙すると言った。これ以上疑うのは止める。最後の手段、程度に思っておくのがいいだろう。
さて、私はどうするか。やっぱり三人だけでも顔合わせしておくべきかな。アレンくんは仕事が終わったら連れて行けばいいし、ギルさんを一緒に迎えに行けばいいか。オルフェさんはあまり動けないだろうし、“スイート・トリック”の稽古場付近がいいかもしれない。
身支度を整え、イアンさんに声をかける。デスクに向かう彼の背中は、そこはかとなく哀愁が漂っていた。禁煙を念押しされただけでそんな雰囲気出します?
「それじゃあイアンさん、私ちょっと出てきます」
「おう、気をつけてな」
「煙草、駄目ですよ?」
「おう……任せとけよ……ばっちり禁煙してやっからよ……」
決意の証か、彼は煙草の箱を私の目の前でぐしゃぐしゃに握り締めた。そのままゴミ箱に捨てたところを見る辺り、疑わないでおいた方がいいだろう。でもそんなに震えます? 名残惜しさが露骨だな。
なにはともあれ、私も仕事だ。まずはアレンくんを迎えに行こうか。って、いま何時? わお、正午。無理だ、ピークの絶頂。となると、ギルさんから先にお迎えした方がいいかなぁ。そもそも家にいるのかな、あの人。
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