カガスタ!~元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト~

中務 善菜

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第五章:“星”の欠片

66:誰かのための真っ直ぐさ

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 あれから、アメリアさんはミランダさんと一緒に“スイート・トリック”の稽古場に帰っていった。休憩中だったらしく、二人ともファンサで投げキッスしてくれた。恋した。仕方ない。

 さて、これからどうしたものか。まだ時刻は十五時にもなっていない。もう少し街を散策してから帰ろうかな。っていうか、大型ビジョンも結局見てないし……。

 幸い、手持ちはある。ケネット商店で働いていた頃のお給金だ。たまには買い食いしたっていいだろう。

 それから私は中央区をなんとなく歩き回った。服屋さん、雑貨屋さん、本屋さん……やっぱりミカエリアは都会なんだなぁ、なんでもある。あまり不自由は感じたことがない。

 気紛れに買ったホットドッグを食べながら歩いていると、見慣れた顔が目に入る。赤い髪――アレンくんだ。どうしたんだろう、こんなところで。

 彼は一人、ベンチに腰掛けている。よく見ると、つま先で地面を叩いていた。一定のリズムだ、音楽でも聴いてるのかな?

「アレンくん」

 声をかけると、すぐに私に気付いてくれた。イヤホンとかはしてないみたい。っていうか、この世界ってCDとかあるのかな? ライブオンリー? 仕組みさえわかれば技術者さんに作ってもらうこともできるかなぁ……。

 彼はひらりと手を振った。やはり元気がない。アーサーのことだとは思うけど。

「今日はもう終わったの?」

「うん、ちょっとぼーっとしたくて。リオもあっちに帰ってなかったんだ?」

「そうなの。ちょっと人探しを手伝ってて。隣、いい?」

 頷くアレンくん。なんとなく腰掛けて、ぼうっと人の往来を眺める。本当に他人に無関心だなぁ、と思う。東京も似たようなものだから、特別怖くもなくなったけど。

 アレンくんを見れば、彼も私を見てきた。曖昧な笑みを浮かべているけど、触れない方がいいことなのかな、これ。大人の対応が正解なのかな。なにもできない自分に少し悔しくなる。

「ねえ、リオ」

「うん?」

「オレ、アイドルになれるかな」

 突然なにを言い出すんだこの子は。

 って、考えてみたら、この世界にアイドルっていう呼称は存在しないんだもんね。未知の仕事だ、不安に思うのも仕方ない。アイドルがどういうものか、説明してあげないと。アレンくんは絶対アイドルになれるって。理性は保ちつつね。

「なれるよ、絶対。アレンくんはね、誰かのために頑張れる子。お客さんのために、最高の歌を披露できる子だよ」

「……オレ、誰かのために頑張れるかな?」

「頑張れるよ。っていうか、頑張ろうとしなくても誰かのためになる。だって、私が助けられたから」

「リオが?」

 心当たりがない、って顔。だからだよ、と微笑む。

「アレンくんは『困ってる人を助けるのは普通』って言ってた。普通のことは頑張らなくたって出来ちゃうでしょ?」

「それはそうだけど……」

「だからね、あんまり意識しないで。頑張ろうって意気込まなくても、きみは誰かを助けてあげられる。自分に正直でいい。私はそう思うなぁ」

 アレンくんは黙っている。けれど、機嫌を損ねているわけでもなさそう。自分の中で整理しているような、そんな沈黙だった。だから私も待てた。

 やがて、アレンくんは深い息を吐く。どことなくすっきりしたようだった。

「……ありがとね、リオ」

「どういたしまして、お礼を言われるようなことはしてないけどね」

 笑って返す。アレンくんは背負い過ぎず、のびのびと歌ってくれればいい。私にとっても、きっとアーサーにとっても喜ばしいことだから。

「じゃあ私、そろそろ行くね。憑き物が取れたみたいだから、よかった」

「あ、送るよ。たまには、その……オレにもエスコートさせてほしいな」

「かっわ……う、うん。ありがとう、よろしくね」

 危ない、可愛いって出ちゃうところだった。年下の男の子って本当に侮れない、不意打ちの破壊力がえげつないな。オルフェさんは身構える余地があるけど、アレンくんは完全に意識の外から殴ってくる。エリオットくんもそうだけど。

 それからアレンくんと一緒に城へ向かった。そういえば、城までの道のりはわかるのかな? まあ見上げれば尖塔があるし、そこに向かっているんだろう。エスコートも頑張ってくれているし、面子を保つ意味でも。

 他愛のない雑談をしながら、城門へ到着する。門番さんが私に敬礼してくれた。こればっかりは慣れないなぁ、私は庶民なんです。

 アレンくんについてはなにも言われなかった。私と一緒にいるからかな? 彼もお辞儀して、城の中へ。事務所まで来てくれるみたい。

「ここからは私が連れて行かないとね、こっちだよ」

「うん。お城って、緊張するなぁ……」 

「わかる……私もまだ慣れないもん……」

 乾いた笑いを浮かべながら城の北側へ。尖塔を登っていると、耳元の通信機が音を立てた。イアンさんからだ。

『リオ、聞こえるか?』

「はい、聞こえてます。もうお城ですよ」

『そうか、都合がいい。また客人だ』

「へ……? 誰だろう? わかりました、すぐ向かいます」

 通信が切れ、考える。わざわざ私のところに来るって、いったい誰だろう?

 まさか、アーサー……? 腹が決まったのだろうか。だとしたら、この状況はどうなんだろう? アレンくんがいるから。

 鉢合わせていいのかな? でも、きっと話したいはずだ。なにが起こるかはわからないけど、連れて行ってあげよう。ちらりと彼を見れば、きょとんと見つめ返してくる。

「……都合がいい、かぁ」

「なんの話?」

「ついてくればわかるよ、たぶん。おいで」

 アレンくんの手を引いて、北の尖塔へ急ぐ。私の予想通りかつ、これから来る試練を乗り越えれば――最後の砦を攻め込む必要もない、かな……?
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