カガスタ!~元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト~

中務 善菜

文字の大きさ
103 / 123
第六章:役割

75:成人の証

しおりを挟む
「そういえば、エリオットくん来ませんね」

 事務所で朝食を摂る私たち。ふと気になって話題に挙げてみたが、イアンさんも頷いていた。

「声はかけたんだが、部屋から出てこようとしなくてよ。寝小便でもしたんじゃねぇか?」

「いやいやまさか……ちょっと様子見てきますね」

 エリオットくんの部屋は事務所からそう遠くない。そういえば、他のメンバーはどうしよう。正直な話、レッスンのことも考えたらここの空き部屋を使ってもらいたい。その方が都合がいい。

 今後のことに想いを馳せながら彼の部屋に到着する。耳をそばだててみるが、なにも聞こえない。眠っている? 鍵は……さすがにかかってるか。ひとまずノックしてみよう。

「エリオットくん? 私、リオだけど。起きてる?」

「うわわっ、リオさん!? 起きてます! 大丈夫です!」

「朝ご飯用意してるから、出ておいで。イアンさんも来たよね?」

「だだ、大丈夫です! その辺に置いておいてください!」

「いやそうは言っても……出てこれない事情でもあるのかな?」

「あは、あはは! なんにもないですよ! 大丈夫です!」

 大丈夫です、ってこの短い掛け合いで何回出てきた? 絶対大丈夫じゃない。もしかして本当におねしょ……? いやいや、そんなことないさ。でも、そうなると原因はなに?

 ――ま、まさか……。

 え、いや、相場ではとっくに越えてるはず……ちょっと待って相場ってなに?

 こ、これは触れない方がいいこと、だよね? なんとなく察してあげるのが大人、だよね? どうしよう、男の兄弟がいなかったから、そういうのわからない。

「……リ、リオさん」

「は、はいっ!?」

「……見て、もらえますか……」

「ハイィッ!?」

 ちょーっと待って!? それは駄目でしょ!? いろいろまずいよ!? 絶対良くない! これは大人として諭してあげないといけない! 男の子なら誰でもあることなんだよって! 教えてあげないといけない!

「エッ、エッ、エリオットくん! それは男の子だから仕方ないことなの! わわ、わた、私が確認するまでもないんじゃないかなぁあぁ?」

「でも、こんなの見たことないし……びっくりして……」

「いやいやいやいやだからって……」

「と、とにかく見てください!」

「ちょーっ! ちょっと待って心の準備待って!」

 私のことなど意にも介さず、扉が開かれる。目のやり場はどこに!? 頭、頭なら大丈夫だ! 顎を上げて、視線を落とさなければだいじょ――って、え?

「……リオさん、これ、なんでしょうか……?」

 しゅん、と縮こまるエリオットくん。私はじっと、彼の頭部を見つめていた。

 彼の心情を語るかのように垂れる耳。私の耳とは場所が違う。頭の上にある。加えて、毛が生えている。なんていうか、動物。犬猫に似てる。

 ……えっと、コスプレ……?

 でも彼の反応を見る限り、意図しない耳みたいだけど……でもよかった、下半身の話じゃなくて。安心感から、視線を落とす。と、なんか、もふもふした細長いのが足元に垂れている。根元はお尻の方にあるみたい。

 ……え、本格的だね……?

「あの、リオさん……その、ぼく、どうしちゃったんでしょう……?」

「ど……どうしちゃったんだろうね……?」

 なにが起こったのか、全然わからない。エリオットくん、どういう路線に向かおうとしているんだろう。これ、イアンさんに聞いた方が早そうだ……。

 =====

 ぐずるエリオットくんを宥めながら事務所に戻るとイアンさんが驚いたように目を見開いた。恥ずかしさから顔を隠すエリオットくん。耳も尻尾も隠せてないよ、なにを隠しているつもりなんだろう。可愛いな。

「なんだ、そういうことか」

「イアンさん、エリオットくんどうしちゃったんですか?」

「今日が成人なんだよ、エリオットは」

 ますます意味が分からない。この世界の成人って何歳? っていうか動物の耳となんの関係があるんだろう。

「獣人ってことだ。俺もいま知ったがな」

「獣人……?」

 まあエルフもいるし獣人がいても不自然じゃないか。それより、なんで急に耳と尻尾が生えてきたんだろう。成人って言ってたけど、獣人は人間と基準が違うのかな?

 私とエリオットくんの疑問に答えるように、イアンさんが語る。

「獣人の成人は十五歳なんだよ。んで、成人を迎えた日に体が獣人化するんだ。今日、春暮はるくれの一日がお前の誕生日ってことだろ」

「……そっか、今日、誕生日だった……」

 なんにせよ、耳と尻尾の原因がわかってよかった。けど、どうしてそんなに悲しそうな顔をするんだろう。エリオットくんは誰にともなく呟いた。

「いつも、姉さんがいてくれたから……忘れてました」

 その言葉に胸が詰まった。エリオットくんの時間は止まっていたんだ、お姉さんといた頃のまま。成人になったことで体が変化して、ようやく“現在”に気付いたのだろう。喪失感が彼の顔を曇らせる。

「けどよ、悲観することでもねぇんじゃねぇか?」

 暗い顔のエリオットくんとは対照的に、あっけらかんと言うイアンさん。

「なぜですか?」

「手がかりが出来たじゃねぇか、お前と同じ耳と尻尾を持った女がお前の姉貴ってことだろ。いまはそう思っとけ。せっかくの誕生日なんだからよ」

 彼なりに気遣っているのだろう。こっちを向いていないのは照れ隠しか。強面なのに可愛いところあるじゃないですか、ねぇ。

 エリオットくんもそれに気づいてか、少しだけ表情を綻ばせた。ちゃんと伝わってますよ、よかったですね。

「……ありがとうございます。そうですよね、今日は誕生日ですし」

「有名になればいろんなところで歌ったりもするし、お姉さんと再会するためにも頑張らないとね」

「はい! ぼく、いっぱい頑張ります!」

 なんとか持ち直してくれてよかった。私も私で、これから頑張ることがたくさんだ。

 ひとまずは、またメンバーには集合してもらわないといけない。結局、いまに至るまで“視”れなかった人もいるから。

 ああ、こういうときに携帯電話が欲しくなる……ささっとグループ通話なりメッセージ一斉送信とかで呼び出したい……地球で暮らしていた頃が懐かしい。この世界では自分の足で迎えに行くしかない。ああ、もどかしい……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...