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第六章:役割
81:夜を明かして
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「ん……朝だ……」
緊張の挨拶から一夜明け、あくびを漏らす。隣にはアミィがいた。いまも呑気に寝息を立てている。もう少し寝かせてあげよう。事務所に誰かいるかな、イアンさんはもう起きてそう。
部屋を出て、廊下を歩く。窓の外から見下ろす街は賑わっている。私のアイドルがデビューを果たしたら、もっと賑やかになるんだろうか。なったらいいな。
事務所の扉を開くと、案の定。イアンさんが机に向かっていた。ペンを指先で回している、表情は険しい。
「おはようございます」
「おう、早起きだな」
「イアンさんもですけどね。ところで、なにか書いてたんですか?」
「あー……まあなんだ、ちょっと頼まれてよ……」
言い淀むイアンさん。なんだ、言いにくいことなの……? まさか、陛下から契約書でも書かされてるのか? 社会人の先輩として内容を確認しておきたいものだけど……。
怪訝な眼差しを向けてしまったからか、イアンさんは慌てたように書類を隠した。怪しい……。
「……いったいなにを書いていたんです?」
「ああいや、なんでもねぇ。大したもんじゃねぇからよ」
「隠し事するんですか、私に? 他でもないこの私に?」
この人は“リオ”に弱い。圧をかければ倒れるはずだ。ずるい女だなぁ、私。
ほら見ろ、イアンさんは露骨にうろたえている。申し訳ないけど、私に黙ってなにかしようって言うならこっちにだって考えはあるんですよ。女は強かな生き物なんです。
観念したか、彼は恐る恐る隠した書類を提示する。あんまりこういうことしたくなかったけど……いったいなにを書いていたんだろう。目を通すと、文章……のように見えるけど、違う。これ、歌詞?
「これ、どういうことですか……?」
「あー……お前が来るちょっと前、ふらふらのアレンが俺の部屋に来てよ。『試しに、歌詞、書いてみてください……』って……死にそうな顔してたから……」
「死にそうな顔って……なんでそんな彼をみすみす帰したんですかお馬鹿!」
罵声を浴びせて一目散、向かう先はアレンくんの部屋。もしかして徹夜したの!? そんなに難航したの!? 気負い過ぎだよ! 真面目だね! 文化開発庁はクリーンな職場にするからね!
アレンくんの部屋を激しくノックする。まさか死んでたりしないよね!?
「生きてる!? アレンくん、私! リオ! 生きてる!?」
返事がない。……返事が、ない……ええいままよ!
「アレンくん、入るね! 生きてる!?」
鍵がかかっているかどうかなんて関係ない、全力で引っ張ればきっと開く。火事場の馬鹿力、ここで発揮できるは、ず……あれ、鍵、開いてる……。
「え……あ、アレンくん……?」
「うんん……? あ、え? リオ? どうしたの……?」
「いやそれこっちの台詞……これ、どうしたの……?」
机に向かうアレンくんは本当に生気が感じられなかった。心配にはなったけど、それ以上に目を引いたのは床に散らばる紙、紙、紙……。
真っ黒になるほど文字が敷き詰められた紙は、一枚一枚が歌詞を綴ったもののようだった。絶句する私に、アレンくんはへにゃりと笑う。全然安心できない笑顔だ。
「歌詞……頑張ってみたけど、納得、いかなくてさ……」
「いやいやだからって徹夜する……?」
そうは言うけど、私もエリオットくんの件で三徹したっけ。人のこと言えなかった。アレンくんはふらりと立ち上がり、よろけながら歩み寄ってくる。怖い、ゾンビみたい。
「ごめん、オレ、期待、応えられなさそう……」
「へ? だ、大丈ひょえええっ!?」
足がもつれたか、私に向かって倒れてきた。避けるわけにもいかず、なんとか抱き留める。うわ、若い男の子の体、結構しっかりしてる……じゃなくて!
「アアア、アレンくん、ベッド、ベッドに行こうね? これ、結構まずい……!」
「朝から大きい声がしたがリオか? いったいなに、が……」
背後から聞こえてきたのは凛々しいお声。アーサーくんだ。最悪な場面に居合わせてしまったね、でもギルさんよりマシか……。
なにはともあれ誤解を解かねば話にならない。いろんな事情で鼓動が速い。いまの私、BPM相当上がってる気がする。
「ア、アア、アーサーくん? 違うの、これは、違うの……」
「うんん……ごめん、ベッドで、ね……」
うわ言こそベッドでね! この状況は完全に誤解されますので! 吐いた言葉は戻せません、私が弁解しないと!
わぁ、アーサーくん、顔真っ青だ。やってしまった……みたいな顔してる。気遣わせてごめんね。いや待ってなにに気遣ってるつもりなのこの子?
アーサーくんはふいと目を逸らす。待って違うのそうじゃない。
「……えっと、すまない。ベッド……そう、だな。ベッドでなければ、いけない、な……すまない……邪魔をしたな……その、本当に、すまない……」
「ちがっ、違う! 違うからああああああ!」
「ぐう……」
完全に誤解してる。私の悲痛な叫びの中に、アレンくんのいびきが混じった。うーん、これはまずいですね。案の定、私の声が引き金になったか、次々と姿を見せる私のアイドル。
……これ、先行き大丈夫? いろんな意味で……。
緊張の挨拶から一夜明け、あくびを漏らす。隣にはアミィがいた。いまも呑気に寝息を立てている。もう少し寝かせてあげよう。事務所に誰かいるかな、イアンさんはもう起きてそう。
部屋を出て、廊下を歩く。窓の外から見下ろす街は賑わっている。私のアイドルがデビューを果たしたら、もっと賑やかになるんだろうか。なったらいいな。
事務所の扉を開くと、案の定。イアンさんが机に向かっていた。ペンを指先で回している、表情は険しい。
「おはようございます」
「おう、早起きだな」
「イアンさんもですけどね。ところで、なにか書いてたんですか?」
「あー……まあなんだ、ちょっと頼まれてよ……」
言い淀むイアンさん。なんだ、言いにくいことなの……? まさか、陛下から契約書でも書かされてるのか? 社会人の先輩として内容を確認しておきたいものだけど……。
怪訝な眼差しを向けてしまったからか、イアンさんは慌てたように書類を隠した。怪しい……。
「……いったいなにを書いていたんです?」
「ああいや、なんでもねぇ。大したもんじゃねぇからよ」
「隠し事するんですか、私に? 他でもないこの私に?」
この人は“リオ”に弱い。圧をかければ倒れるはずだ。ずるい女だなぁ、私。
ほら見ろ、イアンさんは露骨にうろたえている。申し訳ないけど、私に黙ってなにかしようって言うならこっちにだって考えはあるんですよ。女は強かな生き物なんです。
観念したか、彼は恐る恐る隠した書類を提示する。あんまりこういうことしたくなかったけど……いったいなにを書いていたんだろう。目を通すと、文章……のように見えるけど、違う。これ、歌詞?
「これ、どういうことですか……?」
「あー……お前が来るちょっと前、ふらふらのアレンが俺の部屋に来てよ。『試しに、歌詞、書いてみてください……』って……死にそうな顔してたから……」
「死にそうな顔って……なんでそんな彼をみすみす帰したんですかお馬鹿!」
罵声を浴びせて一目散、向かう先はアレンくんの部屋。もしかして徹夜したの!? そんなに難航したの!? 気負い過ぎだよ! 真面目だね! 文化開発庁はクリーンな職場にするからね!
アレンくんの部屋を激しくノックする。まさか死んでたりしないよね!?
「生きてる!? アレンくん、私! リオ! 生きてる!?」
返事がない。……返事が、ない……ええいままよ!
「アレンくん、入るね! 生きてる!?」
鍵がかかっているかどうかなんて関係ない、全力で引っ張ればきっと開く。火事場の馬鹿力、ここで発揮できるは、ず……あれ、鍵、開いてる……。
「え……あ、アレンくん……?」
「うんん……? あ、え? リオ? どうしたの……?」
「いやそれこっちの台詞……これ、どうしたの……?」
机に向かうアレンくんは本当に生気が感じられなかった。心配にはなったけど、それ以上に目を引いたのは床に散らばる紙、紙、紙……。
真っ黒になるほど文字が敷き詰められた紙は、一枚一枚が歌詞を綴ったもののようだった。絶句する私に、アレンくんはへにゃりと笑う。全然安心できない笑顔だ。
「歌詞……頑張ってみたけど、納得、いかなくてさ……」
「いやいやだからって徹夜する……?」
そうは言うけど、私もエリオットくんの件で三徹したっけ。人のこと言えなかった。アレンくんはふらりと立ち上がり、よろけながら歩み寄ってくる。怖い、ゾンビみたい。
「ごめん、オレ、期待、応えられなさそう……」
「へ? だ、大丈ひょえええっ!?」
足がもつれたか、私に向かって倒れてきた。避けるわけにもいかず、なんとか抱き留める。うわ、若い男の子の体、結構しっかりしてる……じゃなくて!
「アアア、アレンくん、ベッド、ベッドに行こうね? これ、結構まずい……!」
「朝から大きい声がしたがリオか? いったいなに、が……」
背後から聞こえてきたのは凛々しいお声。アーサーくんだ。最悪な場面に居合わせてしまったね、でもギルさんよりマシか……。
なにはともあれ誤解を解かねば話にならない。いろんな事情で鼓動が速い。いまの私、BPM相当上がってる気がする。
「ア、アア、アーサーくん? 違うの、これは、違うの……」
「うんん……ごめん、ベッドで、ね……」
うわ言こそベッドでね! この状況は完全に誤解されますので! 吐いた言葉は戻せません、私が弁解しないと!
わぁ、アーサーくん、顔真っ青だ。やってしまった……みたいな顔してる。気遣わせてごめんね。いや待ってなにに気遣ってるつもりなのこの子?
アーサーくんはふいと目を逸らす。待って違うのそうじゃない。
「……えっと、すまない。ベッド……そう、だな。ベッドでなければ、いけない、な……すまない……邪魔をしたな……その、本当に、すまない……」
「ちがっ、違う! 違うからああああああ!」
「ぐう……」
完全に誤解してる。私の悲痛な叫びの中に、アレンくんのいびきが混じった。うーん、これはまずいですね。案の定、私の声が引き金になったか、次々と姿を見せる私のアイドル。
……これ、先行き大丈夫? いろんな意味で……。
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