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第六章:役割
83:打ち合わせ
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正午を過ぎたミカエリアは賑わいを見せている。隣を歩くオルフェさんを一瞥すれば、視線に気付いたようだった。流し目が似合うな、この色男……。
辺りに 視線を巡らせてもスーツ姿の人物を見かけない。もしかすると、この世界にオフィスワークは存在していないのかもしれない。だとしたら、最もありふれた仕事ってなんなんだろう?
「オルフェさん、ミカエリアの労働者についてご存知ですか?」
「うん? そうだね、ここは……というより、帝国は“叡煙機関”という独自の技術で発展した国だから。それを用いた商工業が盛んだね」
ここに来て初めて聞く単語だ。叡煙機関……どんな技術なんだろう? 知らない方が不自然か、でも、オルフェさんなら深くは探らずにいてくれるかな?
「もしかして、エンノイドも叡煙機関?」
「そうだね。エンノイドに限らず、魔力を含ませた煙を纏い、役割を持った無機物のことを総じて叡煙機関と呼ぶんだ。リオは旅人だったみたいだけど、帝国には来たことがなかったのかな?」
「はぇ、あはは……ここに骨を埋めるつもりだったので、最後に来ようって思ってたので……」
事実、文化開発庁長官補佐なんて大役を任せられたんだ。成り行きとはいえ、この国に骨を埋めることになるのは間違いないと思う。十割の嘘ではない。
でも、疑問は増える。煙に魔力を含ませるって、人間だけでできるものなのかな?
「魔力を含ませるって、エルフ以外にもできるんですか?」
「ふふ、そんな当たり前のことも僕に喋らせてくれるのかい? きみと歩く時間は退屈しない、沈黙も心地良いよ?」
「あ、はは……バレちゃいました?」
説明させるのは不自然だったか。これは後で調べた方がいいのかも。と思った矢先、オルフェさんが語り出した。
「この世界で魔力を有しているのは魔物かエルフくらいのものさ。叡煙機関の生産にはエルフも携わっているんだ。里を離れたエルフがね」
そうか、オルフェさんはエルフの里を追われて吟遊詩人をやっていたんだ。ミランダさんが言ってたっけ。
ってことは、その人たちも里を追われたのかな? それとも、自分から外に出て行ったのかな? エルフは排他的な印象があるけど……私の疑問を察知しているのか、穏やかに笑うオルフェさん。
「叡煙機関の職人は、三代前の皇帝陛下から要請があって駆り出されたんだ。職人気質の彼らを説き伏せるのに随分時間を要したみたいだけど、その根気強さがいまの帝国を築き上げたのさ」
職人気質……エルフの職人さんってどんな人なんだろう? 叡煙機関を作ったのなら、CDみたいに音声ファイルを記録する装置も作ってくれたりしないかな……説得できる気がしないけど……。
そんな話をしているうちに、稽古場に辿り着く。相変わらず顔パスに慣れないけど、これからのことを考えればいちいち取り次いでもらう手間が省けたと捉えるべき?
「いまの時間、ミランダは休憩中かな? あまり時間を取らせるのも悪い、打ち合わせはスムーズにいこう」
「は、はい……私、大丈夫かなぁ……」
「心配要らないよ、僕がフォローする。彼女、いま気が立っているからね」
頼もしい……と素直に思うけど、相手はミランダさんだ。オルフェさんの顔面でどうにかなる人じゃない。気が立っているなら猶更だ、火に油を注ぎそう。
うう、やっぱり私が頑張るときか……覚悟を決めろ、異世界は修羅の国だ。
オルフェさんに連れてこられたのは楽屋だった。扉を叩き、中を覗く。そこそこ広い。一面に鏡が張られており、ここで最後の調整なんかをするのかな、なんて思う。
「ミランダ、いるかい?」
「あ? ああ、あんたらか。打ち合わせか?」
「は、はい。休憩中なのにすみません……」
「いや、いい。座りな、さくっと済ませようや」
彼女に従い、対面に座る。さくっと……済ませられるかな? 緊張感が喉に詰まる。
「で、最初に確認なんだが。あいつらの中にダンスの経験者はいるのか?」
「あ……それは……」
「未経験が多いはずだよ。適性がありそうな子はいるけど」
オルフェさんが助け舟を出してくれる。緊張しすぎているみたいだ。パッと答えられるような内容なのに。
ミランダさんは「だよな」と頭を掻いた。短期間で素人を叩き上げろ、なんて無理難題ですよね。ご迷惑おかけしております。
「となると、振り付けは先になるな。踊るための体作りが先決か」
「加えて、踊りながら歌うための体幹も鍛えないといけないね。一丁前に踊れても、歌がぶれたら魅力的には見えないし」
「はー……本当、難しい仕事押し付けやがて。もう一発殴っていいか?」
「ふふ、顔以外なら幾らでも。それで済むなら安いものさ」
あ、やっぱり顔が自分の得物だってわかってるんだこの人。ミランダさんを見れば、指を鳴らしている……すごく強そうな音だ。表情も、殺してやる、って感じがする。咄嗟にオルフェさんを庇うように手を伸ばした。
「あ、あの! 彼はうちのアイドルですので、お手柔らかに……!」
「安心しな、殺したりしねぇよ」
「そそそ、そういう問題ではなくてですね……!?」
「リオ、これは僕のけじめみたいなものだから大丈夫」
ふっと微笑むオルフェさん。優しい顔をしていますね、これから殴られるとは思えない。病むなく引き下がると、ミランダさんの拳がオルフェさんの肩に沈んだ。
うわ、そんな顔できるんだ。痛みに耐えながら、それでも平静を装っているせいで面白い顔になっている……いや、笑うところじゃないですね。私のせいで殴られているようなものだし。
気が晴れたのか、どこか清々しい顔のミランダさん。美しい顔。さっき見た殺意剥き出しの顔は幻覚だったのかな? そう思いたい。
「んじゃ、稽古は明日からでいいな? 自分の時間は極力削りたくない。だから時間はこっちで指定させてくれ」
「あ、は、はい……そちらのご都合に合わせます」
「じゃあ、明日の――」
辺りに 視線を巡らせてもスーツ姿の人物を見かけない。もしかすると、この世界にオフィスワークは存在していないのかもしれない。だとしたら、最もありふれた仕事ってなんなんだろう?
「オルフェさん、ミカエリアの労働者についてご存知ですか?」
「うん? そうだね、ここは……というより、帝国は“叡煙機関”という独自の技術で発展した国だから。それを用いた商工業が盛んだね」
ここに来て初めて聞く単語だ。叡煙機関……どんな技術なんだろう? 知らない方が不自然か、でも、オルフェさんなら深くは探らずにいてくれるかな?
「もしかして、エンノイドも叡煙機関?」
「そうだね。エンノイドに限らず、魔力を含ませた煙を纏い、役割を持った無機物のことを総じて叡煙機関と呼ぶんだ。リオは旅人だったみたいだけど、帝国には来たことがなかったのかな?」
「はぇ、あはは……ここに骨を埋めるつもりだったので、最後に来ようって思ってたので……」
事実、文化開発庁長官補佐なんて大役を任せられたんだ。成り行きとはいえ、この国に骨を埋めることになるのは間違いないと思う。十割の嘘ではない。
でも、疑問は増える。煙に魔力を含ませるって、人間だけでできるものなのかな?
「魔力を含ませるって、エルフ以外にもできるんですか?」
「ふふ、そんな当たり前のことも僕に喋らせてくれるのかい? きみと歩く時間は退屈しない、沈黙も心地良いよ?」
「あ、はは……バレちゃいました?」
説明させるのは不自然だったか。これは後で調べた方がいいのかも。と思った矢先、オルフェさんが語り出した。
「この世界で魔力を有しているのは魔物かエルフくらいのものさ。叡煙機関の生産にはエルフも携わっているんだ。里を離れたエルフがね」
そうか、オルフェさんはエルフの里を追われて吟遊詩人をやっていたんだ。ミランダさんが言ってたっけ。
ってことは、その人たちも里を追われたのかな? それとも、自分から外に出て行ったのかな? エルフは排他的な印象があるけど……私の疑問を察知しているのか、穏やかに笑うオルフェさん。
「叡煙機関の職人は、三代前の皇帝陛下から要請があって駆り出されたんだ。職人気質の彼らを説き伏せるのに随分時間を要したみたいだけど、その根気強さがいまの帝国を築き上げたのさ」
職人気質……エルフの職人さんってどんな人なんだろう? 叡煙機関を作ったのなら、CDみたいに音声ファイルを記録する装置も作ってくれたりしないかな……説得できる気がしないけど……。
そんな話をしているうちに、稽古場に辿り着く。相変わらず顔パスに慣れないけど、これからのことを考えればいちいち取り次いでもらう手間が省けたと捉えるべき?
「いまの時間、ミランダは休憩中かな? あまり時間を取らせるのも悪い、打ち合わせはスムーズにいこう」
「は、はい……私、大丈夫かなぁ……」
「心配要らないよ、僕がフォローする。彼女、いま気が立っているからね」
頼もしい……と素直に思うけど、相手はミランダさんだ。オルフェさんの顔面でどうにかなる人じゃない。気が立っているなら猶更だ、火に油を注ぎそう。
うう、やっぱり私が頑張るときか……覚悟を決めろ、異世界は修羅の国だ。
オルフェさんに連れてこられたのは楽屋だった。扉を叩き、中を覗く。そこそこ広い。一面に鏡が張られており、ここで最後の調整なんかをするのかな、なんて思う。
「ミランダ、いるかい?」
「あ? ああ、あんたらか。打ち合わせか?」
「は、はい。休憩中なのにすみません……」
「いや、いい。座りな、さくっと済ませようや」
彼女に従い、対面に座る。さくっと……済ませられるかな? 緊張感が喉に詰まる。
「で、最初に確認なんだが。あいつらの中にダンスの経験者はいるのか?」
「あ……それは……」
「未経験が多いはずだよ。適性がありそうな子はいるけど」
オルフェさんが助け舟を出してくれる。緊張しすぎているみたいだ。パッと答えられるような内容なのに。
ミランダさんは「だよな」と頭を掻いた。短期間で素人を叩き上げろ、なんて無理難題ですよね。ご迷惑おかけしております。
「となると、振り付けは先になるな。踊るための体作りが先決か」
「加えて、踊りながら歌うための体幹も鍛えないといけないね。一丁前に踊れても、歌がぶれたら魅力的には見えないし」
「はー……本当、難しい仕事押し付けやがて。もう一発殴っていいか?」
「ふふ、顔以外なら幾らでも。それで済むなら安いものさ」
あ、やっぱり顔が自分の得物だってわかってるんだこの人。ミランダさんを見れば、指を鳴らしている……すごく強そうな音だ。表情も、殺してやる、って感じがする。咄嗟にオルフェさんを庇うように手を伸ばした。
「あ、あの! 彼はうちのアイドルですので、お手柔らかに……!」
「安心しな、殺したりしねぇよ」
「そそそ、そういう問題ではなくてですね……!?」
「リオ、これは僕のけじめみたいなものだから大丈夫」
ふっと微笑むオルフェさん。優しい顔をしていますね、これから殴られるとは思えない。病むなく引き下がると、ミランダさんの拳がオルフェさんの肩に沈んだ。
うわ、そんな顔できるんだ。痛みに耐えながら、それでも平静を装っているせいで面白い顔になっている……いや、笑うところじゃないですね。私のせいで殴られているようなものだし。
気が晴れたのか、どこか清々しい顔のミランダさん。美しい顔。さっき見た殺意剥き出しの顔は幻覚だったのかな? そう思いたい。
「んじゃ、稽古は明日からでいいな? 自分の時間は極力削りたくない。だから時間はこっちで指定させてくれ」
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