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第88話 提灯

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 太陽の光が差し込まない洞穴の中は、当然のことながら真っ暗闇になっており、仙花が十歩と進まぬうちに前方は全く見えなくなった。

「お銀が咄嗟に渡してくれた提灯に火を着けねばな...まったくあやつは気が効くもんじゃのう...」

 洞穴内に松明の一つでも有れば随分と違ったであろうけれど、四六時中管理する者でもいなければ設置されているわけもなく、仙花は歩みを止め、手に持った提灯を地面に置き、中にあるロウソクに火打ち石で火を着けた。

「おぉ、か細く小さいとははいえ、暗闇での提灯の灯りはありがたいものだな」

 仙花は独り言を呟きつつ、止めた歩みを再び前へ慎重に進め始めた。

 向こう見ずな部分を持ち合わす彼女の性格からすれば、慎重に歩みを進めるという動作は耐え難いところではあったが、状況が状況故に慎重にならざるを得ない。

 事前の情報が全くない上に、数メートル先は何も見えないのだから仕方のないことである。

 仙花が狭い通路を百歩ほど進めたところでやや広い部屋のような場所へとたどり着いた。

 と、人はおろか小動物の姿すら無いこの場所で、彼女の耳に突如として人の言葉で声が届く。

「こりゃぁたまげたぞ。この洞穴に足を踏み入れる人間がまだ存在するとはなぁ...」

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