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第103話 霧中

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「どのような試練でも受けて立つわい」

 いよいよ最後の試練とあってか、仙花が今まで見せなかった意気込みを表情に現す。

「その意気や良し。じゃぁこいつを両の眼でジッと見つめるんだ...」

 天心が仙花との距離をグッと縮め、懐からさり気なく取り出した菱形のガラス細工指で摘み、彼女の目前にそっと突き出した。

「これを集中してジッと、じゃな...」

「そうだ...」

 仙花は言われた通り両の眼を「カッ!」と見開き、キラキラと輝くガラス細工に視線を集中させる。

 そして、1分ほどの時間が経過しようとしたその時。

「パッパリン!」

 天心がガラス細工を軽く中に放り投げ、目の前に落下してきた瞬間を狙い猫騙しでもするかのように両手を合わせ、綺麗だったガラス細工を粉々に砕いた。

 すると、直後に仙花が白目をむいて目を閉じ、意識を完全に失ったのか後ろへ「グラッ」と揺れて倒れる。

 そのまま地面へ後頭部をぶつけようかというところで、天心の腕に救われ、ゆっくりと地面に横たわる形となった。

「童、否、仙花よ。お主のような若い年齢の者にはちょっとばかりきつい試練かも知れないが、なんとか乗り切って見せよ。精神仙術『悲壮霧中(ひそうむちゅう)』」

 天心は右手の人差し指と中指をくっつけ、その指先を彼女の額に当てて仙術を放ったのだった。



 
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