上 下
107 / 236

第106話 愛情

しおりを挟む
 果たして幾らかの時間は経過したのだろうか?
 仙花は夢の中で眠りついたのち、夢の中で目を覚ます...

「いただきま~す」

 眠りにつく前は母の温かい腕に包まれていたはずだけれど、突如として母と食卓を挟む場面へと移り行き、と同時に己の姿が赤ん坊だった頃から幼少の頃に変化したことに気付く...
 
 これは単なる夢なのか、それとも失っていた過去の記憶が蘇ってでもいるのか、確信が持てぬまま仙花は母との食事を楽しんでいた。

 母の顔は赤ん坊だった場面よりも目と鼻が認識できるようになってはいたが、微かに尚白い靄(もや)がかかっていてハッキリと見えるわけではない...

 それでも現状で己の母が美人で優しい顔をしているのは見て取れていた...

「仙花、た~んと食べて大きくなりなさいねぇ」

 仙花は母の柔らく愛情ある笑みを眺めるだけで幸せな気持ちになっていた...

「うん!仙花は早く大人になって母上のお手伝いをいっぱいい~っぱいするんだぁ♪」
 
「嬉しいことを言ってくれるわねぇ。でも仙花、子供でいられるのは一生に一度だけなのだから焦らなくていいの」

「うん!分かったぁ!焦らずに母上のお手伝いするねぇ♪」

 既に「これは夢だ」と認識していた仙花ではあったが、母との些細なやり取りをしているだけで自然と嬉しさが込み上げていた...
しおりを挟む

処理中です...