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第108話 確信

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 幼い仙花はそんな母の手伝いになればと、母と少しだけ距離を取り畑の草むしりをしていた...

 健気な我が子の姿を見た母は、額の汗を手拭いで拭きつつ声をかける...

「仙花ぁ、あんまり無理はしなくて良いからねぇ」

「これくらい平気だよぉ」

 幼い仙花が呼びかけに応え、母の嬉しそうな顔を見ていると、突如として母の表情が一変したことに気付く...

 まるで山道を歩いていて大きな熊にでも遭遇したかのように...

「母上?」

 母の表情を一変させた何者かが、幼い仙花の頭上を高々と超えて母の前に立ちはだかる...

 夢の当事者である仙花はその何者かの後ろ姿にどことなく見覚えがあった。

「はて?誰だっけ?」

 幼い仙花の口から十六歳の仙花の言葉が漏れる...

「こ、こんなところまで...」

 もはや青ざめた表情の母は明らかに怯えた声で呟いた...

「ようやく探し当てたぞ○○○。○○○のお陰で上手く逃げられたと思ったら大間違いだ。此処で潔く斬られて○○○の元へ行くがいい」

 見覚えのある何者かは後ろ姿でも女だと分かってはいたが、仙花は声を聞いて確信したものである。「この者は儂の知る人物だ」と...

「このようなことを言える立場で無いことは重々承知の上で申し上げます。どうか!どうか!見逃してくださいませ!」

 母は手にしていた鍬を放り投げ、畑の土に額を擦り付け土下座して必死に命乞いをしていた...
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