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第150話 人形

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 こうして、緒方家の大晦日の晩餐は今年一番のものとなり、皆が「美味い、美味い」を連発し大いに楽しんだものであった。

 食事が終わり、トキが風呂敷に包まれていた新しい着物を子供達に見せる。

「ほら、これが町で仕入れた椿と梵の着物だよ。おっとうとおっかあに着て見せておくれ」

 手渡された着物は安物の古着ではなく、新品で冬をなんとか越せるほどの厚みがあり、庶民が身に着けるにはなかなか上等な物であった。

 これは清兵とトキが持ち運んだ穀物や野菜の売上が予想以上に上がったため奮発したものであったが、子供達は新品の着物を前にしてぴょんぴょんと飛び上がって喜び、早速両親に着せてお披露目したものである。

「おっとう!おっかあ!着心地が良くて立派な着物をありがとう!」

「おとうおかぁありがと」

 たいそう喜び満面の笑みを浮かべて礼を言う椿と、辿々しいが嬉しそうな表情を見せる梵であった。

 子供達の喜びように満足そうな表情の清兵とトキ。

 そこで清兵が背後に隠していた女の人形を掴み椿へ差し出す。

「椿、今までおめぇには人形の一つも買ってやれなんだが、今日は運良くとびききりの人形が手に入った。こいつをおめぇにくれてやるから大事にせぇよ」

 椿は差し出された人形を手にし、着物を貰った時よりもずっと喜んだったのだった。
 
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