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第3話 芥藻屑との戦 ノ80
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このあと紗夜は足早にその場を去り、結局のところ会話を交わしたのはそれだけである。
けれども正体不明の病を患い、一生分の辛い想いを経験した少年にとって、極めて幸福かつ十分過ぎる出来事であった。
彼女のたった一言でどれだけ絶望から救われ希望を持てたことか...
その晩、少年は久しく静寂な水面の如く心穏やかにぐっすりと眠ることが出来た。
次の日、想像を絶する苦しみを味わうことになろうとは夢にも想わずに...
源蔵少年は満足のいく快眠によって新しい朝を清々しい気持ちで迎えた。
今日もまた今までと同じように紗夜が食事を運んで来てくれるだろう。その際にはもう少し会話を続けられるよう努力せねば。などと考えていると心に高揚感が湧き、不思議と身体も軽くなった気にさえなっていた。
上手くいけば、小夜が訪れるまでに立ち上がれるところを見せてやれるのではないかと練習したほどである。
秋の涼しき午前中だというのに、彼は身体に鞭打ち汗だくになって直立できるよう努力した。そして遂に...
「た、てた...」
脚はガクガクと小刻みに震え、生まれたての子鹿を想像させる危なげな姿であったけれど、少年は確かに人の基本的動作の一つを取り戻したのである。
だが喜んだの束の間、気が緩んで平衡感覚が崩れてしまい直ぐに座り込んでしまった。
「ハ、ハ、ハハ...」
少年は掠れる声で笑う。兎にも角にも完全回復への第一歩を踏み出せた己を褒めたい気分でいっぱいだったのである。
達成感のあった練習を終えた少年は、身体を休ませるため布団に寝転がり紗夜が訪れるのを待った。
暫くして少年がウトウトとし出した頃、外から人の歩いて来る音が微かに聴こえた。
少年は当然紗夜が食事を運んで訪れてくれたのであろうと思い、彼女と会話を交わすため小窓に這いつくばって近づく。
そして小窓が開くのをジッと見つめたまま待った。
だがいつもであれば小窓が開き食事が運ばれる頃合いなのになかなか開かない。
徐々に焦燥感を抱き、「何かがおかしい...」と思い始めたその時、小屋入り口の戸を開錠する音が聴こえた。
少年が訝しげな目で戸の方を眺めていると、木製の引戸が不気味にゆるりと動いて開き、小屋の中へ浪人風の見知らぬ男が無言で入って来た。
男は少年と目が合い、一瞬眉間に皺を寄せたあとズカズカと近づき彼に手鏡を突きつける。
「急だがお主に話さなければならぬことがある。まずはその手鏡で己の顔の有様を確かめるがいい」
「?...」
少年は戸惑いながらも手鏡を受け取り、男に言われるがまま己の顔を手鏡に映して確かめた。
けれども正体不明の病を患い、一生分の辛い想いを経験した少年にとって、極めて幸福かつ十分過ぎる出来事であった。
彼女のたった一言でどれだけ絶望から救われ希望を持てたことか...
その晩、少年は久しく静寂な水面の如く心穏やかにぐっすりと眠ることが出来た。
次の日、想像を絶する苦しみを味わうことになろうとは夢にも想わずに...
源蔵少年は満足のいく快眠によって新しい朝を清々しい気持ちで迎えた。
今日もまた今までと同じように紗夜が食事を運んで来てくれるだろう。その際にはもう少し会話を続けられるよう努力せねば。などと考えていると心に高揚感が湧き、不思議と身体も軽くなった気にさえなっていた。
上手くいけば、小夜が訪れるまでに立ち上がれるところを見せてやれるのではないかと練習したほどである。
秋の涼しき午前中だというのに、彼は身体に鞭打ち汗だくになって直立できるよう努力した。そして遂に...
「た、てた...」
脚はガクガクと小刻みに震え、生まれたての子鹿を想像させる危なげな姿であったけれど、少年は確かに人の基本的動作の一つを取り戻したのである。
だが喜んだの束の間、気が緩んで平衡感覚が崩れてしまい直ぐに座り込んでしまった。
「ハ、ハ、ハハ...」
少年は掠れる声で笑う。兎にも角にも完全回復への第一歩を踏み出せた己を褒めたい気分でいっぱいだったのである。
達成感のあった練習を終えた少年は、身体を休ませるため布団に寝転がり紗夜が訪れるのを待った。
暫くして少年がウトウトとし出した頃、外から人の歩いて来る音が微かに聴こえた。
少年は当然紗夜が食事を運んで訪れてくれたのであろうと思い、彼女と会話を交わすため小窓に這いつくばって近づく。
そして小窓が開くのをジッと見つめたまま待った。
だがいつもであれば小窓が開き食事が運ばれる頃合いなのになかなか開かない。
徐々に焦燥感を抱き、「何かがおかしい...」と思い始めたその時、小屋入り口の戸を開錠する音が聴こえた。
少年が訝しげな目で戸の方を眺めていると、木製の引戸が不気味にゆるりと動いて開き、小屋の中へ浪人風の見知らぬ男が無言で入って来た。
男は少年と目が合い、一瞬眉間に皺を寄せたあとズカズカと近づき彼に手鏡を突きつける。
「急だがお主に話さなければならぬことがある。まずはその手鏡で己の顔の有様を確かめるがいい」
「?...」
少年は戸惑いながらも手鏡を受け取り、男に言われるがまま己の顔を手鏡に映して確かめた。
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