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妖怪の棲む町

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「では!私のペットにして雷獣のライチがなぜ動物園の檻の中に居たのかを説明しましょう!」

 右手の人差し指を自分の顔の前に突き出し、僕の目と鼻の先で話し出すキムラ。

「キムラ、もうちょっと離れて喋ってくれないか」

「おっと、これは失礼しました。天馬の言っていた[親近感]を出すために近づいたのですが、お気に召さなかったようですね」

 相手によっては有効なのかも知れないが、男のドアップなど僕にとっては迷惑でしかない。

「そんなの良いから早く説明してくれよ!」

 横から言ったタマはかなりイライラしているようである。

「ふむ、このご様子だと私があなた方を試すために仕組んだことなのです!と言ってしまった場合はっ!?...痛いですよタマ」

 話し終える前にキムラの腕にはタマがガブリと噛みついていた。

「で、何の目的があって僕たちを試したりしたんだ?」

「...天馬、その前にタマをどうにかしてくれませんか?血が出るほど噛まれて痛いのですよ」

「タマ!お座り!」

 僕が言うとキムラの腕から離れたタマはいつものようにお座りポーズをとった。

「この町、福神町(ふくがみまち)には昔から妖怪にまつわる伝説が数多くあることは知っていますよね?」

「それは小さい頃から親から聞いたり、町を歩けば妖怪の銅像みたいなのがたくさんあるし知らない訳がないよ」

「ハッハッハッ、訊くのは野暮でしたね。そう、振り返ればこの町に最も多く妖怪が存在したのは江戸の時代でした。その頃は私もこの町に棲んでいたのです」

 どうやらこの白狐は本当に何百年も生きているらしい。

 悦に浸ったようにキムラが話しを続ける。

「江戸の時代が終わろうとした頃には、この町の妖怪の数はピーク時の半分以下になり、私も町を転々とする旅を始めました。まずは鳴犬町(なりいぬまち)を訪れ...」

「ちょっと待った!今、旅の話しを最初から最後まで話す流れに持って行こうとしてただろ。脱線せずに要点だけを話してくれないか?」

 僕がそう言うとキムラが少しへこんだように見えたけれど、今はそんな話しを聞く気にはなれなかった。

「ではズバリ言います!徐々にではあるのですがこの福神町には江戸の時代の頃、否、それ以上に妖怪が集まろうとしているのです!この日本には善と悪の妖怪が多数存在しますが、特に今回は悪の強力な妖怪たちがやがてやって来ることでしょう!だから私は善の心を持つ妖怪を集めてそれを迎え討とうとしているのです!これがあなた方を動物園で試させていただいた理由なのですよ!」

 長いし納得いかないしやっぱりうるさいイムラであった。
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