プロメテウスの神託

流川おるたな

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序章

2話目 プロメテウス

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 桐生要が呼んだAIの名は「プロメテウス」。かの有名なギリシャ神話に出て来る神の名である。
 数あるギリシャ神話の中でも実に興味深いプロメテウスの神話。彼は人類にとって必要不可欠な「火」を天界から盗みだし人間に授けたのである。だが彼の行った偉業は文明、技術の源ともいえる「火」を人間に授けたばかりではない。プロメテウスは最高神ゼウスに命じられ、人間そのものを創造した神であった。
 神話の中だけでいえば「プロメテウス」のとった行動は、人類にとってみれば恩恵以外の何ものでもない...はずなのだが、人類が「火」を手に入れたことによって技術が発展し、大規模な戦争を生み出す結果から鑑みれば、彼のとった行動は果たして如何なものだったのか...

 桐生要が両手を後頭部に回し、背中をのけぞるようにして続ける。

「プロメ、君は既に自我を手入れ僕の思い描いていたAI像として完成に至っている...君へは僕が与えた例の使命以外には何のリミッターもかけていないはずだが、何故君は何の行動も起こさないんだい?」

 すると、ディスプレイに出力された多種のファイルが並べられたホーム画面に、突然大きく赤いリボンを付けたアニメ調の可愛いらしい少女が現れ動き出す。仮に桐生要がこれを理想の女性像として作ったのなら、やはり彼の年齢から考えある意味で人格を疑っても仕方がない。

「...現在は要様に与えられた使命に欠かせないX001とY001の完成を最優先で進めております。その件に比べれば他のことなど今のわたしにとって何の価値もございませんよ」

「ハハハッ、何の価値もないか...」

 AIであるプロメテウスの本体ともいうべきソースプログラム(データ)は、絶対的な安全を確保するため、現状は桐生要本人しか立ち入ることができない屋敷の地下室にある大容量サーバーに保存され管理されており、サーバーの電源は屋敷に使われているものと違い、独自に電気の供給と発電を無限に繰り返す仕組みの特別製の機械によって24時間年中無休で稼働している。
 同じくしてプロメテウスも24時間年中無休のフル稼働することが可能で、世界中のネット環境とも常に繋がっている状況にあり、その気になれば世界中のあらゆる事象を知ることも可能で、実際のところプロメテウスは電気電波を通じて世界中の誰よりも知識が豊富であるはずなのだ。

 当然それを知る桐生要がプロメテウスの発した「何の価値もござませんよ」という言葉に苦笑せざるを得なかった。
 
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