刀姫 in 世直し道中ひざくりげ 仙女覚醒編

流川おるたな

文字の大きさ
1 / 113

ノ1 天から降る物は

しおりを挟む
 水戸黄門こと徳川光圀の住まう西山御殿より始まった仙花一行の旅路は、初日にして下総国のとある村に早々と到達し、下総国一の大悪党「芥藻屑(あくたくず)」との戦を経たのち、順調とは云い難くも時には悪党を撃退して人助けをしつつ武蔵、信濃、飛騨などの国々渡り歩き、今や当面の目的地である出雲国の隣に位置する伯耆国(ほうきのくに)の海岸沿いを進む。

 春の気候は旅をするには持ってこいであり、仙花一行は波と太陽の陽射しによって煌めく海を眺めながら歩いていた。

 一行の先頭には仙花とくノ一のお銀が肩を並べ、次に一行の荷物を一手に引き受ける蓮左衛門、そのすぐ後ろには薬師のうっかり者九兵衛、最後尾の殿を務めるは相も変わらず寝ながら歩く居眠り侍こと雪舟丸といった具合である。

 伯耆国へ脚を踏み入れるまでに一ヶ月の時を要し、その間様々な苦境を協力して乗り越えて来た一行は互いのことを知り、より一層の信頼と結託を得られていた。

 と、先頭を歩く仙花が気持ち良さげな風で伸びをする。

 「う~む、今日も今日とて心地よい気候じゃのう。潮風も丁度良く吹いておる」

 彼女の喋りは歳相応と云うには遠く及ばない。この喋り方の原因は、五年以上一緒に暮らした光圀の喋り方を真似するうちに伝染していたのだった。

「左様にございますねぇ。波の音も微かに聴こえ、心も落ち着きすこぶる良い気分にございます」

 並んで歩くお銀が仙花に応じてさらに続ける。

「それはそうと仙花様。出雲国に関する情報が未だ乏しいようでございますけれど、手前が一時離れ情報収集して参りましょうか?得意分野にございますゆえ」

「...お銀、其方の申し出はありがたいし儂もそれは考えておった。じゃがの、ここ最近儂の中に不思議と何かが起こりそうな予感が燻っておるのじゃ...そうじゃのう、例えるなら『虫の知らせ』のようなもんゃな。といっても、悪い知らせでは無さそうじゃが...」

 仙花の話しを聞いたお銀が唇に人差し指を当て一考する。

「...もしやかも知れませぬけれどぉ、それは仙花様の仙骨や仙血が関係しているではないでしょうか、もちろん確証はございませんが...」

 くノ一のお銀は忍者という職業柄からか、あらゆる方面の知識が豊富である。不可思議な仙骨や仙骨についても僅かながら知識を得ていたのだった。

「うむ、其方もやはりそう思うか...しかしまぁ不可思議なこと深く考えてもあるまい...」

 心霊や神、果ては宇宙の理など、世の中には確信的情報をどうしても得られない事象が存在するのも事実であろう。

 と此処で、自身の倍以上はある荷物を背負った蓮左衛門が空に浮かぶ何かに気付く。

「皆の衆!上を見てくだされ!あれはいったい何でござろうか!?」

 蓮左衛門の急な呼びかけに仙花、お銀、九兵衛の三人が歩く脚を止め真上の空を見上げた。云わずもがな、居眠り侍の雪舟丸は脚を止めるも上を見ずに眠っている。

 晴れ晴れとした空にはほとんど雲も無く、正に蒼天と云って良い美しい空に、一つの物体がゆらゆらと揺らいでいるのが見える。

「大きな鳥、でやんすかねぇ?」

「...いや、あれは鳥の動きとはだいぶ違うでござる...」

 薬師の「うっかり」九兵衛が安易に鳥を想像したが、応えた蓮左衛門や女性二人は既に鳥の線を捨てていた。

「.....ゆっくりではあるが、どうやらあれは落ちて来ているようじゃのう...」

「確かに...色、形からしてもしや葉っぱ?にございましょうか...」

 視力に優れるお銀が「葉っぱ」と予測した「それ」は、高度が下がりハッキリと見えたところで誰もが緑の「葉っぱ」であると断定できた。

「此方へ降りて来おった。避けるぞ」

 異様な大きさの「葉っぱ」が、跳べば届きそうな距離まで近づいたところで仙花が呼びかけ、三人が黙して相槌を打ち、「葉っぱ」の着地地点になるであろう場所を空ける。

 予測した場所へゆるりと静かに落ちて来た「葉っぱ」は、人が寝そべっても余りある大きさであったけれど、外にはこれと云って不審な点は見受けられない。

 四人が目配せしながら不思議そうな面持ちで眺めていると。

「ガギィン!!!」

 金物と何か別の物質とがぶつかり合う音が突然響き渡った!

 耳をつん裂くような音に四人が反応して一斉に目を向ける。

「よもやこの退魔の剣、『天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)』ですら斬れぬ杖が在ろうとはな...」

 そこには、三種の神器の一つ「天叢雲剣」を抜き放ち、白銀の長い髪を靡かせた潔白の羽衣を纏う女と、剣と杖とをかち合わせ対峙する雪舟丸の姿があった。

 居眠り中だった雪舟丸の背後へ女が近づき、気配を察知した彼が瞬時に目を覚まし抜刀した次第である。
 
 因みに、退魔の剣「天叢雲剣」を雪舟丸が手に入れたのは此処最近のことであり、その過程はいずれまた別の機会に語るとしよう。

「曲者かっ!?」

 仙花の問い掛けに女が気付き、合わせる杖を退けバク転して雪舟丸から離れ口を開く。

「きゃはははは♪我を曲者呼ばわりしちゃうのね~。仙人予備軍ちゃん♪」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

寵愛の花嫁は毒を愛でる~いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります~

紅葉山参
恋愛
アエナは貧しい子爵家から、国の英雄と名高いルーカス公爵の元へと嫁いだ。彼との政略結婚は、彼の底なしの優しさと、情熱的な寵愛によって、アエナにとってかけがえのない幸福となった。しかし、その幸福を妬み、毎日のように粘着質ないじめを繰り返す者が一人、それは夫の継母であるユーカ夫人である。 「たかが子爵の娘が、公爵家の奥様面など」 ユーカ様はそう言って、私に次から次へと理不尽な嫌がらせを仕掛けてくる。大切な食器を隠したり、ルーカス様に嘘の告げ口をしたり、社交界で恥をかかせようとしたり。 だが、私は決して挫けない。愛する公爵様との穏やかな日々を守るため、そして何より、彼が大切な家族と信じているユーカ様を悲しませないためにも、私はこの毒を静かに受け流すことに決めたのだ。 誰も気づかないほど巧妙に、いじめを優雅にスルーするアエナ。公爵であるあなたに心配をかけまいと、彼女は今日も微笑みを絶やさない。しかし、毒は徐々に、確実に、その濃度を増していく。ついに義母は、アエナの命に関わるような、取り返しのつかない大罪に手を染めてしまう。 愛と策略、そして運命の結末。この溺愛系ヒロインが、華麗なるスルー術で、最愛の公爵様との未来を掴み取る、痛快でロマンティックな物語の幕開けです。

処理中です...