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ノ1 天から降る物は
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水戸黄門こと徳川光圀の住まう西山御殿より始まった仙花一行の旅路は、初日にして下総国のとある村に早々と到達し、下総国一の大悪党「芥藻屑(あくたくず)」との戦を経たのち、順調とは云い難くも時には悪党を撃退して人助けをしつつ武蔵、信濃、飛騨などの国々渡り歩き、今や当面の目的地である出雲国の隣に位置する伯耆国(ほうきのくに)の海岸沿いを進む。
春の気候は旅をするには持ってこいであり、仙花一行は波と太陽の陽射しによって煌めく海を眺めながら歩いていた。
一行の先頭には仙花とくノ一のお銀が肩を並べ、次に一行の荷物を一手に引き受ける蓮左衛門、そのすぐ後ろには薬師のうっかり者九兵衛、最後尾の殿を務めるは相も変わらず寝ながら歩く居眠り侍こと雪舟丸といった具合である。
伯耆国へ脚を踏み入れるまでに一ヶ月の時を要し、その間様々な苦境を協力して乗り越えて来た一行は互いのことを知り、より一層の信頼と結託を得られていた。
と、先頭を歩く仙花が気持ち良さげな風で伸びをする。
「う~む、今日も今日とて心地よい気候じゃのう。潮風も丁度良く吹いておる」
彼女の喋りは歳相応と云うには遠く及ばない。この喋り方の原因は、五年以上一緒に暮らした光圀の喋り方を真似するうちに伝染していたのだった。
「左様にございますねぇ。波の音も微かに聴こえ、心も落ち着きすこぶる良い気分にございます」
並んで歩くお銀が仙花に応じてさらに続ける。
「それはそうと仙花様。出雲国に関する情報が未だ乏しいようでございますけれど、手前が一時離れ情報収集して参りましょうか?得意分野にございますゆえ」
「...お銀、其方の申し出はありがたいし儂もそれは考えておった。じゃがの、ここ最近儂の中に不思議と何かが起こりそうな予感が燻っておるのじゃ...そうじゃのう、例えるなら『虫の知らせ』のようなもんゃな。といっても、悪い知らせでは無さそうじゃが...」
仙花の話しを聞いたお銀が唇に人差し指を当て一考する。
「...もしやかも知れませぬけれどぉ、それは仙花様の仙骨や仙血が関係しているではないでしょうか、もちろん確証はございませんが...」
くノ一のお銀は忍者という職業柄からか、あらゆる方面の知識が豊富である。不可思議な仙骨や仙骨についても僅かながら知識を得ていたのだった。
「うむ、其方もやはりそう思うか...しかしまぁ不可思議なこと深く考えてもあるまい...」
心霊や神、果ては宇宙の理など、世の中には確信的情報をどうしても得られない事象が存在するのも事実であろう。
と此処で、自身の倍以上はある荷物を背負った蓮左衛門が空に浮かぶ何かに気付く。
「皆の衆!上を見てくだされ!あれはいったい何でござろうか!?」
蓮左衛門の急な呼びかけに仙花、お銀、九兵衛の三人が歩く脚を止め真上の空を見上げた。云わずもがな、居眠り侍の雪舟丸は脚を止めるも上を見ずに眠っている。
晴れ晴れとした空にはほとんど雲も無く、正に蒼天と云って良い美しい空に、一つの物体がゆらゆらと揺らいでいるのが見える。
「大きな鳥、でやんすかねぇ?」
「...いや、あれは鳥の動きとはだいぶ違うでござる...」
薬師の「うっかり」九兵衛が安易に鳥を想像したが、応えた蓮左衛門や女性二人は既に鳥の線を捨てていた。
「.....ゆっくりではあるが、どうやらあれは落ちて来ているようじゃのう...」
「確かに...色、形からしてもしや葉っぱ?にございましょうか...」
視力に優れるお銀が「葉っぱ」と予測した「それ」は、高度が下がりハッキリと見えたところで誰もが緑の「葉っぱ」であると断定できた。
「此方へ降りて来おった。避けるぞ」
異様な大きさの「葉っぱ」が、跳べば届きそうな距離まで近づいたところで仙花が呼びかけ、三人が黙して相槌を打ち、「葉っぱ」の着地地点になるであろう場所を空ける。
予測した場所へゆるりと静かに落ちて来た「葉っぱ」は、人が寝そべっても余りある大きさであったけれど、外にはこれと云って不審な点は見受けられない。
四人が目配せしながら不思議そうな面持ちで眺めていると。
「ガギィン!!!」
金物と何か別の物質とがぶつかり合う音が突然響き渡った!
耳をつん裂くような音に四人が反応して一斉に目を向ける。
「よもやこの退魔の剣、『天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)』ですら斬れぬ杖が在ろうとはな...」
そこには、三種の神器の一つ「天叢雲剣」を抜き放ち、白銀の長い髪を靡かせた潔白の羽衣を纏う女と、剣と杖とをかち合わせ対峙する雪舟丸の姿があった。
居眠り中だった雪舟丸の背後へ女が近づき、気配を察知した彼が瞬時に目を覚まし抜刀した次第である。
因みに、退魔の剣「天叢雲剣」を雪舟丸が手に入れたのは此処最近のことであり、その過程はいずれまた別の機会に語るとしよう。
「曲者かっ!?」
仙花の問い掛けに女が気付き、合わせる杖を退けバク転して雪舟丸から離れ口を開く。
「きゃはははは♪我を曲者呼ばわりしちゃうのね~。仙人予備軍ちゃん♪」
春の気候は旅をするには持ってこいであり、仙花一行は波と太陽の陽射しによって煌めく海を眺めながら歩いていた。
一行の先頭には仙花とくノ一のお銀が肩を並べ、次に一行の荷物を一手に引き受ける蓮左衛門、そのすぐ後ろには薬師のうっかり者九兵衛、最後尾の殿を務めるは相も変わらず寝ながら歩く居眠り侍こと雪舟丸といった具合である。
伯耆国へ脚を踏み入れるまでに一ヶ月の時を要し、その間様々な苦境を協力して乗り越えて来た一行は互いのことを知り、より一層の信頼と結託を得られていた。
と、先頭を歩く仙花が気持ち良さげな風で伸びをする。
「う~む、今日も今日とて心地よい気候じゃのう。潮風も丁度良く吹いておる」
彼女の喋りは歳相応と云うには遠く及ばない。この喋り方の原因は、五年以上一緒に暮らした光圀の喋り方を真似するうちに伝染していたのだった。
「左様にございますねぇ。波の音も微かに聴こえ、心も落ち着きすこぶる良い気分にございます」
並んで歩くお銀が仙花に応じてさらに続ける。
「それはそうと仙花様。出雲国に関する情報が未だ乏しいようでございますけれど、手前が一時離れ情報収集して参りましょうか?得意分野にございますゆえ」
「...お銀、其方の申し出はありがたいし儂もそれは考えておった。じゃがの、ここ最近儂の中に不思議と何かが起こりそうな予感が燻っておるのじゃ...そうじゃのう、例えるなら『虫の知らせ』のようなもんゃな。といっても、悪い知らせでは無さそうじゃが...」
仙花の話しを聞いたお銀が唇に人差し指を当て一考する。
「...もしやかも知れませぬけれどぉ、それは仙花様の仙骨や仙血が関係しているではないでしょうか、もちろん確証はございませんが...」
くノ一のお銀は忍者という職業柄からか、あらゆる方面の知識が豊富である。不可思議な仙骨や仙骨についても僅かながら知識を得ていたのだった。
「うむ、其方もやはりそう思うか...しかしまぁ不可思議なこと深く考えてもあるまい...」
心霊や神、果ては宇宙の理など、世の中には確信的情報をどうしても得られない事象が存在するのも事実であろう。
と此処で、自身の倍以上はある荷物を背負った蓮左衛門が空に浮かぶ何かに気付く。
「皆の衆!上を見てくだされ!あれはいったい何でござろうか!?」
蓮左衛門の急な呼びかけに仙花、お銀、九兵衛の三人が歩く脚を止め真上の空を見上げた。云わずもがな、居眠り侍の雪舟丸は脚を止めるも上を見ずに眠っている。
晴れ晴れとした空にはほとんど雲も無く、正に蒼天と云って良い美しい空に、一つの物体がゆらゆらと揺らいでいるのが見える。
「大きな鳥、でやんすかねぇ?」
「...いや、あれは鳥の動きとはだいぶ違うでござる...」
薬師の「うっかり」九兵衛が安易に鳥を想像したが、応えた蓮左衛門や女性二人は既に鳥の線を捨てていた。
「.....ゆっくりではあるが、どうやらあれは落ちて来ているようじゃのう...」
「確かに...色、形からしてもしや葉っぱ?にございましょうか...」
視力に優れるお銀が「葉っぱ」と予測した「それ」は、高度が下がりハッキリと見えたところで誰もが緑の「葉っぱ」であると断定できた。
「此方へ降りて来おった。避けるぞ」
異様な大きさの「葉っぱ」が、跳べば届きそうな距離まで近づいたところで仙花が呼びかけ、三人が黙して相槌を打ち、「葉っぱ」の着地地点になるであろう場所を空ける。
予測した場所へゆるりと静かに落ちて来た「葉っぱ」は、人が寝そべっても余りある大きさであったけれど、外にはこれと云って不審な点は見受けられない。
四人が目配せしながら不思議そうな面持ちで眺めていると。
「ガギィン!!!」
金物と何か別の物質とがぶつかり合う音が突然響き渡った!
耳をつん裂くような音に四人が反応して一斉に目を向ける。
「よもやこの退魔の剣、『天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)』ですら斬れぬ杖が在ろうとはな...」
そこには、三種の神器の一つ「天叢雲剣」を抜き放ち、白銀の長い髪を靡かせた潔白の羽衣を纏う女と、剣と杖とをかち合わせ対峙する雪舟丸の姿があった。
居眠り中だった雪舟丸の背後へ女が近づき、気配を察知した彼が瞬時に目を覚まし抜刀した次第である。
因みに、退魔の剣「天叢雲剣」を雪舟丸が手に入れたのは此処最近のことであり、その過程はいずれまた別の機会に語るとしよう。
「曲者かっ!?」
仙花の問い掛けに女が気付き、合わせる杖を退けバク転して雪舟丸から離れ口を開く。
「きゃはははは♪我を曲者呼ばわりしちゃうのね~。仙人予備軍ちゃん♪」
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