刀姫 in 世直し道中ひざくりげ 仙女覚醒編

流川おるたな

文字の大きさ
12 / 113

ノ12 不気味

しおりを挟む
 外は降り注いだ地面がぬかるんではいたものの、先程まで続いていた嵐は過ぎ去り、しんとしたいつもの静けさを取り戻していた。

 だが空を見上げれば、未だ雨雲に覆われて月明かりもなく、普段よりも足下が覚束ないほど暗い空間が不気味さを醸し出す...

「まるで台風の過ぎ去った跡の静けさのようでやんすねぇ...」

「そうでござるなぁ...こういった夜には何か不可思議なことが起こり得る。さっさと済ませて寝るとしよう」

 二人は就寝前の用を足すため、揃って防風林の在る方へと歩いて向かった。

 嵐もおさまった静かで暗い防風林付近には、家の中の床に並んでいた三体の白骨死体を埋葬した場所が在る。

「ちょっと肌寒いでやんすねぇ」

「確かに...涼しいを通り越して冷えるでござるなぁ...」

 などと言いながら即席の墓の横を通り過ぎ、二人が草むらを的に用を足していると...

「........うう..」

「ん!?九兵衛、何か言ったでござるか?」

「いやぁ、蓮さんこそ...」

 微かに聴こえた声が双方のものだと思い声を掛け合ったが、相手の反応からしてどうやら違うことを知る。

「嵐が去って狐か狸でも出て来たでござるかな?」

「どうでやんすかねぇ...てっきり蓮さんの呻き声だと思ったんでやんすが...寒っ!身体冷え切る前にとっとと家に入りやしょう」

「そうでござるな...」

 用を終えた二人が身なりを整え、歩いて来た方をほぼ同時に振り返ると...

「のわっ!!??」

「ほうっ!!??」

 二人の視界に予想だにしていなかったものが映り退けぞった。
 九兵衛はガタガタと震え出し、蓮左衛門は動かざる石像のように固まる。

「れれれ蓮さん...みみみ見えてるのはあっしだけじゃ...ああありやせんよね?」

「...........あ、あああ。せ、拙者にも見えているでご、ざる...」

 急に渇きを覚えた喉から声を絞り出し、辛うじて言葉を交わす二人...
 
 彼らが思いもよらず目の当たりしているのは、骨と皮だけと云っても過言ではないほど痩せ細り、死人のような顔つきをした黒い長髪の女性の姿であった。
 幾ら不気味な闇夜にバッタリと出会したとはいえ、彼らもただの女性を見ただけではこんな不様な格好にはならない。
 そう、彼らの目の前に居るのはただの女性ではなく、身体が半透明な上、両足が膝のあたりから消えており、まごうことなく「幽霊」そのものだったのである...

 彼らがこの世の者ではない幽霊なる者と遭遇したのは、これが生まれて初めてのことであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

寵愛の花嫁は毒を愛でる~いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります~

紅葉山参
恋愛
アエナは貧しい子爵家から、国の英雄と名高いルーカス公爵の元へと嫁いだ。彼との政略結婚は、彼の底なしの優しさと、情熱的な寵愛によって、アエナにとってかけがえのない幸福となった。しかし、その幸福を妬み、毎日のように粘着質ないじめを繰り返す者が一人、それは夫の継母であるユーカ夫人である。 「たかが子爵の娘が、公爵家の奥様面など」 ユーカ様はそう言って、私に次から次へと理不尽な嫌がらせを仕掛けてくる。大切な食器を隠したり、ルーカス様に嘘の告げ口をしたり、社交界で恥をかかせようとしたり。 だが、私は決して挫けない。愛する公爵様との穏やかな日々を守るため、そして何より、彼が大切な家族と信じているユーカ様を悲しませないためにも、私はこの毒を静かに受け流すことに決めたのだ。 誰も気づかないほど巧妙に、いじめを優雅にスルーするアエナ。公爵であるあなたに心配をかけまいと、彼女は今日も微笑みを絶やさない。しかし、毒は徐々に、確実に、その濃度を増していく。ついに義母は、アエナの命に関わるような、取り返しのつかない大罪に手を染めてしまう。 愛と策略、そして運命の結末。この溺愛系ヒロインが、華麗なるスルー術で、最愛の公爵様との未来を掴み取る、痛快でロマンティックな物語の幕開けです。

処理中です...