刀姫 in 世直し道中ひざくりげ 仙女覚醒編

流川おるたな

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ノ71 案山子(かかし)

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 確かに身体の一部を噛み砕かれ、水中でたちどころに拡散したのは城太郎の血であった。

 だが犠牲者になった彼の姿は見当たらず、あるのは悪魔であり怪異の亜孔雀が人喰い魚のザンギを再起不能にする姿であった。

 亜孔雀はザンギの命を失い動かなくなった巨体を易々と岸に引き揚げ、自らの顔半分だけを水面から出し辺りをキョロキョロと見渡す。

「...ふん、誰にも見られてないなようだな...」

 目撃者がないことを確認して呟き、亜孔雀の姿のまま湖の岸へと這い上がった。

 そして腕を組みあぐらをかいて地べたへ座ると瞑想を始め、集中力を高めて何やら呪文のようなものを唱え出し...

「封魔術式、人魂降臨(ひとだまこうりん)!」

「スゥオッ!」

 類をみぬ音と共に、亜孔雀の姿は一瞬にして元の城太郎へと変身を遂げた。

 城太郎の姿をした亜孔雀はすくっと立ち上がり、ザンギの死骸へ歩いて近づき蹴りを入れる。

「ドグォッ!」

「ったく、こいつの所為で余計な力を使ってしまった...コイツを上手く調理して真如の機嫌を取るとするか...ん!?あんなところに案山子なんて立ってたか?」

 先ほど水面上から見回し探った時には気付かなかった彼が、湖周辺にある岩場に立つ如何にも怪しげな二体の案山子を凝視した。

「...ちっ!変身するところを見られちまったか...」

 そう言って徐に足元の大きめな石を拾い上げ、二体の案山子に向かって声を張り上げる。

「おい!案山子ども!それでも上手く化けているつもりか?正体を現さねぇとこの石で頭を砕いて脳みそぶち撒けてやんぞ!」

「...................」

 人造物である筈の案山子からは当然の如く返事は返って来ない。

 様子を見る城太郎の姿をした亜孔雀が不敵な笑みを浮かべる。

「グァグァグァグァ...この俺が仙人ごときの変化の術に騙されるとでも思ってるのかねぇ、とっ!!!」

「バシュッ!!」

 彼は言い終えると同時に案山子へ向けて石を投げつけた!
 ただのそこら辺の石と変わらぬ石が、亜孔雀の力が注入され凄まじい速さで案山子の頭へ一直線に飛ぶ!

 あわや狙われた案山子の頭にぶつかろうとした刹那!

「ひょえっ!!??」

 案山子は突如として老仙人の姿へと変貌し、高速で飛んで来る石を間一髪のところで避けた。

 するともう一方の案山子もにわかに老仙人へと姿を変える。

「大丈夫かいな雅綾爺(がりょうじい)!?」

「カッカッカッ、心配せんでもええよ府刹那爺(ふせつなじい)。あんなもん擦りもしとりゃせんわい」
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