ギャペラ～獣の世界に落ちて～

愛

第五話

 ミーシェはキッチンへと向かい夕飯の支度を始めた。
 ラジェッドも彼女の手伝いに行ったのでテーブルにはケイとノイル、ノーザンが残った。

 するとノーザンがケイに話し掛けてくる。

｢サージェ……ではなかったケイ｣

 サージェスと元の名前を言いかけ、慌ててケイと言い直した。

｢すまない。
まだ慣れなくてな｣

｢いや……｣

 ノーザンは優しい目付きでケイにこう語り掛ける。

｢私はね、正直言うとずっとここにいて欲しい｣

 折角再会した孫とまた会えなくなるのは辛い。
 娘、ミーシェも息子に会えて生気を取り戻した様に元気になった。
 日本に帰りたいと言うなら協力してあげたい反面、帰したくない思いもあると本音を打ち明けた。

 こんなことを言うのはケイにとって負担になるのは分かっているが、ケイを愛しているのは日本にいる者だけではないと知って欲しかった。

｢すまないな。
本当はこんなことを言うつもりはなかったが、君を見たらな………
いや、忘れてくれ。
君の一番いいと思う選択をしなさい。
皆、君の幸せが第一だと思っている｣

｢……………｣

 何も言えなかった。
 少しだけ、ここにずっと居てもいいかななんて思ってしまった。
 けれどそれと同時に帰りたいとも強く思う。
 どうしたらいいのか分からない……… 

 そうして悩んでいる内に食事が出来た。
 家族揃っての夕食はとても暖かいものだった。
 
 翌日、ミーシェが庭を案内したいと言うから着いていく。
 そこでふと既視感を覚えた。

｢なんかさ、ここに赤い花無かったっけ……？｣

 ケイはしゃがみこんでふと頭に浮かんだ景色を確かめる。
 ここにある低木の景色を知っている気がした。
 だけどこの低木には、記憶にある赤い花は無い。
 気のせいか、 それとも日本で見た花と勘違いしているのか……？

 するとラジェッドとミーシェは互いを見合って笑った。

｢そうか………
ちゃんと、覚えていてくれたんだね｣

 ラジェッドは微笑を浮かべる。