天狗と骨董屋

吉良鳥一

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縄張り争い(下)

第七話

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 これ程二人が口喧嘩をしたことがなかった。
 真尋は基本言い聞かせれば口答えするような子ではなかったので、こんな風に本音をぶつけて来て、自分を必要としてくれていることに秋人は嬉しさも芽生える。
 それと同時に、ちゃんと彼の話も聞いてやらないといけないと感じた。
 
 秋人には息子が一人いたが、子育てをしたのは昭和の時代。
 それに秋人自身は江戸時代の生まれだ。
 子育てと言っても男である秋人は、家のことは妻に任せっきりだったので、真尋との生活も手探りだった。
 それでも彼が大切な家族と言ってくれたのは秋人にとってこの上無い喜びである。

 二人の口論を傍で見ていた緋葉はホッと溜め息を着いた。
 言い合いになってどうしようかと思ったが、仲直りしてくれて助かった。

 それから食事をすることになり、真尋は久々に秋人と一緒に料理をした。
 食事の際、ずっと立っている緋葉に座ったらと促すもお構い無くと座らないし、食事も要らないと言って真尋の横にいるので正直落ち着かないし、秋人も訝しげに見ているので間に挟まれている感じで少々ツラい。

「真尋、今日は泊まっていくだろう?」

「え、う~ん……まぁ………」

 明日は学校は休みなのでいいが、バイトはある。
 しかし折角家に帰ってきたのだからゆっくりしたい気もするので、利音に電話して明日はバイトは休みにして貰おうと思う。

 秋人は久々に真尋と話せるとあって、バイトや利音の事、大学の事など色々と聞いてくる。
 そうしている内に日が暮れる。

「風呂、先入りなさい」

「は~い」

 真尋は自分の部屋へ行って着替えを取りに行く。

「そんままだ」

 部屋に入ると、家具や道具など一切動かされていない。
 しかしながらしっかりと掃除した跡はある。
 着替えが入っているタンスを開くと中はほとんど空だ。
 普段着る服は大体利音の家に持って行ってしまったので、今あるのは着なくなった服ばかりなので、ダサいなと思いながらもそれを持って行く。

 真尋が風呂に入り、リビングには秋人と緋葉の二人きり。
 ずっと空気のように振る舞っていた緋葉は秋人に近付くと話し掛ける。

「秋千代様……?」

 その名前を呼ぶと秋人はピクリと反応して表情が険しくなる。

「……やはりお前だったか」

 秋人の声が低くなる。

 
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