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2話 人助け
翌朝目が覚めるとマルコが私にギュッと抱きつき、胸に顔をうずめて寝ていた。…可愛いなぁ。
時刻は4時、空はしらみ始めていた。起きて支度をしようとするががっちりとホールドされていた。子供の力も馬鹿にできない。寝ぼけているのか顔をすりすりするのでくすぐったい。むに~とほっぺをつまむと、んん~と言いながら手を緩める。その隙にそっと手を外してテントの外に出た。
まずは探索とマッピング。…よし、何もいない。この2つは寝るとき以外はかけっぱなしにしている。川で顔を洗ってテントの前に戻るとマルコが起きてきた。
「おはよう、マルコ」
声をかけるとまだ若干眠そうな声が返ってきた。
「おはよう、お姉ちゃん…」
目をこすりながら言う。お姉ちゃん…良い響き。
と浸ってる場合じゃない。マルコが顔を洗ってる間に朝食を出しておいて一緒に食べる。食べ終わったらテントなどを片付けて早速出発だ。時刻は5時になるところだった。
☆
休憩を挟みながらでも夕方前には着きたい。そう考えながら歩く事1時間、マルコに疲れが見え始める。もう少し行ったら休憩にしようねと話していた時、探知に4つのマーカー。色は黄色と青2つずつ。移動速度が昨日見た馬車よりも早い。馬に乗ってるのかな。街道の端に寄って歩いていると思った通り、馬に乗った男が2人やってくる。そのうちの1人がこちらを見て叫ぶ。
「マルコ!」
2人は近くで馬を止めた。叫んだ人は馬を飛び降りると手綱を放り出してマルコを抱きしめた。
「無事で良かった…」
その様子から心底マルコを心配していたのだと分かる。
「お兄ちゃん…ごめんなさい…」
マルコは泣き出してしまった。
もう1人の人もホッとした表情をしていて、手にはしっかりと手綱を2つ持っていた。私も正直ホッとした。誰にも言わないで出てきたと言っていたから心配だった。
「お姉ちゃんが助けてくれて…」
とマルコが説明しようとするが、後ろめたいのかモゴモゴと話す。お兄さんじゃない方の人が私が説明しろ、という感じに顔を見る。
私は昨日会った時の事、もう夕刻だったのでテントを張り、その後事情を聞くまでをかいつまんで話した。調合スキルを持っていると分かると2人とも昨日のマルコのようにとても驚いていた。スキルが珍しいのか、幼く見えるであろう私が持っているのが珍しいのか。
「助けていただいてありがとうございます。…でも本当に調合スキルを持っているのですか?」
お兄さんは疑っているようだ。
「本当だよ!僕昨日ちゃんとポーション作ってるとこ見たもん!僕が擦り傷だらけだったから作って飲ませてくれたんだよ!あっという間に全部治ったんだから!」
マルコが必死に言い募ると、今まで黙っていた兄じゃない方の人が口を開く。
「…マルコ、お前の話を疑ってる訳じゃねえ、ただ、それほど調合スキルってのは珍しいんだ。」
怖そうな顔をしているがマルコに向ける視線はとても優しい。が、
「お前、白薬草持ってるって言ったな、見せろ」
と冷たく言われビクッとしてしまう。
白薬草を見せるとじっくりと確かめ、私を睨みながらこんな事を言った。
「確かにこれは本物だ。…だが何故ガキが、こんな貴重なもん持ってる?白薬草はめったに採れねえ上に見分けが付きにくいしすぐ干からびる。ガキが1人でこんないい状態のまま保管しておける訳がねえ。そもそも何で1人旅なんかしてる?ポーションの事だってそうだ、何でそんなすげえスキル見せびらかすような真似する?」
…えらい言われようだ。確かに偶然通りかかって助けた人が珍しい調合スキル持ちとか、出来すぎな気もするし疑われるのも仕方ないのかもしれない。…でも、もうちょっと言い方ってものがあるんじゃない?
「…それは一昨日テントを張った湖の傍の森で、薬草を探していて見つけました。見つけ方も、見分け方も、同じ調合スキルを持っていた祖母に教わりました。1人旅なのは、もともと両親はいないし、祖父母もが亡くなったからです。私の家は山奥にポツンとありました。そこで1人では生活できないと思って旅に出たんです。」
言った事の半分は本当だ。隣の家が遠くに見えるくらいの田舎の山に住んでいた。2人が亡くなって本格的に街に引っ越したのだ。それに昨日調合していて思い出した。祖母が昔、山で採ったドクダミを煎じて飲んでいたのだ。私は採り方から煎じ方まですべて教わり、それはいつの間にか私の役目になった。その経験が調合スキルになったのだろう。
一呼吸置いて続ける。
「白薬草を入れていたこのアイテムボックスも祖父母がが残してくれたんです。祖母が調合スキルを持っていて、山奥に暮らしていた私はこのスキルがそんなに珍しい物だなんて知りませんでした。小さな子がケガしていたら、何とかしてあげたいと思うのは普通の事なんじゃないですか?」
話を聞くうちに、マルコのお兄さんは神妙な顔に、目の前の男も目つきが少しだけ変わった。が、私が一番言いたいのは最後のこの一言だ。
「…それにさっきからガキだガキだと言いますが、私は17歳です!!」
昨夜マルコと話していて分かったのだ、ここの成人は15歳だと。だから17歳は立派な大人だ。
「「え~!!」」
兄弟がキレイにハモる。もう1人は目を見開いて驚いている。
ここで1番驚くってどういう事!?失礼な!
☆
私は今お尻への衝撃を和らげるのに必死だ。そう、馬に乗せてもらっているのだ。マルコはお兄さんの馬に、となると私は当然もう1人の馬だ。
この男、名前はシザーさん、190cmはありそうな長身にしなやかな筋肉のついた体、濃紺の髪と目、髪は前髪だけ少し長くて無造作に撫でつけている。そして目つきが怖い。整った顔立ちだけに睨まれると迫力がある。背には大剣があった。
お兄さんはロイさん、身長は180cmくらい、すらっとしているが筋肉は付いている。マルコよりも鮮やかなサラサラの金髪に碧眼、顔はそっくり。優しそうな爽やかイケメンだ。彼は腰に剣を下げている。
街までの道のりを半分くらい来たところで休憩を取ることになった。言いだしたのはシザーさんだ。もちろん馬を休ませるためだが、慣れていないマルコの為でもある様だ。ついでに私も。
実は私は馬に乗れないわけではない。家で馬を飼っていて、山には馬で行くことも多かった。だから馬を走らせるのは好きだったが、久しぶりなのと鞍の違いで四苦八苦してしていた。自分の鞍とは雲泥の差だった。
馬の飼い主らしいロイさんに許可をもらって馬を触らせてもらう。
「ポルト、クルト」
呼びかけながらそっと近づく。初めましての挨拶は乗せてもらう前に済んでいる。こちらを向いた2頭に手の甲を差し出すと揃って匂いを嗅いだ。ポルトは葦毛で、大人しい性格の様だ。差し出された手や腕を鼻で優しく押している。クルトは栗毛で、ポルトより一回り大きい。私の服を噛んで引っ張っているのを見ると少しやんちゃなところがありそうだ。
大丈夫そうなので2頭の首筋を撫でると気持ちよさそうに目を細めている。
…久しぶりだな、この感じ。癒される…。
近くの木に凭れてこっちを見ていたシザーさんが言った。
「…馬の扱いに慣れてるな。やっぱり乗れるのか」
やっぱり?乗せていて気が付いたのだろうか。
「家で飼ってたので。久しぶりで感覚が素人みたいですけど」
と答えると
「馬にも乗れる女か…」
これも珍しいのか、何か言いたげだ。
「…何か?」
また文句でもあるのだろうか。
「いや、別に。そろそろ行くぞ」
とマルコ達にも声をかけにいった。
☆
街が見えてきたのは10時半を過ぎた頃だった。
街は丸太が連なった高い壁に囲まれていて、内側には見張りの為の櫓がある。同じく丸太で作られた入口の門は開いていて、革の鎧を着た門番らしき人が2人立っていた。街と言うより村に近い気がする。門番がこちらに気付き騒ぎ出す。1人は街の中へ走って行った。知らせに行ったのだろう。
入口の前で止まると門番が駆け寄ってきた。
「無事だったんだな、マルコ!良かった!」
「心配かけたね、悪いけど急ぐんだ。話は後でするよ」
ロイさんが門番に話す。
「さっさと行くぞ、少しでも早い方が良い」
シザーさんが言うと
「あ、ああ、皆に言っておくよ」
と門番も下がった。私をチラチラ見ていたが頭を下げるだけにする。今はマルコのお父さんが心配だ。
馬に乗ったまま街の中を駆ける。道幅は広く、舗装などはないが綺麗にならされていた。マルコの家は街の中心の広場にある冒険者ギルドの近くだった。がっしりとした石造りの大きな2階建てで、木の塀と門があった。厩も畑も見えた。他と比べてかなり立派な印象を受ける。
家の前に着くと、門番から知らせを受けたのであろう使用人らしき人が急いで出てきてマルコの無事を喜んでいた。ロイさんがマルコを降ろしながら聞く。
「親父は?」
「まだ眠ったままです…HPの残りが心配です」
気落ちしたように言う使用人。
その会話を聞きながらシザーさんに続いて降りようとすると、手が差し出される。
「…」
手を見て一瞬固まる。休憩で降りた時はそんな事しなかったのに、どういう風の吹き回しだろうか。手を借りて降りたち、一応お礼を言っておく。
「…ありがとうございます」
「…ああ」
気になるがそれは後回しだ。眠ったままと言う事は昏睡状態かもしれない。ロイさんに声をかける。
「ロイさん、作る前に一度お父様に会わせてください」
「親…父は昨日から目を覚まさないんだ…それでもいい?」
「はい」
「よし、じゃあ行こう」挨拶もそこそこにして中へ急いだ。
寝室の壁際の広いベッドに居たのは、とても大きくがっしりとした人だった。だが顔色が悪すぎる。
「失礼します」一言断ってから脈を測ってみる。
私は医者でも看護師でもないが、祖母が亡くなる前は長い昏睡状態が続き、そこに付き添っていた時に看護師さんから少し教わったのだ。
…似ている。祖母の時よりは若干しっかりとしているが、この状態が続くとまずい気がする。ふと思いついて解析をかけてみる。人に解析なんて失礼かもしれないが今は大目に見てもらおう。
…名前と年齢、種族以外は全て伏字で分からなかったが、状態だけは分かった。
状態 猛毒、昏睡
これは早くしないとまずい。黙って見ていたロイさんたちに向き直って言う。
「早くしないとまずいかもしれません。すぐに作るので場所を貸してください。後準備してほしい物があります」
「!!」
ロイさんは一瞬衝撃を受けていたがすぐに使用人に言った。
「彼女の言う通りにして。僕はここにいる」
「俺がこいつと行く」
続けて言ったのはシザーだ。マルコは部屋にはいない。
「かしこまりました。こちらへ」
連れていかれたのは台所だ。そこに居るのは私とシザーを含めて5人。台所は広く、水道もコンロも冷蔵庫もあった。全て魔道具のようだが。
「漏斗とすいのみはありますか?」
道具を出しながら聞くと
「ろうと、と、すいのみ、ですか?」
不思議そうに返される。通じないか…
「ビンなどに液体を入れるときに使うものと、横になったまま水などを飲ませるものです」
言い直すと1人が漏斗に似た物を持ってきてくれた。
「これです!」
後はすいのみだがこれはないようなのでティーポットを使うことにした。
漏斗とティーポット2つをキレイに洗ってもらいながら私も作業に取り掛かる。手を動かしながら近くに居たシザーさんに聞く。
「シザーさん、1つ教えてください。昏睡状態の時はHPが少なくなった時ですか?他にもありますか?」
「…他にもあるがロイの親父ならおそらくそれだ」
「そうですか、ありがとうございます」
やはりそうか、だったら先にこれでいい。
ポーションが1つ出来た。使用人に声をかける。
「いつもお世話をしてるのはどなたですか?」
すると中年の女性が進み出た。おそらくこの女性がリーダーだろう。
「私ですが」
「これはポーションなので多少こぼれても構いませんから、飲ませてください。お願いします」
「ポーション、ですか」
女性は不満そうだ。
「おい、今更ポーションなんて必要ねえよ、さっさと…」
シザーさんも口を挟むが私は話を遮って言う。
「目が覚めなくてもいいんです。何とか薬を飲み下せるくらいになってもらえれば。昨日から眠ったままという事は、水を飲ませてもほとんど入らないんじゃないですか?」
私の言葉に女性が驚いて頷く。
「そうです、せっかく用意したポーションもほとんど飲んでもらえなくて…」
「足りなかったらポーションならまた作ります。でも毒消しポーションは無駄にできないので、何とかお願いします。顔を少し横に向けるか、首と頭を持ち上げるかして、ティーポットから直接少しずつ飲ませてみてください。いつもお世話してる方なら些細な違いがわかるはずです」
「…分かりました。やってみます」
女性はしっかりと頷いて寝室へと向かった。
もう1つポーションを作って別のティーポットに入れておく。そして1度すり鉢とすりこぎをキレイに洗ってもらってから毒消しポーションに取り掛かった。シザーさんはあれから黙って作業をみている。
…終わった。ちゃんと出来たと思うけど…緊張しながら解析する。
<解析> 猛毒消しポーション(白) 猛毒消し、回復薬
あれ、猛毒消しになってる…白薬草使ったからかな?…あ、もしかして!
スキルを確認するといつの間にか調合が2になっていた。新たに猛毒消しの作り方が書かれていた。…良かった、ちゃんと出来て。少しほっとしているところにティーポットを持った女性が急いで戻って来た。
「ナツメさん!目は覚めないですが、半分飲んでくれました!」
興奮気味の女性を落ち着かせ、持っていたティーポットを洗って毒消しポーションを入れると、もう1つのポーションも持って今度は私も一緒に寝室へ向かった。
寝室にはロイさんとマルコがいた。1度目礼してベッドの横へ行く。
「これが猛毒消しポーションです。先ほどと同じ要領でお願いします」
女性にティーポットを渡す。
「はい…」
ゆっくりだが一口、また一口と飲み下しているのが分かる。多少こぼれているがこれなら…
「ほとんど飲まれたと思います」
最後まで飲ませた女性が肩の力を抜く。
「その様ですね」
答えながら解析をかける。
<解析> 状態 なし
…やった、両方直った。顔色も良くなってきているし、脈もさっきよりしっかりとしている。緊張して見ていた皆も少しだけホッとしたようだ。私と女性が後ろに下がり、ロイさんとマルコが傍に行く。
やがてセクロさんがうっすらと目を開けた。
「親父!」
「お父さん!」
兄弟が呼ぶと瞬きしながらゆっくりと首を巡らせ、息子たちを見た。
「気分はどう?毒は?直った?」
ロイさんが聞くと一瞬目を閉じた後目を開けて言った。
「…大丈夫だ…直った様だ…」
その声はかすれていたが意識はしっかりとしていた。セクロさんが言った瞬間、歓喜の声が上がる。皆がホッとしたり涙したりしているのを邪魔しないように、そっと寝室を出た。寝室の前にも何人かいて、手を取り合って喜んでいた。静かに横を通り抜けて廊下を進んだ。
…皆嬉しそうだった。治って良かった。役に立てて良かった。ホッと息を吐きながら肩の力を抜き、少しの間だけ目を閉じて余韻と小さな幸せをかみしめた。
台所へ戻ると誰もいなかった。使った道具を持って流しへ行き、見様見真似でそこにはめてある魔石に触れてみる。
お、出た!MP5でも使える魔道具、凄いな~。と感激しながら洗っていると後ろから声をかけられた。村に入ってから探索は切ってあったから分からなかった。
「…こんなとこで何してる」
声の主はシザーだ。…気配どころか足音もしなかった。
「何って、片付けですけど」
振り返って答えると何故かため息をつかれる。
「ロイがお前を探してたぞ、親父さんに紹介するんだと」
私は前に向き直り、洗いながら少し考えて言う。
「今日はこのままお暇して宿にでも泊まります。明日改めて挨拶に伺います。それとこのポーション、後で飲ませてあげてください。まだ本調子には程遠いでしょうから」
とテーブルに置いたティーポットを指さす。
「…何で明日なんだ、それにポーションも自分で持って行け」
「毒も消えたようですし、もう大丈夫でしょう?なら今日くらい、部外者は遠慮するべきだと思って」
「…顔くらい出していったらどうだ」
「顔を出したら気を使わせるに決まってるじゃないですか、このまま出るのでシザーさん、ロイさんに伝えておいてください。あ、宿屋はどこにあります?」
「…」
はぁ、とまたため息を吐くシザーさん。
宿屋の場所を聞いて自分の道具をしまい、もう1度お願いしてロイさんの家を後にした。
☆
宿屋に向かって歩いていると、あちこちから視線を感じる。私がロイさんの家に行った事は知っていても、後はどうなったか気になるのだろう。
セクロさんはこの村の有力者だと思う。街の中心に立派な家を構えているし、使用人もいた。若いけど町長とか、ギルドの責任者とかかな。
宿屋は冒険者ギルドの向かい側の道を入ってすぐだった。一応マッピングしながら来たがその必要もないくらい近かった。そこは木造3階建てで大きなログハウスの様な感じだった。
中に入ってカウンターに行くと、そこに居たのは私より少し背の低い猫耳の少女だった。ふわっとした淡い栗色の髪を後ろでちょこんと結んでいる。
…猫耳キター!真っ白な耳がピコピコ動いている。白猫ちゃんか~。可愛い~。
目の前の光景に浸っていると白猫ちゃんから声をかけられ、我に返る。
「いらっしゃいませにゃ、お泊りかにゃ?お食事かにゃ?お風呂かにゃ?」
う~、語尾の”にゃ”が可愛すぎる!心は白猫ちゃんにメロメロだが平静を装う。
「泊りでお願いします。お風呂もあるんですか?」
湯船に入れるかも!
「ありますにゃ!お泊りの人は安くなりますにゃ!」
尻尾をピン!と立てて自慢げに続ける。
「お泊りは食事付きで900G、お風呂は1回150G、何泊するにゃ?」
と小首をかしげる。…もふもふしたい。
「3泊でお願いします」
「かしこまりましたにゃ、お風呂はどうしますかにゃ?」
「お風呂2回分と、まとめて払っていいですか?」
「いいですにゃ、にゃにゃにゃ…3,000Gですにゃ!」
3,000G払うと
「確かにいただきましたにゃ!あとはこちらに記入をお願いしますにゃ」
渡された紙は日本語ではなかったが問題なく読めた。書く時も書きたい文字を考えるとスラスラ書けた。
「ありがとうございますにゃ、朝食は9の刻まで、夕食とお風呂は21の刻までですにゃ。これがカギで、出かけるときは預けて欲しいですにゃ」
「分かりました。このまま出かけるのでカギはいいです」
「かしこまりましたにゃ、いってらっしゃいませにゃ」
この世界の1日も24時間なのはステータスの隅に出る時間でわかっていたが、9時では通じないんだ。気を付けよう。
広場に戻って周りを見渡す。ここには冒険者ギルドとロイさんの家、武器屋と防具屋、鍛冶屋があった。私たちが入ってきたのは南にある門で、北の方には教会らしき建物が見える。南門に続く道は緩やかにカーブしていて食堂や雑貨屋、古着屋、穀物の店などがある。路上販売も結構出ていて野菜や果物を売っていた。少しだが屋台も出ていて、サンドイッチや果実水を売っていた。
脇道に入ると民家があるようだ。見える建物はほとんどが木造で、たまに見える石造りの家は他より大きかったがやはりロイさんの家が一番大きい様だ。
歩きながら見て、途中で岩塩とパンを数個買っておく。南門から出ようとすると声をかけられる。来た時にロイさんと話していた人だ。この人も180cmはある。この世界は人族の平均身長が高い気がする。うらやましい。
「君はさっきシザーの馬に乗ってた子だよね?今から出るの?危ないよ」
…何歳に見えてるんだろう。
「近くの川まで。17の刻までには戻ります」
笑顔で言っておく。
「1人で大丈夫?ついて行こうか?」
彼は親切で言ってくれているのだろうが、遠慮したい。
「大丈夫です、ありがとうございます」
ペコリと頭を下げて川へと向かった。
歩いていると探索にマーカー、青1つ。そのまま歩くとずっとついてくる。気配も足音もしない。目的地に着いてから振り返って言った。
「どこまでついてくるんですか?シザーさん」
時刻は4時、空はしらみ始めていた。起きて支度をしようとするががっちりとホールドされていた。子供の力も馬鹿にできない。寝ぼけているのか顔をすりすりするのでくすぐったい。むに~とほっぺをつまむと、んん~と言いながら手を緩める。その隙にそっと手を外してテントの外に出た。
まずは探索とマッピング。…よし、何もいない。この2つは寝るとき以外はかけっぱなしにしている。川で顔を洗ってテントの前に戻るとマルコが起きてきた。
「おはよう、マルコ」
声をかけるとまだ若干眠そうな声が返ってきた。
「おはよう、お姉ちゃん…」
目をこすりながら言う。お姉ちゃん…良い響き。
と浸ってる場合じゃない。マルコが顔を洗ってる間に朝食を出しておいて一緒に食べる。食べ終わったらテントなどを片付けて早速出発だ。時刻は5時になるところだった。
☆
休憩を挟みながらでも夕方前には着きたい。そう考えながら歩く事1時間、マルコに疲れが見え始める。もう少し行ったら休憩にしようねと話していた時、探知に4つのマーカー。色は黄色と青2つずつ。移動速度が昨日見た馬車よりも早い。馬に乗ってるのかな。街道の端に寄って歩いていると思った通り、馬に乗った男が2人やってくる。そのうちの1人がこちらを見て叫ぶ。
「マルコ!」
2人は近くで馬を止めた。叫んだ人は馬を飛び降りると手綱を放り出してマルコを抱きしめた。
「無事で良かった…」
その様子から心底マルコを心配していたのだと分かる。
「お兄ちゃん…ごめんなさい…」
マルコは泣き出してしまった。
もう1人の人もホッとした表情をしていて、手にはしっかりと手綱を2つ持っていた。私も正直ホッとした。誰にも言わないで出てきたと言っていたから心配だった。
「お姉ちゃんが助けてくれて…」
とマルコが説明しようとするが、後ろめたいのかモゴモゴと話す。お兄さんじゃない方の人が私が説明しろ、という感じに顔を見る。
私は昨日会った時の事、もう夕刻だったのでテントを張り、その後事情を聞くまでをかいつまんで話した。調合スキルを持っていると分かると2人とも昨日のマルコのようにとても驚いていた。スキルが珍しいのか、幼く見えるであろう私が持っているのが珍しいのか。
「助けていただいてありがとうございます。…でも本当に調合スキルを持っているのですか?」
お兄さんは疑っているようだ。
「本当だよ!僕昨日ちゃんとポーション作ってるとこ見たもん!僕が擦り傷だらけだったから作って飲ませてくれたんだよ!あっという間に全部治ったんだから!」
マルコが必死に言い募ると、今まで黙っていた兄じゃない方の人が口を開く。
「…マルコ、お前の話を疑ってる訳じゃねえ、ただ、それほど調合スキルってのは珍しいんだ。」
怖そうな顔をしているがマルコに向ける視線はとても優しい。が、
「お前、白薬草持ってるって言ったな、見せろ」
と冷たく言われビクッとしてしまう。
白薬草を見せるとじっくりと確かめ、私を睨みながらこんな事を言った。
「確かにこれは本物だ。…だが何故ガキが、こんな貴重なもん持ってる?白薬草はめったに採れねえ上に見分けが付きにくいしすぐ干からびる。ガキが1人でこんないい状態のまま保管しておける訳がねえ。そもそも何で1人旅なんかしてる?ポーションの事だってそうだ、何でそんなすげえスキル見せびらかすような真似する?」
…えらい言われようだ。確かに偶然通りかかって助けた人が珍しい調合スキル持ちとか、出来すぎな気もするし疑われるのも仕方ないのかもしれない。…でも、もうちょっと言い方ってものがあるんじゃない?
「…それは一昨日テントを張った湖の傍の森で、薬草を探していて見つけました。見つけ方も、見分け方も、同じ調合スキルを持っていた祖母に教わりました。1人旅なのは、もともと両親はいないし、祖父母もが亡くなったからです。私の家は山奥にポツンとありました。そこで1人では生活できないと思って旅に出たんです。」
言った事の半分は本当だ。隣の家が遠くに見えるくらいの田舎の山に住んでいた。2人が亡くなって本格的に街に引っ越したのだ。それに昨日調合していて思い出した。祖母が昔、山で採ったドクダミを煎じて飲んでいたのだ。私は採り方から煎じ方まですべて教わり、それはいつの間にか私の役目になった。その経験が調合スキルになったのだろう。
一呼吸置いて続ける。
「白薬草を入れていたこのアイテムボックスも祖父母がが残してくれたんです。祖母が調合スキルを持っていて、山奥に暮らしていた私はこのスキルがそんなに珍しい物だなんて知りませんでした。小さな子がケガしていたら、何とかしてあげたいと思うのは普通の事なんじゃないですか?」
話を聞くうちに、マルコのお兄さんは神妙な顔に、目の前の男も目つきが少しだけ変わった。が、私が一番言いたいのは最後のこの一言だ。
「…それにさっきからガキだガキだと言いますが、私は17歳です!!」
昨夜マルコと話していて分かったのだ、ここの成人は15歳だと。だから17歳は立派な大人だ。
「「え~!!」」
兄弟がキレイにハモる。もう1人は目を見開いて驚いている。
ここで1番驚くってどういう事!?失礼な!
☆
私は今お尻への衝撃を和らげるのに必死だ。そう、馬に乗せてもらっているのだ。マルコはお兄さんの馬に、となると私は当然もう1人の馬だ。
この男、名前はシザーさん、190cmはありそうな長身にしなやかな筋肉のついた体、濃紺の髪と目、髪は前髪だけ少し長くて無造作に撫でつけている。そして目つきが怖い。整った顔立ちだけに睨まれると迫力がある。背には大剣があった。
お兄さんはロイさん、身長は180cmくらい、すらっとしているが筋肉は付いている。マルコよりも鮮やかなサラサラの金髪に碧眼、顔はそっくり。優しそうな爽やかイケメンだ。彼は腰に剣を下げている。
街までの道のりを半分くらい来たところで休憩を取ることになった。言いだしたのはシザーさんだ。もちろん馬を休ませるためだが、慣れていないマルコの為でもある様だ。ついでに私も。
実は私は馬に乗れないわけではない。家で馬を飼っていて、山には馬で行くことも多かった。だから馬を走らせるのは好きだったが、久しぶりなのと鞍の違いで四苦八苦してしていた。自分の鞍とは雲泥の差だった。
馬の飼い主らしいロイさんに許可をもらって馬を触らせてもらう。
「ポルト、クルト」
呼びかけながらそっと近づく。初めましての挨拶は乗せてもらう前に済んでいる。こちらを向いた2頭に手の甲を差し出すと揃って匂いを嗅いだ。ポルトは葦毛で、大人しい性格の様だ。差し出された手や腕を鼻で優しく押している。クルトは栗毛で、ポルトより一回り大きい。私の服を噛んで引っ張っているのを見ると少しやんちゃなところがありそうだ。
大丈夫そうなので2頭の首筋を撫でると気持ちよさそうに目を細めている。
…久しぶりだな、この感じ。癒される…。
近くの木に凭れてこっちを見ていたシザーさんが言った。
「…馬の扱いに慣れてるな。やっぱり乗れるのか」
やっぱり?乗せていて気が付いたのだろうか。
「家で飼ってたので。久しぶりで感覚が素人みたいですけど」
と答えると
「馬にも乗れる女か…」
これも珍しいのか、何か言いたげだ。
「…何か?」
また文句でもあるのだろうか。
「いや、別に。そろそろ行くぞ」
とマルコ達にも声をかけにいった。
☆
街が見えてきたのは10時半を過ぎた頃だった。
街は丸太が連なった高い壁に囲まれていて、内側には見張りの為の櫓がある。同じく丸太で作られた入口の門は開いていて、革の鎧を着た門番らしき人が2人立っていた。街と言うより村に近い気がする。門番がこちらに気付き騒ぎ出す。1人は街の中へ走って行った。知らせに行ったのだろう。
入口の前で止まると門番が駆け寄ってきた。
「無事だったんだな、マルコ!良かった!」
「心配かけたね、悪いけど急ぐんだ。話は後でするよ」
ロイさんが門番に話す。
「さっさと行くぞ、少しでも早い方が良い」
シザーさんが言うと
「あ、ああ、皆に言っておくよ」
と門番も下がった。私をチラチラ見ていたが頭を下げるだけにする。今はマルコのお父さんが心配だ。
馬に乗ったまま街の中を駆ける。道幅は広く、舗装などはないが綺麗にならされていた。マルコの家は街の中心の広場にある冒険者ギルドの近くだった。がっしりとした石造りの大きな2階建てで、木の塀と門があった。厩も畑も見えた。他と比べてかなり立派な印象を受ける。
家の前に着くと、門番から知らせを受けたのであろう使用人らしき人が急いで出てきてマルコの無事を喜んでいた。ロイさんがマルコを降ろしながら聞く。
「親父は?」
「まだ眠ったままです…HPの残りが心配です」
気落ちしたように言う使用人。
その会話を聞きながらシザーさんに続いて降りようとすると、手が差し出される。
「…」
手を見て一瞬固まる。休憩で降りた時はそんな事しなかったのに、どういう風の吹き回しだろうか。手を借りて降りたち、一応お礼を言っておく。
「…ありがとうございます」
「…ああ」
気になるがそれは後回しだ。眠ったままと言う事は昏睡状態かもしれない。ロイさんに声をかける。
「ロイさん、作る前に一度お父様に会わせてください」
「親…父は昨日から目を覚まさないんだ…それでもいい?」
「はい」
「よし、じゃあ行こう」挨拶もそこそこにして中へ急いだ。
寝室の壁際の広いベッドに居たのは、とても大きくがっしりとした人だった。だが顔色が悪すぎる。
「失礼します」一言断ってから脈を測ってみる。
私は医者でも看護師でもないが、祖母が亡くなる前は長い昏睡状態が続き、そこに付き添っていた時に看護師さんから少し教わったのだ。
…似ている。祖母の時よりは若干しっかりとしているが、この状態が続くとまずい気がする。ふと思いついて解析をかけてみる。人に解析なんて失礼かもしれないが今は大目に見てもらおう。
…名前と年齢、種族以外は全て伏字で分からなかったが、状態だけは分かった。
状態 猛毒、昏睡
これは早くしないとまずい。黙って見ていたロイさんたちに向き直って言う。
「早くしないとまずいかもしれません。すぐに作るので場所を貸してください。後準備してほしい物があります」
「!!」
ロイさんは一瞬衝撃を受けていたがすぐに使用人に言った。
「彼女の言う通りにして。僕はここにいる」
「俺がこいつと行く」
続けて言ったのはシザーだ。マルコは部屋にはいない。
「かしこまりました。こちらへ」
連れていかれたのは台所だ。そこに居るのは私とシザーを含めて5人。台所は広く、水道もコンロも冷蔵庫もあった。全て魔道具のようだが。
「漏斗とすいのみはありますか?」
道具を出しながら聞くと
「ろうと、と、すいのみ、ですか?」
不思議そうに返される。通じないか…
「ビンなどに液体を入れるときに使うものと、横になったまま水などを飲ませるものです」
言い直すと1人が漏斗に似た物を持ってきてくれた。
「これです!」
後はすいのみだがこれはないようなのでティーポットを使うことにした。
漏斗とティーポット2つをキレイに洗ってもらいながら私も作業に取り掛かる。手を動かしながら近くに居たシザーさんに聞く。
「シザーさん、1つ教えてください。昏睡状態の時はHPが少なくなった時ですか?他にもありますか?」
「…他にもあるがロイの親父ならおそらくそれだ」
「そうですか、ありがとうございます」
やはりそうか、だったら先にこれでいい。
ポーションが1つ出来た。使用人に声をかける。
「いつもお世話をしてるのはどなたですか?」
すると中年の女性が進み出た。おそらくこの女性がリーダーだろう。
「私ですが」
「これはポーションなので多少こぼれても構いませんから、飲ませてください。お願いします」
「ポーション、ですか」
女性は不満そうだ。
「おい、今更ポーションなんて必要ねえよ、さっさと…」
シザーさんも口を挟むが私は話を遮って言う。
「目が覚めなくてもいいんです。何とか薬を飲み下せるくらいになってもらえれば。昨日から眠ったままという事は、水を飲ませてもほとんど入らないんじゃないですか?」
私の言葉に女性が驚いて頷く。
「そうです、せっかく用意したポーションもほとんど飲んでもらえなくて…」
「足りなかったらポーションならまた作ります。でも毒消しポーションは無駄にできないので、何とかお願いします。顔を少し横に向けるか、首と頭を持ち上げるかして、ティーポットから直接少しずつ飲ませてみてください。いつもお世話してる方なら些細な違いがわかるはずです」
「…分かりました。やってみます」
女性はしっかりと頷いて寝室へと向かった。
もう1つポーションを作って別のティーポットに入れておく。そして1度すり鉢とすりこぎをキレイに洗ってもらってから毒消しポーションに取り掛かった。シザーさんはあれから黙って作業をみている。
…終わった。ちゃんと出来たと思うけど…緊張しながら解析する。
<解析> 猛毒消しポーション(白) 猛毒消し、回復薬
あれ、猛毒消しになってる…白薬草使ったからかな?…あ、もしかして!
スキルを確認するといつの間にか調合が2になっていた。新たに猛毒消しの作り方が書かれていた。…良かった、ちゃんと出来て。少しほっとしているところにティーポットを持った女性が急いで戻って来た。
「ナツメさん!目は覚めないですが、半分飲んでくれました!」
興奮気味の女性を落ち着かせ、持っていたティーポットを洗って毒消しポーションを入れると、もう1つのポーションも持って今度は私も一緒に寝室へ向かった。
寝室にはロイさんとマルコがいた。1度目礼してベッドの横へ行く。
「これが猛毒消しポーションです。先ほどと同じ要領でお願いします」
女性にティーポットを渡す。
「はい…」
ゆっくりだが一口、また一口と飲み下しているのが分かる。多少こぼれているがこれなら…
「ほとんど飲まれたと思います」
最後まで飲ませた女性が肩の力を抜く。
「その様ですね」
答えながら解析をかける。
<解析> 状態 なし
…やった、両方直った。顔色も良くなってきているし、脈もさっきよりしっかりとしている。緊張して見ていた皆も少しだけホッとしたようだ。私と女性が後ろに下がり、ロイさんとマルコが傍に行く。
やがてセクロさんがうっすらと目を開けた。
「親父!」
「お父さん!」
兄弟が呼ぶと瞬きしながらゆっくりと首を巡らせ、息子たちを見た。
「気分はどう?毒は?直った?」
ロイさんが聞くと一瞬目を閉じた後目を開けて言った。
「…大丈夫だ…直った様だ…」
その声はかすれていたが意識はしっかりとしていた。セクロさんが言った瞬間、歓喜の声が上がる。皆がホッとしたり涙したりしているのを邪魔しないように、そっと寝室を出た。寝室の前にも何人かいて、手を取り合って喜んでいた。静かに横を通り抜けて廊下を進んだ。
…皆嬉しそうだった。治って良かった。役に立てて良かった。ホッと息を吐きながら肩の力を抜き、少しの間だけ目を閉じて余韻と小さな幸せをかみしめた。
台所へ戻ると誰もいなかった。使った道具を持って流しへ行き、見様見真似でそこにはめてある魔石に触れてみる。
お、出た!MP5でも使える魔道具、凄いな~。と感激しながら洗っていると後ろから声をかけられた。村に入ってから探索は切ってあったから分からなかった。
「…こんなとこで何してる」
声の主はシザーだ。…気配どころか足音もしなかった。
「何って、片付けですけど」
振り返って答えると何故かため息をつかれる。
「ロイがお前を探してたぞ、親父さんに紹介するんだと」
私は前に向き直り、洗いながら少し考えて言う。
「今日はこのままお暇して宿にでも泊まります。明日改めて挨拶に伺います。それとこのポーション、後で飲ませてあげてください。まだ本調子には程遠いでしょうから」
とテーブルに置いたティーポットを指さす。
「…何で明日なんだ、それにポーションも自分で持って行け」
「毒も消えたようですし、もう大丈夫でしょう?なら今日くらい、部外者は遠慮するべきだと思って」
「…顔くらい出していったらどうだ」
「顔を出したら気を使わせるに決まってるじゃないですか、このまま出るのでシザーさん、ロイさんに伝えておいてください。あ、宿屋はどこにあります?」
「…」
はぁ、とまたため息を吐くシザーさん。
宿屋の場所を聞いて自分の道具をしまい、もう1度お願いしてロイさんの家を後にした。
☆
宿屋に向かって歩いていると、あちこちから視線を感じる。私がロイさんの家に行った事は知っていても、後はどうなったか気になるのだろう。
セクロさんはこの村の有力者だと思う。街の中心に立派な家を構えているし、使用人もいた。若いけど町長とか、ギルドの責任者とかかな。
宿屋は冒険者ギルドの向かい側の道を入ってすぐだった。一応マッピングしながら来たがその必要もないくらい近かった。そこは木造3階建てで大きなログハウスの様な感じだった。
中に入ってカウンターに行くと、そこに居たのは私より少し背の低い猫耳の少女だった。ふわっとした淡い栗色の髪を後ろでちょこんと結んでいる。
…猫耳キター!真っ白な耳がピコピコ動いている。白猫ちゃんか~。可愛い~。
目の前の光景に浸っていると白猫ちゃんから声をかけられ、我に返る。
「いらっしゃいませにゃ、お泊りかにゃ?お食事かにゃ?お風呂かにゃ?」
う~、語尾の”にゃ”が可愛すぎる!心は白猫ちゃんにメロメロだが平静を装う。
「泊りでお願いします。お風呂もあるんですか?」
湯船に入れるかも!
「ありますにゃ!お泊りの人は安くなりますにゃ!」
尻尾をピン!と立てて自慢げに続ける。
「お泊りは食事付きで900G、お風呂は1回150G、何泊するにゃ?」
と小首をかしげる。…もふもふしたい。
「3泊でお願いします」
「かしこまりましたにゃ、お風呂はどうしますかにゃ?」
「お風呂2回分と、まとめて払っていいですか?」
「いいですにゃ、にゃにゃにゃ…3,000Gですにゃ!」
3,000G払うと
「確かにいただきましたにゃ!あとはこちらに記入をお願いしますにゃ」
渡された紙は日本語ではなかったが問題なく読めた。書く時も書きたい文字を考えるとスラスラ書けた。
「ありがとうございますにゃ、朝食は9の刻まで、夕食とお風呂は21の刻までですにゃ。これがカギで、出かけるときは預けて欲しいですにゃ」
「分かりました。このまま出かけるのでカギはいいです」
「かしこまりましたにゃ、いってらっしゃいませにゃ」
この世界の1日も24時間なのはステータスの隅に出る時間でわかっていたが、9時では通じないんだ。気を付けよう。
広場に戻って周りを見渡す。ここには冒険者ギルドとロイさんの家、武器屋と防具屋、鍛冶屋があった。私たちが入ってきたのは南にある門で、北の方には教会らしき建物が見える。南門に続く道は緩やかにカーブしていて食堂や雑貨屋、古着屋、穀物の店などがある。路上販売も結構出ていて野菜や果物を売っていた。少しだが屋台も出ていて、サンドイッチや果実水を売っていた。
脇道に入ると民家があるようだ。見える建物はほとんどが木造で、たまに見える石造りの家は他より大きかったがやはりロイさんの家が一番大きい様だ。
歩きながら見て、途中で岩塩とパンを数個買っておく。南門から出ようとすると声をかけられる。来た時にロイさんと話していた人だ。この人も180cmはある。この世界は人族の平均身長が高い気がする。うらやましい。
「君はさっきシザーの馬に乗ってた子だよね?今から出るの?危ないよ」
…何歳に見えてるんだろう。
「近くの川まで。17の刻までには戻ります」
笑顔で言っておく。
「1人で大丈夫?ついて行こうか?」
彼は親切で言ってくれているのだろうが、遠慮したい。
「大丈夫です、ありがとうございます」
ペコリと頭を下げて川へと向かった。
歩いていると探索にマーカー、青1つ。そのまま歩くとずっとついてくる。気配も足音もしない。目的地に着いてから振り返って言った。
「どこまでついてくるんですか?シザーさん」
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