セカンドライフを異世界で

くるくる

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4話 自分の家

 朝5の刻に目が覚める。祖父母と暮らしていた時2人は4時には起きていた。私も祖母の手伝いや馬の世話のために5時には起きていた。1人暮らしを始めてからもしばらくは5時に目が覚めたものだ。いつしかそういう事も無くなっていたのだが、異世界に来て夜早く寝るようになったからか、また自然に目が覚めるようになった。

  ベッドを出て服を着る。今日は冒険者服を洗いたいので牧場ガール服だ。ちなみに私は寝る時いつも下着とTシャツ1枚だった。異世界に来てからはテントで寝ていたのでさすがにできなかったが、昨日は宿だったのでいつも通りの格好で寝た。服が布団に引っかからないしとても気持ちいいのだ。

  おさげにしていた髪をほどいて櫛で整え、カーテンを開ける。この世界の人は早起きの様だ、もう通りを歩いている人が居る。なら宿の人も起きているだろう。部屋にカギをかけ、1階に降りると入り口を掃除しているフィフィちゃんが居た。

 「おはようございます」
  と声をかける。
 「おはようございますにゃ、早起きですにゃ」
  笑顔で答えてくれる。
 「大体この時間です。あの、聞きたいことがあるんですが」
 「何ですかにゃ?」
 「洗濯をしたいんですが、道具とか貸してもらえませんか?」
 「自分で洗うなら洗濯道具は無料で貸しますにゃ、洗剤は買ってもらう事になりますにゃ、すぐ洗うかにゃ?」
 「はい」

  フィフィちゃんに付いて宿屋の裏庭にやってくると、物干ロープがたくさんあった。宿屋って洗濯もの多そうだよね。

 「道具はそこにありますにゃ、洗剤は1個だと100G、半分だと50Gにゃ」
 「半分下さい」
  と言って50G払う。
 「毎度ありですにゃ、洗濯物はここに干してくださいにゃ」
 「ありがとうございます」

  そこにあった道具は、懐かしの木製のたらいと洗濯板だ。ええ、使った事ありますとも。家にありましたからね、普通に。なんかすごく原始的な暮らしをしてたと思われるかもしれませんが、スマホだって持ってましたよ。

  とにかく買ったチコの実で洗濯を済ませる。昨日貰った方は皮とかを洗う専用にしようと思う。

  干し終わって中に戻るとライトさんが居た。

 「おはようございます」
  後ろから声をかけると白い耳がピコピコ動いた。
 「おはようにゃ、ナツメちゃんだったかにゃ?あの2人と一緒に食事した女の子初めて見たにゃ」
 「…そうなんですか?」
  2人ともモテそうなのに。特にロイさんとか爽やかイケメンだし。
 「そうにゃ、いいもん見たにゃ、後でからかうにゃ」
  …ライトさん、いい性格してますね。
 「そう言えば昨日のお料理、とってもおいしかったです。今日も楽しみです」
 「ありがとにゃ~。良い子にゃ~。勿体無いにゃ~。」
 「勿体無い?」
 「こっちの事にゃ、朝はライスに焼き魚にタマゴにゃ~。もう食べれるにゃ」

  ライス?!今ライスって言った?!

 「ライトさん!今ライスって言いました?!」
  突然私のテンションが変わって耳としっぽをビクン!とさせるライトさん。
 「い、言ったにゃ、ライスだにゃ」
 「すぐに食べたいです!」
 「そ、そうかにゃ、じゃ持っていくから座ってるにゃ」
 「はい!」

  びっくりさせて申し訳ないが、私は米好きなのだ。異世界にはないだろうと思っていたものにこんなに早く出会えるとは!私のテンションは今マックスだった!

  出てきたライスは茶碗にこそ入ってはいなかったが、確かにお米だった。日本米よりもタイ米とかに近い。若干パサついているが美味しい。こうなると欲が出ちゃうな~。醤油と味噌があればな~。

  大満足の朝食を終えた私はライトさんに米の入手先を聞いてみた。話によるとこの街の北のはずれに牧場があって、ミルクや卵の他に米も作っている。そこの人が定期的に売っているのだとか。ああ、楽しみ。









 宿を出た私は昨日行かなかった街の北側に行ってみようと思っていた。時刻は7の刻、約束は11の刻なので、さっきライトさんから聞いた牧場に行ってみようと思った。

  北側に家は少なく畑が広がっていて、作業をしている姿も見えた。
 真っ直ぐ進むと突き当りに教会があり、その前を右に曲がる。緩い上り坂の上にその牧場があった。門が閉まっていたが中は何とか見えた。
  そこは想像していたよりかなり広い。敷地の周りを丈夫そうな木の塀で囲い、右側には石造り家、セクロさんの所よりは若干小さいが立派な造りだ。小屋と何かの作業場がある。正面には牛舎と鳥小屋、左奥に牧草地が見え、牛っぽい動物が放牧されていた。そして左には、おそらくこの街では1番の広さだろう畑と田んぼがあった。

 「家に何か用かい?」
  中を見せてもらえないかな、と思っていたら後ろから声をかけられ慌てて振り向く。そこに居たのは恰幅のいいおばさん。
 「突然すみません、私ナツメといいます。あの、少し中を…」
  言いかけるが、私の名前を聞いて目を見開いたおばさんに遮られた。
 「もしかしてセクロさんとマルコを助けてくれた子かい!?ありがとねえ、セクロさんはこの街に無くてはならない人なんだよ!それにしても子供だったんだねえ!いくつ?10歳位かい?」

  マシンガントークの合間を縫って何とか返事をしていたが、10歳…いくら幼く見えるからって…これはかなりショックだ。訂正しなくては。

 「あの、私17歳です」
  と言うと
「え!あらやだ!ごめんね!小っちゃくて可愛いからてっきり…まあ、いいじゃないか!さあ、お入り!中が見たいんだろう?」
  門を開けて中へ招き入れてくれた。

  おばさんはステラさんといって40代前半くらいだろうか、…クッキーが食べたくなるお顔です。そっくりです。旦那さんと一緒に牧場を切り盛りしているのだとか。従業員らしき人が牛の世話をしているのも見える。

  お言葉に甘えて田んぼを見せてもらう。あれ?今春くらいの気候だと思っていたが、それにしては大きい。タイ米とかは年に2,3回収穫とか聞いたことがあるがそういう感じだろうか?聞いてみると収穫は年2回、冬は雪が降るので休むそうだ。雪降るんだ。なるほど~、と思っているとステラさんが不思議そうに言う。

 「それにしても牧場が見たいなんて変わってるねぇ。珍しくもないだろうに」

  前の世界でも牛は近所(と言っても遠いが)でも飼育してたし田んぼも珍しくもないが、異世界ではどうなのか興味があった。それに何といっても…

「お米が好きで!」
  と正直に答えておく。…笑われてしまった。

  お米の隣では小麦が育てられていた。穀物が中心なのかな。ふと放牧地を見ると一頭の牛が柵から顔を出して私を見ている。見た目はジャージー牛に似ている。特に興奮しているようでもなかったのでそっと近寄りまずは手を差し出して匂いを嗅いでもらう。大丈夫そうだ。首の下をカリカリすると、もっと~という感じに首を出してきた。…可愛い。

 「この子は私と主人以外に懐かないんだけどねえ…珍しい事もあるもんだ」
  後ろでステラさんが感心している。
 「そうなんですか?おとなしくていい子に見えますけど」
 「イヤイヤ、うちで1番の暴れん坊だよ」











「旦那や息子にも会わせたかったんだけどねえ…またおいで。ほらこれ、持ってきな」
  そういって手渡されたのはお米だった。
 「え!いいんですか!?い、いや!そういうつもりで来たわけじゃ…それにこんなにたくさん…」
 「いいんだよ!あんなに米が好きって言う人も珍しいよ。持っていきな!」
  ありがたい、非常にありがたいし凄く嬉しい。でも申し訳ない…そうだ!
 「ありがとうございます。じゃあ今度お手伝いさせてください!人出が足りない時でもいつでもいいです」
  ステラさんはまた驚いていたが笑って頷いてくれた。

  手を振って別れ、坂を下る。時刻は8の刻を半分回ったところだ。教会の前を通り真っ直ぐに進んでみる。マッピングしながら歩いているので迷子になる心配はない。

  少し行くと畑もなくなり、道も一本道。引き返そうかと思った時、木々の間から一軒の家が見えた。ひっそりと建っているその家に興味を引かれ近くまで行ってみる。そこにあったのは丸太で作られた家。街の木の家は加工した木の板だったがここは違った。
  とっても懐かしい気持ちになった。林業を営んでいた祖父が建てた、前の世界で暮らしていた家と似ていたから。テラスがあって庭もある。奥に畑がチラッと見えたが荒れている様だ。よく見てみると生活感が感じられない、空き家の様だ。…勿体無い。

  街の中央に戻ったのは10の刻の少し前。よし、せっかくお米が手に入ったんだから土鍋を探そう!同じじゃなくても似た感じの物を。

  雑貨屋さんに入って探しているとそれらしき物を発見。う~ん、でもこれ土かな~?解析してみようか…

<解析>   鍋  調理道具 素材(粘鉄、土)

  あ、それっぽい!…でも今まで素材なんて分からなかったよね?もしかしてまた?確認すると解析が上がっていた。知らないうちに上がってるんだよね、スキル獲得の時しか音がしないってどういう事かな…

 見つけた土鍋に布と紐、裁縫道具などを買って店を出る。結構歩いたので喉が渇いた。果実水なる物を買って傍のベンチに座って飲む。…うん、美味しい。い○はすみたいな感じだ。

 「ナツメ」
  呼ばれて上を向くとシザーさんだった。
 「シザーさん。おはようございます。…?どうかしました?」
  名前を呼んだ後それっきり黙るシザーさん。
 「あ、いや…昨日と全然違うから」
  と言って何故か目を逸らす。
 「え?あ!服装ですか?こっちが普段着なんですが…変ですか?」
  街の女の子と変わらないと思うけど。
 「変じゃねえ、そうじゃなくてだな…」
  と言いながら隣に座る。変じゃなかったらなんだろう?首をかしげながらシザーさんを見ると首に下げている物が目に入る。
 「シザーさん!その首から下げてるの見せてください!」
 「何だ?急に。…これか?」
  と指で引っ張る。私は身を乗り出して先に付いている物を手に取る。シザーさんは少し屈んでくれている。

 <解析>   守りのペンダント   
        アクセサリ 
       (素材)ウェアウルフの牙、皮ひも

 使ってる素材はこれだけか…牙に皮ひもを巻いてあるだけに見えるけど…
「昨日言ってたアクセサリってこれですよね?」
  聞いてパッと顔をあげると、すぐそこにシザーさんの顔があった。その距離10センチ!

 「!」
 「!」

  慌てて手を離し、前を向いて俯く。顔が熱い。きっと耳まで真っ赤だ、どうしよう…

「ご、ごめんなさい…つい夢中になってしまって…」
  は、恥ずかしい!
 「い、いや、別にいい。…大丈夫だ」
  シザーさんの照れも声から伝わってくる。

 「「…」」

  恥ずかしい沈黙を破ったのはシザーさんだった。
 「…そろそろ時間じゃねえか?」
  と言って立ち上がる。
 「え?あ、そうですね」
  私も立ち上がる。
 「俺も呼ばれてんだ、…行くぞ」
 「…はい」

  今日もゆっくり歩いてくれている。やっと落ち着いてきて隣を見上げると、同時にシザーさんもこちらを見る。バッチリ目が合いまた2人して真っ赤になる。
  中学生か!と自分で自分にツッコミを入れたくなった…










 セクロさんの家に着くとシザーさんは入口で来たぞ!と中に声をかけて返事も待たずに上がる。いつもこの家に出入りしているのだろう。勝手知ったる…という感じだ。

 「ナツメ、上がれ」
  と私を促す。
 「お邪魔します」
  と言ってから一緒に歩き出すと
「お姉ちゃん!」
  とマルコの声が聞こえた。そしてその声を追い越しそうな勢いで走ってくると私に力一杯飛びついた。衝撃を抱えきれず後ろにぐらつくがシザーさんが支えてくれる。

  手が背中に…妙に意識して顔が赤くなってしまう。
 「マルコ、ナツメは俺とは違う。加減しねえとケガするぞ。…大丈夫か?」
  とマルコを注意し、私に声をかけてくれる。
 「はい、ありがとうございます…」
 「はぁい、ごめんなさい。…お姉ちゃん、この服似合うね!髪もクルクルになっててとっても可愛い!」
  シザーさんへの返事もそこそこにして私を絶賛してくれる。まあ、髪がウェーブしているのは乾ききらないまま三つ編みにして寝ちゃったからなんだけど。
 「そう?ありがと、マルコ」
  頭を撫でるとえへへ~と嬉しそうな顔をする。…可愛い。

 「いらっしゃい、ナツメちゃん。こっちへどうぞ、マルコは他で遊んでるんだよ」
  マルコはお姉ちゃんと一緒が良い!とごねていたが後で一緒に遊ぼうね、と言うと納得して駆けて行った。
 「…シザー、いつまで触ってんの?」
  ロイさんがジト目でシザーさんを見る。言われて気が付き、お互いサッと姿勢を直した。

 「親父、入るよ」
  ロイさんが声をかけて部屋に入る。案内されたのは昨日の寝室ではなくリビングだった。頑丈そうな木製のローテーブルに革張りのソファー、床には黒い大きな毛皮の敷物。暖炉もある。

  出迎えてくれたセクロさんは昨日とは見違えるほど元気だった。身長はシザーさんより大きく、ガッチリとした体はいかにも冒険者だった。自己紹介と握手を交わし、促されてソファーに座る。重要人物だと思っていた彼はギルドマスターと街の代表を掛け持ちしている凄い人だった。

 「まずはお礼を言わせてくれ、マルコと俺を助けてくれてありがとう。君がいなければ街の混乱は避けられなかった。君は私達だけでなくこのリグレスの恩人なのだ」
  テーブルに頭がぶつかりそうなほど、深々と頭を下げる。
 「そんな大層な事してません。でも、助かって本当に良かったです」
 「ありがとう、でもこれは大層な事、なのだよ」
  セクロさんは一息ついてから話し出す。

 「事の発端は、ここから半日ほどで行ける所にある洞窟でアンテッドが出た事だった。普段は奥に行ってもほとんど見ない魔物だ。だがこういう異常事態は初めての事ではなかったし、ここにはAランク以上の冒険者もいる。だが今回の相手は最悪だった」

  アンテッドは中級に属する魔物だがその実力は上級だとも言われている。何故かというと個体のレベル差が激しいからだ。中級が多いがたまにレベルが高い個体がいる。ただでさえ物理攻撃が効きにくい上に厄介な状態異常攻撃が多いが、最も怖いのがレベルの高いアンテッドが使う猛毒だ。体の至る所から猛毒を吐き出し、触れた者は皆その毒牙にかかる。その猛毒を使うアンテッドが1体だけ混じっていた。本来レベルが高い個体は群れる事はない。だが今回は違った。そして討伐する冒険者たちを束ねていたセクロさんがその毒牙にかかった。

  セクロさんはリグレスとギルドの長だ。有力者は他にもいるがまだ43歳のセクロさんが長を務めるのは、その人望と才あっての事だ。亡くなれば混乱は避けられなかった。

  猛毒は普通の毒と違い、毒消しの実もポイゾナ(毒を直す光魔法)も効かない。上級の光魔法か、調合スキル持ちが作った猛毒消しポーションだけが直せるのだ。

  上級光魔法を持つ者を探しても、リグレスまで来て直してくれるとは限らない。毒消しポーションを手に入れる方法も考えたが、大きな街へ行っても売っているとは限らない。街にあるポーションで延命してはいたが八方塞がりの状態だった。

  皆諦めかけていた。そこにナツメが現れたのだ。

  光魔法を持つものはたまに居るが上級となるとその数はグンと少なくなる。だが調合スキルはもっと少ない。そもそもスキル持ち自体が少ないのだ。目で見るまでは。その効果を見るまでは。信じられないと思っていたのを責めることは出来ないだろう。目の前で奇跡とも呼べる事が起こったのだから。

 「疑いの目で見る者がほとんどだっただろう。すまなかった。それでも救ってくれた。ありがとう」
  長い話の後セクロさんはもう1度深々と頭を下げた。恩人とはいえ、初めて会った子供に礼を尽くす姿を見て、彼の人となりを見た気がした。

  頃合いを見てお茶が運ばれてくる。持ってきてくれたのは昨日毒消しポーションを飲ませてくれた女性だった。セクロさんが紹介してくれた。名前はレネットさん。歳はセクロさんと同じ位だろうか。背はロイさんより少し低い。使用人の中で最も古く、家族同然だと話してくれた。

  レネットさんが私にお礼を言って出て行くと、お茶を一口飲んでからセクロさんが切りだす。

 「ロイから聞いたんだが、冒険者登録したとか」
 「はい、あの、シザーさんに色々教えてもらいまして、自分のペースで出来るならやってみたいと思って」
 「シザーがなぁ、珍しい…」
  と後ろの壁に凭れて立っていたシザーさんを横目で見る。その視線に気が付いた彼はフンッと横を向いた。
 「ここで冒険者登録してくれたという事は、当面はリグレスに居てくれるのか?」
 「はい、お世話になるつもりです」

  他に行く当てがある訳でもないし、他の村や町がどこあるのかも、どういう所かも分からない。そして何より昨日着いたばかりだが、このリグレスが好きになったから。食べ物や雰囲気、人々のやさしさ。一日居ただけでこんなにも感じ取ることができた。決して白猫ちゃんやエルフさんが居るからではない。…ゴメンナサイ、それも多分にあります。

 「そうか!なら話は早い!救ってくれた礼に、君に家を一軒建てようと思っている、どうだ!?」
  セクロさんが身を乗り出しながら言う。 
 「…え!ちょ、ちょっと待ってください!それは受け取れません!」
  慌てて言う。
 「何故だ?遠慮はいらない。ずっと宿に泊まる訳にはいかないだろうし、冒険者専用の安い宿舎もあるがあそこは男ばかりだ。家に来るというのも皆歓迎すると思うがさすがに気が休まらんだろう。家を建てるのが一番良いと思うが」

  そう言われるとその通りなんだけど…何か他に手がないかな。考えていると今日見てきたあの空き家が頭に浮かぶ。

 「あの、どこかに空き家はありませんか?」
  と聞いてみる。
 「空き家?君に似合う空き家なんかあったかな…」
  セクロさんは悩み始めた。
 「石造りで2階建て…風呂と、庭に畑に、厩もいるな。だが空き家となるとな…やっぱり建て…」
  建てる、と言いそうなので急いで希望を言う。

 「そんな立派な家は私にはもったいないです。…でももし叶うなら、教会を左に行った突き当りにあるあの家が良いのですが」
 「教会を左…セリさんの家か…」
  セクロさんが困ったようにつぶやく。それを聞いて驚いた。
 「え、すみません!誰も住んでいないように見えたので、ごめんなさい。なら他でもいいんです、でもあまり立派な家は…すみません、せっかく考えてくださったのに」

  好意を無にしてしまった様で申し訳なくなり俯いてしまう。すると2人が口を開く。

 「ナツメ、お前がそんなに謝る必要はねえ。親父さん、成人したばっかの女に立派な家建ててやってどうすんだよ。そんな事したら、あらぬ噂が立つぜ。…それに、ナツメがセリばあさんの家が良いってんなら、それで良いじゃねえか」
  とシザーさん。

 「そうだよナツメちゃん、気にしないで。親父、本人に喜んでもらわないでどうすんだよ。誰もが豪華なもので喜ぶわけじゃないだろ?セリばあさんだって人に住んでもらった方が喜ぶよ、きっと」
  とロイさん。

  2人がそう言ってくれて正直ほっとした。セクロさんが少し考えてから言う。

 「俺の言い方が悪かったな。あそこは確かに空き家だ。セリさんという人が2年前まで住んでいてな、調合師だったんだよ。身寄りがなくて家も家具もほとんどそのままなんだ。たまに掃除は頼んでいたが裏にある畑もあれてるだろうし…」

  どこかで聞いたと思ったら、そういえばマルコが言ってたんだ。そっか、あそこがそのおばあさんの家だったんだ。セクロさんは気が進まなそうだが、意を決して話す。

 「今朝街の北側を散策したとき、セリさんの家を外からですが拝見しました。確かに畑は荒れている様に見えましたが、そこは少しずつ直していきます。家は人が住んでいないのが良く見ないと分からないほどでしたし、それに…私が前に住んでいた家と似ているんです。ですから、私にあの家を貸してください」
  と頭を下げた。

 「…何だか逆になってしまったな。分かった、あそこが良いと言ってくれるのならそうしよう。ただし、貸すのではなく、譲渡するの間違いだな。」
 「え、でも…」
  言いかける私を手で制して続ける。
 「あそこはセリさんが亡くなる直前、俺が譲り受けた。壊すなりなんなり好きにしろ、と言われたがな、俺も小さい頃から世話になった人だ。壊すことはできなかった。だが住みたいと言ってくれるのなら、あの家は君に譲ろう。よろしく頼む」

  セクロさんの話を聞いていて思った。あの家はこの街にとって大切な人が住んでいたんだと。

 「ありがとうございます」

  こうして私はセリさんの家を譲り受けた。
感想 12

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