異世界ライフは前途洋々

くるくる

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2.初戦闘

 雨が止んだのは15時少し前。ヘルプ(案内ソフト)に聞いた所ここはシドの森という場所で、森を出て80kmほど西に行けば村があるとの事。ただヘルプにも森の中などの細かい道は分からないらしく、自力で出るしかなかった。

  私は今大剣を背に歩いている。ここにはオークがいるというからだ。水も探したいが早く森も出たい、割と切羽詰まった状況だがとにかく歩いていた。この森には林道も無く、土砂降りの影響で地面が水を含んで泥濘んでいる。その上木や草も濡れているので一々体に水が掛かって歩き難い事この上ない。これではもしオークに遭遇しても逃げられない気がする。その時は剣術スキルを頼るしかない。




  さっきの岩場とは反対方向へ向かい始めて小1時間、サラサラ水の流れる音がしてホッとする。音の方へ行くとやはり川があった。幅は広い方だと思うが深くはなくて水も綺麗だ。念の為手に掬って解析すると小さな液晶画面が現れた。

 《解析結果》

 【名前】マラ川の水
 【種類】水
 【状態】普通
 【備考】飲用可・調合可

  特に問題はなさそうなので喉を潤しておく。このまま川に沿って進めば森を出られるかもしれない。それにもしオークに遭遇しても、草木が鬱蒼と茂る森の中では逃げるも戦うもこちらが圧倒的に不利だ。そう考えて私は川沿いを歩き始めた。




  陽が傾き始めた頃、木々の奥から争うような音が聞こえた。

  もしやオーク!?

  私は急いでその場から離れようと走りだしたが、すぐ森から出てきたものに行く手を阻まれた。

 「―――ッ!!」

  やっぱり・・・!

  オークはでっぷり太った体の上半身に薄汚れた革の防具を装備している。手には大きな棍棒。想像と違わぬその醜悪な姿と凶暴な威圧感に足が竦む。だがすでに逃げる事など叶わない事も分かっている。

  やるしかない!!

  震える手で背の大剣を構えた時、棍棒が振り上げられるのが見えた。咄嗟に後ろへ下がると、目の前数センチを凶器が通り過ぎる。ビュンッ!と空を切る音がやけに耳について嫌な汗が背中を伝う。

  でも・・・こんな所でやられてたまるか!

  大剣をギュッと握り直し、棍棒が再び振り下ろされる前にオーク目掛けて思いっきり斬りつける。

 「ゴガァッ!…ガッ…」

  私の剣は革の防具を破って大きく斜めに体を引き裂いた。

  ブシャァ!!

  パックリと割れた傷から勢い良く血が噴き出して銀のアームに飛び散る。オークはカッ!と目を見開いて倒れた。

  やった・・・。

  剣を握ったまま肩で息をして平静に戻ろうとしていると、今度は横からウサギが飛び出してきて後ろを通り過ぎて行く。その音に過剰反応した自分に苦笑しながら構えを解いた。

  と

 そのウサギを追って目の前にまたもやオークが現れた!私に気が付いてこちらを向こうとする奴を先手必勝で攻撃する。一体目よりも小さく、防具も付けていなかったオークの体は真っ二つになって地面に転がった。

  叫び声を発する間も無く死んだオークを暫し呆然として眺める。レベル1で攻撃力8だったのだ。いくら武器を装備したからってここまで飛躍的に攻撃力がアップするとは思えない。なのにこの呆気なさ、それに吐き気を催しそうな光景を目にしているのに堪えられている。

  だがムッとする血の匂いが充満し始めて気持ち悪くなってきた。この匂いで他の魔物まで引き寄せてしまってはかなわない。インベントリにオークを回収し、アームについた血を川でサッと流してからその場を後にした。











 20時を回った頃、やっと森を抜けた。あれからもオークと5回、ホーンラビットと3回遭遇して計14体を討伐。大剣は振るう度に手に馴染んで軽く感じるようになったが、心も体も疲弊していた。

  夜の帳が降りて辺りはすっかり暗くなってしまった。見慣れた月の2倍はありそうな青い球体が夜空に浮かんでいる。

  あれがこの世界の月・・・真っ青。私、本当に異世界に来たんだ・・・。

  分かっていたはずなのに、今一番実感していた。夢を見ているんじゃないかという気持ちがまだ心の隅にあったのだ。早い話が現実逃避だ。

  何故に初戦がオークなのか。剣があるだけで水も食料もお金もないし。オマケに装備はビキニアーマーだし。

  マイナス思考に陥ってはいけないと頭では分かっている。39年の人生にしては色々経験している方だと思う。度胸も適応力も年齢と共に増していると思う。それでも心は思うようにならないものだ。

 「はぁ…」

  思わずため息を吐くがこうしていても仕方がない。私はマントを出して装備し、西に向かって歩き始めた。

 
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