19 / 213
16.襲撃
しおりを挟む
2日目夜。
私とレオハーヴェンさんは23時から見張りをしていた。昨夜と同じくお茶を淹れて彼に勧める。
「お茶どうぞ」
「ああ」
「…あの、今朝はありがとうございました」
地面に毛皮を敷いて座っているので正座して頭を下げた。片膝立てて頬杖ついていた彼が私を見る。
「…別にお前のために言った訳じゃない」
でも、レオハーヴェンさんが言ってくれなければあの嫌味攻撃はまだ続いただろう。それに彼だからこそああして収まった気がするのだ。ハーレム男はずっと黙ってたし。
「でも助かったので」
私はそう返して正座を崩し、足を抱えてお茶を飲む。すると、くくっと笑う声が。声の方を見ると、彼が金の瞳を細めて微笑んでいた。
「変わった女だな」
「…そうですか?」
「ああ」
…また言われた。そんなに変わってるかな?
「お前、コーヒーは飲まないのか?」
「え?…いえ、飲みます。好きです」
そう、紅茶よりコーヒーが好きで毎日飲みたい。でもまだコーヒーミルが見つかっていないので我慢していたのだ。
「そうか、なら明日の朝はコーヒー飲ませてやる」
「わ、ありがとうございます。楽しみです」
嬉しさで声が大きくなりそうなのを極力堪えて答える。
「くくっ…」
また笑われました。何で?
不思議に思って首を傾げた時だった。
「「―――!」」
危機察知に反応。2人ほぼ同時に周囲を見回し、警戒しながら立ち上がる。
「5…いや、6体、おそらくシルバーウルフあたりだ。やれるか?」
「はい」
答えて邪魔なローブを脱ぎ、大剣を出す。それを見た彼も自らの長剣を出した。寝ていた者たちが気がついて起き出してくると、チラッと目線だけ動かして告げた。
「俺たち以外は下がってろ。キラ、来るぜ」
「はい」
私が返事したと同時に銀色のウルフが林から現れた。その速さはヒルバの森で倒したウルフより断然上。だが以前より距離がある。地を蹴ったウルフの斜め後ろへ飛び出しながら横っ腹を斬り裂く。血を吹き出して地面に落ちたのを目の端で捉えて確かめ、側にいたもう1体を斬り付けるが避けられた。私が向き直るより早く襲ってくる。
大剣では間に合わない!
咄嗟に手を掲げて土魔法で防ぐ。
「【ストーンウォール!】」
「ギャインッ!!」
ウルフは突如出現した壁に激突して叫び、のたうち回っている。私はストーンウォールが崩れて土まみれになったウルフにトドメを刺した。
「…なかなかの腕だ」
「ありがとうございます」
私が2体やった間に4体倒したレオハーヴェンさんがこちらへ来る。
が、また反応があった。
2人で気配のした方を見る。
「…まだ居たか。1体だな…俺が行く」
「はい」
姿を見せたのはこの6体より大きな銀色のウルフ。対峙する間も無く双方が土煙りを上げて飛び出し、激突―――――した次の瞬間にはもう決着がついていた。
シルバーウルフは首を斬り落とされて息絶えている。
どうやったのか、経過が全く見えなかった。皆呆気に取られてポカンとしている。もちろん私も。彼は自分が倒した魔物を回収してから言った。
「周囲を確認してくる。キラ、俺が戻るまで警戒を解くな」
「はい、分かりました」
「…後、その2体はお前のだ。しまっとけ」
「え?あ…はい」
足早に林へ消える後ろ姿を見送り、示された2体のシルバーウルフをインベントリに入れた。だが後に残った大量の血痕が気になる。レオハーヴェンさんが戻ったら移動するかもしれないが、このままでは魔物が寄ってくる可能性がある。
少し考え、生活魔法を試す事にした。警戒は怠っていない。
「【洗浄】」
口にした途端ジャバッ!と地面が水浸しになってしまう。自分を洗浄した時よりも酷い濡れように思わず手が止まってしまった。
…まあいいや、乾かすんだし。では気を取り直して。
「【乾燥】」
また一瞬でカラカラに乾く。そりゃもうカラッカラに。
…加減が難しいです。
その後制御するよう心がけながら数カ所を洗浄して回った。
ハーレム夫婦、御者、そして他の3人も呆然としてキラを見ていた。
彼女はビキニアーマーを装備した細い身体で大剣を振り回し、一撃でシルバーウルフを斬り裂き、土魔法を使い、更に生活魔法を駆使して後処理までこなしている。普通生活魔法をこんな風には使わないし、血痕までは処理しない。それに、洗浄も乾燥ももっと時間がかかるはず。余程魔力が多くなければこうはいかないのだ。
血痕が跡形なく綺麗になってすぐレオハーヴェンさんが帰って来た。周囲を見回してちょっと目を見開き、私に聞く。
「どうやって消した?」
…何で私だと分かったのでしょうか。
「え~と…生活魔法で」
「…洗浄か?」
「はい」
答えると少し無言になった後また笑う。
「……くくくっ、洗浄で血痕をねぇ…全く…面白い女だ」
「…面白い、ですか…」
「貶してる訳じゃねぇよ、褒めてんだ」
「……」
イマイチ納得がいかなくて眉を寄せていると彼は御者に向き直った。
「で?今晩はどうするよ、おやっさん」
「あ?あ、ああ…普通は移動するんだが…血痕が無いなら大丈夫な気も…魔物は居たか?」
「いや、見かけたのは片付けたし今この辺には居ねえ」
どうやらレオハーヴェンさんと御者親子は馴染みの仲らしい。昨夜も親しげに話していた。
「そうか…どうするボッシュ」
「うん…移動すると休む時間あまりないし、このままでも良いと思う。…皆さん、どうですか?」
ボッシュさんが客に向かって聞くと、皆頷いて返す。
「俺も大丈夫だと思うぜ」
「そうか。…ではこのままここで野営します。皆さんお休み下さい」
御者(父)がそう言うと、皆自分の寝床へ戻っていく。
「さて、そろそろ交代の時間だよ。レオンと…キラさんも休んで下さい」
「…いや、皆休め。特におやっさんとボッシュは昨夜も殆ど寝てねえだろ」
確かにそうだ。私たちは昼間馬車に乗っているだけだが御者の2人は違う。まあそれが仕事だと言われればそれまでだが、寝不足はハーレム夫婦の営みが原因なのだから彼らに非はない。
「そう言うわけにはいかんよ。仮にもレオンは客だからな」
「…仮じゃなくても客だが…居眠り操作でもされたら困るからな」
「う~ん…」
まだ迷っている。真面目な人たちなんだなぁ。
「あの…私が言うのも烏滸がましいですが…今回の場合は休むのも仕事のうちだと考えませんか?今夜はもう大丈夫だという事ですし、休むには良いタイミングだと思いますよ」
思い切って話してみると、3人してキョトン、とした顔で私を見る。
「…くくっ、こいつの言う通りだ。サッサと休め」
「休むのも仕事のうち、ですか…ありがとうございます。ではお言葉に甘えます。さ、少し寝よう。ボッシュ」
「父さんが良いなら、良いけど…キラさんすみません、レオン、悪いね」
「別に良い」
2人が寝床へ行き、私とレオハーヴェンさんも焚き火の前に座って休む。時刻は午前2時を過ぎた。5時に起床し、6時には発つ事になっている。
「…お前も寝て良いぜ」
「ありがとうございます。でも私は良いんです。それこそ明日の昼間に馬車で寝ますから」
「くくっ、そうかよ。付き合わせちまったな…」
彼の言葉に謝罪の意を感じる。良い人だなぁ。
「礼に今コーヒー飲ませてやろうか」
「えっ、ホントですか?」
「ああ、待ってろ…ほら」
カップを受け取ると良い香りが鼻を擽る。
「…すみません、ありがとうございます…はふぅ…良い香り……わ、すごく美味しいです」
「…そうか」
「はい」
こうして私は異世界初コーヒーを楽しむ事が出来た。
私とレオハーヴェンさんは23時から見張りをしていた。昨夜と同じくお茶を淹れて彼に勧める。
「お茶どうぞ」
「ああ」
「…あの、今朝はありがとうございました」
地面に毛皮を敷いて座っているので正座して頭を下げた。片膝立てて頬杖ついていた彼が私を見る。
「…別にお前のために言った訳じゃない」
でも、レオハーヴェンさんが言ってくれなければあの嫌味攻撃はまだ続いただろう。それに彼だからこそああして収まった気がするのだ。ハーレム男はずっと黙ってたし。
「でも助かったので」
私はそう返して正座を崩し、足を抱えてお茶を飲む。すると、くくっと笑う声が。声の方を見ると、彼が金の瞳を細めて微笑んでいた。
「変わった女だな」
「…そうですか?」
「ああ」
…また言われた。そんなに変わってるかな?
「お前、コーヒーは飲まないのか?」
「え?…いえ、飲みます。好きです」
そう、紅茶よりコーヒーが好きで毎日飲みたい。でもまだコーヒーミルが見つかっていないので我慢していたのだ。
「そうか、なら明日の朝はコーヒー飲ませてやる」
「わ、ありがとうございます。楽しみです」
嬉しさで声が大きくなりそうなのを極力堪えて答える。
「くくっ…」
また笑われました。何で?
不思議に思って首を傾げた時だった。
「「―――!」」
危機察知に反応。2人ほぼ同時に周囲を見回し、警戒しながら立ち上がる。
「5…いや、6体、おそらくシルバーウルフあたりだ。やれるか?」
「はい」
答えて邪魔なローブを脱ぎ、大剣を出す。それを見た彼も自らの長剣を出した。寝ていた者たちが気がついて起き出してくると、チラッと目線だけ動かして告げた。
「俺たち以外は下がってろ。キラ、来るぜ」
「はい」
私が返事したと同時に銀色のウルフが林から現れた。その速さはヒルバの森で倒したウルフより断然上。だが以前より距離がある。地を蹴ったウルフの斜め後ろへ飛び出しながら横っ腹を斬り裂く。血を吹き出して地面に落ちたのを目の端で捉えて確かめ、側にいたもう1体を斬り付けるが避けられた。私が向き直るより早く襲ってくる。
大剣では間に合わない!
咄嗟に手を掲げて土魔法で防ぐ。
「【ストーンウォール!】」
「ギャインッ!!」
ウルフは突如出現した壁に激突して叫び、のたうち回っている。私はストーンウォールが崩れて土まみれになったウルフにトドメを刺した。
「…なかなかの腕だ」
「ありがとうございます」
私が2体やった間に4体倒したレオハーヴェンさんがこちらへ来る。
が、また反応があった。
2人で気配のした方を見る。
「…まだ居たか。1体だな…俺が行く」
「はい」
姿を見せたのはこの6体より大きな銀色のウルフ。対峙する間も無く双方が土煙りを上げて飛び出し、激突―――――した次の瞬間にはもう決着がついていた。
シルバーウルフは首を斬り落とされて息絶えている。
どうやったのか、経過が全く見えなかった。皆呆気に取られてポカンとしている。もちろん私も。彼は自分が倒した魔物を回収してから言った。
「周囲を確認してくる。キラ、俺が戻るまで警戒を解くな」
「はい、分かりました」
「…後、その2体はお前のだ。しまっとけ」
「え?あ…はい」
足早に林へ消える後ろ姿を見送り、示された2体のシルバーウルフをインベントリに入れた。だが後に残った大量の血痕が気になる。レオハーヴェンさんが戻ったら移動するかもしれないが、このままでは魔物が寄ってくる可能性がある。
少し考え、生活魔法を試す事にした。警戒は怠っていない。
「【洗浄】」
口にした途端ジャバッ!と地面が水浸しになってしまう。自分を洗浄した時よりも酷い濡れように思わず手が止まってしまった。
…まあいいや、乾かすんだし。では気を取り直して。
「【乾燥】」
また一瞬でカラカラに乾く。そりゃもうカラッカラに。
…加減が難しいです。
その後制御するよう心がけながら数カ所を洗浄して回った。
ハーレム夫婦、御者、そして他の3人も呆然としてキラを見ていた。
彼女はビキニアーマーを装備した細い身体で大剣を振り回し、一撃でシルバーウルフを斬り裂き、土魔法を使い、更に生活魔法を駆使して後処理までこなしている。普通生活魔法をこんな風には使わないし、血痕までは処理しない。それに、洗浄も乾燥ももっと時間がかかるはず。余程魔力が多くなければこうはいかないのだ。
血痕が跡形なく綺麗になってすぐレオハーヴェンさんが帰って来た。周囲を見回してちょっと目を見開き、私に聞く。
「どうやって消した?」
…何で私だと分かったのでしょうか。
「え~と…生活魔法で」
「…洗浄か?」
「はい」
答えると少し無言になった後また笑う。
「……くくくっ、洗浄で血痕をねぇ…全く…面白い女だ」
「…面白い、ですか…」
「貶してる訳じゃねぇよ、褒めてんだ」
「……」
イマイチ納得がいかなくて眉を寄せていると彼は御者に向き直った。
「で?今晩はどうするよ、おやっさん」
「あ?あ、ああ…普通は移動するんだが…血痕が無いなら大丈夫な気も…魔物は居たか?」
「いや、見かけたのは片付けたし今この辺には居ねえ」
どうやらレオハーヴェンさんと御者親子は馴染みの仲らしい。昨夜も親しげに話していた。
「そうか…どうするボッシュ」
「うん…移動すると休む時間あまりないし、このままでも良いと思う。…皆さん、どうですか?」
ボッシュさんが客に向かって聞くと、皆頷いて返す。
「俺も大丈夫だと思うぜ」
「そうか。…ではこのままここで野営します。皆さんお休み下さい」
御者(父)がそう言うと、皆自分の寝床へ戻っていく。
「さて、そろそろ交代の時間だよ。レオンと…キラさんも休んで下さい」
「…いや、皆休め。特におやっさんとボッシュは昨夜も殆ど寝てねえだろ」
確かにそうだ。私たちは昼間馬車に乗っているだけだが御者の2人は違う。まあそれが仕事だと言われればそれまでだが、寝不足はハーレム夫婦の営みが原因なのだから彼らに非はない。
「そう言うわけにはいかんよ。仮にもレオンは客だからな」
「…仮じゃなくても客だが…居眠り操作でもされたら困るからな」
「う~ん…」
まだ迷っている。真面目な人たちなんだなぁ。
「あの…私が言うのも烏滸がましいですが…今回の場合は休むのも仕事のうちだと考えませんか?今夜はもう大丈夫だという事ですし、休むには良いタイミングだと思いますよ」
思い切って話してみると、3人してキョトン、とした顔で私を見る。
「…くくっ、こいつの言う通りだ。サッサと休め」
「休むのも仕事のうち、ですか…ありがとうございます。ではお言葉に甘えます。さ、少し寝よう。ボッシュ」
「父さんが良いなら、良いけど…キラさんすみません、レオン、悪いね」
「別に良い」
2人が寝床へ行き、私とレオハーヴェンさんも焚き火の前に座って休む。時刻は午前2時を過ぎた。5時に起床し、6時には発つ事になっている。
「…お前も寝て良いぜ」
「ありがとうございます。でも私は良いんです。それこそ明日の昼間に馬車で寝ますから」
「くくっ、そうかよ。付き合わせちまったな…」
彼の言葉に謝罪の意を感じる。良い人だなぁ。
「礼に今コーヒー飲ませてやろうか」
「えっ、ホントですか?」
「ああ、待ってろ…ほら」
カップを受け取ると良い香りが鼻を擽る。
「…すみません、ありがとうございます…はふぅ…良い香り……わ、すごく美味しいです」
「…そうか」
「はい」
こうして私は異世界初コーヒーを楽しむ事が出来た。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
4,850
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる