異世界ライフは前途洋々

くるくる

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63.引き渡し

 翌朝、夜が明けきる前に起きて日の出とともに野営地を発つ。馬が何かに驚いて逃げたのならもしかして戻ってるかもしれない、という事で馬車のところまで行ってみる。すると本当に戻っていた。でもよく見れば馬体には無数の細かい傷、足もケガしていたので回復魔法で治した。その後馬を繫いで街道近くから馬車に乗った。御者はエヴァさん、中には腰に布を巻いたザロと監視役のレオンさん、私はエヴァさんの隣に座りスノウは馬の頭の上。歩いても半日なので馬車ならさほど時間は掛からない。休憩なしで一気にヴェスタへ帰る。

 ヴェスタの北門前にチェック待ちの列は出来ていなかった。馬車は中のチェックがあるのでエヴァさんが兵士に事情を説明する。若干驚いた様子の兵士が後ろへまわって中を覗き、すぐ商業ギルドへ向かうようにとの言葉をもらって街中へ。当然そのままギルドへ直行した。











「なるほど…妬む輩も居るだろうとは思ったが…ダグラムか」

 腕を組んで考え込むデュパリー統括。ギルドに着いて職員に事情説明したが、ダグラムの名が出た途端統括室に通された。そしてまた一から説明し終えたところである。ザロは拘束された後薬で眠らされている。この後兵士に引き渡されるのだ。何だかまどろっこしいやり方だが仕方がない。

「奴隷ですから主人の名を口にはしませんが、タイミングや汚いやり口から考えてもダグラム以外は考え難いと思います」

 ダグラムの傲慢さや汚いやり口は商人どころか冒険者でも知っている。いつも自分が捕まらないギリギリのやり方で目障りな相手を排除するので、泣き寝入りした商人も多い。

「…そうだな。君らも知ってるだろうが、ダグラムにはかなり前から黒い噂がある。ザロは今回未遂だがスキルから推察しても余罪は多分にあるはずだ。そしてそれはダグラムへ繋がるだろう。突き詰めれば或いは…いや…不確定な話はやめておこう。兵士の方からも事情を聴かれるだろうがよろしく頼むよ」

 統括の執務室を出た私たちは、やってきた兵士と一緒に詰め所に移動して再度事情を聴かれた。…三度目ですよ、もうちょっと効率的にならないのもだろうか。

 午前中のうちに街に着いたのに、帰宅したのは夕方だった。

 これでダグラムが捕まれば奴隷落ち、今までとは逆に命令される立場になるのだ。それは物凄く屈辱だろう。それでも2人は自分らでボコボコにしてやりたかったと残念がっている。スノウも『まるやき…』とまた物騒なことを呟いていた。

 ダグラム自らが殴りかかるなり、水戸◯門みたいに分かりやすく『斬り捨て~い!』とかしてくれれば本人にやり返せたんだけど。盗賊などの場合は別だが、この世界でも人を殺めたり傷付けるのは罪なのだ。残念?だけどダグラムの事に関してこれ以上私たちに出来る事はない。

 今日は戦った訳でも無いのにみんな疲れが顔に出ている。簡単に夕飯を済ませて早々に眠りについた。











 翌日。冒険者ギルドへ行って依頼達成の報告をし、解体を頼んでから街の外へ。別に出掛ける訳ではない。コテージでレオンさんは王子様注文のカトラリー、エヴァさんは魔道具、私は調合をそれぞれ行うためだ。

 街道から少し離れてコテージを出す。レオンさんは裏の炉へ、エヴァさんも今日は外の方が作業しやすいという事で私とスノウだけ中へ入った。

「スノウはスノウのへやにいるの!そとにもいきたいからまどあけてほしいの!」
「はい、これで良い?」

 スノウの部屋となったロフト部分には小さな窓がある。そこを開けると下の方でレオンさんが炉に火を入れているのが見えた。

「ありがとなの!」

 スノウは窓枠に止まって外を眺め、ご満悦の様子だ。余程自分の部屋が嬉しかったらしい。

「遠くへ行っちゃだめだよ?」
「わかったの!」

 私はロフトを下りてリビングへ行き、まだ家具のない部屋にバザールで使ったテーブルとイスを出す。外で使った物だが浄化済みなので新品のように綺麗だ。その上に道具を出して作業を始める。今日作るのは魔除け香と避妊薬で、時間があれば他にも作っておくつもり。相変わらず自然と知識や調合方法が脳にしみこむ。ありがたいです。

 最初は魔除け香。まず魔除け草を乳鉢ですり潰し、水を加えて伸ばす。普通の水で良いのだが綺麗な方がより効果が高まるので浄化した水を使った。アレンジ可能なのでここでもうひと工夫、様々な効果があるラベンダを生活魔法で乾燥させて加えます。これにロウを削って入れ、小鍋に移してランプで温める。ロウが溶け、全体が満遍なく混ざったら火からおろして粗熱を取る。後は冷めないうちに魔力を込めながら形を整え、固めれば完成。魔除け草は熱を加えると白くなるので芯のないロウソクみたいだ。私の場合ラベンダを混ぜたので薄紫で可愛い。調合楽しい~。

「出来た。解析してみようかな」



【名前】魔除け香?
【種類】薬?
【状態】最高
【備考】効果対象、全ランク・アンデッド系魔物即死効果有り・リラックス、睡眠促進効果有り・状態異常治癒効果有り・ラベンダの香り



 あれ…?なんかやっちゃった感じ?ハテナついてるよ…薬かどうかもあやしいのか。

「…凄えもん作ったな…」
「ひゃっ」

 いきなり後ろから声が聞こえ、ビックリして振り向くといつの間にかレオンさんとエヴァさんが立っていた。

「…効果がとんでもないことになってる。アンデッド系即死に状態異常治癒…確かに魔除け香?ってなるよね」
「何使ったらこんなになるんだ?」
「…えっと…水かな?浄化した水」

 小さな画面を覗き込む2人。

「…浄化スキル使った?」
「うん…綺麗な水の方が効果が高まるから…」
「確かに高まったな」
「そうだね。高まり過ぎて魔除け香の域を遥かに超えちゃったけど」
「ハハハ…」

 乾いた笑いが漏れてしまいます。

「自分たちで使う分にはありがたいよ」
「ああ、これがあれば魔物の巣穴でだって眠れるぜ?だが、魔除け香を売る時がきたら手加減して作らねえと大騒ぎになる」
「調合時は注意が必要だね」
「はい…」

 若干しゅんとした私の頬に2人に唇がふれる。

「…旅では魔除け対策をきちんとしないと体も心も休まらない。でもオレたちはこれのおかげで安心だよ」
「そうだぜ。睡眠促進とリラックス効果まである、最高じゃねえか」
「…ありがとう」

 結局最後は褒めてくれる。優しい…ダンナ様、です。

「フフ…さ、お昼にしようか」
「ああ。…スノウはまだロフトか?」
「そうなの。ずっとロフトから離れなくて」
「くくっ…えらく気に入ったもんだな。連れてくるから飯頼む」
「了解」
「うん」

 私とエヴァさんは昼食の準備にかかった。











 天気が良いのでテラスにテーブルを出して食べる事に。昼食は肉巻きおにぎりやサンドイッチ、ポタトサラダ、キノコとベーコンのバター炒めなどで、今朝家で作って来たので出して並べただけだ。スノウは窓辺でスヤスヤ眠っていたが、レオンさんに『飯だぞ』と言われて飛び起きたらしい。

「スノウ、肉ばっか食うな」
「スノウ、野菜も食べないとダメだよ?」
「…はいなの…」

 野菜を避けて食べていたのを見つかって渋々返事する。

 最近好き嫌いが出てきて野菜を嫌がる時がある。レオンさんとエヴァさんの目を盗んで残そうとするが2人が見逃すはずも無く、こうして注意されている。野菜嫌いの小鳥…ま、まあスノウはフェニックスだし肉好きでも良いとは思うんだけど…バランスは大事だよね。

「それにしても…テラスで食べるのって気持ちいいね」
「ああ、良いな。旅に出てもしばらくはコテージの方を使うか」
「そうだね、満喫したいよ」

 コテージの方を?テントじゃなく、という事だろうか?でも何だかそれとはニュアンスが違うような…2人の会話に疑問を感じて聞いてみる。

「ねえ…コテージの方を、ってどういうこと?」
「ん?もちろん家じゃなくこのコテージで過ごそうって事だよ」
「キラの魔除け香は効果範囲が広いから家の方でも良いんだが、気分的にな」
「え、ちょっと待って。もしかして、旅立つ時あの大きな家も持っていくの?」
「ああ」
「うん、そうだよ」

 当然のように言われて呆気にとられる。

「あれ、びっくりしてる?家を持ち歩く案はキラが教えてくれたんだよ?」
「で、でも配管とか、排水とか…」

 その後説明されて分かった。

 日本での家屋の建て方など全く分からないが、家と聞けばガスや水道などの配管とか色々あって簡単に移動など出来無いのが当たり前。私の中でコテージは移動できるように作った家で、普通の家はそんな事出来ないと思っていたのだ。

 でも違った。

 この世界では捨てるものなどない、それはスライムゼリーが全て吸収するからだ。家の大きさによっても違うが要所要所に設置されていて流れてくるものを吸い取る。だから入るだけのインベントリさえあれば家は持ち運べる。2人はその事をデルタ山の野営場で私に気付かせてもらったのだと言った。

 言われてみればこの世界はそもそもゴミが少ない。買い物をしてもビニールやパックに入っている訳ではなく、大概自分で入れ物を用意して行って入れてもらうのだ。包まれていたとしても布袋や木皮で、まだインベントリを使えない子供などがカゴを持っているのを何度か見かけた事がある。

 だからヴェスタのような大きな街でもゴミなど落ちていなくて綺麗なのだ。

 理解できたので次は私が驚いた理由を話すと2人も驚きつつ納得していた。

「なるほどね」
「…そういう事か」
「うん、だからびっくりしたんだけど…良かった」
「ん?」
「2人がずっと住んでたあの家も持っていけるんでしょう?手放すのは寂しいもんね」
「…ああ、そうだな」
「…そうだね」

 私たちは微笑みあってから軽くキスした。 

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