46 / 62
番外編2 正体不明の男
4.身分違いの恋の結末
しおりを挟む
翌朝早くからクルトがもぞもぞと寝台の上で動くので、カールもヤコブも目が覚めてしまった。なにせ粗末な寝台は寝返りを打つとギシギシ酷い音がするのだ。
「すまん、2人とも起こしちゃったか」
「兄ちゃん、うるさいよ。もうちょっと寝かせてよ」
「すまん。俺はもう起きて身支度するけど、お前はもうちょっと寝てていいぞ。カールももう少し寝てて」
「いや、俺も起きるよ」
クルトとカールはさっと身支度して家の周りを散策することにした。外は日が出たばかりでまだ薄暗い。
「今日は、俺が仕えていた領主様のお嬢様に会うんだ。お前も一緒に来るか?」
「いや、俺が行っても邪魔だろう?」
「邪魔じゃないよ。それどころか助けてもらえると嬉しい。領主様には俺達の関係は内緒だから、彼女は街へ買い物に行って俺は偶然お会いしたという形をとるしかない。俺がお嬢様と話している間、彼女の侍女の気を引いてくれるか?」
「ああ、俺で役に立つなら。護衛はいないのか?」
「護衛は俺とお嬢様の連絡を取り持ってくれてる仲間だよ。侍女は運がよければ俺達の仲を知っている侍女だけど、悪ければ違う侍女が来るんだ」
2人は少し歩いて家に戻って朝食の準備を手伝った。朝食後、クルトは少し身を清めて彼にとっては一番上等な服を着た。
クルトの家は村はずれにあり、馬を飼う余裕はない。2人は馬を借りるために村の中心地まで1時間程歩いて行った。領主の屋敷のある街までは馬車で半日、騎馬だと数時間程かかる。クルトとカールが街に着いた頃には既に昼はとっくに過ぎていた。
クルトはカールととあるカフェに入り、入口がよく見える席に座り、紅茶を注文した。
「もうすぐいらっしゃるはずだ。そうしたら俺にお声をかけて下さるから、個室に移動する。お前は護衛と一緒に侍女に話しかけてくれ」
2人が紅茶をすっかり飲む干してしまった頃、ようやく例のお嬢様らしき女性が護衛1人と侍女1人連れてカフェに入ってきた。クルトは彼女の姿を認めた途端、輝くような笑顔になったが、肝心のお嬢様の顔は雲ったままだった。だが、クルトは愛しい女性に久しぶりに会えて気分が高揚していてそれに気付かなかった。
「あら、クルト、久しぶりね。国境警備隊で休暇をもらって帰って来てたの?」
「はい、おととい帰ってきました」
「こちらの方は?」
「私の同室だった元隊員でカールと言います。つい先日除隊しました」
「初めまして。警備隊在職中はクルトによくしてもらいました」
「ちょうどよかったわ。これから個室でお茶を飲むの。貴方達もいらっしゃいな」
実際にはお嬢様の侍女と護衛はクルトに気遣って個室には入らず、カールと3人で話しながらクルト達を待つことになった。今日は運よくクルトとお嬢様の関係を密かに応援してくれていた侍女がお嬢様の外出に付き添っていたからこそだった。
「クルト、久しぶりね」
「キアラ様、お会いしたかった……」
クルトはかつての主キアラの隣に移動して手を握ろうとしたが、制止された。
「え? どうされたのですか?」
「結婚前の女性が男性と2人きりで手を握り合うなんて許されないわ」
「でも俺達は恋人同士でしょう? それ以上の事をするつもりはありませんから、せめてこのぐらいの触れ合いは許して下さいませんか?」
「秘密の関係でも、恋人同士なら許したわ。でも……」
「まるで過去みたいな言い方ですね。まさか心変わりされたのではないですよね?!」
「ごめんなさい……もう過去にしなくてはならないのよ。私ね、輿入れが決まったの。3ヶ月後に嫁ぐわ」
「嘘でしょう?! 後1年ちょっと国境警備隊で頑張れば、俺は一代男爵位と結構な年金をもらえるんですよ? それまで待っていて下さるって言っていたじゃありませんか?!」
「待ちたかったのは本当よ。でも私は領主の娘でもう20歳。そんな立場の女性がずっと未婚のままではいられないわ」
「それでも待っていただけると話し合ったではありませんか?!」
「そうね……本当にそうなのだけど……去年、うちの領地は不作で備蓄食料を放出しても足りなかったでしょう? 貴方の家族は貴方の仕送りで無事だったようだけど」
「それじゃ……キアラ様は身売りしたのですか?!」
「人聞きが悪いわ。お父様にもこれ以上、婚姻は嫌と我儘を言えなくなったの。仮にも領主の娘なのよ。それなりの責任を果たさなくては……」
「俺は駆け落ちしてでもキアラ様と一緒にいたい! 今から駆け落ちしましょう!」
「ごめんなさい……うちの領地は援助が必要なの。それに今駆け落ちしたら、侍女と護衛にも迷惑がかかるわ。もう貴方には会えない……さようなら……」
キアラは席を立った。その頬は濡れていた。
「ま、待って下さい!」
クルトはキアラの腕を掴もうとしたが、彼の手と彼女の腕は2人の運命のように重ならずに離れていった。
「すまん、2人とも起こしちゃったか」
「兄ちゃん、うるさいよ。もうちょっと寝かせてよ」
「すまん。俺はもう起きて身支度するけど、お前はもうちょっと寝てていいぞ。カールももう少し寝てて」
「いや、俺も起きるよ」
クルトとカールはさっと身支度して家の周りを散策することにした。外は日が出たばかりでまだ薄暗い。
「今日は、俺が仕えていた領主様のお嬢様に会うんだ。お前も一緒に来るか?」
「いや、俺が行っても邪魔だろう?」
「邪魔じゃないよ。それどころか助けてもらえると嬉しい。領主様には俺達の関係は内緒だから、彼女は街へ買い物に行って俺は偶然お会いしたという形をとるしかない。俺がお嬢様と話している間、彼女の侍女の気を引いてくれるか?」
「ああ、俺で役に立つなら。護衛はいないのか?」
「護衛は俺とお嬢様の連絡を取り持ってくれてる仲間だよ。侍女は運がよければ俺達の仲を知っている侍女だけど、悪ければ違う侍女が来るんだ」
2人は少し歩いて家に戻って朝食の準備を手伝った。朝食後、クルトは少し身を清めて彼にとっては一番上等な服を着た。
クルトの家は村はずれにあり、馬を飼う余裕はない。2人は馬を借りるために村の中心地まで1時間程歩いて行った。領主の屋敷のある街までは馬車で半日、騎馬だと数時間程かかる。クルトとカールが街に着いた頃には既に昼はとっくに過ぎていた。
クルトはカールととあるカフェに入り、入口がよく見える席に座り、紅茶を注文した。
「もうすぐいらっしゃるはずだ。そうしたら俺にお声をかけて下さるから、個室に移動する。お前は護衛と一緒に侍女に話しかけてくれ」
2人が紅茶をすっかり飲む干してしまった頃、ようやく例のお嬢様らしき女性が護衛1人と侍女1人連れてカフェに入ってきた。クルトは彼女の姿を認めた途端、輝くような笑顔になったが、肝心のお嬢様の顔は雲ったままだった。だが、クルトは愛しい女性に久しぶりに会えて気分が高揚していてそれに気付かなかった。
「あら、クルト、久しぶりね。国境警備隊で休暇をもらって帰って来てたの?」
「はい、おととい帰ってきました」
「こちらの方は?」
「私の同室だった元隊員でカールと言います。つい先日除隊しました」
「初めまして。警備隊在職中はクルトによくしてもらいました」
「ちょうどよかったわ。これから個室でお茶を飲むの。貴方達もいらっしゃいな」
実際にはお嬢様の侍女と護衛はクルトに気遣って個室には入らず、カールと3人で話しながらクルト達を待つことになった。今日は運よくクルトとお嬢様の関係を密かに応援してくれていた侍女がお嬢様の外出に付き添っていたからこそだった。
「クルト、久しぶりね」
「キアラ様、お会いしたかった……」
クルトはかつての主キアラの隣に移動して手を握ろうとしたが、制止された。
「え? どうされたのですか?」
「結婚前の女性が男性と2人きりで手を握り合うなんて許されないわ」
「でも俺達は恋人同士でしょう? それ以上の事をするつもりはありませんから、せめてこのぐらいの触れ合いは許して下さいませんか?」
「秘密の関係でも、恋人同士なら許したわ。でも……」
「まるで過去みたいな言い方ですね。まさか心変わりされたのではないですよね?!」
「ごめんなさい……もう過去にしなくてはならないのよ。私ね、輿入れが決まったの。3ヶ月後に嫁ぐわ」
「嘘でしょう?! 後1年ちょっと国境警備隊で頑張れば、俺は一代男爵位と結構な年金をもらえるんですよ? それまで待っていて下さるって言っていたじゃありませんか?!」
「待ちたかったのは本当よ。でも私は領主の娘でもう20歳。そんな立場の女性がずっと未婚のままではいられないわ」
「それでも待っていただけると話し合ったではありませんか?!」
「そうね……本当にそうなのだけど……去年、うちの領地は不作で備蓄食料を放出しても足りなかったでしょう? 貴方の家族は貴方の仕送りで無事だったようだけど」
「それじゃ……キアラ様は身売りしたのですか?!」
「人聞きが悪いわ。お父様にもこれ以上、婚姻は嫌と我儘を言えなくなったの。仮にも領主の娘なのよ。それなりの責任を果たさなくては……」
「俺は駆け落ちしてでもキアラ様と一緒にいたい! 今から駆け落ちしましょう!」
「ごめんなさい……うちの領地は援助が必要なの。それに今駆け落ちしたら、侍女と護衛にも迷惑がかかるわ。もう貴方には会えない……さようなら……」
キアラは席を立った。その頬は濡れていた。
「ま、待って下さい!」
クルトはキアラの腕を掴もうとしたが、彼の手と彼女の腕は2人の運命のように重ならずに離れていった。
0
あなたにおすすめの小説
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる