始まりは偽装デキ婚から【R18】

田鶴

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32.告白(*)

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 結婚から7年経っても、寝室を普段から共にしていているのにラルフとゾフィーはまだ白い結婚絶賛継続中だった。それでも蝸牛のようなのんびりとした歩みで頬や額へのキスから唇へのキスへ何年もかけてやっと到達した。

 ルドルフへの罪悪感はゾフィーの心の中で完全にはなくなってはいなかった。でもそれは、ゾフィーがラルフを受け入れられない理由にはもうなっていなかった。ルドルフがいなければ、かわいいミハエルも存在しえなかった。だからその思いを完全に消さなくてもいいのではないか。そんな風に罪悪感を時とともに昇華できつつあった。

 だからこの頃には2人とも本心では本当の夫婦になりたいと思っていたが、お互いなかなか言葉と態度に出せずにここまで来てしまったのだった。

「はぁー……」

「どうしましたか、若旦那様。まだゾフィー様とのことをお悩みですか?」

「本当の夫婦になりたいよ。でもこんなの僕の欲望だ。それをゾフィーに言ったらきっといやらしいって嫌われるよね?」

「本当にそう思われますか?ゾフィー様も若旦那様を慕ってらっしゃるように見えますよ。きっと若旦那様からの言葉と行動を待っていらっしゃるのではないでしょうか?」

「そうかなぁ。でもそうやって万一嫌われちゃったらどうする?」

「若旦那様、しっかりしてください! 一体何年、若奥様のことを見ていらっしゃるのですか! 若奥様のお気持ちはわかるでしょう?」

「コンスタンティン、独り者のお前には夫婦の機微ってものがわからないんだよ!」

「言ってくださいますね。公爵家が私をこき使うから私は結婚できないのですよ。それでも私は若奥様の気持ちには気づきましたが?」

「女性をくどく時間がないほどこき使ってはいないだろう?その気になったらお前と一緒になりたい女性はいくらでもいると思うけどな。お前に釣り合う女性を探そうか?」

「冗談ですよ。結婚する気はないので、見合いは勘弁してください」

 執事コンスタンティンに発破をかけられてようやくラルフは決意した。

 ゾフィーの居室のドアの前に立った時、ラルフはいつになく緊張し、ノックしようとした拳は手汗にまみれて震えていた。その緊張は、ドアを開けて彼女の顔を見て最高潮に達した。

「ゾフィー、ちょ、ちょっといいかな?」

「はい、何でしょう?」

「その、あの、僕はゾフィーが望むまで……その、だ、抱かないって約束したよね?」

「ええ、覚えています……」

「ぼ、ぼ、僕は君を愛しているから、いつでも……だ、だ、だ……抱きたいっ!」

 ラルフの声は緊張のあまり裏返ってしまった。

「まぁ……ラルフったら……」

 ゾフィーは顔を真っ赤にして両手で覆った。ラルフはそれを見て青くなって口を手で押さえた。

「あ、あ、ち、違うんだ!」

「え? 違うって?!」

 明らかにゾフィーは戸惑って失望していた。それを見てラルフはますますあせってしまった。

「ち、違うって言うのも違うんだ!いや、違うって言うか、その……」

「ラルフ、落ち着いてください」

「ご、ごめん……その、僕が言いたかったのは……君が望まないならもちろんこのまま白い結婚を続けてもいい……」

「え?」

 それを聞いてゾフィーはさっきよりもっと失望した。でもその気持ちが顔に出たと気づいた途端、恥ずかしくなって赤くなった。その様子を見てラルフは誤解した。

「ごめん、こんなこと言っちゃいけなかったね……」

 しゅんとして去って行くラルフの後ろ姿を見るゾフィーは、落胆の色を隠せなかった。

 情けなく敵前逃亡したラルフは、翌日またもやコンスタンティンに愚痴っていた。

「若旦那様、ぐちぐち言ってないで、本音からズバリと始めてはどうなんですか?口下手なのにいちいち前提から説明しようとしていつも自爆してますよね」

 何度目かわからないコンスタンティンの発破を受けてその日の夜、ラルフはもう一度アタックすることにした。

 ラルフがいつもの就寝時間に夫婦の寝室に入ると、ゾフィーは既に寝台で横になって目をつぶっていた。普段、彼女が起きていたらラルフは軽く唇におやすみのキスをするが、彼女が目をつぶっていたら静かに隣に横になるだけで近づくことはない。でも今夜は寝台に上がってそっとゾフィーに近づいた。マットレスがギシリと沈んでもゾフィーは目をつぶったままだったが、ピクリと彼女の身体が動いた。

「ゾフィー……ゾフィー、起きている?」

「ええ。どうしたの?」

 ラルフは大きく息を吸って彼女の目を見つめた。

「ゾフィー、君を愛してる……!」

 ラルフは愛を告白してゾフィーをぎゅっと抱きしめ、口づけた。勢いをつけなくては前の繰り返しになってしまうから、ラルフは積極的に攻めることにし、ゾフィーの唇の間に舌を入れようとしたが、ゾフィーは口を割らなかった。ラルフは夜着の上からもわかる豊満な胸に手を伸ばしてそっと触ったが、ゾフィーの身体はこわばったままだったので、ゾフィーから身体を離した。

「ごめんね。強引だったよね」

「いいえ、そんなことないです……」

 ゾフィーの身体がこわばったままだったのは、しばらくぶりの乳房への愛撫に恥ずかしくなって緊張してしまったからだった。本当はうれしかったのに態度に出せなかっただけなのだ。

「本当に?結婚する時に君が白い結婚を望むならそうするって約束したのにキスしてそれ以上のことをしようとした僕のほうが悪かった」

「そんなことないんです! だってわ、私は……ラルフのことが、す、す……」

「す……?」

「す、好き……なんです! 愛してます!」

「本当に?! ゾフィー! ぼ、僕も……君を……愛してる!!」

 ゾフィーの愛の言葉を聞いた途端、ラルフはゾフィーに抱きついて強く抱きしめた。

「ラルフ、痛い!」

「あ、ごめん!すごくうれしくって。本当にありがとう!これからゆっくり関係を進めていってもいいかな?」

「は、はい」

 ラルフは自分の唇をゾフィーの唇とそっと重ねた。

「今日はこれだけにしておくよ。急ぎ過ぎて君を傷つけたくない。でも今度の7回目の結婚記念日には本当の夫婦になりたい。いいかな?」

「はい」

 肉体的には欲求不満が残っても、ラルフはゾフィーとようやく愛情を確認し合えて、嬉しい心のほうが勝った。それに後1ヶ月で本当の夫婦になれるのだ、7年も待ったのに1ヶ月を急ぐ必要はない。その1ヶ月間、ラルフとゾフィーは、キスや身体の愛撫で徐々にスキンシップでも愛を確かめていった。

 ラルフはそれでも結婚記念日当日まで不安だった。がちゃっと夫婦の寝室のドアが開いて緊張した面持ちのゾフィーが入ってきた時、ラルフは飛び上がるほどどきっとした。
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