信じていた愛はどこに

田鶴

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15.警報(*)

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自慰の描写があります。

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 亜美と俊介が慌ただしく身体を重ね、亜美が自分の部屋で就寝した後、俊介も自室へ戻って一人でベッドに寝転がった。今日は夫婦の寝室で寝ようと誘ったが、亜美に断られてしまったからだ。

 「クククク……かわいいなぁ……」
 
 亜美が強情に自分の部屋で1人で寝ると言い張る姿が俊介の目に浮かぶ。

 彼女が共寝を断ったのは、明日何かサプライズをしようとしているからだと見え見えだった。知らず知らずのうちに彼女が『かわいい』という言葉が口をついて出てきたことに俊介は自分でも気が付いていなかった。
 
 亜美の強情な姿は、俊介の脳裏の中で痴態に変わっていった。雄を挿入されて自分の下で喘ぐ姿はたまらない。

「ハァハァハァ……亜美、亜美、亜美……気持ちいいだろう? 俺も気持ちいいよ。一緒にイこう」

 俊介は、いつの間にかパジャマのズボンの前をずり下げて陰茎を握って扱いていた。彼女の中にいた時とは段違いに劣る快感しか得られなかったが、それでも扱いているうちに射精感がせり上がってきた。

「うううっ!」

 白濁を左手で受け止めた途端、俊介は虚しくなった。それなのに陰茎はまだ芯を持っていた。ティッシュで左手を拭きとった後、俊介はまた陰茎を扱き始めた。

 その繰り返しを何度もすると、雁首が擦れてヒリヒリし始めてしまい、ムラムラするどころでなくなった。今度は雁首がジンジン痛んで中々寝付けなくなってしまった。

 明け方になってようやくウトウトし始めた頃、何か焦げた匂いが俊介の鼻を刺激した。ここまでこんな匂いがしてくるのは大ごとかもしれない。そう思った途端、寝ぼけ眼がくっきりと開いて俊介は飛び起き、キッチンへ急いで向かった。

 俊介が1階のリビングルームに入ると、アイランドキッチンから煙がリビングルーム全体に薄っすらと広がって焦げた匂いが充満していた。

 キッチンとリビングに設置されている住宅用火災報知器は、亜美が料理をするのを想定していなかったので、より早く火災を検知できる煙式のものである。報知器は既に作動しており、警報音と共に『火事です』と警告を繰り返している。

 亜美はキッチンで棒立ちになっており、泣き出しそうになっていた。

 俊介はリビングの窓を全開にして火災報知器の警報音を止め、亜美に駆け寄った。

「亜美?! 大丈夫?」
しゅん、ごめんなさい……」

 シンクの中は、汚れたボウルやら泡だて器やら、調理器具と食器が積み重なって満杯になっていた。その横の調理台には何かのソースや調味料がこぼれ、床にポトポトと垂れていっている。

 びしょ濡れになったコンロ上で、こぼれたソースや油らしき液体が水の中に溶け出していた。そこから様々な色の混ざった液体が床に垂れ、コンロの前の床はべとべとになっていた。コンロの上に乗っているフライパンの中には、真っ黒な何かが水の中で泳いでいた。

「あっ! 忘れてた!」

 亜美は慌ててオーブンのスイッチを止め、扉を開けた。途端にオーブンの中からモクモクと煙が出てきてすぐにまた火災報知器が鳴り始めた。

「亜美、一旦オーブンを閉めるよ」

 俊介はオーブンの扉を閉めて火災報知器を止めた。

 オーブン自体にも換気機能があるので、俊介はオーブンを換気して掃除するのを後回しにした。そうでなければ、せっかく窓を開けて大分換気できたのに、またキッチンとリビングに煙が充満して火災報知器がまた鳴ってしまう。

「俊、ごめんなさい……私って何をやっても駄目だね。せっかくの結婚記念日なのに……」
「亜美が結婚記念日に何か作ってくれようとした気持ちが大切だよ。ありがとう」
「俊こそ、ありがとう」

 俊介は足が得体の知れない液体で汚れるのをいとわず、亜美に歩み寄って抱き締めた。亜美はすぐに俊介の背中に手を回して胸に顔を埋めた。俊介のパジャマがじわじわと濡れていった。彼女の顔だけでなく、エプロンと服も濡れているのだ。

「亜美、このままじゃ風邪をひいちゃうよ。着替えておいで」
「でも、片付けたらどうせ汚れるからいいよ」
「ここはいいから着替えておいで」
「でも私の足、ベタベタだよ」

 このまま亜美が2階の自室まで行ったら、確かに家じゅう足跡だらけになってしまう。

「キャッ?! 俊?!」

 俊介は亜美を抱き上げ、アイランドキッチンの前の汚れていないカウンターの上に座らせ、彼女の足を拭いた。

「さあ、行っておいで」
「うん、でも俊、これ先に片付けない?」
「亜美が風邪をひかないようにする方が先だよ。気にしないで着替えておいで」
「そう? なら着替えてくるけど……」

 亜美が後ろ髪を引かれるような様子で2階に渋々行った後、すぐにインターフォンが鳴った。警備会社の警備員が駆け付けてくれたのだ。亜美を着替えに行かせてから警備会社に火事でないことを連絡しようと俊介は思っていたが、一足遅かったようだった。

 インターフォンで警備員に応対した後、俊介はどこかに電話をかけた。それからアイランドキッチンの上からぼとぼと垂れている液体を拭きとって床を拭き、本格的な掃除を始めた。
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