信じていた愛はどこに

田鶴

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19.怪文書

 無言電話がやんでしばらくしたある日、亜美が外出から帰宅すると、ポストに宛名も送り主も書いていない封筒が入っていた。亜美が封筒を開けると、何の変哲もない明朝体で『お前の夫は浮気している』とコピー用紙に印刷したものが入っていた。

 写真も何も添付されていなかったが、少し前まで無言電話があったので、亜美はすぐに俊介に相談した。

「ねえ、これ見て。今日、ポストに入っていたの」

 俊介は一瞬絶句した後に口を開いた。

「俺が亜美と結婚して順調に出世しているから、妬まれているのかもしれない」

「そんなの、私のお蔭じゃなくて俊の努力の結果なのに! お父さんに社内調査してもらおうか?」

「え、いいよ。何でもお義父さんに頼ったら、それこそ、そいつらの思うつぼだよ。このぐらい自分ではねのけなきゃ、次代の久保コーポレーションは引っ張っていけない」

「そう? でも無理しないでね。俊が別にやりたいことがあれば、会社は晃君に任せればいいよ。晃君は元々、会社を継ぎたがっていたし、彼のお祖母ばあちゃんもそれを望んでいたから」

「いや、俺は亜美に相応しい夫でい続けるために頑張るよ。だから心配しないで」

 それ以降、俊介が見得を切った通り、怪文書は来なかった。

 だが怪文書には、俊介に見せなかった2枚目もあった。そこには、俊介のメッセージアプリの通知で見たことのあるホテル名『セントラルシティホテル』に俊介が行く日時が書かれていた。

 亜美が怪文書の日時通りにそのホテルの近くに行き、自動販売機の影に隠れていると、俊介がホテルの前で一瞬立ち止まって周りを見回してからさっと中に入って行った。その後、亜美は辛抱強く外で待っていたが、出入りが多くて誰が俊介の待ち人なのか分からなかった。そこで中に入ろうと思って自動販売機の影から出てみると、窓越しに俊介がロビーで座っているのが見えた。ロビーはそれ程広くなく、亜美が入って行ったらすぐに見つかってしまうだろう。

 その後すぐに俊介はスマホの画面を見て立ち上がり、エレベーターで上階に上がっていった。チェックインしている様子はなかったので、最上階のレストランに行ったようだった。亜美もレストランに行こうかどうか迷ったが、ホテルの建物の大きさから言ってレストランもあまり大きそうには見えず、亜美が入ってきたら俊介にすぐにばれそうだ。亜美はレストラン潜入を諦めた。

 ところがそれから20分ほどで俊介は1人でホテルから出てきた。誰かと食事するには短すぎる時間だ。亜美は慌てて自動販売機の影に引っ込んだ。彼は心なしか苛々しているようだったが、それ以外は特に変わった様子はない。その後、別々に関係者が出てくるかと亜美は思って踏ん張って待っていたが、誰が彼と会っていたか分からずじまいだった。

 疑い出すと、きりがない。結婚前、俊介はドジな面を都度都度見せていたが、結婚後はそんなことを微塵も感じさせない完璧な夫振りだ。いつからおっちょこちょいなところを見せなくなったのか。亜美は今まで違和感を持っていなかった。元親友の中原詩織がかつて言っていた通り、ダメンズに絆されがちな亜美の好みにわざと合わせていたのだろうか。亜美の疑問が膨れ上がっていく。

 翌日、また知らないアカウントからメッセージアプリに連絡が来た。また例の無言電話の時の迷惑メッセージかと思い、既読を付けたくないので、通知を長押ししてメッセージを表示させた。メッセージは絶交したはずの詩織からだった。これから送る写真を見たら俊介と離婚する気になるはずだというのだ。

 写真を長押しして見てみると、俊介と見知らぬ女性がそれぞれ1人で同じラブホテルから出てきた写真が2枚並べてあった。女性の素性は一見して分からないが、誰かに似ているような気がした。でも写真の女性は俯いてサングラスをかけてマスクをつけ、髪をひっつめてまとめており、顔がよく判別できない。

 こんな写真がどうして離婚する証拠になるのか、亜美は不思議に思ったが、詩織はそれを予想していたようでもう1通、メッセージを送ってきていた。

『俊介さん達は用心深くていつも時間差でホテルに出入りするのよ。でも2人が関係あるのは間違いない。詳しく知りたかったら、会いましょう』

 詩織は、どうやら大金かけて元親友の夫の浮気調査をさせたようだ――もっとも彼女にとって興信所の調査費用ぐらいは大金でもなんでもない――亜美は詩織の無神経さに怒りを覚えたが、真実を知りたいという気持ちが勝り、会うと連絡を入れた。
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