13 / 13
8.一夫多妻の衝撃
しおりを挟む
乳母ティイがネフェルラーのまっすぐな黒髪を梳かしていた。
「姫様の御髪は艶々していて本当に美しいですわ。お顔もかわいらしくていらっしゃるから、将来が楽しみです。どんな側室が来ても負けないはずですわ」
「『そくしつ』?」
「陛下の他の奥様のことです」
「お兄様の奥さんは私だけよね?」
「陛下が大きくなられたら、何人もお妃様を持つことになるのです」
「嘘!お兄様の奥さんは私だけに決まってるわ! ティイの旦那さんだって他に奥さんいないでしょ?」
「姫様、貴族や一般市民では妻1人が普通です。でもファラオは何人も妻を持ちます。姫様のお父様トトメス2世陛下もそうでした。姫様のお母様とトトメス3世陛下のお母様は別の方なのはご存知でしょう?」
「嘘、お兄様のお母様も私のお母様でしょう?」
「ええ、名目上はそうです。でもトトメス3世陛下を産んだ方は別の女性なのです。もしハトシェプスト陛下が姫様と陛下の実の母でしたら、お二人は結婚できなかったのですよ」
ネフェルウラーは元気をなくして『知らなかった……お母様に聞いてみる』と呟き、すぐにハトシェプストのところへ向かった。
「お母様、教えて下さい。お兄様に私以外の奥さんができるって本当なのですか?」
「あと1、2年もしたらそうなるでしょうね」
「そんなの嫌!……」
ネフェルウラーは目にいっぱい涙をためて言った。
「ファラオなら仕方ないのよ。貴女のお父様もそうだったのよ。でもね、一つだけいい方法があるわ」
「どんな方法? お母様!」
ネフェルウラーは食らいつくように母に聞いた。彼女の涙はいつの間にか止まっていた。その方法を聞いてさっそくトトメスにお願いしに飛び出していった。乳母ティイは慌てて後を追った。
「姫様、お待ち下さい! そんなに走っては姫様の心臓に悪いです!」
「お兄様! 私、頑張ってお兄様の赤ちゃんいっぱい産むから他の奥さんと結婚しないで!」
「あ、あ、赤ちゃん?! ゲホゲホ……」
キスすらしたことない仲なのに突然やってきた幼な妻にそんなことを言われてトトメスはむせてしまった。
「お前は身体が弱いんだから、そんなこと考えなくていいんだ」
「でも赤ちゃんができなかったら、他の女の人がお兄様の奥さんになっちゃうんでしょう?……私、そんなのヤだ!」
「そうなってもお前は俺の奥さんだよ」
「他の女の人がお兄様の奥さんになっても?」
「そうだよ」
「でもヤダ! 私だけのお兄様がいい! 赤ちゃんたくさん産むから私だけのお兄様でいて!」
「お前が赤ちゃんをたくさん産んでも、僕が他の女の人と結婚しなくちゃいけなくなるのは多分変わらないよ」
「どうして?!」
ネフェルウラーの澄んだ瞳からまた雫が落ちてきた。
「僕はファラオだ。外国との和平でその国の王女と結婚しなくてはいけないこともあるかもしれない。国内の有力者の娘と結婚しなくてはならなくなるかもしれない。でもそうなってもお前は僕の1番の奥さんだよ」
「お兄様、嫌ー!」
ネフェルウラーはトトメスの言ったことの半分も理解できなかった。でもトトメスが将来別の女性を娶らなくてはならなくなるだろうということだけは理解でき、悲しくなってトトメスに抱き着いて号泣した。
「わがまま言って僕を困らせないで。君は僕のヘメト・ネスウ・ウェレトだろう? しばらくは君が僕の唯一の奥さんだから心配しないで」
「うん……ひっく……ひっく……」
トトメスがネフェルウラーをそっと抱きしめて背中をとんとんと優しく叩くと、ネフェルウラーは落ち着いてきた。泣き声が段々小さくなり、やがて寝息が聞こえるようになった。眠り込んでしまったネフェルウラーの顔にはまだ乾ききっていない涙の痕があった。トトメスは指でそっとその涙をぬぐった。
------
今回も、前話に引き続き、全部にわたって私の妄想回です。異母きょうだいなら結婚できるのは、本作の設定です。
鬘を被るはずなのに髪が綺麗とかおかしいだろ!という意見もあるかもしれませんが、小説ということでお見逃しお願いします。
「姫様の御髪は艶々していて本当に美しいですわ。お顔もかわいらしくていらっしゃるから、将来が楽しみです。どんな側室が来ても負けないはずですわ」
「『そくしつ』?」
「陛下の他の奥様のことです」
「お兄様の奥さんは私だけよね?」
「陛下が大きくなられたら、何人もお妃様を持つことになるのです」
「嘘!お兄様の奥さんは私だけに決まってるわ! ティイの旦那さんだって他に奥さんいないでしょ?」
「姫様、貴族や一般市民では妻1人が普通です。でもファラオは何人も妻を持ちます。姫様のお父様トトメス2世陛下もそうでした。姫様のお母様とトトメス3世陛下のお母様は別の方なのはご存知でしょう?」
「嘘、お兄様のお母様も私のお母様でしょう?」
「ええ、名目上はそうです。でもトトメス3世陛下を産んだ方は別の女性なのです。もしハトシェプスト陛下が姫様と陛下の実の母でしたら、お二人は結婚できなかったのですよ」
ネフェルウラーは元気をなくして『知らなかった……お母様に聞いてみる』と呟き、すぐにハトシェプストのところへ向かった。
「お母様、教えて下さい。お兄様に私以外の奥さんができるって本当なのですか?」
「あと1、2年もしたらそうなるでしょうね」
「そんなの嫌!……」
ネフェルウラーは目にいっぱい涙をためて言った。
「ファラオなら仕方ないのよ。貴女のお父様もそうだったのよ。でもね、一つだけいい方法があるわ」
「どんな方法? お母様!」
ネフェルウラーは食らいつくように母に聞いた。彼女の涙はいつの間にか止まっていた。その方法を聞いてさっそくトトメスにお願いしに飛び出していった。乳母ティイは慌てて後を追った。
「姫様、お待ち下さい! そんなに走っては姫様の心臓に悪いです!」
「お兄様! 私、頑張ってお兄様の赤ちゃんいっぱい産むから他の奥さんと結婚しないで!」
「あ、あ、赤ちゃん?! ゲホゲホ……」
キスすらしたことない仲なのに突然やってきた幼な妻にそんなことを言われてトトメスはむせてしまった。
「お前は身体が弱いんだから、そんなこと考えなくていいんだ」
「でも赤ちゃんができなかったら、他の女の人がお兄様の奥さんになっちゃうんでしょう?……私、そんなのヤだ!」
「そうなってもお前は俺の奥さんだよ」
「他の女の人がお兄様の奥さんになっても?」
「そうだよ」
「でもヤダ! 私だけのお兄様がいい! 赤ちゃんたくさん産むから私だけのお兄様でいて!」
「お前が赤ちゃんをたくさん産んでも、僕が他の女の人と結婚しなくちゃいけなくなるのは多分変わらないよ」
「どうして?!」
ネフェルウラーの澄んだ瞳からまた雫が落ちてきた。
「僕はファラオだ。外国との和平でその国の王女と結婚しなくてはいけないこともあるかもしれない。国内の有力者の娘と結婚しなくてはならなくなるかもしれない。でもそうなってもお前は僕の1番の奥さんだよ」
「お兄様、嫌ー!」
ネフェルウラーはトトメスの言ったことの半分も理解できなかった。でもトトメスが将来別の女性を娶らなくてはならなくなるだろうということだけは理解でき、悲しくなってトトメスに抱き着いて号泣した。
「わがまま言って僕を困らせないで。君は僕のヘメト・ネスウ・ウェレトだろう? しばらくは君が僕の唯一の奥さんだから心配しないで」
「うん……ひっく……ひっく……」
トトメスがネフェルウラーをそっと抱きしめて背中をとんとんと優しく叩くと、ネフェルウラーは落ち着いてきた。泣き声が段々小さくなり、やがて寝息が聞こえるようになった。眠り込んでしまったネフェルウラーの顔にはまだ乾ききっていない涙の痕があった。トトメスは指でそっとその涙をぬぐった。
------
今回も、前話に引き続き、全部にわたって私の妄想回です。異母きょうだいなら結婚できるのは、本作の設定です。
鬘を被るはずなのに髪が綺麗とかおかしいだろ!という意見もあるかもしれませんが、小説ということでお見逃しお願いします。
12
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
コメント失礼します。
この作品、以前から気になっていました。
エジプトの神々やアイテムの名前で雰囲気たっぷりですね。
それでは楽しませていだたきます。
プロエトス様
今更コメントに気が付き、大変失礼しました。
雰囲気たっぷりと言っていただけて嬉しいです。
現状、不定期更新になっていますが、最新話まで楽しんでいただけたことを願っています。