傀儡妃は幼馴染の王太子をひたすら愛する

田鶴

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第1章 疑似兄妹

13.王弟の侍従見習い

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 ペトラの義兄ヨルクは、貧民街を出て以来、使用人の斡旋所を経営するアレックスに紹介されて宰相派の貴族の家で下男として働いていた。当初、ヨルクはアレックス達のクーデター計画に取り込まれるのに抵抗していたが、奉公先の貴族の悪辣ぶりを徐々に知った今、罪悪感なくアレックスに主人の動向を伝えたり、証拠の書類を探したりしている。

 そんなある日、ヨルクはアレックスに配置転換を打診された。新しい奉公先は、現国王アルフレッドの異母弟ヨアヒムの家であった。本来、独身の直系王族は王宮に住むはずであるが、ヨアヒムは独身であるにもかかわらず、先代国王崩御以降、王宮に住むことを許されず、王都で王弟とは思えない程小さな家に住んでいる。しかもアルフレッドと宰相ベネディクトに冷遇されているせいで歳費が少なく、王弟という肩書にあり得ない程、慎ましやかな生活をしている。

 ヨアヒムは宰相ベネディクトが再婚して以来、頻繁に彼の家を訪れている。ベネディクトと接触している形跡はなく、今の所、従姉である宰相夫人カロリーネと彼女の娘ガブリエレが訪問目的である事は分かっている。だがヨアヒムがいくら半ば隠遁生活を送っていて王位継承権を剥奪されていても、先代国王の息子であることは変わりなく、ベネディクトがヨアヒムをいつ傀儡目的で篭絡するか分からない。

 ヨルクはアレックスの斡旋所で1ヶ月、侍従の仕事をみっちり教え込まれてヨアヒムの家へ送り込まれた。ヨアヒムが王宮にいる頃からの侍従兼執事は身体を悪くして無理が利かなくなってきており、ヨルクが仕事を覚えた後、彼の業務を引き継ぐことになった。

 ヨルクの勤務初日、わざわざヨアヒムが玄関まで出迎えてくれてヨルクは驚いた。よほど使用人の少ない低位貴族でもない限り、王侯貴族の雇い主は、使用人が入職しても執事に任せきりで直々に挨拶しないのが通常だ。ヨルクの前職の貴族の家でもそうであった。

「いらっしゃい。今日からよろしく。私が君の雇い主のヨアヒム・フォン・クレーベだ。こちらが私の古くからの侍従で執事も兼任してもらっているセバスチャンだ。仕事の事は彼に何でも聞いてくれ」

 ヨアヒムの後ろに控えていたセバスチャンの頭髪は真っ白で、腰が曲がって立っているのも辛そうだったが、口を開けば声が通って背筋を伸ばして――できる限りではあったが――ピシッとしていた。

「君がヨルクだね。私はこの通りの老体でいつ天国に召されるか分からない。このままでは、坊ち……旦那様の事だけが心残りなんだけど、君は頼りになりそうだね。期待しているよ」
「バスティ、そんな事言わないでくれ。引退しても茶飲み友達になってくれよ」
「いえいえ、そんな訳には参りません」

 主従の強い信頼関係は、ヨルクには眩しく見えた。

 その後、いくら探ってもヨアヒムに後ろ暗い所は出てこなかった。唯一首を傾げたのが、足繁く宰相の家に通って従姉とその娘に会っていることだった。今は宰相と個人的に連絡をとっている様子はないものの、いつ接近するか分からない。ヨルクは注意してヨアヒムを観察し続けるようにアレックスに命じられた。
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