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第1章 疑似兄妹
18.ズルイ! ズルイ!
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相変わらずパトリツィアの父ベネディクトは屋敷にめったに帰って来ず、帰ってきたとしてもパトリツィアにルイトポルトの様子や発言を根掘り葉掘り聞き、『淑女らしい態度をとれ』とか『殿下の寵愛を失うな』と命ずるだけだった。ベネディクトは、ルイトポルトとパトリツィアの仲がぎくしゃくしているのに気付き、娘を通じてルイトポルトを傀儡にする計画がうまくいかないことに苛立っていた。だからパトリツィアが18歳の年に予定されている結婚を早めるか、最悪はルイトポルトに息のかかった別の女性をあてがうことも考え始めていた。ベネディクトが義娘ガブリエレのルイトポルトへの恋心に気付いたのは、そんな時だった。
ガブリエレは初めて王太子ルイトポルトの似姿を見た時、こんな美しい男の人がいるのかと驚いた。美しいさらさらの金髪に青空のように澄んだ青い瞳、すっと通った高い鼻筋、透き通るような白い肌――でも実際に会ってみたら、生で見た美貌は似姿よりもずっと衝撃的だった。かと言ってなよなよして男らしくないというわけではなく、背が高くて程よく鍛えた肉体を持つ貴公子なうえに、ガブリエレにも優しくて紳士的。絵本から抜き出てきたような理想の王子様!
なのにもうあの憎らしい義姉の婚約者だなんて! 義姉は何でも持っている生まれながらの公爵令嬢……なのにあんな素敵な婚約者まで! ズルイ! ズルイ! ズルイ! そう思い出したら、ガブリエレの妬みは止まらなくなった。
ベネディクトとカロリーネの再婚から半年ほどしてようやくルイトポルトに会えた後、ガブリエレは両親に強請って王妃教育のために王宮へ行く義姉パトリツィアについていく権利を勝ち取った。もちろん、パトリツィアの王妃教育の後にルイトポルトに会うためである。
パトリツィアは自分の王宮訪問中に弟ラファエルに何か起きないか心配で、王妃教育の教師に渋い顔をされても、王宮にラファエルを連れて来た。ラファエルは大好きな姉を取るルイトポルトが嫌いで、まだ不敬ということをよくわからない年頃だったから、ルイトポルトに何かにつけて反抗的だった。それにルイトポルトにやたらベタベタくっつくガブリエレもいるので、4人のお茶会は当然のことながらギスギスしてしまった。
ガブリエレは、ルイトポルトに会えるといつも無邪気に抱き着いた。
「ルイお兄様ぁ! 会いたかったぁ!」
ルイトポルトはガブリエレに『ルイお兄様』などと呼ばれる筋合いはなく、内心ではいつも怒りに震えていた。だが、ガブリエレも今は宰相の娘。無下にはできず、腕を振り払えなかった。何らかの意図なしに宰相がガブリエレをいつも王宮に送ってくるはずはない。
ガブリエレはまだ子供の年齢のはずなのに、そのねっとりとした視線と口ぶりは、ルイトポルトの浴室介助で彼の未熟な裸身をべたべた触ろうとした侍女達に似ていた。それに気付いてからルイトポルトはそんな侍女達を遠ざけている。ルイトポルトは、ガブリエレのせいで久しぶりに気持ちの悪い侍女達を思い出して吐き気がした。
だがルイトポルトのそんな心の内はパトリツィアにはわからず、ガブリエレが彼に抱き着いても振り払われないのを見て心をすり減らしていった。パトリツィアだって昔みたいにルイトポルトに無邪気に抱き着いて名前を呼びたかった。でも淑女たれという継母カロリーネの教え、王太子妃らしく振舞えという父の叱責がパトリツィアを雁字搦めにしていた。それに今のパトリツィアには、ラファエルという頼ってくる存在があった。両親の教えがなくても不安そうに姉の手を握る彼の手を離す選択はなかった。
ガブリエレがルイトポルトにべたべた触っているのを見てパトリツィアの侍女ナディーンと護衛騎士ゲオルグも憤慨していたが、立場上ガブリエレに何も言えなかった。
「母上っ! なぜ殿下はガブリエレ様の手を振り払わないのですか!」
「ゲオルグ、口を噤みなさい。ここは王宮ですよ」
「でも……!」
「王侯貴族には色々と事情があるのです」
ルイトポルトに馴れ馴れしくするガブリエレを睨みながら、ゲオルグはぎりぎりと歯を噛みしめて拳を固く握るしかなかった。
ガブリエレは王宮に付いていくようになってすぐ、ルイトポルトの婚約者を自分に変えるようにベネディクトに頼んだ。だが、一言『駄目だ』と言われ、どうしてと泣き叫んだ。カロリーネは、喚き散らかすガブリエレを宥めてなんとか自分の部屋に戻るように言いつけ、やっと落ち着いて夫に尋ねた。
「どうして婚約者を変えては駄目なのですか? 母親の私が貧乏男爵家の出身だからですか? それとも義理とはいえ、妹に婚約者交代は世間体が悪いからですか?」
「カロリーネ、そうじゃない。そんなもの、私の権力を持ってすればねじ伏せられる。だがガブリエレのああいう所は駄目だ。自分の思い通りにならないからと言って泣く王太子妃があるか?」
当然の指摘にカロリーネはぐうの音も出なかった。
「私にとっては娘の母親の出自や世間体などどうでもよい。それよりもツェーリンゲン公爵家の娘が王太子妃になる方が重要なのだ。結婚後も自分の欲望は後回しにして我が一門の役に立たなければならない。今のガブリエレにそれができるか?」
それからカロリーネはガブリエレにも厳しい淑女教育を課し、パトリツィアと共に王妃教育に参加するように手配した。ガブリエレも勉強だけでなく、パトリツィアとルイトポルトの逢瀬をいつも邪魔するように頑張った。
ガブリエレは初めて王太子ルイトポルトの似姿を見た時、こんな美しい男の人がいるのかと驚いた。美しいさらさらの金髪に青空のように澄んだ青い瞳、すっと通った高い鼻筋、透き通るような白い肌――でも実際に会ってみたら、生で見た美貌は似姿よりもずっと衝撃的だった。かと言ってなよなよして男らしくないというわけではなく、背が高くて程よく鍛えた肉体を持つ貴公子なうえに、ガブリエレにも優しくて紳士的。絵本から抜き出てきたような理想の王子様!
なのにもうあの憎らしい義姉の婚約者だなんて! 義姉は何でも持っている生まれながらの公爵令嬢……なのにあんな素敵な婚約者まで! ズルイ! ズルイ! ズルイ! そう思い出したら、ガブリエレの妬みは止まらなくなった。
ベネディクトとカロリーネの再婚から半年ほどしてようやくルイトポルトに会えた後、ガブリエレは両親に強請って王妃教育のために王宮へ行く義姉パトリツィアについていく権利を勝ち取った。もちろん、パトリツィアの王妃教育の後にルイトポルトに会うためである。
パトリツィアは自分の王宮訪問中に弟ラファエルに何か起きないか心配で、王妃教育の教師に渋い顔をされても、王宮にラファエルを連れて来た。ラファエルは大好きな姉を取るルイトポルトが嫌いで、まだ不敬ということをよくわからない年頃だったから、ルイトポルトに何かにつけて反抗的だった。それにルイトポルトにやたらベタベタくっつくガブリエレもいるので、4人のお茶会は当然のことながらギスギスしてしまった。
ガブリエレは、ルイトポルトに会えるといつも無邪気に抱き着いた。
「ルイお兄様ぁ! 会いたかったぁ!」
ルイトポルトはガブリエレに『ルイお兄様』などと呼ばれる筋合いはなく、内心ではいつも怒りに震えていた。だが、ガブリエレも今は宰相の娘。無下にはできず、腕を振り払えなかった。何らかの意図なしに宰相がガブリエレをいつも王宮に送ってくるはずはない。
ガブリエレはまだ子供の年齢のはずなのに、そのねっとりとした視線と口ぶりは、ルイトポルトの浴室介助で彼の未熟な裸身をべたべた触ろうとした侍女達に似ていた。それに気付いてからルイトポルトはそんな侍女達を遠ざけている。ルイトポルトは、ガブリエレのせいで久しぶりに気持ちの悪い侍女達を思い出して吐き気がした。
だがルイトポルトのそんな心の内はパトリツィアにはわからず、ガブリエレが彼に抱き着いても振り払われないのを見て心をすり減らしていった。パトリツィアだって昔みたいにルイトポルトに無邪気に抱き着いて名前を呼びたかった。でも淑女たれという継母カロリーネの教え、王太子妃らしく振舞えという父の叱責がパトリツィアを雁字搦めにしていた。それに今のパトリツィアには、ラファエルという頼ってくる存在があった。両親の教えがなくても不安そうに姉の手を握る彼の手を離す選択はなかった。
ガブリエレがルイトポルトにべたべた触っているのを見てパトリツィアの侍女ナディーンと護衛騎士ゲオルグも憤慨していたが、立場上ガブリエレに何も言えなかった。
「母上っ! なぜ殿下はガブリエレ様の手を振り払わないのですか!」
「ゲオルグ、口を噤みなさい。ここは王宮ですよ」
「でも……!」
「王侯貴族には色々と事情があるのです」
ルイトポルトに馴れ馴れしくするガブリエレを睨みながら、ゲオルグはぎりぎりと歯を噛みしめて拳を固く握るしかなかった。
ガブリエレは王宮に付いていくようになってすぐ、ルイトポルトの婚約者を自分に変えるようにベネディクトに頼んだ。だが、一言『駄目だ』と言われ、どうしてと泣き叫んだ。カロリーネは、喚き散らかすガブリエレを宥めてなんとか自分の部屋に戻るように言いつけ、やっと落ち着いて夫に尋ねた。
「どうして婚約者を変えては駄目なのですか? 母親の私が貧乏男爵家の出身だからですか? それとも義理とはいえ、妹に婚約者交代は世間体が悪いからですか?」
「カロリーネ、そうじゃない。そんなもの、私の権力を持ってすればねじ伏せられる。だがガブリエレのああいう所は駄目だ。自分の思い通りにならないからと言って泣く王太子妃があるか?」
当然の指摘にカロリーネはぐうの音も出なかった。
「私にとっては娘の母親の出自や世間体などどうでもよい。それよりもツェーリンゲン公爵家の娘が王太子妃になる方が重要なのだ。結婚後も自分の欲望は後回しにして我が一門の役に立たなければならない。今のガブリエレにそれができるか?」
それからカロリーネはガブリエレにも厳しい淑女教育を課し、パトリツィアと共に王妃教育に参加するように手配した。ガブリエレも勉強だけでなく、パトリツィアとルイトポルトの逢瀬をいつも邪魔するように頑張った。
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