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第一部
第一話「Summertime Blues」
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小学生の頃、俺は自分が物語の主人公だと思い込んでいた。
あの頃の俺には大勢の仲間が居て、友達が居て。
俺が一番に突っ走ると、みんなが後をついてきていた。
だから俺は臆面もなく、何度も読み返した少年漫画の主人公たちみたいに。
自分は“特別”で、代えの利かない唯一の存在なのだと信じていた。
だけど、その日。俺は自分の勘違いを思い知ることになる。
「フォアボール!」
球審が野太い声を上げる。のろのろとした足取りで三塁ランナーがホームを踏む。
六年生の夏の初戦。三回の裏。ツーアウト満塁。5点目は押し出しのホームイン。
四球はこれで、七つ目だった。
「ドンマイドンマイ! 落ち着いてけー!」
後ろから聞き慣れた声が飛んでくる。
他の奴らは、もう何も言わない。
焼けつくような日差しの中、冷え切った視線だけが俺の背中を刺す。
視界がにじむ。汗が止まらない。悪夢の中にいるみたいだった。マウンドに日陰はない。逃げ場なんかどこにもない。ロジンバッグを放り捨て、大きく振りかぶってボールを投げる。
「走った!」
三塁ランナーがホームスチール。舐めきったプレイ。普通に投げれば普通にアウト。なのに、馬鹿だ。タッチしやすいように低めにコースを変えたボールが際どめのワンバウンド。キャッチャーは後逸。立ち尽くしたまま、俺は目の前で六点目が入るのを見届けた。
監督が立ち上がる。センターから智也が駆けてくる。僅かな時間。それすらもう耐えられなかった。帽子を深く被り直し、俺は無言のままマウンドを降りる。コーチが肩を叩き、ベンチの奴らが俺を励ました。生ぬるい言葉は何一つ耳に入らない。いっそ責めてくれればよかった。嗚咽を噛み殺しながら、俺はマウンドを睨みつける。
「スリーアウト、チェンジ!」
智也が四番から三振を奪い、みんながベンチに帰ってくる。こっからだとトモノリが言った。取り返すぞとリョータは叫んだ。泣いてんなよとカズキが肩を叩き、円陣を組もうとカズナリが呼びかけて、キャプテンのくせに何も言えない俺の代わりに、絶対勝つぞと智也が叫んだ。
それが俺達の最後の試合。忘れようもない夏の日のこと。
優しいから誰も口にはしなかった。
だけどきっとみんな分かってた。
俺が居なければ、勝ってた。
俺は何も、特別じゃなかった。
小学生の頃、俺は自分が物語の主人公だと思い込んでいた。
あの頃の俺には大勢の仲間が居て、友達が居て。
俺が一番に突っ走ると、みんなが後をついてきていた。
だから俺は臆面もなく、何度も読み返した少年漫画の主人公たちみたいに。
自分は“特別”で、代えの利かない唯一の存在なのだと信じていた。
だけど、その日。俺は自分の勘違いを思い知ることになる。
「フォアボール!」
球審が野太い声を上げる。のろのろとした足取りで三塁ランナーがホームを踏む。
六年生の夏の初戦。三回の裏。ツーアウト満塁。5点目は押し出しのホームイン。
四球はこれで、七つ目だった。
「ドンマイドンマイ! 落ち着いてけー!」
後ろから聞き慣れた声が飛んでくる。
他の奴らは、もう何も言わない。
焼けつくような日差しの中、冷え切った視線だけが俺の背中を刺す。
視界がにじむ。汗が止まらない。悪夢の中にいるみたいだった。マウンドに日陰はない。逃げ場なんかどこにもない。ロジンバッグを放り捨て、大きく振りかぶってボールを投げる。
「走った!」
三塁ランナーがホームスチール。舐めきったプレイ。普通に投げれば普通にアウト。なのに、馬鹿だ。タッチしやすいように低めにコースを変えたボールが際どめのワンバウンド。キャッチャーは後逸。立ち尽くしたまま、俺は目の前で六点目が入るのを見届けた。
監督が立ち上がる。センターから智也が駆けてくる。僅かな時間。それすらもう耐えられなかった。帽子を深く被り直し、俺は無言のままマウンドを降りる。コーチが肩を叩き、ベンチの奴らが俺を励ました。生ぬるい言葉は何一つ耳に入らない。いっそ責めてくれればよかった。嗚咽を噛み殺しながら、俺はマウンドを睨みつける。
「スリーアウト、チェンジ!」
智也が四番から三振を奪い、みんながベンチに帰ってくる。こっからだとトモノリが言った。取り返すぞとリョータは叫んだ。泣いてんなよとカズキが肩を叩き、円陣を組もうとカズナリが呼びかけて、キャプテンのくせに何も言えない俺の代わりに、絶対勝つぞと智也が叫んだ。
それが俺達の最後の試合。忘れようもない夏の日のこと。
優しいから誰も口にはしなかった。
だけどきっとみんな分かってた。
俺が居なければ、勝ってた。
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