ROCK STUDY!!

羽黒川流

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第一部

第五話「Born to Raise Hell」

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                 ◇
 
 うちの県は東谷《あずまや》という、この地方最大の都市があるおかげで全国的に見ても音楽文化が盛んな場所だ。毎年秋には路上音楽祭が開催され、隣県からバンド活動をしに来る人も多い。ちゃんと高校軽音楽部の大会もあって、音楽専門学校のビルの中のステージを借りて毎年30組もの高校生バンドがしのぎを削るという。

 だからまあ、別にここらでは軽音楽部がある高校は特にそう珍しくもない。

 俺がこの高校――青葉東《あおばひがし》高等学校を進路に選んだ最大の理由は、ここの軽音楽部は音響設備が大変充実していて、ほぼ毎年大会で一定の結果を出すという、いわゆる「強豪校」だという噂があったからだった。ここならいいバンド仲間を見つけられるのではないかと、期待しての事。
 
 で、実際のところどうなのかと言われれば。事実は半々くらい。
 
 確かに、練習環境はそれなりに充実していた。吹奏楽部が使う音楽室とは別に軽音楽部が使う用の音楽室があり、教室二つ分くらいの広さで防音対策はぼちぼちだけど、貸しスタジオにあるような機材は一通り揃っているという具合。
 その一方で軽音学部内の雰囲気はというと、これが思いのほか緩い。ゆるゆるだ。顧問の先生は放任主義、部員の8割は初心者で、文化祭前くらいにしか活動しない幽霊部員がほとんどという、規律もへったくれもない無法地帯と化している。それゆえ教員からの評判は芳しくなく、何度も廃部の危機に陥っているらしい。
 そんな怪しい軽音楽部だが、近年の大会で好成績を残しているのも確かな事実だった。玉石混合というか、毎年何十人も部員が入れば、三年の間に大体一人か二人くらいは大会で好成績を残せるだけの「英雄」が現れる。
 
 そう、例えば―― 

「この俺とかなァ! しゃァァす! 皆さんどうも! おはようございます!」
「あっ、お、おはようございまーす……」

 時刻は八時ニ十分。朝日差し込む軽音楽部の部室には、ピカピカの楽器を持ち寄った新入生たちの群れでごったがえしていた。見学も含めて二十人くらいは居るだろうか。放課後の練習時間はバンド単位で決められているが、朝はフリータイムなのでこうして自主練や野次馬をしにくる生徒で賑わっている事が多い。

「おっ、君ら。また会ったな!」
「ど、どうも」
 
 今朝がた会ったばかりの新入生二人が、俺を見て苦笑いを零す。名前を聞くとギターを抱えている方が玉置くん、ベースを抱えている方が矢萩くんというらしい。

「あの、すいません、勧誘の話なら、俺らもう4人で組んじゃってるんで……」
「ん? ああ。いや全然いいよ。ところで玉置くん、その赤いレスポールかっこいいな。まじもんのギブソン?」
「あ、はい。一応。ギター始めたいって言ったら、父親が張り切って買ってくれて」
「うおお。すげえ。いいなー。持ってる人初めて見た」

 ギブソンっては世界一有名なギターメーカーで、その看板商品のといえるのがこのレス・ポール・スタンダードだ。ちなみにギブソンのギターは新品だと二十万円くらいはザラなので、高校生バンドマンにとってはちょっと手の届かない憧れの存在。

「しっかし、ほんと今年は新入部員いっぱいだなー。去年より多いかもな、これ」
「たしか二十人くらい入ったんで、今、全体で五十人くらい居るらしいです」
「マジか。そんなに多いと今年は練習するのも大変そうだな……」
「あ。……すいません先輩、俺のアンプ使いますか?」
「ん? いや、いいっていいって」

 はっと気づいた様子で、玉置くんが俺に頭を下げてくる。
 アンプっていうのは言うまでもなくギターアンプのことだ。電気信号を増幅させる機能のついたスピーカーで、これに繋がないとエレキギターは大きな音を出せない。   部内の備品としてアンプは複数存在するが、当然数には限りがある。玉置くんの使っているアンプはマーシャルJCM2000、うちの備品の中では最も高価で人気の高い逸品。だから、どうやら先輩の俺に気を遣ってくれてるらしい。

「俺は隅っこの方で練習しとくから、気にせず使っといてくれ」
「いやでも、俺ら一年だし先輩の方が優先じゃ」
「先輩とか別に関係ねえよ。朝は基本早いもん勝ちって決まってるしな。大体、初心者は今が一番楽しい時期なんだからちゃんとアンプに繋がないと損だろ!」
「は、はあ。じゃあすいません。使わせてもらいます」
「おう! そんじゃ練習頑張れよ!」

 言った後、俺は部室の隅にある機材置き場に向かった。いくつかの衝立で仕切られた奥には各種機材や代えの弦、ボロボロの教則本にバンドスコア、部員が持ち寄ったギターケース等が乱雑に置かれていて、足の踏み場もない有様になっている。

(……さて)

 部内で孤立している俺にとってはここが定位置みたいなものだ。みんながワイワイ外でやってる間、ここで黙々とギターの基礎練をこなすってのが毎朝の日課。いやまぁ別に他の場所でやってもいいんだが何か追い出されてるみたいで癪だし寂しいから結局ここに落ち着いている。
 手早く愛機のチューニングを済ませた後、ヘッドホンアンプを装着する。これはその名の通りイヤホンやヘッドホンにエレキギターの音を出力する個人用の練習機材。

「……ん?」

 いざヘッドホンを着け、練習を始めようとしたその時だった。
 衝立の向こう側、新入生たちの拙い演奏が響いていた部室内が急に静かになっている事に気づく。ギターを抱えたまま、俺は衝立の向こうを覗き込んでみた。

「うーわ。なんで今日こんなウジャウジャ居んの?」

 七人の男女が、入口の扉から姿を現す。
 三年のヤンキー、坂上雅也《さかがみまさや》が率いるグループだった。軽音楽部の規律が緩いことを良い事に、この部室を自分たちの溜まり場にしている厄介な連中。ルーズに着崩した制服、首元や袖口で煌くアクセサリーはいかにもガラが悪く、特にリーダーの坂上は他校の不良とつるんでいるなど悪い噂が絶えないクソ野郎だ。

「なにこれ全員一年? 多すぎてキモいんだけど」
「つか、めっちゃブス多くね? やべえでしょ」
「ちょっと、そういう事言うのやめなって~。可哀想~」

 ゲラゲラと下品な笑い声が響き、一年生達が怯えた様子で縮こまる。やがて、リーダーの坂上はそのうちの一人、赤いギターを抱えた生徒に目をつけた。

「お。君、かっこいいギター持ってんじゃん。ちょっとそれ貸してくれる?」
「え、いや。それはちょっと」
「……ああ?」

 玉置が首を横に振ると、坂上は玉置のネクタイを無理やり掴み寄せた。

「何? 俺先輩なんだけど。何か文句あんの?」
「……その、」
「は? 小せェんだよ、声が。ああ?」
「っ……ど、どうぞ」
 
 そうして坂上は玉置からレスポールを強引に奪い取ると、デタラメに弦を掻き鳴らす様を得意げに仲間に見せつけた。無茶苦茶な音がアンプから鳴り響き、一年生達はみんな目を背けて嵐が過ぎ去るのを待つ。
 
 いつも、どこにでも居る。
 自分を上に置くための餌食を探し、平気で人を傷つけるような奴らが。

 そして、そんな時いつもそこに居る。
 本音を押し殺し、逃げようとする弱い奴が。

『撤退はない』ノー・レトリート

 頭の中で誰かが叫ぶ。
 喧しい轟音の中で、しゃがれた声が俺に言う。
 
「……降伏するなノー・サレンダー

 思ってからは早かった。ヘッドホンアンプを放り捨て、ケースから自前のシールドを引きずり出す。備品の中からとにかくデカいアンプを探し出し、迷わずそこに接続完了。ツマミは全開《フルテン》、電源を入れて速ッ攻に弦をぶん殴る。

「……ひっ!? 何!?」

 身体ごとぶっ飛ぶような爆音が、部室内を揺るがした。俺は勢いそのまま衝立を蹴り倒して躍り出ると、ギターを滅茶苦茶に掻き鳴らす。コードはA、D、E。ラモーンズの『電撃バップブリッツクリーグ・バップ』。バカみたいに単純な繰り返しで、アホみたいに単細胞なダウンピッキングで、世界の果てまでブッ飛ばす。

「なっにこれ!? うるさすぎるって!」
「なにしてんだクソ野郎! 今すぐやめろ!!」
「えー!? 何!? 声が小せェんだよ声が!!! 全ッ然聞こえませんねぇー!」
「っこの……!」

 坂上の取り巻きの一人が俺の背後へ駆けていき、エレキギターが接続されたアンプからシールドを無理やり引き抜く。キィィィィィン!!と強烈なハウリング音が鳴り響き、また女子達が悲鳴を上げた。悠々と歩きながら、俺はアンプの電源を切る。

「あーあー。アンプからいきなりシールド抜くとか常識ないんスか先輩。止めたきゃ電源切ればいいのに。三年なのにまさかそんなことも知らないんですか」
「テメェ……誰だ。ふざけたグラサンしやがって」
「ん? ああ。そういやかけたまんまだった」

 サングラスを外しながら、俺は坂上グループに向き直る。

「どうも。お久しぶりっすね先輩方」
「……!」

 一人は呆然と口を開け、一人は表情を硬く強張らせた。
 まぁ無理もない。最後にまともに顔を合わせたのはもう去年の、
 
「……誰だ……?」

 思わずサングラスを落とした。

「誰?」
「いやマジで誰?」
「何あの茶髪。ダッサ」
「朝っぱらから学校でグラサンってお前」
「頭どうかしてんのか?」
「…………」

 さんざんな言われようでちょっと泣きそうになってきた。

「ぷ、く、はははは!!」

 突然、坂上が噴き出して笑う。

「あ”ー、クソ笑ったわ。誰かと思ったらお前、ゲロライダーのふとしくんかよ」
「え? ……ふとしくんって、あのふとしくん?」
「マジ? ……うわほんとだ! 何か超イメチェンしちゃってんじゃん!」
「いきなり茶髪ってお前! 高校再デビューかよ!」

 つられるように、取り巻き達が調子づいてギャハハと笑う。

「はっは。いや大ウケみたいで結構ですけどね、とりあえずそのギター、扱い気を付けた方いいっすよ。本物のギブソンだし、もし傷つけでもしたら、弁償で何万とかになっちゃいますよ?」
「ああ? ……チッ」

 思い切り舌を打つと、坂上は玉置にギターを乱暴に押し付けて返す。そうして周囲を見渡すと、わざとらしく肩をすくめて言った。

「……しっかし、マジでキメェのしか居ねぇよな今の軽音部って。オタクが親の金で楽器買って、姫気取りのブスを囲んでやがんの。マジで、この世の地獄かっての」

 それな。言えてる。取り巻き達が嘲笑を重ねる。
 
「……先輩たちって、ほんと、なんつうか。……そうやっていちいち他人《ひと》にマウント取らないと気が済まないんですか? 俺そういうの、純粋にモノ楽しんでる奴らよりよっぽど気持ち悪ィと思うんすけど」
「は? お前の感想なんざ聞いてねえよカス。大体キメェ奴にキメェって言って何が悪ィんだ? 気持ち悪がられてる側にも問題あんだろ? お前みたいにな、ゲロライダーのふとしくん」
「……ああ? 俺が気持ち悪がられてるだ? まぁそれに関しては……………………ぐうの音も出ねえ正論だなァ! 俺の負けですバーカ! 死ね!」
「お、おいなんか急にあっさり負け認めたぞ!?」
「何なのあの人!?」
「くぉラァァァァ! そこの連中! 朝っぱらから一体何をやっているッ!」
 
 突然、凄まじい怒号が部室内に響き渡る。全員が部室の入口の方を振り向くと、そこにはベースケースを背負って仁王立ちする女子生徒の姿があった。

「うーわ、めんどくせえのが来た」
「あ、青木先輩……」

 坂上グループが顔を顰める一方で、一年生達の表情に安堵の色が浮かぶ。現れたのは三年生の青木瞳子《あおきとうこ》。ポニーテールと眼鏡が印象的な、軽音楽部の副部長だ。

「さっきの爆音は一体なんだ! 音を出す時は扉をきっちり閉めろとさんざん言ってるだろうが!!」
「まあそんな怒るなよ瞳子、血管切れるぞ」

 ブチ切れてる青柳の横でなだめるのは、同じく三年生の緑川忍《みどりかわしのぶ》。
 飄々とした態度、男前なツラに不精髭を生やした佇まいは野武士か流浪のギャンブラーって感じで、相変わらず高校生に見えない。

「ああもう、何してんの二人とも!? ちょっとそこ通して、って!」

 さらに、両者の後ろから赤い髪の女子生徒が割って入る。

「あ、赤星先輩だ……」
「すげえ、本物だ……」

 くぐもっていた部室の空気が一変し、一年生男子が急に色めき立つ。
 三年の、赤星茜《あかほしあかね》。青木・緑川と同じく三年バンド『ハルシオン』のメンバーで、ボーカル担当。某動画サイトでは『ak@ne』という歌い手としても活動しているちょっとした有名人で、アニメの世界から飛び出てきたような可憐な見た目と華のある歌唱力から、校内では男女ともに人気のあるアイドル的存在だ。

「あ、あかねせんぱあああい……!!」
「えっ、えっ!? なにこれ、どういう状況!?」
「おっ、茜ちゃんじゃーん。今日も可愛いね~♡」
「……あいつらか。みんな大丈夫? 何があったの?」

 野次を飛ばすヤンキーを睨みつけた後、赤星茜は自分を取り囲む一年生女子に優しく声をかける。あの人達が、と女子たちはヤンキーと俺が居る方向を指差した。

「さ、か、が、みぃぃぃぃ……またお前らの仕業か! いい加減出禁にするぞ!」
「ああ? うるせえなブス眼鏡。大体馬鹿でかい音出したのはアイツだっての」
「なんだと!? ……ん? 忍、茜。あれ誰だ? あんなのうちに居たか?」
「俺は人の顔覚えられないからわからん」
「え? ふ、二人共マジで言ってる? どう見ても高宮じゃ」
「何!? 高宮、貴様ァァァァ!!」
「ギャーッ!? 違います違います! いや違わねえけどこれには事情が――」

 副部長・青木が憤怒の形相で俺の方へ向かってきた、その時だった。
 廊下の方から、数十人は居るであろう大量の足音と、芸能人を取り囲むような女子達の黄色い騒ぎ声が聞こえてくる。ヤンキーたちの表情から余裕の色が消える。全員が息を呑んで部室の入り口を凝視する。誰が来たのか、もう全員が分かっている。

「――、」

 長身痩躯、不健康そうな青白い肌は、灰色に染めた髪によく馴染み、整った目鼻立ちもあいまって隔絶した世界の住人に思える。目元を覆う長い前髪の下の瞳の色は暗く、涼し気で、自分を取り囲む女子の群れになど一瞥もくれていない。

「三好、先輩……」

 軽音楽部・部長――三好晴臣《みよしはるおみ》。三年バンド『ハルシオン』のリーダーで、軽音楽部全国大会二年連続優勝の立役者。作詞作曲編曲のほか、ギター、ベース、ドラム、キーボード。あらゆる楽器を扱えるマルチプレイヤー。現役高校生にして、動画サイトで新曲を出す度に週間一位を取るほどの有名ボカロP。

 俺なんか及びもつかない、数年、いや十年に一人の天才。
 二年前、廃部寸前だった軽音楽部の救った本物の――「英雄」。

「ハル。……ほんといっつも来るの遅いんだから。もっと部長の自覚もってよね」
「すまん。……忍。ここで何があった?」
「ん。よくわからんが、また坂上と高宮が揉めてるらしい」
「ふん。まったく。去年さんざんやりあったろうにまだ懲りてないとは……」
 
 赤星、三好、緑川、青木。気づけば『ハルシオン』のメンバーが揃い踏みだった。あれだけ騒いでいた女子達も、今はすっかり大人しく四人の会話に耳を傾けている。

「晴臣。いい加減、松本教諭にこいつらの処遇について本気で掛け合う必要がありそうだが、どう思う」
「……処遇?」
「当然、退部処分のことだ。軽音楽部は風紀が乱れていると、先生方から苦情が出ている。特にあの教頭の軽音嫌いは筋金入りだ。これ以上こいつらを野放しにしていたら、また廃部なんてことにもなりかねん」
「え、……廃部?」
「それって、先輩たちが大会に出られなくなるってこと?」
「嘘。じゃあハルシオンの三連覇は?」
「そんなのやだ!」

 三好ファンが悲鳴に似た声を上げ、坂上たちも不快そうに顔を歪める。

「退部だ? おいおい青木ィ。人の話聞いてたのかよ? 先に突っかかってきたのは高宮だぜ? 大体コイツ、バンド組んでねえんだからさっさと退部にしろよ」
「そーそー。てかうちら2年間も大人しくやってきたのに、何で今更退部にされなきゃなんないの? おかしくない?」
「つか、そいつがこの部に来てからおかしくなったんだろ?」
「いちいち人に噛みついてよ。俺らいい迷惑だっての」
「あ、そういや最近さ、高宮の指名手配みたいなチェーンメール出回ってるよね」
「一年女子に無理やりつきまとってるってアレだろ? ウケるよなあれ」

 え、怖。キモい。マジ? あの人の方が悪くね――棘のある言葉が耳を刺す。
 部外者たちの非難の視線は、もはや俺の方だけに向いていた。

「な? どっちが悪いかはっきりしてるだろ?」
「そーそー。高宮だけ退部にすりゃいいじゃん」
「――、いや、」

 喉元まであがってきた言葉が、突っかかって胃に逆戻りする。
 不味い状況だった。三好晴臣が現れた途端、急に自分が小さく見える。視界が狭まり、あの夏の日に戻る。ただの脇役になったみたいに、――何も言えなくなる。

「もういい、やめろ」

 はたして、口を開いたのは三好晴臣だった。ざわついていた周囲が静まり返り、誰もがその言葉に耳を傾ける。

「誰が悪いかなんてどうでもいい。騒ぎは終わりだ。――瞳子」
「あ、ああ。全員、撤収の準備を――」
「おいおい。何勝手に仕切ってんだ? ふざけんなよ、三好」

 坂上雅也が、三好晴臣の前に進み出てくる。

「部長だか何だか知らねえけどな、テメェ一人の気分で何でも決める気かよ? 今の流れ見てなかったのか? 俺らとアイツ、どっちを退部にするかって話だったろうが。何はぐらかしてんだよ」
「……坂上。そんな事を決める権利は誰にも――」
「……いや、それは俺も同意見ですよ。三好先輩」
「……あ?」
 
 坂上雅也と三好晴臣が、意外そうに俺の方を見る。
 息を整えて、俺は堂々と言った。

「……俺とこの人ら、どうせまた衝突するし。問題を先送りにしたって意味ないですよ。大体、顧問に話したところで、俺はともかく先輩方が素直に言う事利くとは思えませんし」
「はは。それは確かに言えてるな」
「ちょっと、忍!」
「ふん。ならどうする気だ高宮。この場で決めるにしても、公平な方法なんて多数決くらいしかないぞ」
「瞳子。俺は多数決は好きじゃない」
「分かっている。――高宮。自分で言い出したからには理由があるんだろう。何か提案があるのか?」
「ありますよ。公平かどうかは知りませんけど、いい方法が」
「……いい方法?」

 全員の視線が俺に集まった。

「ここは軽音楽部だ。――

 言った後、俺は坂上に向き直り、指を差しながら言う。

「坂上雅也。勝負だ。――俺とバンドで勝負しろ!!」

 
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