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「ウルイ」
「ん?おお、アンリではないか
しばらくだな」

ここはガウの本拠地
そこにアンリエッタ、サリア、アサヒの三人は来ている

「しばらくぶり。大変だったみたいだな」
「まーな、ある奴が暴れたのだ。そのせいで大会も中断しているし、メチャクチャだな」

アンリエッタの言葉に疲れた顔をしながら答えるウルイ

「して、なに用だ?アンリが来たのだから只の見物って訳ではなかろう?」

聞いた話によると、そうとうウルイも疲弊しているはずなのにそれを感じさせないようにしているのか、以前よりも声のトーンが高いな

さすがはギルドマスターといったところなのか、きちんと相手の状態を分析し心情を汲み取っている
ケンゴには何故か上手くいかないが

「実は話があってね。サトー君を知っているだろう?その子に関係する話さ」
「ほう...少し待っておれ。今はあまり時間に余裕がないのでな」

やはりこの状況ではゆっくり話をするのは難しい
しかし、彼からの頼み事は何としてもやり遂げなくては大変なことになる気をアンリエッタは感じていた

少しでも早く落ち着いて話をするためにすべきことは...

「なら私達はここの修繕などをしているから時間が空いたら声を掛けてくれ」
「助かる。すまんな」

一言いった後にウルイは何やら多くの人が集まっている場所に向かった
そこに何があるのか気になるが、重々しい雰囲気なので無闇に首を突っ込まないでおく

「修繕の手伝いとは言いましたが何をやればよいのでしょうか?」

サリアが回りを見渡して何をしようか考えているようだ
ここに来たことはあまり多くはないが二人は今日が初なので、私がリードしなくては

「修繕の指揮を取っている者が居る筈だその者に指示を仰ごう」
「分かりました」






「オッグ老師はどうだ?」

アンリエッタ達と離れたウルイが向かったのは、ムースによって瀕死の重症をおったオッグ老師の所だった
オッグ老師は見た目通りかなりの老体なのでメープルの回復でもすぐには治らなかった

「これは少し不味いわよ。力のほとんどを失ってるわ
回復も遅いし、からり危険な状態ね」

メープルはほとんどの回復魔法を扱えるので彼女が治せなければ他に治せる方法を探すのは困難になってしまう

「取り合えず落ち着ける場所に運んでちょうだい。道具を使えば治療も進むだろうし」
「了解した」

メープルのサイズでは老師を持ち上げられないので、見守っていた一人の男がメープルの治療室に運んでいく

後はメープルに頼るしかないのか

何も出来ない自分に悔しさを感じながらも、やることは沢山あるので気持ちを切り替える

通信の魔道具を使い、彼に連絡をする
が、いつまで待ってもいっこうに反応がない

「仕方がないか。このような状況だ一人になりたいときもあるだろ」

ウルイは健吾の事をかなり子供に見ている。
妖精の目を持って産まれた為、人の性格やその人の人間性、性格などを見抜く力が普通の人よりも遥かに劣っている
そもそも妖精族は他族との交流をほとんどとらない為コミュニケーション能力が低いのだ
そのため、ウルイも健吾の事をはかり違えていた。
見た目や戦い方、言動などから、まだ幼いと考えて子供扱いしている

つまり、判断能力やスキルは強力であり、頼もしい戦力ではあるが人が死んだりする現場などには慣れていない未熟者

と、いうのがウルイの健吾に対する見解である

「さてと、他の作業を終わらせて早くアンリエッタ達の話を聞かなくてはな」





「ん....んん、ん?ここ...どこ?」

目が覚めて一番最初に見えたのは、薄暗い部屋で微かに見える広い部屋だった

何でここに居るんだろ?ってそんなの決まってるか

浮かんだ疑問は次の瞬間には解決した。
この状況を造り出したものならもう分かっている

「目が覚めたようだな、琴音
しばらく会わない内に随分可愛くなったじゃないか」
「創...君?」

どこにいたのか、すぐ側に立って喋りかけてくる
その顔は琴音が知っている顔ではなかった

「今までどこに行っていたんだい?
俺や隆二、仁美をほったらかしにしてさ
まぁ今となってはどうでも良いことなんだけどね
こうして僕の元に戻ってきたんだからさ」

五条創の言葉を半分以上聞き流しながら御堂琴音は現状の把握に勤める
ずっと佐藤健吾の側で見てきたが、彼はいつも回りに気を付け、分析と観察を続けていた
それが問題を避けたり、早期解決に繋がるので見習い、彼女も現状を分析する

ここがどこかは分かんないな。窓も小さいのが三つ
そこから外が見えてるってことはここは小屋みたいに独立してる建物なのかもしれないって事かな。
足は自由に動くけど何故か腕が動かせない。縛られたり、押さえられたりされてる感覚もないから魔法的な"何か"が使われてるっぽい

「聞いてんのかー!琴音~」

考え事をして顔を伏せていた事に腹をたてたのか近くにあった箱を蹴り飛ばしている。
埃が舞って微かに見えていた五条の姿が見えなくなった

「ゲホッゲホッ」

埃を吸ってしまい咳が出る

「なあ、琴音。俺の物になれよ
欲しいものはすべて手に入るし、逆らう奴もいない
夢のような生活が待ってるぜ」

いつの間に移動したのか後ろから腰の少し上、お腹のところに両手を回して抱いてくる

今の創君は普通じゃない。キャラが変わったとしてもここまで変になることはあり得ない
なら、何かの影響って考えた方がいいかな

抱きつかれることなど、どうでも良いかのように気にしていない
肩越しに創の顔を見ると目は完全に死んでおり、ニターと不気味な笑みを浮かべているだけだった

「私は、けんちゃんの所に戻るよ。絶対に」

健吾と居るときとは違うゆっくりとした話し方で創に自分の思いを伝える

「やっぱりそう言うよな

分かっていた。君が佐藤と一緒に居たがっていたのは
でもな、君は俺だけのものになるんだよ!」

創は琴音の頭に手を当て、スキルを発動させる
黒い霧のようなものが創から発生し、琴音の頭から徐々に全身に広がる

何をしようとしてるんだろ?創君にはそんなスキルは無かったはず....
もしかして!

「これで君は俺のものになったんだ
せいぜい可愛がってやるからな

なぁ?こ・と・ちゃ・ん
ふふ、はーはっはっはっは」

黒い霧が全身に広がりきったら創は手を離し
琴音の前まで移動して顔を近づけながら健吾に呼ばれていた呼び名で琴音を呼び
笑いながら部屋を出ていった

体が動かない!まさかこんなスキルを使ってくるなんて

琴音は今までの出来事から創が支配系統のスキルを持っていることを何となくだが察した

この事を何とかけんちゃんに伝えられれば良いんだけどな
私のスキルじゃどうしようもないね

暗い部屋で声を出すことすら出来ず、健吾に対して何も出来ない不甲斐ない自分を笑っていた
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