吸血秘書と探偵事務所

かみこっぷ

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問題発生

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「なんか氷柱ちゃん、すごい焦ってる風に見えるんですけどなにかあったんですかね?」

「さあ? 一応何かトラブルがあった場合の合図は決めてありますから、それが無いという事は特に問題ないということでしょう」

「というより…………単に氷柱ちゃんが…………はしゃいでるだけのようにも…………」

当の二人からすれば割りとシリアスな場面だったりするのだが、普段の彼らを見ている三人からすると『いつもの事』で済ませられる程度の出来事に過ぎなかった。

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「げっほ、ごほがは、はぁーはぁー」

割りと間一髪なタイミングで氷の拘束を解かれた相一は海面から顔を出しながら久方ぶりの酸素をこれでもかと取り込む。

「えっと、あたしが言うのもアレなんだけど…………大丈夫?」

「し、死ぬかと思った。ここ最近で一番、あの世に近づいた、瞬間だった気が、するぞ…………」

「わ、悪かったわよ! …………でも一応あんたにだって責任の一端はあるというか、あんな余計な事言わなきゃごにょごにょ」

氷柱がぼそぼそと漏らした言葉は二人を包む波音に飲み込まれていった。

「はいはい俺が悪うございましたよ。つか、こんだけあからさまにキャッキャウフフとはしゃいでるのに怪しい気配も何も感じなかったな。依頼主によれば被害者は彼女連れの若い男性だったって話なんだけど」

立泳ぎの姿勢を維持したまま相一が困り顔を浮かべる。

「いやあんたもう一つの共通点忘れてんじゃないの? それとも気づいた上で見て見ぬふりをしてるのか」

「くっ…………」

氷柱の言に相一の顔が苦々しく歪む。

「忘れてる様なら教えてあげるわよ、被害者達のもう一つの共通点、それは………………」

「いやあの結構ですんで。ちゃんと覚えてますんで。あーよしそろそろ一回あがって璃亜達と合流――――」

「全員が全員それはもう大層なイケメンだったって事よ!!」

バッキューン、と拳銃を突きつけるようなポーズで相一を指す氷柱は、にやにやと小生意気な笑みを浮かべている。

対してつい先ほどまで若いカップル(イケメン役)を演じていた相一はと言うと。

「いや、ホラ、あれだぞ? 別に自分の事イケメンだとかなんとか思っててこんな作戦を決行したわけではないというかなんというか――――」

居心地悪そうに視線を逸らしながら自己弁護を並べるその姿に事務所の所長として威厳なんてものは欠片も存在しなかった。

「あーはいはい、分かった分かった分かってるって。あんたがそんな現実の見れない残念ナルシスト野郎じゃないって事ぐらい知ってるわよ。そもそも、どう甘く見積もってもいいとこ中の中のくせにイケメン役が務まると…………ってどうしたの?」

見れば相一が海中にある己の足元辺りをじっと見つめている。

「ん、ああさっき足の辺りで何かが動いたような気がして」

「何かって何よ。もしかして鮫とか?」

「そりゃあ困るな」

その言葉とは裏腹に彼からは焦りや緊張といったもが感じられない。唯の人間である彼だけの場合ならまだしも、超常の力を振るう妖怪が目の前にいる状態では鮫の一匹や二匹大した問題では無いという様に。

「まあともかく、コレ以上続けても成果は無さそうだし一度戻ってみましょうか」

当の妖怪本人も臆する様子を見せること無く、

『そうだな』

その一言は大きな水飛沫とその音によって塗りつぶされ、氷柱に届く事はなかった。

「え? そうい――――――ち!?」


そこに居たはずの者の姿が無い。場所は海の真ん中、当然ながら姿を隠せる遮蔽物など存在しない。

ただ一箇所…………自然に立つ波とは明らかに違う、不自然に海面が揺らいでいる場所があった。まるで、溺れかけた人間が水面下で必死にもがいているかのような。

「まさか――――――ッ!?」

足でもつったのではないか、等という呑気な事を考える程間の抜けた頭をしている氷柱ではない。

相一の姿が視界から消えた瞬間、すでに思考のスイッチは日常ラブコメのソレから正反対に位置する物へと切り替えた。

氷柱はその右手に小さな拳を作るとそのまま海面を殴りつける。

ドッパァン!! と意外な程大きな飛沫が上がった理由は浜辺に居た璃亜達からも確認できた。

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