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第1章 偽りの騎士
第1話 おはようございます 2
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ウロボロスの言動でも何となくそう思っていたが、これで確定した。俺は自分自身であるプレイヤーキャラクター、ユウになったのだ。
「我が君、全て現実でございます。それとも私のことも嘘と片付けられるおつもりですか? こうしてお会いできて、お話ができたというのに。ようやくお仕えできるというのに」
その悲しげな表情は余りにもリアルで、とてもじゃないが夢やゲームとは思えない。思えないけど、ここが現実世界じゃないのは明らかだ。ありえないことが既にいくつも起きている。ウロボロスが生きていることも、目の前にウィンドウが表示されるのも、現実では絶対に起こり得ない。
「我が君、どうぞ心ゆくまでお確かめください。私は生きています。貴方様の前で息をしています。感じてください、私の生を」
両手を握られる。その感触にただひたらすらに戸惑ってしまう。だって肌が柔らかいと認識し、その奥に確かな体温を感じているから。
少なくとも言えることはVRでもないということ。あれは空想上の世界を目の前に広げてくれるが、あくまでも視覚だけだ。こんなにもリアルにはならない。この温もりは断じて再現できない。
「なら、聞かせてくれ、ウロボロス。何があった? どうして俺はユウなんだ?」
「わかりません。気が付いた時にはこのようになっておりまして」
「そうか……それなら、何でもいいから情報が欲しいな。そうだ、みんなはいるのか?」
みんな、とは俺が育て上げた配下たち。チーム名、オラクル・ナイツ。チーム戦のオラクル杯で頂点を取った強者たちだ。
「はい。既に声をかけてあります。間もなく――」
突然、扉が豪快な音を立てて勢い良く開かれる。そこにいたのは美形の成人男性だった。名前はアザレア。スラッと高い長身にウェーブのかかった金髪、それに筋の通った鼻。超絶イケメンである。
彼は爽やかな笑みを浮かべながら、ゆっくりとこちらににじり寄って来る。もう一度言おう。にじり寄って来る。
「あぁ、魔王様。こちらにいらっしゃったのですね」
言いながら、おもむろにアザレアは上着を一枚脱ぎ始めた。それをポイと放ると床に落ちて残る。なるほど、あれは廃棄という扱いにはならないらしい。これはドミニオンズとは違うシステムなのか。
それよりもアザレアは暑いのだろうか。俺は全く暑くないけど、生きていると仮定するなら暑さ寒さは感じて当然。空調システムなんて無かったから対策が必要か。その辺は錬金術師であるアザレア自身に作って貰うとしよう。きっと丁度良いアイテムを作ってくれるはずだ。
なんて冷静に分析しながら必死に意味を考える。なまめかしいあの歩き方の意味を。でもわからない。わからないが、放置したら俺の貞操が危うい気がする。
「め……目が覚めたらここにいたんだ。アザレアは何か知っているか?」
「えぇ、把握しております。全てを」
それはありがたい。是非聞かせて欲しいと言おうとして、思わず言葉に詰まってしまう。あろうことか手がシャツにまでかかったのだ。
そこまで暑いだろうか。待て。頼むから待ってくれ。ウロボロスはまだ理解できる。俺のことを愛していると設定文に入れてあるから、初見だし、多少暴走してしまったとしても仕方ないかもしれない。
でもアザレアは違う。見た通りこいつは男だ。俺はノーマル。健全な男子。そんな破廉恥な設定文なんて入れていないはずだ。それなら暑いのかな、なんて、そう信じたかったけど、あの恍惚とした表情は違うと強く主張している。
「と……ところで、暑いのか?」
「はい! この身は火照っております、我が愛しき君!」
アザレアは淀みない動きでシャツを脱ぎ捨て、上体をアピールするように、両手を頭の上で艶めかしく組んだ。そして最高の笑顔でどんどん距離を詰めてくる。
美しい肉体だ。細身ながらも筋肉が少し浮き出ており、肌は白く艶やかだ。惜しいな、これで女性ならば言うこと無しなのだが。なんて、惜しがっている場合じゃない。このままでは良からぬ事態に発展するのは確定的だ。
「お、おい、アザレア! 俺はお前の主、そうだな!?」
「はい、当然でございます」
「なら、そこで待機だ! これは厳命だぞ!」
「おぉ……僕ごときに厳命を下して頂けるとは。このアザレア、感激です」
願いは届いたらしい。ポーズや服装はそのままだが止まってくれた。これで一安心である。なぜ胸をホッとなで下ろしているのか全く理解できないし、その原因も全く想像も付かないが、とにかく安心だ。
だが、誤解を覚悟で言えば少し残念でもある。まるで彫像のように美しいだけに、これが女の子だったらなぁ、と思うと大きく息を吐いてしまう。あ、待て。隣にも超絶美女がいたな。そうか、アザレアが女の子だったとしても俺は腑抜けていただろう。なら男でも構わないか。
それよりも、なんでこうなったのかと小一時間問い詰めたい。原因、そうだ、原因を探ろう。考えられるとすれば、こいつの設定文にウイルスが紛れ込んだ可能性か。確か、心から俺を崇拝しているとはした気がする。メニューを開いて、アザレアのページに飛んでみる。
「あ……あぁっ!?」
衝撃的過ぎて、思わず変な声が出てしまった。なんだ、これは。魔王ユウを盲目的に好いている、だと。超ド級のウイルスを他でもない俺が混入させちゃっているじゃないか。バカ、俺のバカ。崇拝をタイプミスしているじゃないか。見た感じ、他の部分は間違えていない。よりにもよってそこだけを間違っちゃうの、俺。
「何を吠えておるのじゃ」
ほんのりと体温を感じて左を見ると、ピッタリと少女が寄り添っていた。
真祖のヴァンパイア、カルマだ。白銀のツインテールと、赤い目が特徴的だ。配色をモノトーンにまとめるために黒く染色までしたゴスロリドレスを着て貰っている。そして彼女の乗り物というか、椅子というか、そんな感じの真っ黒な大きい特殊な狼、三つ首のケルベロスも一緒にいた。いつも通りカルマの椅子になっている。
「か……カルマ! そこはフィアンセの席です!」
ウロボロスが突っかかっていくものの、カルマは全く反応しない。俺の腕にそっと手を回し、寄りかかり、うっとりとした表情を浮かべているだけだ。
どうして無反応なんだよ。なんでそんな幸せそうな笑顔なんだよ。火に油を注いじゃうでしょうが。
「聞こえていますか、カルマ!? 聞こえているなら返事をしなさい!」
「騒がしい」
金属が擦れる音がして、入り口の方を見ると紫色の甲冑に身を包んだ騎士が現れる。剣士のムラクモだ。厳格な設定にしたんだが、ちゃんと反映されて叱ってくれるとは。素晴らしい。ありがたい。この調子でカルマのことも止めてくれないだろうか。俺の大切なストッパーが外れちゃう前に。
「魔王様! お会いできて嬉しいです!」
「お……おぉ、フェンリスも来てくれたか」
そんな願い事をしていると、絶妙なタイミングでその子はやって来た。赤色の腰まで伸びるストレートの髪と、青い素直な目が可愛い人狼の女の子だ。無邪気で天真爛漫、うん、まさに天使という訳だ。ポンチョのような赤い洋服もよく似合っている。後は、もう少し空気を読んでくれると嬉しかったかな。もう少しでムラクモがカルマのことも叱ってくれるんじゃないかって、そう思ったのに。
なんて考えていたら、気が付くとフェンリスの頭をなでていた。あれ、いつの間に。自然と手が伸びてしまっていた。可愛すぎるって罪だな。
そんな風に暢気に考えていると、ウロボロスがムラクモを怒っているところだった。激情という感じではない。教え諭すような口調であった。だがこちらに気付くと一変。
「あ……あぁっ!? おのれ、フェンリスまで! 退きなさい! そこも私の席です!」
ウロボロスは烈火の如く怒りを露わにしてきた。
「我が君、全て現実でございます。それとも私のことも嘘と片付けられるおつもりですか? こうしてお会いできて、お話ができたというのに。ようやくお仕えできるというのに」
その悲しげな表情は余りにもリアルで、とてもじゃないが夢やゲームとは思えない。思えないけど、ここが現実世界じゃないのは明らかだ。ありえないことが既にいくつも起きている。ウロボロスが生きていることも、目の前にウィンドウが表示されるのも、現実では絶対に起こり得ない。
「我が君、どうぞ心ゆくまでお確かめください。私は生きています。貴方様の前で息をしています。感じてください、私の生を」
両手を握られる。その感触にただひたらすらに戸惑ってしまう。だって肌が柔らかいと認識し、その奥に確かな体温を感じているから。
少なくとも言えることはVRでもないということ。あれは空想上の世界を目の前に広げてくれるが、あくまでも視覚だけだ。こんなにもリアルにはならない。この温もりは断じて再現できない。
「なら、聞かせてくれ、ウロボロス。何があった? どうして俺はユウなんだ?」
「わかりません。気が付いた時にはこのようになっておりまして」
「そうか……それなら、何でもいいから情報が欲しいな。そうだ、みんなはいるのか?」
みんな、とは俺が育て上げた配下たち。チーム名、オラクル・ナイツ。チーム戦のオラクル杯で頂点を取った強者たちだ。
「はい。既に声をかけてあります。間もなく――」
突然、扉が豪快な音を立てて勢い良く開かれる。そこにいたのは美形の成人男性だった。名前はアザレア。スラッと高い長身にウェーブのかかった金髪、それに筋の通った鼻。超絶イケメンである。
彼は爽やかな笑みを浮かべながら、ゆっくりとこちらににじり寄って来る。もう一度言おう。にじり寄って来る。
「あぁ、魔王様。こちらにいらっしゃったのですね」
言いながら、おもむろにアザレアは上着を一枚脱ぎ始めた。それをポイと放ると床に落ちて残る。なるほど、あれは廃棄という扱いにはならないらしい。これはドミニオンズとは違うシステムなのか。
それよりもアザレアは暑いのだろうか。俺は全く暑くないけど、生きていると仮定するなら暑さ寒さは感じて当然。空調システムなんて無かったから対策が必要か。その辺は錬金術師であるアザレア自身に作って貰うとしよう。きっと丁度良いアイテムを作ってくれるはずだ。
なんて冷静に分析しながら必死に意味を考える。なまめかしいあの歩き方の意味を。でもわからない。わからないが、放置したら俺の貞操が危うい気がする。
「め……目が覚めたらここにいたんだ。アザレアは何か知っているか?」
「えぇ、把握しております。全てを」
それはありがたい。是非聞かせて欲しいと言おうとして、思わず言葉に詰まってしまう。あろうことか手がシャツにまでかかったのだ。
そこまで暑いだろうか。待て。頼むから待ってくれ。ウロボロスはまだ理解できる。俺のことを愛していると設定文に入れてあるから、初見だし、多少暴走してしまったとしても仕方ないかもしれない。
でもアザレアは違う。見た通りこいつは男だ。俺はノーマル。健全な男子。そんな破廉恥な設定文なんて入れていないはずだ。それなら暑いのかな、なんて、そう信じたかったけど、あの恍惚とした表情は違うと強く主張している。
「と……ところで、暑いのか?」
「はい! この身は火照っております、我が愛しき君!」
アザレアは淀みない動きでシャツを脱ぎ捨て、上体をアピールするように、両手を頭の上で艶めかしく組んだ。そして最高の笑顔でどんどん距離を詰めてくる。
美しい肉体だ。細身ながらも筋肉が少し浮き出ており、肌は白く艶やかだ。惜しいな、これで女性ならば言うこと無しなのだが。なんて、惜しがっている場合じゃない。このままでは良からぬ事態に発展するのは確定的だ。
「お、おい、アザレア! 俺はお前の主、そうだな!?」
「はい、当然でございます」
「なら、そこで待機だ! これは厳命だぞ!」
「おぉ……僕ごときに厳命を下して頂けるとは。このアザレア、感激です」
願いは届いたらしい。ポーズや服装はそのままだが止まってくれた。これで一安心である。なぜ胸をホッとなで下ろしているのか全く理解できないし、その原因も全く想像も付かないが、とにかく安心だ。
だが、誤解を覚悟で言えば少し残念でもある。まるで彫像のように美しいだけに、これが女の子だったらなぁ、と思うと大きく息を吐いてしまう。あ、待て。隣にも超絶美女がいたな。そうか、アザレアが女の子だったとしても俺は腑抜けていただろう。なら男でも構わないか。
それよりも、なんでこうなったのかと小一時間問い詰めたい。原因、そうだ、原因を探ろう。考えられるとすれば、こいつの設定文にウイルスが紛れ込んだ可能性か。確か、心から俺を崇拝しているとはした気がする。メニューを開いて、アザレアのページに飛んでみる。
「あ……あぁっ!?」
衝撃的過ぎて、思わず変な声が出てしまった。なんだ、これは。魔王ユウを盲目的に好いている、だと。超ド級のウイルスを他でもない俺が混入させちゃっているじゃないか。バカ、俺のバカ。崇拝をタイプミスしているじゃないか。見た感じ、他の部分は間違えていない。よりにもよってそこだけを間違っちゃうの、俺。
「何を吠えておるのじゃ」
ほんのりと体温を感じて左を見ると、ピッタリと少女が寄り添っていた。
真祖のヴァンパイア、カルマだ。白銀のツインテールと、赤い目が特徴的だ。配色をモノトーンにまとめるために黒く染色までしたゴスロリドレスを着て貰っている。そして彼女の乗り物というか、椅子というか、そんな感じの真っ黒な大きい特殊な狼、三つ首のケルベロスも一緒にいた。いつも通りカルマの椅子になっている。
「か……カルマ! そこはフィアンセの席です!」
ウロボロスが突っかかっていくものの、カルマは全く反応しない。俺の腕にそっと手を回し、寄りかかり、うっとりとした表情を浮かべているだけだ。
どうして無反応なんだよ。なんでそんな幸せそうな笑顔なんだよ。火に油を注いじゃうでしょうが。
「聞こえていますか、カルマ!? 聞こえているなら返事をしなさい!」
「騒がしい」
金属が擦れる音がして、入り口の方を見ると紫色の甲冑に身を包んだ騎士が現れる。剣士のムラクモだ。厳格な設定にしたんだが、ちゃんと反映されて叱ってくれるとは。素晴らしい。ありがたい。この調子でカルマのことも止めてくれないだろうか。俺の大切なストッパーが外れちゃう前に。
「魔王様! お会いできて嬉しいです!」
「お……おぉ、フェンリスも来てくれたか」
そんな願い事をしていると、絶妙なタイミングでその子はやって来た。赤色の腰まで伸びるストレートの髪と、青い素直な目が可愛い人狼の女の子だ。無邪気で天真爛漫、うん、まさに天使という訳だ。ポンチョのような赤い洋服もよく似合っている。後は、もう少し空気を読んでくれると嬉しかったかな。もう少しでムラクモがカルマのことも叱ってくれるんじゃないかって、そう思ったのに。
なんて考えていたら、気が付くとフェンリスの頭をなでていた。あれ、いつの間に。自然と手が伸びてしまっていた。可愛すぎるって罪だな。
そんな風に暢気に考えていると、ウロボロスがムラクモを怒っているところだった。激情という感じではない。教え諭すような口調であった。だがこちらに気付くと一変。
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