魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第1章 偽りの騎士

第19話 ルーチェの過去、そして今 1

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 なぜ私は生きているのだろう。どうして生まれてきたんだろう。誰を、何を、とは言えないが、とにかくこの生を呪わなかった日はない。捨てられて、食べ物も飲み物も無くて、知らない場所で、膝を抱えたままで。昨日も、一昨日もそうだった。今日も変わらず、明日からもずっとこのままで、いつか死んじゃうんだ。漠然と、そんな悲しいことしか考えていなかった。
 今日もまた暑い日だった。猛暑日というやつらしい。強烈な日の光から逃れられる日陰は大人に占領されて追い出されて、仕方なく適当な所に座ってみた。土のはずなのにお尻が熱い。ギラギラ照り付けてくる日差しは痛い。
そんな真夏のある日のこと。その子は突然、ふらっと私の前に現れた。

「あなたのお名前は?」

 女の子だった。きっと、私と同じくらいの年の。可愛い服、綺麗な髪、真っ白な肌。大切に育てられているんだろう。私とは何もかも正反対。そんな異次元の住人さんが、目の前で立ち止まってじっと見つめている。

「……ルーチェ」

 本当なら知らん顔をするべきだ。後ろには大人が控えていて、答えたら最後、捕まって売り飛ばされる、そんな風に思った。でも何もかもどうでも良い。今ここで殺されればむしろ楽になれるんじゃないかって、そう思って、馬鹿正直に答えた。

「私はアデル。ね、ルーチェ。良かったら私の家に来ない?」

 すると、とても嬉しそうに顔を綻ばせて、あり得ない提案をしてきた。
 家に呼ぶ、だって。私の身なりは最悪だ。雨風と土埃でボロボロの布切れみたいな服、泥だらけの体、ボサボサの髪。こんな状態で、どうして家に上がってくれと言えるんだろう。やはり私を捕まえて売り飛ばす気なのだろうか、なんて疑いもした。

「……貴女の家に?」

 でも乗りかかった船だ。行き先が地獄だろうが、はたまた天国だろうが、私には関係ない。ここで黙って座っていても明日まで生き延びられるかどうかもわからないのだから。まぁ、そうやって希望を見せておいて拉致するのが汚い奴らの手口なんだろうが、それでもさっき言った通り、死が早まるだけで関係のないことだ。

「私、友達が欲しいの。お父さんのお仕事であちこち移動しているから……友達がいなくて。だから、ずっと一緒にいてくれる友達が欲しいの」

 なるほど、飛び付いてしまいたくなるくらい魅力的な話だ。世界は貧困に苦しんでいる。少なくとも、私が生まれて過ごしてきた環境はどこを見渡しても、今日食べる物にすら困っている人ばかりだった。それなのに、こんな何の価値もない私を連れていくって。そんなうまい話があるものか。
 でも、もしも本当だったなら私は救われる。この子の暮らしぶりは全く想像できないけど、少なくとも雨風や土埃、それにこの痛い日差しを遮れる所にいられるのは間違いない。ひょっとすると食べ物や飲み物に困らなくなるかもしれない。

「……お願い、します」
「うん、よろしくね!」

 だから、まだ、生きられる方に賭けたかった。
 これがアデルとの出会いだった。アデルのお父さんは凄くいい人で、とても優しくしてくれた。学者さんらしくてよく難しい話をしていたのを覚えている。
 そんなお父さんに憧れたようで、アデルの夢は学者さんになることだった。私も誘われはしたが駄目だ。文字とにらめっこすると頭が痛くなる。

「ルーチェ、何をしているの?」

 アデルは勉強ばかりで、たまに遊ぶ時以外はやることがない。せめて家事をしたいと言って色々覚えたけど、毎日すぐに終わってしまう。鏡のようにピカピカに食器を磨き上げるのにも飽きてきて、仕方なく落ちている小石を拾って、浮かばないかな、とかやって遊んで過ごしていた。だから突然そんなことを聞かれて困った。困って、咄嗟にこう答えた。

「ま、魔法の練習……かな?」
「えっ、凄い! 魔法が使えるの!?」
「つ、使えないよ。練習しているだけだし」

 魔法を使える条件って何だろう。それすらわからないのに、どうして魔法の練習なんて言ったのか。自分の吐いた言葉なのに自分自身が一番驚いている。
せがまれて仕方なく手ごろな小石を拾い上げて、キラキラとした目を向けるアデルの前で手を離す。ほら、やっぱり失敗した。そう言おうとして、言おうとして。

「落ちて……こない?」

何が起こったというのか。小石は宙に浮いたまま落ちない。私は何も細工をしていない。透明な台座に乗せるとか、糸で吊るすとか、そういう手品のようなことはしていない。アデルもまた同様だろう。だって、たまたまここに来ただけだろうから。
あぁ、そうか。アデルか。アデルには魔法を使えて、こうやってやるんだよって実演してくれたに違いない。

「浮いている! 落ちない! ルーチェってば魔法が使えるんだね! 凄い!」

 そう思ったけど、この反応、絶対に違った。アデルは嘘を吐くのが苦手、というよりも吐いたことすらないから。じゃあ、何がどうしてうまくいったのかわからないけどこれは私の力ということらしい。
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