魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第1章 偽りの騎士

第20話 守護神 2

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 今まさにその言葉を口にしようとした時、ひとつの影が2人の間を駆け抜けていく。

「人は奥ゆかしさを美徳とするようじゃが、お主のそれは、ともすると野暮と言うやもしれぬぞ」

 カルマだった。ケルベロスに腰かけ、紅茶をすすりながら、敵陣の中へ突っ込んでいく。そして別の影がひとつ、またひとつと飛び出していく。彼女の後ろを追って、眷属である真っ黒な騎士たちが次々と姿を現していくのだ。たちまち戦場は乱戦模様になっていく。

「か……カルマ! 私が話しているところですよ!」
「まぁまぁ、良いではありませんか」

 次に現れたのはアザレアだった。小さな溜め息を吐きながらウロボロスの肩を叩いて止める。
 まさか、とウロボロスはその背後を見た。忘れてはいけない。アザレアは直接自身が前線へ出るようなタイプではない。戦わせるのはゴーレム。そう、さっきの眷属たちのようにゴーレムの大群が飛び出すのではないか、と思ったのだ。しかしそうではなく、ポーションを取り出してルーチェに振りかける。傷が少しずつ癒え始めた。

「少々欲張りすぎですよ。もう貴女の見せ場はあったでしょう? ほら、後は――」

 ゴーレムは出て来なかった。繰り返そう。ゴーレムは、出て来なかった。アザレアが言い終わる前に、転移の魔法陣が現れたかどうかのところで、小柄な影がひとつだけ飛び出す。

「私もいきますよぉっ!」

 恍惚とした表情のフェンリスだった。とてつもなく嬉しそうに、生き生きとしている。それもそのはず。この世界に来てからというもの、まともに戦えるのは今回が初めてなのだ。というのも、ユウによって加減を知らなさそうだからと下げられていたから。今回は心配いらない。ほら、多少数が減ってきているものの、それでもまだまだ、殺し尽くしても全く問題ないゾンビの群れがいる。

「フェンリスまで……本当にもう」

 ウロボロスはガックリと肩を落とした。ルーチェと2人でしっかり話をしたい。その希望もあったのは本当だが、忘れてはならない。この戦いはユウがバッチリ見ている。そう、ユウにこれでもかと良いところを見せるまたとない機会なのだ。だからまぁ、カルマたちも競うように出張って来るのもわからなくはなく、むしろここまで花を持たせてくれたことに感謝しなくてはならない場面である。

「これで我慢して――」

 こうなっては活躍するところを見せるなんて無理だ。でもまだ手が無い訳ではない。見ろ、この無いに等しいレベルの魔法攻撃の雨を。こんな魔法でも手でカッコよく弾けばまだアピールになるかな、なんて考えて、一発だけわざとシールドの隙間を抜けさせた。それなのに、迎撃するよりも早く一筋の閃光が駆け抜ける。

「――失礼」

 犯人はムラクモだった。ウロボロスが殴り付けるよりも素早く、横に一閃。小粒の魔法ではあるが鮮やかに切り捨ててしまった。
 師弟は目を合わせると、まるで喧嘩でもするように、片や自分へ魔法を当てさせようとして、片や守ろうとして、熾烈な争いを繰り広げた。

「……はぁ、仕方ないですね」
「む、諦めたか?」

 先に折れたのはウロボロスだ。余りにも不毛過ぎるし、想像以上に向かってくる魔法が弱過ぎて勝ち目が無いのだから。
 ムラクモも戦場へ行くのを見送って、ウロボロスはイージス・ビットを消してしまう。なぜなら皆の力の入れようは凄まじい。きっと余波で跳ね飛んだ小石ひとつすら競って撃ち落としてしまうだろう。もう防御は不要。ならば、ここからはルーチェとゆっくり話がしたいと、そういう訳だった。

「さて、如何ですか、ルーチェよ?」
「何が……ですか?」

 回復してきているとはいえ、瀕死の状態でこんな力の抜けてしまうようなやり取りを見せられて、ルーチェに何をどう返せと言うのか。突っ込み的なことを強く言えないのは死に体だからである。だが、ウロボロスは至って真剣な表情をしている。

「まだ偽るつもりなのかと聞いているのです」
「どういう意味――」

 言い欠けたルーチェは喀血し、倒れ込んでしまう。むしろよく今まで立っていたと褒めて欲しいくらいだ、とも思っていた。そのくらい気が抜けてしまったのだろう。次第に目が閉じそうになっていく。

「貴女は言いました。騎士道とは、目的へと通じる道。騎士はそのための手段に過ぎず、気高き様はその過程そのものだと」
「それが……何だと……?」
「問います。その道中は果たして気高くあらねらば……汚れがあってはいけないのですか? つまり、貴女の手で救わなければ果たせないのですか?」
「それは……」

 薄れゆく意識は怒りで繋ぎとめられる。気高き騎士様は弱者の力になるとか何とか言いながら、いつも1人でも多くの方を助けに行く。1人ぼっちの、本当に弱い方には目もくれない。中には心の中で、助けに行けなくてごめんと謝る自己保身に走る奴もいるかもしれない。だが謝られたって、死にかけている人からすれば末代まで呪ってやりたくなるものじゃないか。なぜ助けてくれないんだ、嘘吐きめ、と。でも気高き騎士様はそうやって上手に現実から目を背けながら、どんどん気高くなったって誤解していく。

「違います。その過程に意味なんてありません。特に、貴女の場合はそうでしょう?」

 ふっと、ルーチェは力無く笑う。先に言われてしまったから。そうだ、その他大勢が死んでも痛くも痒くもない。これを言ったら怒られるかもしれないが、命の重さに違いが無いなんて言い分は綺麗事だ。誰だって自分と大切な人が一番、その他はどうでもいい。そんなランク付けをしているだろう。だからアデルを助けたい。助けることをためらわない。例えその結果、どれだけ多くの人に迷惑がかかろうと知ったことではない。

「あえて言いましょう。断じて、貴女は騎士などではありません。いえ、騎士になってはならないのです。その内に秘める思いは紛うことなき本物で、そんな貴女だからこそ、私たちは力になりたいのですから」
「……どうして勝てたんでしょうね。こんなにも敵わないと、心から思える人に」
「愛する者のために全てを捧げる強過ぎた思い。どうしてあの時の私に勝てたでしょう? ただそれだけのことです。さぁ、安心しなさい、ルーチェ。貴女の思いは今、繋がります。舞台は整いました。お出でくださいませ、我が君」

 ウロボロスが片膝を着き、頭を垂れる。ウロボロスだけではない。後方で見守っていたアザレアも、戦闘中のカルマ、フェンリス、ムラクモまでが、一旦引いて来ると敵に背を向けてウロボロスに倣って頭を垂れた。
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