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第2章 暁の竜神
第3話 紅竜同盟の使者 4
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そんな糞共の視線に気付いているのかいないのか、ウロボロスは奴らの方へ向き直ると般若の様相へと戻る。
「私はウロボロスですが、それが何か?」
「ウロボロスか……良い名だ。どうだ、我らと共に来ないか? 人間というものは統べからく信用ならん生き物だ。平気で同胞を裏切り、貶め、挙げ句の果てに殺す。己の罪を棚に上げて死体蹴りまでするような輩だ」
ローレンは鼻の下を伸ばしながら手を差し出して来た。選択の時だ。俺が心からこいつらとの関係改善を望むなら、これが最後のチャンスと言っていい訳ないだろ。死ね、エロ親父共が。
どうしてくれようか。とにかく断罪だ。汚物は排除だと怒りに身を任せる直前で、ウロボロスが信じられない返答をしてくれた。
「随分と似た価値観をお持ちのようで」
「お、おい、ウロボロス……?」
呆気に取られてしまう。何を言っているんだ、ウロボロスは。アデルやルーチェの一件で考え方が変わってくれたんじゃなかったのか。まだそんな事を言ってしまうのか。
ショックだった。いや、でも仕方のない事ではある。ウロボロスが受けた屈辱を思えば、むしろあの程度で考えが変わるなんて虫が良過ぎた。
「ならば話は早い。我らと共に竜人のために働こうではないか」
「お断りします」
「……聞き間違えたか? もう一度問う。我らと共に来い」
「私は嫌だと言いました。今度は通じましたか?」
間髪入れずにウロボロスは返答し、ローレンを睨み付けた。そりゃそうだ。深いところでは残念ながら共感してしまったみたいだが、ウロボロスの思いは本物だ。俺から離れてどこぞに行くなど天地がひっくり返ってもないだろうさ。
そう思っていたが、どうやらそれだけではないらしい。
「人間は脆弱で狡猾。自分だけが良ければそれで構わないと胸を張って言い放つ種族です。それについては同意しましょう。しかし中には違う者もいます。今ならば自信を持って言えます」
どうしていいのかわからない内に友好関係を結ぶチャンスは終わってしまったらしい。ローレンの目が吊り上がっていき、それに合わせて顔が赤くなっていく。まぁ、ウロボロスを汚してくれた辺りから手を結ぶつもりなんて毛頭無くなってしまった訳だけど。
そんな事はどうでもいい。嬉しかった。ウロボロスがそこまで考え方を変えてくれていたなんて。正直に言うと泣いちゃいそうだ。
「ふん、美人だからと気を許したらこれだ……!」
おい、エロ親父。人が感動しているんだ。黙ってエロ本でも読んでいろ。なんて言えるはずもなく、とりあえず俺も睨んでおく。
さて、ここからどうするか。話をする前から何かもわからない交渉は決裂したと言っていい。最悪の場合は戦争になるぞ。戦争、でもそれってイース・ディードを巻き込むことになるのだろうか。せっかく復興し始めているこの土地でドンパチやらかすのは嫌だな。そうなるとせめてサウス・グリードの方で、とか色々と考えを巡らせていると、
「そこまでですよ、ローレンさん」
今まで一番後ろで傍観していた女の子が前に出て、フードを脱ぎながら待ったをかける。竜人の年齢はよくわからないがその顔立ちは明らかに幼く、人間ならば10歳前後に見えた。深紅のややブロンドのかかったショートヘアーがよく似合う少女である。もう一度言おう、少女である。それなのに口調や立ち振る舞いは俺なんかよりずっと大人びていた。
少女は深々としばらく頭を下げてから、落ち着いたトーンで話し始める。
「度重なる無礼をお詫び致します、魔王様とその臣下よ。私は紅蓮牙竜隊の隊長を任されているメグと申します」
こんな小さな子が隊長なのか。見た目だけならにわかには信じがたいが、他の使者たちの様子を見る限り嘘ではないのだろう。まだこちらに険しい目を向けているものの、大人しく剣を収めて引き下がったのだ。残ったのはローレンだけである。
「待て、メグ! ここは俺が……!」
「話を脱線させ、あろうことか関係性をややこしくした貴方では使命を果たせないでしょう?」
「し、しかし、使節団のリーダーはこの俺だぞ!?」
「では魔王様に決めて頂きましょう。ローレンさんと私と、どちらと話がしたいのか。突然の訪問にも関わらず応じてくださいましたし先の件もあります。このくらいの配慮は当然でしょう」
頭に血が上っていたはずのローレンと対等に話せていることからも疑いようがない。この子は本物の隊長なんだ。ひょっとしたら建前上はローレンが使節団のリーダーかもしれないが、実際はこの子が全権を任されている可能性すらある。これまで後ろにいたのは女の子だからと舐められないようにするためか。はたまた俺たちを第三者の視点から観察するためか。わからない。でもひとつだけ言えるのは、ローレンよりも確実に話しやすそうだということ。
「メグ……だったか。俺は君と話がしたい」
「聞こえましたね、ローレンとやら。下がりなさい。我が君はその子との対談を希望されました」
面白くはないだろうな。ローレンは歯ぎしりしながら拳を強く握り締めた。ただ、腐っても隊長を任されるだけの器はあるらしい。まるで毒でも絞り出すかのように大きく息を吐き出し、見るからに怒りを抑えた。その表情は未だに険しいけど、少なくともここから戦いに発展することはなさそうだ。
「わかった、従おう。その代わり全責任はお前が背負えよ?」
「はい、当然のことです。その間ローレンさんは……」
「別室をご用意致しましたー」
いつからいたのか、はたまた今来たのか、後ろからニュッと現れたのは葉月だった。思わず驚いてしまうと、してやったりという感じで得意げにブイサインをする。
「お、驚かせるなよ、葉月」
「魔王様に驚いて貰えるなんて、光栄ですー」
抑揚のない気怠げな声でそんなことを言われた。それは光栄と思われていいのだろうか。俺としては心穏やかに過ごしたいんだが。
「私はウロボロスですが、それが何か?」
「ウロボロスか……良い名だ。どうだ、我らと共に来ないか? 人間というものは統べからく信用ならん生き物だ。平気で同胞を裏切り、貶め、挙げ句の果てに殺す。己の罪を棚に上げて死体蹴りまでするような輩だ」
ローレンは鼻の下を伸ばしながら手を差し出して来た。選択の時だ。俺が心からこいつらとの関係改善を望むなら、これが最後のチャンスと言っていい訳ないだろ。死ね、エロ親父共が。
どうしてくれようか。とにかく断罪だ。汚物は排除だと怒りに身を任せる直前で、ウロボロスが信じられない返答をしてくれた。
「随分と似た価値観をお持ちのようで」
「お、おい、ウロボロス……?」
呆気に取られてしまう。何を言っているんだ、ウロボロスは。アデルやルーチェの一件で考え方が変わってくれたんじゃなかったのか。まだそんな事を言ってしまうのか。
ショックだった。いや、でも仕方のない事ではある。ウロボロスが受けた屈辱を思えば、むしろあの程度で考えが変わるなんて虫が良過ぎた。
「ならば話は早い。我らと共に竜人のために働こうではないか」
「お断りします」
「……聞き間違えたか? もう一度問う。我らと共に来い」
「私は嫌だと言いました。今度は通じましたか?」
間髪入れずにウロボロスは返答し、ローレンを睨み付けた。そりゃそうだ。深いところでは残念ながら共感してしまったみたいだが、ウロボロスの思いは本物だ。俺から離れてどこぞに行くなど天地がひっくり返ってもないだろうさ。
そう思っていたが、どうやらそれだけではないらしい。
「人間は脆弱で狡猾。自分だけが良ければそれで構わないと胸を張って言い放つ種族です。それについては同意しましょう。しかし中には違う者もいます。今ならば自信を持って言えます」
どうしていいのかわからない内に友好関係を結ぶチャンスは終わってしまったらしい。ローレンの目が吊り上がっていき、それに合わせて顔が赤くなっていく。まぁ、ウロボロスを汚してくれた辺りから手を結ぶつもりなんて毛頭無くなってしまった訳だけど。
そんな事はどうでもいい。嬉しかった。ウロボロスがそこまで考え方を変えてくれていたなんて。正直に言うと泣いちゃいそうだ。
「ふん、美人だからと気を許したらこれだ……!」
おい、エロ親父。人が感動しているんだ。黙ってエロ本でも読んでいろ。なんて言えるはずもなく、とりあえず俺も睨んでおく。
さて、ここからどうするか。話をする前から何かもわからない交渉は決裂したと言っていい。最悪の場合は戦争になるぞ。戦争、でもそれってイース・ディードを巻き込むことになるのだろうか。せっかく復興し始めているこの土地でドンパチやらかすのは嫌だな。そうなるとせめてサウス・グリードの方で、とか色々と考えを巡らせていると、
「そこまでですよ、ローレンさん」
今まで一番後ろで傍観していた女の子が前に出て、フードを脱ぎながら待ったをかける。竜人の年齢はよくわからないがその顔立ちは明らかに幼く、人間ならば10歳前後に見えた。深紅のややブロンドのかかったショートヘアーがよく似合う少女である。もう一度言おう、少女である。それなのに口調や立ち振る舞いは俺なんかよりずっと大人びていた。
少女は深々としばらく頭を下げてから、落ち着いたトーンで話し始める。
「度重なる無礼をお詫び致します、魔王様とその臣下よ。私は紅蓮牙竜隊の隊長を任されているメグと申します」
こんな小さな子が隊長なのか。見た目だけならにわかには信じがたいが、他の使者たちの様子を見る限り嘘ではないのだろう。まだこちらに険しい目を向けているものの、大人しく剣を収めて引き下がったのだ。残ったのはローレンだけである。
「待て、メグ! ここは俺が……!」
「話を脱線させ、あろうことか関係性をややこしくした貴方では使命を果たせないでしょう?」
「し、しかし、使節団のリーダーはこの俺だぞ!?」
「では魔王様に決めて頂きましょう。ローレンさんと私と、どちらと話がしたいのか。突然の訪問にも関わらず応じてくださいましたし先の件もあります。このくらいの配慮は当然でしょう」
頭に血が上っていたはずのローレンと対等に話せていることからも疑いようがない。この子は本物の隊長なんだ。ひょっとしたら建前上はローレンが使節団のリーダーかもしれないが、実際はこの子が全権を任されている可能性すらある。これまで後ろにいたのは女の子だからと舐められないようにするためか。はたまた俺たちを第三者の視点から観察するためか。わからない。でもひとつだけ言えるのは、ローレンよりも確実に話しやすそうだということ。
「メグ……だったか。俺は君と話がしたい」
「聞こえましたね、ローレンとやら。下がりなさい。我が君はその子との対談を希望されました」
面白くはないだろうな。ローレンは歯ぎしりしながら拳を強く握り締めた。ただ、腐っても隊長を任されるだけの器はあるらしい。まるで毒でも絞り出すかのように大きく息を吐き出し、見るからに怒りを抑えた。その表情は未だに険しいけど、少なくともここから戦いに発展することはなさそうだ。
「わかった、従おう。その代わり全責任はお前が背負えよ?」
「はい、当然のことです。その間ローレンさんは……」
「別室をご用意致しましたー」
いつからいたのか、はたまた今来たのか、後ろからニュッと現れたのは葉月だった。思わず驚いてしまうと、してやったりという感じで得意げにブイサインをする。
「お、驚かせるなよ、葉月」
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