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第2章 暁の竜神
第4話 竜神祭 前編 2
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それはそうと、これを面白くないと思う奴がいる。ウロボロスさんだ。頬を膨らませ、目を可愛らしく釣り上げて、俺の腕を取ってカルマに宣戦を布告する。
「私だって可愛いと言われたんです。隣は渡しませんよ?」
「わかっておるわ。折角の衣装を消し炭にされたくはない」
可愛らしく言っているが、つい1時間前のトラウマを教訓とよう。命が惜しくば敵対心なんて抱いてはならない。それにあのスキーウェアは高そうだ。一式揃えるだけで、そうだな、リアルだと10万は軽くかかるだろうな。ドミニオンズ価格でも当然高いだろう。ほら、心なしか衣装を守るように身を抱くカルマの顔色も悪い。
「しかし……まぁ、あれじゃのう」
そう思ったけど、顔色に関してはまた別の理由があるらしい。カルマは額に大粒の汗を浮かべてふらふらと揺れ始める。この炎天下でその厚手の装備は自殺行為で、暑さに耐え切れなくなったのだろう。遂に日傘を差すと、ケルベロスの首輪に柄を挿してパラソルのようにし、日除けとした。そして扇子を取り出し、首元を少しはだけて扇ぎ出す。季節感がごちゃ混ぜだ。
「少々暑くてのう。日傘の使用を認めて欲しいのじゃ」
「あぁ……まぁ、そうだよね。暑いなら無理にとは……」
倒れられても困るから、駄目なら着替えてしまっても構わない。そう言おうとした時、声高らかに待ったがかかる。
「お洒落とは暑さ寒さとの戦いでもある! 負けるな、カルマよ! 僕も戦おう!」
颯爽と現れたのはアザレアだ。自分の肉体を誇示するように、ボディビルダーみたいなポーズを代わる代わる取っている。目のやり場に困る状態だ。妙に裸の面積が多い。端的に言うと海パンしかはいていない。
あれはもう、何なんだろう。当り前だが、ここにもきっと行き先にも海やプールもなければ、川や湖もない。水溜まりすらない。それなのに、見ろ、あの姿を。猥褻物陳列罪で捕まってくれないかな。
「あぁ、合法的に僕の美しい体を魔王様に見て頂けるなんて……! 祭りとは神が与えしまたとない機会なのですね!」
百歩譲ればさ、まぁ、水泳大会があるだろう。時と場所、事と次第によっては、それが体育祭に組み込まれる可能性も無くも無い。祭りと名の付いたものに入っている可能性がある以上全く理解できない訳でもないが、それが通用するのは女子のみ。
「お前は服を着ろ、今すぐにだ」
「おや、この色合いがお気に召しませんでしたか? では、赤いパンツに……」
何を思ったのか、アザレアは最後の砦にためらいなく手をかける。そしてすっと下ろそうとまでした。脊髄反射的な速さで間髪入れずに静止させる。
「ここで着替えようとするな! 見えるだろ!?」
「何を仰いますか。僕としては生まれたままの姿を……」
「却下! いつも通りの服になれ! いいな、見えない所で着替えろ!」
危うく男のヌードを見るはめになるところだった。ウロボロスやカルマの水着姿なら見たかったけど、男のはなぁ。
そう考えると悪いことをした気分になってしまう。ここで2人が水着で出て来たのならここまで言う必要なんて無かった。なんて、そんな馬鹿な話があってたまるか。俺も暑さにやられて頭がどうにかしたとでも言うのか。
癒そう。それには目の保養だ。一瞬迷って、ウロボロスにちらりと目を向けると、こちらをガン見していたようでバッチリ目が合う。
「何でしょうか、我が君?」
声が弾んでいる。妙に嬉しそうだ。言っておくが俺は何も言っていない。ポロっと呟いてすらいないはず。だからこそ思い出す。ウロボロスの前で邪な考えは禁止だったと。
危なかった。ここでカルマを見ていたら第三次大戦が勃発していたかもしれない。そうなってはもう祭りどころではなくなってしまう。今日は特にウロボロスさんのことを第一に考えて行動しよう。
「魔王様ー!」
決意を新たに、いざ竜神祭へ。そう思った時だった。元気よく手を振りながらフェンリスが駆け寄って来る。余程楽しい気持ちなのだろう。ご機嫌な犬のように金色の尻尾をブンブン振っている。尻尾に目がいったが、そんなことより、その服装は体操服だった。健康的な生腕と足がばっちり見えてしまうブルマ姿である。その胸元には「ふぇんりす」と書かれた布製のネームが縫い込まれており、芸が細かく本格的だった。
「えへへー、どうですか、魔王様!」
「可愛い! グッジョブ!」
なで回したい。とりあえず頭から順番に。おっと、いけない。理性が明後日の方向へ飛んでしまっていたようだ。堪えろ、越えてはいけない一線をまたいではいけない。それに忘れるな。俺の思考はウロボロスさんに読み取られてしまうということを。
「魔王様、必ず一番を取るので、見ていてくださいね!」
「あぁ、お前がナンバーワンだ!」
いやぁ、いいものを見た。満足、満足と思っていたら、心なしか、腕に尋常じゃない圧力がかかった気がした。あ、と思い出す。フェンリスが余りにも天使過ぎて、命に関わる大切なことでもまるっと抜けてしまうなぁ。なんて冷静に分析している場合か。今は現実を見なくては。
「私だって可愛いと言われたんです。隣は渡しませんよ?」
「わかっておるわ。折角の衣装を消し炭にされたくはない」
可愛らしく言っているが、つい1時間前のトラウマを教訓とよう。命が惜しくば敵対心なんて抱いてはならない。それにあのスキーウェアは高そうだ。一式揃えるだけで、そうだな、リアルだと10万は軽くかかるだろうな。ドミニオンズ価格でも当然高いだろう。ほら、心なしか衣装を守るように身を抱くカルマの顔色も悪い。
「しかし……まぁ、あれじゃのう」
そう思ったけど、顔色に関してはまた別の理由があるらしい。カルマは額に大粒の汗を浮かべてふらふらと揺れ始める。この炎天下でその厚手の装備は自殺行為で、暑さに耐え切れなくなったのだろう。遂に日傘を差すと、ケルベロスの首輪に柄を挿してパラソルのようにし、日除けとした。そして扇子を取り出し、首元を少しはだけて扇ぎ出す。季節感がごちゃ混ぜだ。
「少々暑くてのう。日傘の使用を認めて欲しいのじゃ」
「あぁ……まぁ、そうだよね。暑いなら無理にとは……」
倒れられても困るから、駄目なら着替えてしまっても構わない。そう言おうとした時、声高らかに待ったがかかる。
「お洒落とは暑さ寒さとの戦いでもある! 負けるな、カルマよ! 僕も戦おう!」
颯爽と現れたのはアザレアだ。自分の肉体を誇示するように、ボディビルダーみたいなポーズを代わる代わる取っている。目のやり場に困る状態だ。妙に裸の面積が多い。端的に言うと海パンしかはいていない。
あれはもう、何なんだろう。当り前だが、ここにもきっと行き先にも海やプールもなければ、川や湖もない。水溜まりすらない。それなのに、見ろ、あの姿を。猥褻物陳列罪で捕まってくれないかな。
「あぁ、合法的に僕の美しい体を魔王様に見て頂けるなんて……! 祭りとは神が与えしまたとない機会なのですね!」
百歩譲ればさ、まぁ、水泳大会があるだろう。時と場所、事と次第によっては、それが体育祭に組み込まれる可能性も無くも無い。祭りと名の付いたものに入っている可能性がある以上全く理解できない訳でもないが、それが通用するのは女子のみ。
「お前は服を着ろ、今すぐにだ」
「おや、この色合いがお気に召しませんでしたか? では、赤いパンツに……」
何を思ったのか、アザレアは最後の砦にためらいなく手をかける。そしてすっと下ろそうとまでした。脊髄反射的な速さで間髪入れずに静止させる。
「ここで着替えようとするな! 見えるだろ!?」
「何を仰いますか。僕としては生まれたままの姿を……」
「却下! いつも通りの服になれ! いいな、見えない所で着替えろ!」
危うく男のヌードを見るはめになるところだった。ウロボロスやカルマの水着姿なら見たかったけど、男のはなぁ。
そう考えると悪いことをした気分になってしまう。ここで2人が水着で出て来たのならここまで言う必要なんて無かった。なんて、そんな馬鹿な話があってたまるか。俺も暑さにやられて頭がどうにかしたとでも言うのか。
癒そう。それには目の保養だ。一瞬迷って、ウロボロスにちらりと目を向けると、こちらをガン見していたようでバッチリ目が合う。
「何でしょうか、我が君?」
声が弾んでいる。妙に嬉しそうだ。言っておくが俺は何も言っていない。ポロっと呟いてすらいないはず。だからこそ思い出す。ウロボロスの前で邪な考えは禁止だったと。
危なかった。ここでカルマを見ていたら第三次大戦が勃発していたかもしれない。そうなってはもう祭りどころではなくなってしまう。今日は特にウロボロスさんのことを第一に考えて行動しよう。
「魔王様ー!」
決意を新たに、いざ竜神祭へ。そう思った時だった。元気よく手を振りながらフェンリスが駆け寄って来る。余程楽しい気持ちなのだろう。ご機嫌な犬のように金色の尻尾をブンブン振っている。尻尾に目がいったが、そんなことより、その服装は体操服だった。健康的な生腕と足がばっちり見えてしまうブルマ姿である。その胸元には「ふぇんりす」と書かれた布製のネームが縫い込まれており、芸が細かく本格的だった。
「えへへー、どうですか、魔王様!」
「可愛い! グッジョブ!」
なで回したい。とりあえず頭から順番に。おっと、いけない。理性が明後日の方向へ飛んでしまっていたようだ。堪えろ、越えてはいけない一線をまたいではいけない。それに忘れるな。俺の思考はウロボロスさんに読み取られてしまうということを。
「魔王様、必ず一番を取るので、見ていてくださいね!」
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いやぁ、いいものを見た。満足、満足と思っていたら、心なしか、腕に尋常じゃない圧力がかかった気がした。あ、と思い出す。フェンリスが余りにも天使過ぎて、命に関わる大切なことでもまるっと抜けてしまうなぁ。なんて冷静に分析している場合か。今は現実を見なくては。
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