魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

文字の大きさ
136 / 176
第2章 暁の竜神

第4話 竜神祭 前編 2

しおりを挟む
 それはそうと、これを面白くないと思う奴がいる。ウロボロスさんだ。頬を膨らませ、目を可愛らしく釣り上げて、俺の腕を取ってカルマに宣戦を布告する。

「私だって可愛いと言われたんです。隣は渡しませんよ?」
「わかっておるわ。折角の衣装を消し炭にされたくはない」

 可愛らしく言っているが、つい1時間前のトラウマを教訓とよう。命が惜しくば敵対心なんて抱いてはならない。それにあのスキーウェアは高そうだ。一式揃えるだけで、そうだな、リアルだと10万は軽くかかるだろうな。ドミニオンズ価格でも当然高いだろう。ほら、心なしか衣装を守るように身を抱くカルマの顔色も悪い。

「しかし……まぁ、あれじゃのう」

 そう思ったけど、顔色に関してはまた別の理由があるらしい。カルマは額に大粒の汗を浮かべてふらふらと揺れ始める。この炎天下でその厚手の装備は自殺行為で、暑さに耐え切れなくなったのだろう。遂に日傘を差すと、ケルベロスの首輪に柄を挿してパラソルのようにし、日除けとした。そして扇子を取り出し、首元を少しはだけて扇ぎ出す。季節感がごちゃ混ぜだ。

「少々暑くてのう。日傘の使用を認めて欲しいのじゃ」
「あぁ……まぁ、そうだよね。暑いなら無理にとは……」

 倒れられても困るから、駄目なら着替えてしまっても構わない。そう言おうとした時、声高らかに待ったがかかる。

「お洒落とは暑さ寒さとの戦いでもある! 負けるな、カルマよ! 僕も戦おう!」

 颯爽と現れたのはアザレアだ。自分の肉体を誇示するように、ボディビルダーみたいなポーズを代わる代わる取っている。目のやり場に困る状態だ。妙に裸の面積が多い。端的に言うと海パンしかはいていない。
あれはもう、何なんだろう。当り前だが、ここにもきっと行き先にも海やプールもなければ、川や湖もない。水溜まりすらない。それなのに、見ろ、あの姿を。猥褻物陳列罪で捕まってくれないかな。

「あぁ、合法的に僕の美しい体を魔王様に見て頂けるなんて……! 祭りとは神が与えしまたとない機会なのですね!」

 百歩譲ればさ、まぁ、水泳大会があるだろう。時と場所、事と次第によっては、それが体育祭に組み込まれる可能性も無くも無い。祭りと名の付いたものに入っている可能性がある以上全く理解できない訳でもないが、それが通用するのは女子のみ。

「お前は服を着ろ、今すぐにだ」
「おや、この色合いがお気に召しませんでしたか? では、赤いパンツに……」

 何を思ったのか、アザレアは最後の砦にためらいなく手をかける。そしてすっと下ろそうとまでした。脊髄反射的な速さで間髪入れずに静止させる。

「ここで着替えようとするな! 見えるだろ!?」
「何を仰いますか。僕としては生まれたままの姿を……」
「却下! いつも通りの服になれ! いいな、見えない所で着替えろ!」

 危うく男のヌードを見るはめになるところだった。ウロボロスやカルマの水着姿なら見たかったけど、男のはなぁ。
 そう考えると悪いことをした気分になってしまう。ここで2人が水着で出て来たのならここまで言う必要なんて無かった。なんて、そんな馬鹿な話があってたまるか。俺も暑さにやられて頭がどうにかしたとでも言うのか。
癒そう。それには目の保養だ。一瞬迷って、ウロボロスにちらりと目を向けると、こちらをガン見していたようでバッチリ目が合う。

「何でしょうか、我が君?」

 声が弾んでいる。妙に嬉しそうだ。言っておくが俺は何も言っていない。ポロっと呟いてすらいないはず。だからこそ思い出す。ウロボロスの前で邪な考えは禁止だったと。
 危なかった。ここでカルマを見ていたら第三次大戦が勃発していたかもしれない。そうなってはもう祭りどころではなくなってしまう。今日は特にウロボロスさんのことを第一に考えて行動しよう。

「魔王様ー!」

 決意を新たに、いざ竜神祭へ。そう思った時だった。元気よく手を振りながらフェンリスが駆け寄って来る。余程楽しい気持ちなのだろう。ご機嫌な犬のように金色の尻尾をブンブン振っている。尻尾に目がいったが、そんなことより、その服装は体操服だった。健康的な生腕と足がばっちり見えてしまうブルマ姿である。その胸元には「ふぇんりす」と書かれた布製のネームが縫い込まれており、芸が細かく本格的だった。

「えへへー、どうですか、魔王様!」
「可愛い! グッジョブ!」

 なで回したい。とりあえず頭から順番に。おっと、いけない。理性が明後日の方向へ飛んでしまっていたようだ。堪えろ、越えてはいけない一線をまたいではいけない。それに忘れるな。俺の思考はウロボロスさんに読み取られてしまうということを。

「魔王様、必ず一番を取るので、見ていてくださいね!」
「あぁ、お前がナンバーワンだ!」

 いやぁ、いいものを見た。満足、満足と思っていたら、心なしか、腕に尋常じゃない圧力がかかった気がした。あ、と思い出す。フェンリスが余りにも天使過ぎて、命に関わる大切なことでもまるっと抜けてしまうなぁ。なんて冷静に分析している場合か。今は現実を見なくては。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

処理中です...