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俺の能力が異世界でチート過ぎる
04.金色の賢者~オウロ・クレミネオ~
しおりを挟む【“俺の能力が異世界でチート過ぎる”(1/6話)】
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「Raa……クソめ、遠いなー。面倒くせえ……」
間延びした声で毒づきながら、街道を行く女の姿がひとつ。気楽に肩にはおった外套の黒頭巾を、頭からすっぽりと被っている。
半分隠れた顔は、磨き上げた新しい銅のようにつるりとしている。ジトりと不機嫌そうな大きな目の、瞳は吸い込まれるように赤い。きゅうと拳を握り、気怠げに額を擦った拍子にちらっと覗いた髪は、白に近いような薄い銀色だ。
外套を纏ってはいるものの、女の装束は到底旅に相応しいものではない。
街中、それも近所を出歩くような軽装で、荷物のひとつも持たず、足元に至っては革のサンダル履きだからふざけている。のたのたと、覇気のない足取りで、しかし女は恐ろしく速く歩いた。
旅装に身を固めた旅人達をすいすいと、時には馬車さえも追い抜いていく。尋常ではない歩みで行く黒頭巾に、気がつくものは誰一人いない。
「Narf、遠い」
フードの端を抓み、鼻先まで引き下ろす。
目的地は旅慣れた足なら王都からおよそ3日、ここらがちょうど半ば辺り。
彼女が王都を発ったのが、今からだいたい一刻ほど前のことだった――……
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ヤマノコ村――
王都の背後の砦たる峻嶺に挟まれた街道、関を三つ越えた先の穀倉地帯、“王国の酒蔵”シュマフ地方の村のひとつ。
村と呼び習わされてはいるが、古くから近隣大小の農村集落の中継地にあって、要所としてちょっとした都市くらいに栄えている。
特産は小麦、大麦、ライ麦。麦酒や蒸留酒の醸造も盛んで、品質は“酒蔵”の名に恥じない。半面これという産業工業はない。
王都人が思い描くまんまの田舎町で、王都よりゆっくりと時間が流れる。カルーシアと比べればちょっと異世界に思える、そんな村だ。
もちろん、田舎の村も、ただ長閑なばかりではない。
「さて、と……そろそろ頃合いかなァ……?」
豊かな土地には魔獣だの怪物だのの数が多い。ことにシュマフは土地が肥えているから、森にフネラル種の大樹が育ちやすい。言わずと知れた、大地の力を吸い上げ、大気に吐き出す植物だ。
シュマフで人間と領土を争いながら広がる“ヤティマタの大樹海”、王都人には “魔の森”の方が通りがいいだろう、には瘴気を吸って魔物と呼べるまでに変貌を遂げたモノがわんさといる。虫がデカい。
光届かぬ最深部には亜人種族の集落さえあるとかないとか。森の狩人の与太話、とは言い切れないと、俺は思っている。それと虫がデカい(←虫嫌い)。
シュマフにはこんな言葉がある、「森から取るなら、森に取られても泣くな」。シュマフに生きる人々は、森に敬意を払い、森を畏れて生きている。
問題は、森の方が時々こっちへの遠慮を忘れてしまうってことだ。
ヤノマコでも年に数回は、迷い出てきた魔獣が悪さをした、という話を聞く。森に近い村落では、もっと頻度が高く、被害もより深刻。真実を述べよう、窮ずれば命も贖えないと。
つまり傭兵の話をしている。
地方に流れてくるからには、傭兵崩れと言い直そうか。
ヤノマコのような要所なら、王都から衛兵の一人も派遣されるが、小さな村では用心棒を金で雇うしかない。傭兵崩れならばまだマシで、要するに王都で食い潰したか、凶状を取ったか、いずれ碌なもんじゃない。
小説なら旨い酒と食い物目当ての、スローライフ好きな腕利き、みたいな変わり者も流れ着くだろうだけど、まず大方は金の切れ目が縁の切れ目、縁の切れ目が命綱の切れ目だから世知辛いものだ。
まあ、比較的裕福なヤノマコの衛兵や傭兵にしたところで、狼の一匹二匹ならまだしも、魔獣化した狼が出てくりゃあ、もうお手上げだろう。
だから――……
「七を打ちて火、畏みて息、奉りて風。二つ打ち、四を巡れば――」
……――俺が来たのさ。
「併せ九つと四つを、招きて、ここに招き奉じる“言の葉”なり――」
俺が“言葉”を“世界”に送り込むと、理に則り火を“生ず”。
「来たれ、言霊の十三……我、“ほむらたたら”を呼ばわるなり――……」
ぽ……とヴォルダートの群れの内に顕現した火種は、俺の詠唱に応じて回り、膨れ、瞬く間に高さ数十メートルの火柱へと成長した。
数秒と待たず、両手の指よりちょいと多いワンちゃんが、骨までこんがりBBQだ。肉の方は、ちと焼け過ぎかもしれないが。
ともあれ仕事は片付いた。
我ながら手際の良さに感心する、と自画自賛していた俺の目が視界の端に、森から上がる火の手を捉えた……どっと汗が吹き出た。マズい。
「くっそ、またやり過ぎた……打ちて三の水、錫の水差し、さざれ石……」
慌てて“あまのしたたれ”を招き奉じ、放水、鎮火に当たる。いかに魔獣退治の依頼でも、大樹海をまるっと焼き払っては、「やっちまった」では済まされない。
何とか火を消し止め、ほっと胸を撫で下ろす、もつかの間……
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「シャ……シャルマ様あ! ご無事ですの?!」
「くっ。今の爆炎と豪雨、やはり貴公の術式か、シャルマ!」
ため息。面倒なのが来た。二人。
折角森のあっち側に追い払って……もとい、信頼して向こうを任せておいたのに、心配して戻って来ちゃったかあ……はあ……
仮にも賢者と呼ばれるこの俺、シャルマ・ティラーノには、魔獣退治なんて日々の雑事から解放される気分転換みたいなものなのだが、お目付け役が二人もついてきては、息抜きにもなりゃしない。
それとも。
客観的に評して顔は可愛いと言えるだろう神官娘と女騎士に、右と左から手を取られてやいのやいのされているこの状況、文句を言っては罰が当たる?
俺の異世界生活、もしかしてちょっと贅沢過ぎる……のか?
「シャルマ様、お怪我はありませんの?」
俺の右手を取る、眼鏡っ娘の神官、彼女はコーナ・ミルドレッド。
「くっ……シャルマ・ティラーノ。また手柄を持っていかれたようだな」
左手を掴んで離さない甲冑の女騎士が、クーシュ・オランジナ。
そして先ほど魔獣の群れを焼き払い、森を焼きかけ、今は美少女二人の間でがっくんがっくん揺れているのが、一応大賢者として知られているはずのこの俺、シャルマ・ティラーノだ。
しかし、こいつら大岡越前の例のお裁きやらせたら、絶対赤ん坊の腕引きちぎるわ……と言うか。
何度言っても直らないから、もういいんだけど、“マサル”ってそんなに言い難いか? 百歩譲って“マシャル”にならない? 何で引っ繰り返す? 業界人なの?
マサル・タイラノ。平野勝、それが元の世界での俺の名前だ。
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今日俺達は隣村のカジンに来ていた。
俺の住むヤノマコから、行って帰って一日距離で村同士の交流も盛ん。
狼退治の依頼を持ってきたのは、ヤノマコの方の村長だ。心配顔を装っていたが、どうせここぞとあっちの村長に恩を売っておく腹だろう。ジジイ、沈痛そうに顔を覆った手の陰で笑ってやがったからな。
田舎政治の薄ら暗いところだが、俺も食客の身、無碍に断りもできない。
仕事自体は、赤子の手を何とやら、だからな。
道端の草むらから、野生のカオリンチュが顔を出した。
子犬くらいの大きさの、のてっ、というか、ぬべっ、という感じの生き物だ。町中でも街道でもよく見かける、カルーシアのマスコットのような奴だ。本当にこいつらどこにでもいて、だいたい何かに食われている。
あまりに抵抗なく己の肉を分け与えることから、国教会では献身と自己犠牲のシンボルになっているから、あまりバカにしたものではない。
ヤノマコ村への帰り道中、長閑な田園風景を楽しみたい俺に、右のコーナと左のクーシュ、のべつ幕なし喋りかけてくる。
「聞いているのか、シャルマ・ティラーノ」
「いちいちフルネームで呼ぶなよ、デイム・クーシュ・オランジナ」
称号付きで呼ばわってやるというと、相手も言葉に詰まる。
「く……そもそもだ。貴公はいつもいつも、力任せに大きな術式を使い過ぎる。挙句に森を燃やしかけるわ、貴重な魔獣の皮革も丸焦げだわ……」
「煩いな、クッコロ。俺くらいになると、変にセコい術使う方が疲れるんだ」
「シャルマ! 貴様、私を“クッコロ”と呼ぶなと何度言わせる! よく理解らんが、その呼ばれ方は、その……何かすごく屈辱的なのだっ!」
「理解らんならいいだろー……」
姫騎士様が怒った。クーシュ・オランジナは王都から派遣されてきた女騎士だ。
武門の誉れ高き貴族オランジナ家令嬢で、地方赴任は若手騎士の通過儀礼なのだとか、自らいろいろ設定……来歴を語ってくれるが、話半分しか聞いてないのでよく知らない。
偉そうな甲冑と態度を鎧う、金髪碧眼、高貴な顔立ちの姫騎士様だ。虚を突くと可愛い。
プライドが高く、負けん気は強く、同業者(?)の俺をライバル視にしているから、こういう仕事はだいたいついて来て、だいたい俺の魔法一発で片がついて、こんな感じでぷりぷりして帰る。面倒くさいお嬢さんだ。
と、右側の腕が引かれた。
がっくん、体勢を崩すと、眼鏡越しにコーナの栗色の瞳があった。
「シャルマ様あ、クーシュ様とケンカをなされてはいけませんわ」
ケンカというか、俺とクーシュは顔を合わせりゃおよそこんなもんなのだが、さすが神に仕えし身、愛と調和と赦しで心が満ちている。
窘められた俺に「ふふん」とでも言いたげな顔の騎士様だが、
「クーシュ様も、騎士である前に身分貴きご令嬢。そのように殿方をお責めになられてはいけませんわ」
「や、私はその、別に責めていたつもりは……」
矛先が向いてしどろもどろになる。
コーナ・ミルドレッドは国教会の修道女にして、ヤノマコ村長の孫娘だ。
村に流れ着いた……異世界転生した俺を、慈悲と信仰心から助けてくれた、純粋な少女である。恩ひとつ着せることもないから、祖父より孫の方がよほど人間ができている。
クーシュはこの頭に綿菓子の詰まったような娘に滅法弱い。騎士とは真っ向から悪を切り伏せるもの。陽だまりスポンジケーキを切る刃は、持ち合わせていない。加えてクーシュは、お胸周りがコーナと比べてやや寂しい。もうどうあがいても勝てる道理がないのだ。
コーナはにっこり笑うと、俺とクーシュの手を取って重ねた。
「理解れば良いのです。仲良きことは善きこと哉、主も天から見ておられます」
そして俺達の手を、だだ漏れの愛の手でサンドイッチ。
「はいっ。仲直りの、あーくーしゅ」
「「あー……くー……しぅ……」」
むろん賢者も、彼女の荒ぶる善意から逃れるマジッカは持たない。
そんな“いつものコント”を演じながら、村の外れまでやって来ると――
我々は、小さな女の子と行き会った。
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