コトレットさんの不思議なお仕事~こちら異世界管理局~

胡散臭いゴゴ

文字の大きさ
41 / 79
封鎖区~破局の因子~

38.Deadman‘s Cllection~死せる剣聖帝の贖い~

しおりを挟む

【“封鎖区~破局の因子~”(8/10話)】



 ***********************************

 「……“我に与えよ、死せDeadman‘s る剣聖帝の贖い”Cllection――……」

 頭上に諸手を掲げたバンザイをした異世界監視人の、指先から真上へ、幾重にも魔法陣パドレアが昇っていく。それは煙草の煙か、水族館のイルカが泡で作るバブル・リングを思わせ、やがて――……遥かな高みで、ぱきん、何かが割れる音がして。
 剣刃けんじんきらめきが降り注ぎ、俺の立つ周囲の石畳に次々と突き立った。二つばかりが落ち様に“その子”の両腕、ドラゴンの頭と尾を切り裂き、虚空こくうが震えるような唸り声を上げさせた。

 「……“かくて、死せる剣聖ロアの墓所はあばかれり”――……」

 「絶界の至宝、獅子王剣レーヴェ・クオレエスカ=レイツィア……」
 「薔薇の白銀剣セイヴ・ザ・クイーンアルヴェ・ロージュ……」
 「神器火剣八雷神ヤクサイカヅチノカミ……」
 「対巨神機巧兵装“終ノ型・凱歌ツイノカタ・ガイカ” ……」
 「弟殺しの黒水晶刀セカンド・シン……」

 「そして、再臨せよ! 天羽緋緋色“アマハヒヒイロ“ア荒神切”桜花ラガミキリ”オウカ――……」

 最後に降って来て、俺の真正面に屹立きつりつしたのは、奈落に落ちたはずの桜花おうかだった。我を忘れ、思わず伸ばした手が――


 全身が、ぎくりと硬直した。
 鎖衣シリヨンの下を――冷たい刃が撫でるように――汗が伝う。

 俺を囲んだき出しの刀身の、圧倒的な”世界観イマジカ”の前で、俺は蛇ににらまれる……いや、呑み込まれる・・・・・・蛙の気分を味わう。
 獅子王剣、という名は前に監視人の口から聞いた覚えがあったが……
「うーぷす……成功しちまったぜ……」
残る四振りも、いずれ名立たる来歴を背負うのだろう。その前では俺は古兵の集う酒場に放り込まれた小僧、獅子の群れに紛れ込んだ迷子の子猫ちゃんも同然だ。これが、戦いにおける年季が違う、というやつか。
「るああ。桜花も上手く呼び戻せたよーだな……」
ルシウが浮かべた笑みも、心なしか引きっている。
「いひひ、それぞれ1本ずつに叙事詩オデュセイアが書かれてるクラスを、カルーシア中から掻き集めてやったぜ。好きなのを、好きなよーに使っちまえ、ユーマあ」
本当に価値の判る人間が見たら、憤死しそうだな。


 「るああ。10……いや、7分頼むぞ――……」
異世界監視人クストーデはそう言って、視界の背後へ引き下がった。


 神器名刀の雨垂れに穿うがたれた“闇の子”の両手は、また集って凝って、ずるずると奇妙に長い巨人のそれへ変じ、朽ちかけた祭壇さいだんを左右からつかんだ。俺とルシウはまるで、銀の盆に置かれた洗礼者ヨハネの首か、トレイに乗ったハンバーガーセットか。

 “生きた闇”のその動きに、俺は、手を伸ばした桜花の柄ではなく――



 ***********************************

 獅子王剣エスカ=レイツィアに手を掛けた。

 それを目にした誰もが、“聖剣”という言葉エクスカリヴァを想起するだろう。“封鎖区”に武器を持ち込む時にルシウが、
「ユーマには、切れ味に勝る桜花の方がいいよ」
とこっちをさなかったのも納得の、俺が取り回すには重厚に過ぎる両手持ち剣ツーハンデット。柄を握ったものの、よもや資格がなければ抜けないかと一瞬危ぶんだが、幸い杞憂きゆうだった。腰で構えた獅子王剣は、大聖堂を丸ごと担ぐような見た目の印象よりは軽かったが、やはり打ち刀とは扱い勝手が違う。

 下手な小手先の技巧なんか、意味はない。
「よォいしょおッ!」
体半分持っていかれながら、力任せに水平に振り抜く。そして俺は知る。

 ミサイルの発射ボタンは、押すだけ・・・・なら、3歳児にも押せるのだと。

 使い手の未熟を補って余りある、内なる魔法力で、獅子王剣は“生きた闇”の左腕から胴、右腕をひと振りで上下に断ち分けた。あまつさえ、勢い余った力が彼方まで環状に広がっていき、やがて空間の遠くで小さな閃光を咲かせる。

 どうやら、“世界オルト”の果てに衝突したらしい。


 が、“世界オルト”とは“その子”だ。
 聖剣とて一撃で“世界”を破壊することはあたわない。

 獅子王剣の切り残し、足場に残った闇の手首から、無数の小さな子どもの手がぞろっと生えた。大振りした直後の刀身を、逃さず取りついてくる。
「くそ、離せ……」
焦って柄を引く。剣の力にかれながら、しかし闇の手は無頓着に、無尽蔵にエスカ=レイツィアに絡みつき、まるでオモチャの取り合いのていになる。


 「なーふ。構わねえ。くれてやれ、ユーマあ」


 背後からの声に、一秒逡巡しゅんじゅんし、聖剣から手を離した。“絶界の秘宝”とやらの価値がいかほどのものか、知るよしもないが、今の俺にとっては異世界監視人の言葉こそ真実だ。

 手を離した途端、闇に奪われた剣エクスカリヴァが、ふっと消えた。

 るべき場所に戻ったか――そうであれと切に願う――いずれにしても「好きなのを好きなよーに使え」、ルシウたんの言う通りに従えば間違いない。



 ***********************************

 二本目、 対巨神機巧兵装を、石畳から引っこ抜く。
 担ぐと同時に、致命的な失敗、首に縄が掛かったのを悟った。

 獅子王剣オモチャを取り上げられた無数の闇の手が、一斉に俺に向かって伸びてきた。機巧兵装は聖剣に輪を掛けた、機械仕掛けの超重量級鉄塊。八方から数えきれない悪意の殺到する瞬間には、最悪の選択だ。

 どうする、どうすればいい? 思考が空回りする俺は――……

 ……――祭壇に刺さった・・・・・・・凱歌ガイカの柄を掴んでいた。


 何事が起きたのか、一瞬の混乱を経て、俺は理解する。この感覚、間違いない。“お節介なトリビアル・時間干渉”タイムリープが発動した。


 眩暈めまいを振りほどいて、咄嗟とっさに隣の火剣八雷神ヤクサイカヅチノカミに持ち替えて、来ることを知って・・・いる“一瞬先の未来”へと振りかざす。

 柄と刀身に接ぎのない、古代銅剣様をした八雷神はその名にたがわず八叉やまたの雷撃、神話に黄泉津国ヨモツクニ伊邪那美イザナミ神のしかばねに生じたという雷の八相――大雷オホイカヅチ火雷ホノイカヅチ黒雷クロイカヅチ咲雷サクイカヅチ若雷ワカイカヅチ土雷ツチイカヅチ鳴雷ナルイカヅチ伏雷フスイカヅチ――をほとばしらせ、つかみ来る闇をことごとく焼き落とす。


 どっと汗が噴き出た。窮地を脱したこと、“お節介な時間干渉”が発動したこと、その両方にだ。


 “お節介なトリビアル・時間干渉”タイムリープ――……

 異世界転移オルト・トランジで獲得した俺のスキル、その効果は、攻撃を受けるとひと呼吸分ほどの時間が巻き戻ること。戻る時間は僅かだが、わばある種の未来予知、相手の手札を盗み見る能力だから読み合いでは滅法めっぽう強い。
 だが、監視人の“権限”エルーカと同じで、外のスキルは“封鎖区”には持ち込めない……はずだ。それが発動したってことは、つまりそういうこと・・・・・・だ。


 真っ二つに裂けた“生きた闇”が、それぞれ違うカタチを取る。
「……うあ……」
思わずうめく。上の半分は聖母マール、残りが鬼女カリイ。形は対の女神達だが、彼女らのいずれもネーロより深い漆黒エスクデオのお揃い。

 左手で傍らを探り、触れた柄を迷わず取る。



 ***********************************

 アルヴェ・ロージュセイヴ・ザ・クイーン、波打った刀身は、確かフランヴェルジュというんだっけ。桜花に匹敵する軽さは、八雷神との二本持ちでも立ち回れそうだ。部活で顧問に免許皆伝グーパンを貰った、我が二刀流を披露する時が来た。
 闇のカリイが声もなく笑い、二つの曲刀スパーダを振るうのを、白銀剣で右の刃を叩き、片割れにぶつけてもろともにね上げる。
「だから、お腹出してるのは良くないって、姐さん」
大広間ではルシウの氷槍が貫いた鬼女の腹部へ、八雷神を突き入れる。

 鬼女のき出しの腹に、聖母が障壁イスクトを張るが――

 “死せる剣聖帝のあがない”で召喚された最高峰の剣の前では、そんなもの、絶対防壁の幻想ごと打ち砕かれる。
「……温めといた方がよくない?」
障壁を薄氷同然に破り、闇のカリイの臓腑はらわたを火の剣が蹂躙じゅうりんする。

 腰からちぎれかけ、ぶち撒かれた闇が空間を流れて八雷神にびちゃびちゃとまとわりつき、また取り込もうとするが、俺の手は既に柄を離れている・・・・・・・・・
「欲しいか? やるよ……火剣八雷神、“元いた場所へ還れ”」
応じて去り際に、火剣の雷は腕でかばった俺の視界をも、白く奪う。


 薄目を開けると、神代かみよの剣は己を呑まんとしたモノの、内側から存分に荒れ狂って、“生きた闇”の半分から生じたカリイを、更に半分に引きちぎり、たぶん黄泉よみの国だかに戻っていった。



 ***********************************

 代わりに抜いたのが、柄まで磨き上げられた黒い水晶モリオンでできた剣だ。

 弟殺しの黒水晶刀セカンド・シンに触れた瞬間、反射的に手を振り払いそうになった。精神を引きずり込まれそうな、火傷をしそうな冷たさ。目利きでなくとも触れば判る。

 こいつは……呪われた剣マレデーネ・ダオレだ。

 強烈な“世界観”を振りまきつつ、聖器物に属していた四振りに対して、こいつは何て性格が悪いんだ、黒水晶刀。まるで悪意の塊じゃないか。
 まあ、いいさ。だったら、お前と気の合いそうな、ぴったりの女の子を紹介しよう。剣役の相方を失くした闇のマールが、硝子片を繋ぎ合わせ、俺の前後左右に壁を作る。透明のおりに閉じ込めようというのか。

 かつて“その子”を、真っ暗な部屋にそうしたようにか――

 白銀の薔薇アルヴェ・ロージュが閃いて、硝子のおりを幾千の花びらに砕き散らす。


 黒い聖母オカアサンが、まだ“その子”の幻想か、それとも既に単なる模倣もほうかは判らない。俺はただ渾身こんしんのオーバーハンドで、闇の聖母目掛け、呪われた剣を投げつけた。
 黒い水晶刀セカンド・シン黒い聖母ネーロ・マールに直撃すると、どちらからだろう、呪詛じゅそのような低いうめきが尾をいた。ママがサタン・・・にキッスした、なんてな。弟殺しの剣に子殺しの聖母、お互い似たもの同士、ま、仲良くやってくれ。


 鬼女も聖女もそれぞれが神剣魔剣の”世界観イマジカ”を丸ごと浴び、四散してなお、うごめきながら集おうとする。さっぱりダメージにはなっていないな。“生きた闇”は“世界”だ。切っても叩いても、精々カタチが変わるだけ、足止め・・・にしかならないだろう。

 けど――……こっちは手を止める・・・・・訳にはいかねーんだな。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

処理中です...