コトレットさんの不思議なお仕事~こちら異世界管理局~

胡散臭いゴゴ

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カランポーのはぐれ狼

52.番外・パイロ、愚者の黄金(1)

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【“カランポーのはぐれ狼(10/11話)】



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 まがい物は所詮、まがい物。どうしたって“本物”にはなれねぇンで。


 ああ、今なァ此方言こちらごと。ほんの一般論で。アタシ? 名乗るほどのモンじゃあ……なんて決まり文句で啖呵たんか切ったところで、隠すほどの名でもねえや。
 親がくれた名ァ、パイライト。仲間内じゃパイロ、人間様バケーロにゃあ“黄色い狼ジャーロ”なんてので通ってる。毛の色、見たまんまですな。いえね、アタシゃこれでも人間様に知られるくらいにゃ幅ァ利かせてこともございやして。

 こう見えて、群れのボスだったんですぜ、アタシ。


 お前さん、ロボって名前を知ってますかい?


 そうそう、そのカランポーの魔獣ベスティエのこって。

 実を言うとね、アタシのいた群れのボスってのが、その魔獣ロボだったんで。いやいや、ホントのハナシ。まあ、身内めるってのも口幅ってえが、ロボって御仁は、そりゃあもう立派な御頭おかしらでねえ。へえ、名君ってやつで。

 へえ、ロボの噂は聞いたことがある?
 けど、そんな作り話みたいな立派な狼が実在するホントにいるとは思えねえ?


 ま、そう思うのが普通でござんすな。

 ですが、実際いたんだから驚くじゃねえですかい。そりゃあもう、噂通りの凄え御方でござんしたよ。ロボの御頭おかしらがボスである限り、怖えもんも食いっぱぐれもねえ。御大おんだいに従ってりゃあ間違いはねえんで。へえ。

 でもねえ……それってどうなんですかい?

 そりゃあね、腕っぷしは強い、知恵も回る。いざとなりゃあ群れンために手前の命も惜しくねえってんだから、頭が上がらねえ。いい男だァね。おまけに奥方も別嬪べっぴんでね、ボスとしちゃあ、そりゃあ頼もしい御方だ。

 けどね、同じ雄とすりゃあどうです?
 そういう、非の打ちどころのねえ御方ってえのは?

 うらやましいですかい? それとも、ねたましいと思いますかい?


 そもそも御頭おかしらァ代々ボスの血筋でね。ボスになるべく生まれた訳だ。もちろん、そんじょそこらの七光り、凡百のボンクラ坊ちゃんたあ違って、実際あれほどボスに相応しい御方もおりますまいて。

 ただね。

 生粋きっすいのボスだけに、育ちが良過ぎるんでしょうかねえ。群れンために体張んのも当然、周りが従うのが当然ってェ、疑いもしねえんで。そういう、何てェか、真っ当なんですな。

 悪かねえ、悪かねえんだが、あんまりにも正しくて、真っ当な御方ってなァ、何てェか、ねえ?



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 そこへいくと、ボスの弟さんって方は、面白い御仁でした。


 滅法めっぽう頭の切れる方でねえ、合理的ってんですか? 要る要らねえをすっぱり分けて、ばさばさと切って捨ててくようなところがありやした。
 そのせいか、決して情の薄いんじゃねえんだが、どっか冷てえように見られることもおありのようでしたな。

 で、この方ですがね。御大おんだいの弟なんだから、当然ボスのお血筋なんで。器量ったってェ、決して御頭おかしらに引けを取らねえ。けど、ボスにゃなれねえのさ。

 御頭おかしらァ生まれながらにボスになる定め、弟さんはなれねえ定めだ。

 御本人がどう思っていたか、アタシなんぞにゃ知るよしもねえが、寡黙かもくな御仁でしたからねえ、どうなんでしょうなァ、そういうのって?

 アタシは弟さん小さいこんな時分から存じてますが、ただ粛々しゅくしゅくと腹ァ見せるような気性じゃねえ。かと言って、実の兄ィ蹴落として、ボスの座奪ってやろうって御仁でもねえんで。
 群れにいるにゃあ、ボスに従うか、ボスになるか、二つにひとつしかねえんですから、面白えたあ思いやせんかい?


 で、どうなったかって?


 言いやしたでしょう、あの方ァ合理的だってね。

 従いたくねえ、ボスにもなりたかねえ、押して通りゃあ道理の引っ込む無理難題、あっさり三番目の道選びなさってね。自分から群れェおん出ちまったんで。
 群れェ切って捨てちまったんですな。何ともあの御仁らしい、見上げたいさぎよさじゃあねえですかい。


 けど、まあ、御頭おかしらァ怒ったねえ。


 御大おんだい、弟さんは当然片腕として、自分を支えて群れェ盛り立ててくれると思ってらしたんですな。理想家なんでしょうなァ。それだけ信頼していたんだとも言えますがね。いずれンせよ、御頭おかしらにゃ弟さんの気持ちゃア、どうしたって理解わかりゃあしねぇでしょうや。


 と、まあ、これがお家騒動にもならねえ、兄弟喧嘩の顛末てんまつってェ訳で。



 ***********************************

 え? アタシがその始末しまつ、気に入らねえんじゃねえかって?
 いやいやいや、滅相めっそうもねえ。怖ェこと言うねぇお前さん。

 ロボの御頭おかしらァちいとお固いとこはござんすが、畢竟ひっきょう、あの方ほどボスに相応しいリュコスはいねえんで。
 まあ……そりゃあね、アタシに言わせりゃ、多少屈託のある御仁の方が面白味があったりするんでね、ちょいと弟さんに肩入れしてるとこもありやすが。ま、ちいとばかり退屈でも平穏無事が結構なンでございますよ。


 (………………)


 ……――あんた、おっかないね。

 おうおう、桑原桑原くわばらくわばら。お前様、随分と察しがいいじゃござんせんか。

 へっ、おおせの通りさ、気に入りやせんや。そんな型にめたようなボス、面白くも可笑おかしくもござんせんでしょうや。 
 折角カルーシアこんなとこまで転移トランジして来たんだ、面白可笑おかしく生きなくッて、いってえ何の異世界転生オルト・ナシェレだってハナシで――……

 ……――や、何でもござんせん。ほんの此方言こちらごとでして。


 ああ……いや、そう大それたこたァね、致しやしねえ。別に面白くねェってだけで、御頭おかしらに含む筋があるでなし。アタシだって、言ったところで手前の群れは大事なんでござんして。

 なァに、ちいとばかり、悪さ・・をしたってェハナシですよ。



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 ロボの御頭おかしらの奥方ってェのはね、真っ白な毛並みをした、そりゃあ別嬪べっぴんさんでねえ……あッ! いやいや! 違えますって、人聞きの悪い。ソッチの“悪さ”じゃあござんせん、そういう色気のあるハナシじゃありやせんので。
 奥方様ァね、御頭おかしらの弟さんを、実の弟のように可愛がっておいででね。それが群れェはぐれたってンで、すっかり気ィ落とされなさった。そこで見かねたアタシがチョイと気晴らしにお誘いしたって訳で。へえ。

 ナニ、ちょっとした遊びでさァ。

 あの頃ァ、今じゃあすっかり増えた人間様の牧場だが農場だかが、縄張りカランポーの隅っこに出来始めた時分でねえ。アタシゃ奥方ァき付け……お誘い申し上げて、そこな牧場の羊どもカルネロ片っ端から噛み殺してやったんで。

 え、それなら聞いたことある?
 あ、結構有名なハナシ? へえ、そいつァ知らなかった。
 へ、一晩で二百と五十? いやァ、そいつァ流石さすがに盛り過ぎってもんだ。

 奥方と二匹で精々が百、それったって若かったからやれたんで、今じゃあ無理だねえ。そもそもやろうって気が起きねえや。実際、あんな無茶ァあれッきりでね。

 そう、はなから一回こッきりのお遊びなんで。けどまあ――


 その一回で、人間様の怒ったの怒らねえの。
 アタシ達の群れァ、人間達から目の敵にされたんで。



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 アタシも奥方も、ロボの御頭おかしらにこッぴどくドヤされやしたがね。しかしこの一件を切っ掛けに、御頭おかしら家畜トメスコを襲うことに決めた。確かにね、人間様ンところに押し込むなァ危ねえ。命懸けサア。けどネ、面白ェンだ。野ッ原で兎だぁ鼠だぁ追っ掛けるより余ッ程ね。

 そうこうしてると、人間様のお怒りもつのりゃア、悪名も鰻登うなぎのぼりってェ具合でしてね。え? ああ、いや……アタシらじゃねえ、ロボの御頭おかしらの名が、でさァ。

 そりゃあそうさァ。ロボの御頭おかしらあっての群れでっしょう?

 白い狼が悪さしたァ、黄色い狼が悪さしたァ。そいつらみィんなロボの手下、糸引いてンなァかしらのロボだ。みィんな御頭おかしらの“手柄”ってワケですようゥ。人間達ゃあ大騒ぎで、ヤレ魔獣ベスティエだあ、ソレ悪魔ディアボロスだあッて、いやあ、大変でござんしたねェ。


 たった狼一匹に、人間様ァ天手古舞てんてこまいたァおッかしいじゃねえですかい――……


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