ー ドリームウィーヴ ー 異世界という夢を見た。現実世界人と異世界人がお互いの夢を行き来しながら戦います!

Dr.カワウソ

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第四部 鏡面の裏

65.わたしの跡(3)

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 ――そこには、着替えが終わって、ゼーゼー息を切らしているアキトが立っていた――。

「貴様! 今頃……」

 さやかはこの場面を見て「あぁ……旦那様がお怒りになる……」と思ったが、奥様の「あなた」と言ったその声に侯爵が止まる。奥様の声色は凄みのある低音で、侯爵はなにがしらの圧力を感じたのか、一瞬で落ち着きを取り戻す。

「さすが奥様。絶妙なタイミングでしたよ」と、さやかは感心した。

 侯爵は「お前は、沙也加さんの隣に座りなさい」と、アキトをジロリと睨みながら告げる。

 彼は「はい」と返事をし、さやかの横へ向かう。だがそこにいる彼女を見て動きを止めた。

「って、さや……か……」

 そう動揺したように呟くアキトの様子を見て、奥様がニンマリとして声をあげる。

「どうかしらアキトさん。わたしが昔着たドレスなのだけど、さやかさんにとても●●●よくお似合いでしょう」

 アキトは「えっ、はっ、はい……」と、戸惑いの口調になった。

「「「クスクスッ」」」
 
 アキトの反応を見て、周りのメイドたちが笑う声がする。侯爵の側に立っていた執事も微笑んでいた。それを感じてアキトの顔が赤くなる。

 さやかも自分を見つめるアキトの表情と、周りの雰囲気を感じて、顔が熱くなった。

「フッ……」

 一瞬、軽い笑い声がさやかの耳に入った。彼女がその方向をチラ見すると、声の主は侯爵で、その表情はとても優しく、息子を見る眼もこの一瞬だけは暖かい。

「早く座るがいい」

 侯爵の声に合わせてアキトが「はい……」と言い席に着くと、食事がはじまった。

 食事は主に、奥様が楽しそうに話しをしていた。侯爵はその会話の中でうなずくばかりだったが、時折微笑んでいたので機嫌が悪いわけではなく、ケリーに機士団の様子を聞いたりしていた。アキトへ話しかけることはなかったが、さやかやケリー、奥様と上手く間を繋いで会話を行った。

 食事が終わると、さやかは宿泊する部屋に案内されたが、ケリーは自分の家があるので早めに屋敷を出ていった。

 さやかは通された部屋で、一人になり思う。

「結局、わたしはアロンゾには戻れそうもない……」

 案内された部屋の中央には天蓋付きのベッドがあり、彼女の世界のベットよりもかなり大きくて豪華だ。

 そんなベッドに腰をおろしてさやかは思う。アキトと話がしたいと……食事の席では込み入った話ができなかったせいだ。

 コンコン……。

 そのタイミングで、小さく部屋をノックする音が聞こえた。

 さやかが恐る恐るベッドから移動して扉を開けると、素早くアキトが部屋に滑りこんできた。

「すまんなさやか、マナー違反なんだが、さっきの状況では話したいことも話せなかった」

 そう言ったアキトの顔を彼女は見上げた。さやかを正面から見たアキトは、顔を赤くさせながら、口を開く。

「なんだ……その、さっきは言えなかったがとても……綺麗だ」

 その瞬間に、さやかの顔の沸点が上昇した。

「あっ、ありがとうございます……」
「あっ、いや……」

 アキトが、恥ずかしそうに顔をそむける。

 その様子に、さやかは微笑みながら彼を愛おしく感じた。

「それよりも、さやかには話しておかなければないことがある」

 彼女は「はい……いったいなんでしょう? 『それよりもって』のは気になりますが」と、少しすねた表情になる。

「あっ、すまん。そういう意味じゃない。さやかが綺麗なことには変わりない。俺なんかには……」

 さやかは自分の前で言っては戸惑う彼を見つめながら「まったく……。この人は、こういうところが可愛い」と、心の中で呟いた。

「なんですか」

 彼女は、微笑みながらアキトへ聞いた。

「実は、アラゴのお姫さんと戦っていたときなんだが……」
「えっ……」

 アキトが言うアラゴのお姫さんとは「狂い姫」「プリンセスバーサーカー」の異名を持つ、アラゴ帝国の第四皇女であるムーン・ドレイク・アラゴのことだった。その名前を聞いて、さやかは一瞬で今日の出来事を思い出す。彼女にとって、あの人の姿は網膜から離れることはない。美しく気高い、狂暴な赤い龍……。

「アーケームと、俺のパラムスが戦っているとき……。お互いの機人が鳴いた。まるで共鳴しているように……」

 彼の話にさやかは「あの時」のことを思いだす。確かに2体の機人は鳴いていた。まるで、2体の怪獣がうたうように……。

 彼女は聞くなら今しかないと、機人に対しておぼろげに感じていたある推測を口にする。

「あの……アキトさん。確認したいのですが……」
「なんだ?」
「機人って、わたしの世界で言うところの「ロボット」だと思っていたのですが、もしかして機人は……感情を持つ生物なのですか?」

 さやかは、思ったことをそのまま口に出して聞いてみた。あのときのアーケームとパラムスは、まるで生物がお互いを主張するように謳いあっていたからだ。

 まっすぐに聞いてきた彼女の表情に対し、アキトは質問に答えるため口を開く。

「さやかの思うように、確かに機人は生き物だ。と言っても、この世界で普通に生きてるほかの生物とは意味合いが違う。なぜなら、機人は人によって作られた人工の生物だからだ」
「人工の生物……そうですよね……」
「ではさやかの世界で言う「ロボット」と、生物との明確な違いはなんだと思う?」

 今度はアキトから飛んできた質問に、彼女は率直に答える。

「それは意思を持っているかでしょう。機械は自分の自我を持ちません。あっ、でも……」
「どうした?」

 さやかの反応に、アキトは興味深そうに問い返す。

「機械が思考して学習し、人工知能と呼ばれる段階にまで達すると、生物に近くなる存在となるかもしれません。ですが……機人は」

 さやかはそう言い、続けて話す。

「たぶん、学習とかそんなものではなく、その……『オーラ核』が自我を持っているのではないでしょうか?」

 彼女の答えにアキトは「もう、さやかには脅かされっぱなしだな」と、顔つきで表現しながら口を開く。

「さやかの推測したとおりだ。でも、通常の機人はよほどのことがない限り自我を見せることはない。機士に操られ、その力を発揮するだけだ。それでも突然動かないこともある。だから俺たち機士は僚機にはなるべく乗り、話しかけ接するようにしている。それは『生きている生物』だと認識しているからだろう」

 さやかはアキトの「動かない」の一言で、ケリーから聞いたアラゴの狂い姫と、アーケームの逸話を思い出した。ケリーの師であるゲルマリック・プレイルが制作したアーケームは狂い姫が現れるまで動かなかった。それはアーケームが「自分の意思で自分を駆る者を選んだ」ということなのだ。

「では、あのときの鳴き声は……」

 ――キイィァァァァァァァァァァァァァーーー!!!――。

 さやかの頭の中で、あのときの機人の鳴き声が響いた気がした。

「機士と機人の意思が、極限にまで合わさった結果だったと俺は思う。逸話だと思って聞いてはいたが、そのとき機人は『うたう』と言われている」
うたう……」
「本当に聞いたことがあるだけだった。だがあのときは違ったんだ。さやかが行ったコーティングの効果も、パラムスの能力を高めた。それも含めて何らかのトリガーになったのだろう」

 アキトの話に「そうなんですか? それはますます今後が気になりますね……」と、さやかはアキトを見上げる。

「話は戻るが、俺はアーケームとの戦いのときに……今まで出し得なかったほどのオーラを解放させた」
「はい……」
「そのとき……俺の身体の中に存在していた何かが、弾けるような音がしたんだ」
「弾けた? 存在した何かが……」

 さやかはそれを聞いて「それはまるで、わたしのブレスレットが壊れたときと同じような……」と想像した。

 彼女の考えとは別に、アキトは話を続ける。

「それ以来、いままで身体の中で感じていた『特別なオーラ』の感覚が無くなった……」
「特別なオーラ?」
「あぁ、いままでは当然あるべきものだと感じていたオーラだったので、無くなってから気づいたんだが、それはまるでさやかの世界で、オーラを生成したときに感じる感覚だった」

 さやかは心の中で「……あぁそれは……まさに、それって……それが無くなるともう……」と呟いた。

「無くなってわかる。あれはさやかの世界にいるために、必要なオーラだったんだ……」

 アキトの言いづらそうなその感じに、さやかはわかってしまった。そして口にする。

「つまり……もう、わたしの世界には来れないってことですか……」

 アキトはさやかを見て、静かに「あぁ……たぶんそうなるだろう」と
つぶやく。

「「…………」」

 ふたりの間に静寂が訪れた。

 部屋の窓の外が明るい。

「この世界にも月があるのですね……」

 さやかは窓の外を見て、納得したようにそう言った。だがそれは、言葉の意味とは違う何かを言っているようにアキトは感じた。

 さやかの言葉に合わせるように、アキトも窓の外を見る。

「明るいのは月のせいではないよ。はるか上空にある、大陸そこの天石が光り輝くせいだ」
「「…………」」
「わたしも……アキトさんと同じような感覚を体験しました…….。今は体内のオーラを外へ放出できません……」

 アキトは目を大きく開き「それは……」と口走る。

「大丈夫です。特に体調は問題ありません。でも……少しずつ体内のオーラが薄れてきています。だからわたしもはないと感じてます」

 さやかを見ているアキトの表情が、悲しみに暮れる。

「さやか、俺は……」

 そう言うアキトを見た彼女は、彼に優しく微笑みかける……。

「それでも信じています。アキトさんにまた必ず会える日を……それまで……わたしは自分の世界で待っていても良いでしょうか?」

 さやかは彼に向かって想いを告げる。その想いに対してアキトは強く応えた。

「あぁ……必ずだ。必ず俺はさやかの元へ帰る……」

 彼女は彼の言葉を聞いたあと、アキトに近づき、つま先を立てて彼の首に手を回す。

 アキトは……さやかを優しく抱きとめ、強く抱きしめた。

 それがこのふたりにとって、天空世界ムーカイラムラーヴァリーでの最後の夜となるかもわからずに……。
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